ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
―― カッカッカッカッ……。
セイバーと共にここに逃げ込んで二か月。
日を追うごとに少しづつ物が増えて来た鍛冶小屋は、ある意味でかつての姿を取り戻しつつあった。
「お前さん、本当に器用じゃなぁ。鍛冶を習う片手間で
「修復魔法を覚えたのはつい最近で、それまではずっと自分で修理をしていたからだと思います」
「お前さんの魔法なら、新しく作る事も出来たんじゃないか? これまではそうじゃったんだろう?」
「魔力で精製した物を無理やり固定化するか、かき集めた金属を混ぜ合わせて加工して無理やり固定化するばかりでしたから、その分無駄に手間暇がかかっていたんです。だから使い潰すのに凄く抵抗があって、修繕を繰り返して長く使っていたので……」
「うははは! 悪くないぞ、お前さん。そういう癖は職人に向いておる」
雨季を越えたこの鍛冶小屋は、元々の畑仕事に加えて鍛冶仕事も行われるようになった。
もっとも、仕事と言ってもどこかから依頼が出た訳ではない。
セイバーが自分で考えて形にしたいと思った物がそのまま課題となり、お爺ちゃんが作業を教えながら簡単な物から形にする手伝いをしている。
「しかし、ある程度鍛冶が形になってまず作るのが釣り針、そしてその次が例の鍋と来て今度は包丁か」
「……やはり、刃物を作るには早すぎただろうか?」
「まぁ、本来の弟子ならばあと五年は下働きをさせる所だが……お前さんはある意味、下働きが完璧だからな」
最近はセイバーの作ったお酒を呑みながらセイバーの仕事やモニカの修行を眺める日々だが、どうしても目に入るのはやはりセイバーだ。
掃除をして食事の用意をして後片付けをして鍛冶を習ってモニカの修行を見て座学会を開いて晩酌の用意をして風呂の用意をする。
エルフの里の付近に在った小屋での暮らしを思い出す勤労っぷりだ。
「それで作るのが文字通り日用品か」
「? 変だろうか?」
「まぁ……正直、お前さんが日頃手入れしておるような武器をまず作ろうとするかと思っておった」
「……実際、私のやり方で作るよりこうして鍛冶仕事で作った方がより魔法を効率良く込められる。いずれは全ての武器を更新するつもりだが、まずは暮らしをもう一段階豊かにしたい」
「これ以上か」
偶然手にした従者だけど、彼女一人がいるだけで生活が恐ろしく楽になる。
仮に彼女の魔道具がなくても、掃除と料理の腕前だけでお釣りが出る。
「……さておき、じゃ。セイバー」
「む」
「モニカの嬢ちゃんはさっきから壁に向かって何をしとるんじゃ?」
そしてモニカは、セイバーから認められて彼女の魔剣を手にしてからは、ますます本格的な鍛錬に入っている。
「ああ、あれは狭い場所でも滑らかに剣を抜いて応戦するための訓練です」
単純に剣を振る訓練と併せて、戦いや普段の生活の中での立ち回りを叩き込まれている。
「狭い場所?」
「彼女の剣、小烏丸はやや長めとはいえどこでも使える刀です。仮に制限された空間でも刃を抜いて切っ先を突きつける。それだけで防げる事態は山ほどあるし、そのまま交戦になったとしても遅れは取らない」
セイバーと訓練を始めてから、モニカは特に集中力が上がった。
セイバーはそれを『ゾーンに入った』と言っていたが、実際その状態になるとモニカは恐ろしく強い。
先日の一件で、一人で魔物の群れの足止めが出来たくらいだ。
壁に膝頭が付きかねない程にピッタリと床に足を折りたたんで座るモニカ。
小烏丸は鞘に納められたまますぐ脇に置かれている。
モニカはじっと目を閉じたまま壁に向かって呼吸を整え、
―― ダンッ!!!
