ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」   作:rikka

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「買い出しはどうだった?」

「とりあえず、変わった食べ物は一通り買ってきました。あ、これは市場の人に聞いたそれぞれの食べ方や調理法のメモです」

「ありがとうモニカ。こっちは薪を乾燥させ終わった所だ。シュレート老、申し訳ないが暖炉を点けても?」

「お、おう。……この雨の中で良く薪があったな」

「私の魔法で丁度良い木を回収、加工して乾燥させた。今は順次薪割り中だ」

 

 買い出しを終えたモニカが、買い出しの成果をセイバーに見せて胸を張っている。

 

「乾物はあったか?」

「お師様に言われていたので念入りに調べていたんですが、ここいらだとキノコを糸で縫い繋いで暖炉前で乾かす――つまりいつもの奴か野菜の塩漬けしかなかったです」

「……そうか。やはり釣って自分で実験・研究するしかないか」

 

 川の流れを調整する堰を作ってこの鍛冶小屋に戻ったセイバーは、あれからずっと釣り竿を作っている。

 今日だけは魔法を使わせてほしいと頭を下げてセイバーが頼み込むので許可したら、魔法で『カーボン』とかいうもので細い棒を作り出して、同時に以前から集めていた木材を加工して円盤? のようなものを削っている。

 

 まずそもそもカーボンって何? と聞いたら、『炭素繊維強化プラスチックだ』と返された。

 答えになっていない。

 

 そもそも、釣り竿ってそんなガチャガチャした物だったかしら。

 えらく長いうえに、わざわざパーツに別けて組み立て式にするなんて……確かに持ち運びやすいのだろうけど、脆くならないのかしら?

 えらく硬くて丈夫な、微妙に透けている糸も大量に造り出しているし……。

 

 かと思えば小魚の模型や、なにかヒラヒラした物まで並行して作っている。

 

「研究って……嬢ちゃんにも聞いたが魚が食いたいのか?」

「いや……『節』と呼ばれる物を再現したいんだが、私の記録の中の手掛かりが少ない。だから、もし近い物があれば入手してそこから研究したかった」

「ブシ? なんじゃいそれは?」

「……確か、海の魚を捌いて燻製にして水分を抜いた上で、カビを付着させて更に水分を抜いた物……だったハズだが……」

「それ食えるもんなのか!!?」

「世界でも最も硬い食品らしい。人を殴り殺せるくらい硬いとか」

 

「それ食えるもんなのか!!!!???」

 

 御爺ちゃんが、私が聞いたことと全く同じことを聞いている。

 なんでも、例のワショク・スタイルの食事を完成させるのに必須だとか。

 

「いや、お爺ちゃん」

「む?」

「ご飯に関して、お師様は絶対的に信頼できます」

「……まぁ、確かに朝飯も弁当も美味かったが」

「去年、旅の途中で道から外れた所でちょっとした出店を開いたら一週間後に貴族が買い付け隊を出すくらい人気になって移動するのが大変でした」

 

「なにやっとんのお前ら???」

 

 あれは……大変だったわね……。

 

 モニカが思いついて、セイバーも乗り気になって実行してみた簡素な屋台。

 

 街道からかなり離れた場所で、旅人や冒険者がたまに立ち寄ればいいや程度でやった、モニカへの腰を据えた修行がてらの暇つぶしだったというのに……。

 

 セイバーが商品用に作った『テリヤキ・バーガー』が馬鹿みたいに売れて広まって、貴族が御用商人を通して買占めたり私達を雇おうとしたりして……。

 

 なんやかんやでレシピを売って一月の間料理の弟子を通いで取る羽目になった上で、賊に誘拐された貴族の娘を取り戻してダンジョンを攻略して魔物に襲われた貴族の管理する村三つを救う事になったわ。

 もう意味が分からない。

 

 モニカが群れの一つの足止めをこなしてくれなければ、村一つは犠牲になって壊滅していただろう激戦だった。

 なんでハンバーガーの屋台を作っただけでそんな事態になるのか。

 

 しかもその結果私達が赤の勇者一行だとバレて、慌てて逃げる羽目になったけど……。

 

(まぁ、セイバーが楽しそうに料理していた上でモニカも強くなったから……それは良かったのよね……)

 

「そうだ、シュレート氏」

「む、なんじゃい」

「溜池の方だが、いくつか問題点があったので改善しておいた。雨足が弱まったら目視での確認をお願いする。もし不満点や改善点があるなら、是非」

「お、おう」

 

 こう言っては何だけど、このお爺ちゃんが余り人付き合いのない、悪い言い方をすれば孤立している老人で良かった。

 

 思った通り、セイバーは人間と暮らす事なんてなんということはない。

 単純に危険がないというだけではなく、キチンとコミュニケーションを取って相手の意を汲める。

 それもどうかと思うが、恐らく私よりも人間と上手く付き合えるだろう。

 モニカという弟子を取ってからは、尚更だ。

 