次の瞬間、片膝を立てて抜き身の刃を壁に押し当てていた。
立ち上がる瞬間はかろうじて見えたが、刀に手を伸ばす瞬間も鞘から抜いた瞬間も、そして構える瞬間も自分には見えなかった。
速い。
とにかく速い。
今の自分が月霊髄液なしで彼女の間合いに入っていたら、恐らく魔法を展開する前に斬られるだろう。
本当に、モニカは強くなった。
「――にしても、嬢ちゃんは最近修行に気合が入っておるのう」
「例のエルフに備えてだろうが、ストレスの発散もあるのだと思う」
「…………町の男連中か?」
「誰かが悪いわけではない……。そもそもの原因は、私がフェイスカムのテストモデルを精巧に作りすぎた事、か」
一方で、モニカの人嫌いは相変わらずである。
逃げ込んだ翌日にお爺ちゃんの護衛――実質、あの時はどう転ぶか分からなかったお爺ちゃんへの監視役としてつけたモニカは、セイバーのアーティファクトで顔こそ変えていたのだが、それが原因で尚更目立ってしまった。
郊外の老鍛冶師の所に、腕が立って美人の若い女冒険者がいると話題になってしまったのだ。
「たまに来る商人が急に頻繁に、しかも若い連中を連れてくるようになったからのう……」
「最初はセイバーや私が気付かれたのかと思ったけど、まさかモニカ目当てで来るなんて」
「増改築以外に目立つ工作をしていなくてよかった……」
「良かったって、何をするつもりだったんじゃい」
フェイスカムそのものは残っているし、セイバーの作品だからかなり頑丈且つ長持ちするように作っている。
町からの人間が来た時はそれを着けたモニカが御爺ちゃんと一緒に応対することになっているのだが……。
ひとえに、ナンパが酷かった。
「体慣らしに耕作用アッグ*1の性能強化と小型化を進める所でした。マスターにすごく止められたが」
「ミリアルデの嬢ちゃんが止めたという時点でお前さんとんでもない事をするつもりじゃったな???」
「……便利なんです」
「具体的には?」
「工作用に調整した方のおかげで、あれだけ大量のミューゼル鉱を確保できたのです。*2そろそろ耕作用の調整も――」
「とんでもない事をするつもりじゃったな!!??」
美人がいるという事で話題になりやすい所に、あの時救助したエルフの子達の目を剥いたゴーレムなんて動いていたら目を引きすぎる。
……そういえばあの時のアッグ・ゴーレムは今どうなっているのかしら。
セイバーがエルフの若い子達に使い方を教えて、所有権を示す魔力錠を彼女らに移していたけど。
ひょっとしたら、あのゴーレムが元気に耕しているエルフの里がどこかにあるのかもしれない。
「ねぇ、お爺ちゃん。実際モニカは今町でどういう感じなの? 何度か買い出しに行ったでしょ?」
モニカは今も集中して訓練を続けている。
抜き方や構え方を変えて、何度も剣を抜いて構えて、呼吸を整えそれを戻す、を繰り返している。
「そう……じゃなぁ。若い衆ならば、まぁアレじゃ。誰か口説いてこいと互いに押し付け合っておるわ」
「……本人が不快でなければ問題ないのだが」
「エルフの私にはそういう欲求がよく分からないのだけれど、男はどうしても女を求めるの?」
「お前さんは……年老いたとはいえ男が答えづらい事を馬鹿真面目に聞いてくるのう」
町の中の出店の様子や酒場で提供されている料理の話にはスラスラと答えられるモニカが、町の人間――男に関しては言葉を濁す。
「まぁ、冒険者というのは言ってはなんだが荒い者が多い。故に……そういうものとして声をかけた連中が多くてな。それが嬢ちゃんの気に障ったのじゃろう」
「……なるほど」
つまり、乱暴に口説かれた事が気に入らなかったのね。
多分、下品でもあったのだろう。
「あとは……ちょっと近衛兵らがうるさいのう」
「うるさい?」
「嬢ちゃんが仕事を引き受けたのは知っておるじゃろう」
あった。
雨季の間のお爺ちゃんの買い出しの護衛としてやはりモニカが町に行っている間、緊急の依頼が出される事があった。
雨季特有の増水による被害で避難しなくてはならなくなった住民の護衛や誘導。
通商ルートを塞ぐ形で巣食った魔物の討伐。
この二つの依頼をモニカは冒険者として引き受け、セイバーの武器を使ったとはいえ単独で達成している。
「嬢ちゃんは見事に成果を出したが、それでどうも嬢ちゃんを取り込もうとしとるようじゃ」
「領主兵として?」
「…………漏れ出る話を聞くに、多分領主かその息子の側近も兼ねた護衛ではないかのう」
お爺ちゃんが少し顔をしかめるが、貴族の側近ともなれば待遇は相応の物だろう。
ただ、セイバーは乗り気でないようだ。
表情はいつも通りだが、少し不機嫌になっているのが分かる。
作業も終わっているようだし、腕を広げて見せるとセイバーがそっと近寄って私の上に座るので、そのまま抱きしめてあげる。
「……それなりに早く、ここを
「そう。……セイバー、魔力ストックはどうなの?」
「ミリアルデが令呪を通して魔力をかなり流し込んでくれるからそれなりに疑似魔術回路は機能を回復したが……最大火力を出すにはまだ足りない」
「カートリッジの方が足りていないの?」
「ああ。……あのエルフと撃ち合うならば、通常の砲撃魔法では押される。最初から逃げの一手に賭けていても、確実に牽制するには大技が必要になる」
腕の中のセイバーは身じろぎせず、自分に体重を預けて力を抜いている。
普段とは逆ではあるが、今のお風呂で良くやる体勢だ。
「第六使徒は割と切り札の一つだったのだが……まさか押し込まれるとは思っていなかった」
「今は起動できる?」
「出来るが……高火力は期待できない。対多数を薙ぎ払うのには使えるだろうが……」
「……むしろモニカに持たせるべきものね」
「ああ。あのエルフに対抗するなら、いっそ専用に新しく超攻性のアーティファクトを作った方がいいかもしれないな」
今のお風呂は後々お爺ちゃんが一人で扱えるようにとそんなに大きく作っていない。
人一人が足を延ばして問題ない程度のお風呂に、私達は二人でどちらかがどちらかを抱えて湯船に浸かっている。
「ぁ、シュレート氏。それで思い出したのだが、一つアーティファクトを作ったので受け取って欲しい」
「む?」
「テーブルについてほしい。これはこことシュレート氏の部屋のサイドテーブルでしか起動しない」
動きを邪魔しないように、両肩から胸元へと固めていた腕をズラしてセイバーのお腹を抱えるように差し直す。
同時に、セイバーがいつもの
出てきたのは、一枚の皿だった。
彼女が好む皿よりも一回り大きくした、真っ白な磁器製の皿。
それをお爺ちゃんの目の前の机に置いて、
「ちょうど昼食の時間だ。モニカやミリアルデには別途で作るが、とりあえずシュレート氏が食べたい物を言ってみてくれ」
「ん? なら…………『ポークチョップ』で」
そう言った瞬間、白い皿の上にポークチョップが『ポンッ』と現れた。
お爺ちゃんが好む、骨付きの豚肉のロースト。
皿には、ご丁寧に蒸し野菜やマッシュポテトまでセットで乗っている。
「特に名称は付けていない。『注文した料理が出てくる皿』だ*3」
「またさらっととんでもないもん作り出したな!!?」
「以前作ったランチボックスの応用です」
あれから数年経つが、未だに私達の冒険の主力と言えるアーティファクト。
アレが進化したと知って、セイバーのお腹に回した腕に思わず力が入る。
「残念な事に完成しているのは受信機となる皿のみで、注文方法は完璧と言い難く現在改良・調整中だ。だが、我々が去った後も食で困る事はないように完成させるつも……り……ミリアルデ?」
聞こえない。
「ミリアルデ……っ? お腹が……っ、苦しいんだが……マスター!?」
いい加減に君はホイホイ国宝級の代物を量産する癖を止めなさい。
「お腹から上下にちぎれそうなんだが!!?」
そうなりたかったんでしょう?