「その上でシュレート氏に、たってのお願いがある。大したことではないし、損はさせないと約束する」

「なんじゃ?」

「少しこの小屋を増設させてほしい。私達の部屋と風呂とトイレとキッチン、ダイニング部を」

 

「大したことじゃろうが!!!」

 

 ただ、生活環境に関してセイバーが一切妥協しない所は私でもどうしようもないのでお爺ちゃんには諦めて欲しい。

 

 …………。

 

 正直、私としてもお湯で濡らしたタオルで身体を拭くより、セイバーの作ったお風呂に入って身体の疲れを垢と一緒に流したい。

 

 水浴びは……キツい。

 

 せめてシャワーだけでも……。

 

 …………。

 

 一画回復した所だし、いっそセイバーに今の私の魔力を全部流し込みましょうか。

 

 正直セイバーかモニカにゆっくり背中を流されたいし、セイバーの角も磨いてあげたい。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「どう、お爺ちゃん。ウチのお師様は凄いでしょ」

「なんでたった数日で小屋の増設が終わるんじゃ」

 

 魔族を連れた一行を引き入れて数日。

 一番の懸念だったセイバーという魔族は、文字通り良く分からん魔族だった。

 

「まさか、儂の小屋に温泉が引かれるとは」

「温泉じゃないよ。普通にお師様が『水を適温にする魔法』を込めた配管を繋いだんだよ。浄水化の魔法込めたタンクと」

「……温泉を作っているのとは違うのか?」

「温泉ならばもっといろんなものがお湯に混ざって、身体にいいんだって」

 

 たった一晩で儂の小屋に来客を泊める用の小屋が併設されて、それに風呂小屋まで出来てしまった。

 

 次の日には徹底的に掃除されて埃は無くなり、使い古した鍛冶道具は全て錆を落とされピカピカになっていたし、使い古して放り投げていた布や古い衣服は洗濯されて修繕されていた。

 

 その次の日には、椅子やテーブルが全て新調されて、ちょっと休むだけの机といすがあった一角が立派なダイニングになっている。

 

 さすがにそれ以降は魔力とやらを温存するためと大人しくなったが、それでも手作業でなにやら作り続けている。

 

「飯も相変わらず美味いし……」

 

 そしてそれだけ働いた上で、食事の世話から小屋の掃除まで全てこなしている。

 

 今日の夕食はもはや食い飽きたハズの小川の川魚だったが、香草を混ぜ込んだバターでふっくらと焼かれた魚はとても同じ魚と思えない程にいつもの臭みが全くなく、その上で美味かった。

 

 パンも混ぜ物一つない真っ白なパンに、挽いた肉を使ったトマトのソースが付け合わせとして小さな器に盛られている。程よく細かく切り砕いたチーズと共に。

 

 間違いなく『人間のための』食事だった。

 

「五百年以上の研究の賜物らしいです。とはいえ、一か所に留まっていたから扱った食材には限度があるみたいで」

「どういう魔族なんじゃ」

「アハハ……。私は、お師様の正体知った時はそれどころじゃなかったのでアレなんですけど……。まぁ、慣れますよ。魔族は魔族。お師様はお師様!」

「いや種族は同じじゃろう」

 

 横に長い、足が延ばせる風呂桶に流し場、それに身体を洗う垢すりの数々。

 魔族の娘――セイバーとやら曰く『三十年は掃除しなくても大丈夫だけど一応用意しておく』と言って専用の掃除道具までついでとばかりに作られている。

 

「お師様からも魔族は危険だと散々言われているし、実際何度か交戦した魔族は揃って中々のクソっぷりでしたけど」

「年頃の娘がクソとか言うんじゃない」

「それ、お師様からも注意されるんですよね」

「だから、なんで魔族の方が常識あるんじゃ」

「タハハ……」

 

 そして、エルフと人間の娘二人はそれと当然のように接している。

 呪いやら訳わからん魔法やらが怖くないようだ。

 

 魔法を扱うエルフは分からんでもないが、この娘もあまり警戒せずに魔族の娘にじゃれついている。

 

「そういう人なんです。お師様は警戒しろというし、甘えているとたまに「緩みすぎている」って薔薇が飛んで来たりしますけど」

「薔薇は咲くもので飛ぶものじゃなかろう」

「飛ぶんですよ」

「マジでか」

「しかも魔法を撃ってきます。死ねる奴」

「マジでか」

 

 というより、あのセイバーという魔族を怖い存在とは思っていないようだ。

 

 今もなにやら、細長い金属だか木だかわからん物をいじっている魔族の膝を枕にして、ミリアルデというエルフが横になっている。

 

「それでも、やっぱりお師様は下手な人間よりもずっと安心できるんですよね……」

「……まぁ、お前さんが懐いているのはよく分かるが」

 

 今でこそ三人の寝床が増設されてベッドも作られているが、その前は三人で一枚の毛布にくるまって身体を休めていた。

 魔族と寝るなど常人ならば狂気以外の何物でもないが、この三人にとってはそれが当たり前なのだろう。

 