私がやってあげるわ。
モニカ、貴女も前からお願い。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いつもの日課終えて振り返ったらお師様が締め上げられているから何事かと思えば……また凄いの作りましたね」
ここしばらくの訓練の日課が終わって振り返ったら、お腹を締め上げているミリアルデ様の腕に必死にあらがうお師様の姿が目に入って混乱していた。
ついでにミリアルデ様からご下命があったので前から全力で抱きしめさせてもらった。
なんかお爺ちゃんはその光景見ながら平然と豚肉のロースト食べているし。
「お前さんの師匠は、目を離すととんでもないのを作り出すのぅ」
「まぁ、大人しい方ですよ。屋敷の方にはお師様の研究工房がありますから、本気でやる時はもっととんでもないものが山ほど飛び出すので」
「……例の、どこでも出し入れ出来る屋敷か」
ご飯を食べた後はケチャップとマヨネーズを混ぜたソースが添えられたフライドポテトに鶏肉のから揚げとほうれん草のバターソテーが追加されてきた。
どうやら今日はもうお休みらしい。
完全にこの時間から飲むラインナップだ。
お爺ちゃんも樽ジョッキに並々エールを注いで一杯やってるし。
お師様は昼食を終えてからミリアルデ様と一緒に、新調した釣り竿のテストで釣りに出掛けている。
なんか、わざわざレンズを黒く塗った眼鏡をかけていたけどなんなんだろう?
しかも、「今の私はセイバーではない」とか「アングラーだ」とか訳の分からない事言ってたし。
時折外から「フィィーーーーーーーッシュ!!!!」とか叫び声が聞こえてくるし。
(お師様は強いし綺麗だし、多分街に行けば角を隠した状態でも男はふりかえるんだろうけど、時折すんごいハッチャけるよなぁ……)
いつ町の人間が来てもいいようにフェイスカムを身に着けたまま、試作133号というお茶を口にする。
発酵を軽くしたという……なんだっけ。ウーロン・ティー?
油物に合うから、こういうスナックにはよく合う。
「普段は何を作っておるんじゃ? 武器か?」
「いえ。大体は家で使う魔道具ですね、武器は……偶に増えますけど基本は整備だけです」
「向こうでもそうなのか……。ちなみに、どういう?」
「そうですねぇ……一定時間ごとに床の埃やゴミを片づけてくれる魔道具とか」
「便利じゃのう」
でもその分、キチンと片付けないと悪いからなぁ。
お師様の家での暮らしは悪くないんだけど、色々物が豊富な分ゴミも多く出るから油断してると溜まっちゃうんだよなぁ。
「最近は魔道具よりも、植物の育成を早める魔法の研究にミリアルデ様と没頭してまして」
「植物?」
「研究して生み出した作物の育成を早めて、よりますます良い作物を作りたいんだとか」
どういうわけか、その過程で出来たのが『生命を造る腕』とかいうとんでもアーティファクトだったけど。
なんだっけ、あの金ぴかの金属の手袋。『ゴールド・エクスペリエンス』?*4
アレのおかげで村の管理役のワルキューレ*5とか、家や畑の仕事やってくれるアイルー*6とかが生まれて来たわけだけど。
お師様があのエルフから逃げる時に使った魔導武器の数々より、あの腕の方が絶対ヤバいよなぁ。
アーティファクト越しでも消費魔力ヤバくて碌に使えないらしいけど、それでも破格すぎる。
「奴の作るパンが妙に美味いのはそういう事か」
「雑味がないですよね。なんていうか」
「混ぜ物がないだけにしてはやけに美味すぎる」
「ですです。聞いたら、それこそ麦の研究は三百年以上続けていたみたいで……」
「奴の食への執念はどこから来るんじゃ……」
――なに、ただの約束のためだよ。
ここでの暮らしですっかり仲良くなったお爺ちゃんと、酒を呑みながら駄弁っていると声が聞こえた。
八回くらい訳の分からない叫び声が聞こえていたけど、もういいのだろうか?
ミリアルデ様はいつもと変わらず、お師様の腕を取って歩いているけどもう片方にバケツを持っているせいで微妙に絵にならない。
中でピチピチと跳ねる音が時折する。
「おかえりなさいお師様、ミリアルデ様。釣れたようですね」
「ああ。餌釣りもそうだがルアーも上手くいった。今後はこれをベースに性能を上げていこうと思う」
「まだ上げるんかいお前さんは」
仕方ない。
この家には作ってないけど、屋敷にあるコタツなんて去年だけで何回試作品を作った事か。
失敗も多いけどその分完成品はヤバイ。
冬の間、ほとんどコタツから抜け出せなかった。
「セイバー。私も聞いたことないのだけど、約束って?」
ミリアルデ様からバケツを受けとり、お師様がキッチンに立つ。
いつもの執事服と違い、訓練などで使う運動用の服に『汚れを全て落とす魔法』をかけてからエプロンを身に着ける。
防臭結界を張ったという事はすぐに捌くのだろう。
今日は魚……いや、お師様なら干して寝かせるかな。
「……昔……私がかつて、とある森の中で隠遁していた頃の話だが……」
今お師様が打っている包丁は、完成までまだかかるらしい。
今手にしているのはお師様がずっと使っているという、研ぎ続けてすっかりナイフと変わらないくらい小さくなった包丁だ。
「当時、私は美味という物が分からなかった」
「……味覚がなかったの?」
「いや。感じはするのだが、それが気分の高揚と結びつかなかった。美味しいという概念は記録で知ってはいても、それに味覚が繋がらなかったのだ」
魚を
「もっとも、食べなければ生きてはいけない。魔族は数十年は食わずとも生きていけるが、当時の私は食べない事は死につながるという強い意識があった」
最初に出会った時はこんな立派なキッチンではなく、焚火の上に大鍋を吊るしただけのキャンプだったが、それでもこの背中は変わらない。
「キノコや野草、獣を狩ったり罠を作ったりしてどうにか……なんといえばいいのか」
お師様にとって、料理とは当たり前の物だ。
少なくとも、私が知る今のお師様は。
「私はあの時、必死に人間の狩猟や採取からその調理に至るまで、人間の真似事をして食いつないでいた」
「森を出ようとは思わなかったの?」
「その考えが浮かばなかった。……この身体の再起動に成功した時からすでに、私は朧気に魔族への嫌悪感を持っていた。思い返すと、下手に動いて同胞に見つかる事を恐れたのだろう」
ただ、やはりお師様は魔族だ。
一度も人を食べた事がないと言っていたしそれは事実なのだろうけど、昔のお師様はやはり今とは全然違ったのだろう。
「魔法は? その時は使えなかったんですか?」
「ある程度は当然使えたが……当時私が
「例えば?」
「『腐敗した肉を新鮮な霜降り肉に変える魔法』や『有毒の食べ物から毒を完璧に抜く魔法』くらいだ」
「すでに美食に寄っとらんか??」
ごめんなさいお師様。
私もちょっと思いました。
「……色々事情があって、これらの魔法をなぜ私が習得していたのかは私自身にも分からない。原典らしき物は記録に残っているが……」
気が付けばもう既に数匹の魚を捌いたようだ。
開きにした魚をブラシで丁寧に洗って血合いを落として、新しいバケツに塩水を張って漬け込んでいる。
「そうして味という物を分からないまま、形だけの人間生活を模倣する日々を何百年と過ごしていた時に……」
「私の小屋に、一人の人間の少年が迷い込んだ」