「ある程度魔力とやらが回復したら、お前さんらはどこに行くんじゃ?」

「まだぼんやりとですが、何事もなくこの地域を抜けられたら南東のグランツ海峡を目指そうかなって話になっています」

「……ヴァールの向こう側か」

「はい。お師様が、少し海の幸に触ってみたいと言ってまして」

「アイツ、料理馬鹿なのは本当なんじゃな」

「家畜の解体が死ぬほど苦手なんですけどね……」

 

 野菜など適当に切って適当に炒めても味は変わらないと思うのだが、毎回花だの蝶だのを象った食べれる皿の飾りを付ける魔族だ。

 料理が好き、だというのは嘘ではないのだろう。

 包丁も相当に使い込まれているし、その手つきは一朝一夕で身に付くものではない。

 

「シュレート氏」

 

 ここ毎日目にする、執事服の上からエプロンを着て調理場に立つ魔族の姿を思い出していると、いつの間にか来ていた本人が声をかけてくる。

 

 どういうわけか、その後ろにはエルフの娘が背負われている。

 後ろから魔族の首に腕を回して、その肩を顎置きにしてウトウトしている。

 

「なんじゃい、セイバー。物造りは終わったのか?」

「そちらに関しては、今日はこれ以上魔力を使うなとマスターに言われたので一休みを」

「ほう、では?」

「貴方は、今でも鍛冶仕事はできるのでしょうか?」

「む? ……まぁ、ちょっとしたものならば。どうした?」

「先ほど絵図が完成したのですが、こういった物を作れませんか?」

 

 その気になれば一瞬でこの小屋など吹き飛ばせるだろう魔族が、一枚の紙を渡して来る。

 そこには、なにかの完成図が描かれていた。

 

「……これは?」

「鍋の一種です」

「これではそれほど水も物も入らんぞ? 背が低いし、それに中央が丸く出っ張っておるがこれはなんじゃ? 容量が減っておるじゃろう」

「それでいいんです。下から火を当てて、そこで薄く切った肉を焼く物なので」

「……ん?」

 

 描かれている鍋――と魔族が言う物は丸い円盤の中央を上側に出っ張らせ、その上で外周に沿うようにやや広めの溝を入れている物だった。

 

 このような鍋は見たことがない。

 というか、本当に鍋なのか?

 

「普通に鉄のフライパンじゃだめなのか?」

「はい。是非この形に」

「なら出っ張った所に描かれている溝は、ただの飾りではなく?」

「肉が焦げ付きにくくするのと併せて、熱で溶けた油を流すためです。一番上に一通り焼いた獣油を乗せる事で、徐々に溶ける脂が全体に回るようにしたい」

「お師様、それじゃあ縁の部分は、その油を受け止めるためのスペースですか?」

「同時に、小さく切った野菜をその油で炒められるようにしたい。料理のための鍋というより、全員で囲んで肉や野菜をその場で焼いて食べるための物です」

「…………お前さんが考えたのか?」

 

 さすがにこんな物に呪いも魔法もないだろう。

 文字通り、飯を食うための鍋だ。

 

 モニカの嬢ちゃんやエルフの娘が覗き込んで、それぞれ感嘆の息を漏らしている。

 

「いえ。朧気に頭に残っていたジンギスカン鍋という物の記録を土台に、実用できそうな形にまで再現してみた物です」

「ふむ。火は? これのすぐ下に敷くのか?」

「そのつもりです。大量の灰を用いた火場を作って、そこで小さく火を焚いてその上に敷こうかと」

「……少し背が高すぎるな。もう少し出っ張り……肉を焼く場所を低くするべきじゃ」

「このままでは焼けない?」

「焼けるまで火を強めると、恐らく縁の部分が熱くなりすぎる。野菜などすぐ焦げるぞ」

「なるほど」

「それと資材がいるな。熱が均一に回るように薄く、だが十分に耐えられるものが必要だ」

「……以前いた場所の近辺でミューゼル鉱石を採掘して大量にストックしています。精錬はしていませんが……」

「原石のままか。量は?」

「七トン」

 

「やっぱりお前さん馬鹿じゃな!?」

 

 見てみろ、お前さんの肩に顎を乗せとるエルフの嬢ちゃんも頷いておるではないか。

 コイツら、金に換算してどれだけの財産を持っておるのやら……。

 

 いや、考えるのは止めよう。

 心臓に悪い。

 せっかくコイツらがくれる美味い酒が不味くなる。

 

 だが――面白い。

 打ってもいいと久々に思ったほどに。

 

 魔族からの依頼という事で一瞬身構えたが、中々に楽しめそうな内容だ。

 だが、これは恐らく実際に使った上で微調整を繰り返さなくてはならないだろう。

 

 そしてその使い心地や、求めている機能を最も強く頭に思い描けるのは……。

 

「セイバー」

「? ああ」

 

 

 

 

「お前さん、少し鍛冶をやってみんか?」

 

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