ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
小烏丸を使わせてもらった矢先に『東京アンダーグラウンド』が見れるようになってかなりビックリしてます
思わぬ形で魔族を含めた一行を匿って半年。
当初覚悟していたような事態はなにも起こらない。
――ジュ……ッウゥゥゥゥゥゥゥ……
「……よし。どうだろう先生?」
「おう、刃の部分は程よく柔く、それでいて他の部分も硬い。十分な出来栄えじゃろう」
「後は研ぎ。それと握りですね」
「お前さんにとってはそっちの方が重要なんじゃろう?」
「握りやすく、大きすぎず、そして小さすぎない理想の包丁。これを完成できれば、今後の刀工術を更に伸ばすことが出来る」
「……とうこうじゅつ? 剣か?」
「いえ、包丁さばきの事です。時折料理人から料理勝負を仕掛けられるのですが、先日その技術が題目になる事があったので――」
「そんなことある?」
それどころか、これまで考えられない程充実した日々を過ごす事になった。
何かと武器鍛冶になりたがる者が多いこの頃、日用品の作成に全力で取り組む弟子が出来た。
下働きは元から完璧で、この家を訪れたその翌日からこの鍛冶小屋は作業場以外埃一つ無い。
その作業場ですら、炉に火を入れて
「……あぁ、バーガー屋台の一件の時に起こりましたね。料理勝負。宮廷料理人達と」
「ソテー、ソース、スープ、そして
「ああ、さすがは王宮調理師四天王。……日頃の料理でも手を抜く事はまずないが、あれほど緊張して厨房に立つ経験は初めてだった」
「ねぇ本当になにしとんの?」
飯も文句の出ようがない絶品ばかりじゃが、話を聞く度に違う意味で不安になる。
「最後の刀工勝負だけお師様、負けてしまいましたもんね」
「おかげで一月の間弟子を取る羽目になってしまった」
「この間言っていたのはそういう経緯か!」
「全員誇り高い料理人でした。テリヤキのレシピを渡すと言ったら、相応の金額を払わせてほしいと全員が頭を下げるので、マスターと相談した結果販売する形になりまして……」
本当にコイツらどういう旅をしてるんじゃ。
「それに、料理勝負自体は度々発生しているので……道具をしっかり揃えたいとは常々思っていました」
「まず料理勝負というもの自体聞いたことないんじゃが?」
「モニカと出会う前にも、たまたま出会った商隊にスープを振舞ったら突然勝負が始まった事があったわね……」
「あれもまた強敵だった。……勝ち取ったレシピは大切に記録している。無論、改良とその過程も」
……まぁ、このご時世に似つかわしくない楽しそうな旅をしているようだ。
実際エルフの嬢ちゃんは魔法の、モニカの嬢ちゃんは剣の達人であり、その師匠というこのセイバーという魔族も弱いはずがない。
コボルトの群れを蹴散らせるモニカの嬢ちゃんが「お師様より強い存在を見たのは
「ともあれ、これで包丁の一本目が完成したか。次も頑張らなければ……」
「? 更に作るのか?」
「肯定です。記録にあった『七星刀』という七本一組と、もう一本の包丁のセットを再現したいので」
「ほう。つまり、あと七本打つのか」
「いえ、六本です。最後の一刀は材料が足りないので、いずれ私の手で完成させます」
「? 特別な鉱石でも要るのか?」
「はい――」
「
「何を作るつもりなんじゃ!?」
「北辰天狼刃」*1
「それ包丁に付ける銘か!!?」
それはそれとしてコイツの馬――阿呆で頓珍漢な所は魔族だからなのじゃろうか。
いや、もし魔族が全員こんな奴ばかりならば、そもそも戦争になどなっておらんか……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「しかし、ここにある刀剣の数々は先生が?」
「む? まぁ、一応な」
鍛冶仕事を終えて後片付けと道具の整備まで終わらせたセイバーが、全員分のお茶を淹れてお茶請けを用意している。
セイバーが鍛冶を、モニカが剣術を磨いている中、私の役目は魔力を回復してすぐさまセイバーに流し込む事だ。
だからこうしてのんびり身体を休めているのは立派な務めである。
お爺ちゃんが時折不思議な目で私を見てくるが、そもそもセイバーの手綱役というだけで立派に仕事をしているわ。
私が止めなかったら今頃この小屋、要塞になっていたもの。
目を放していたらこの子、移動要塞なんてとんでもないもの作りだすもの。
あの時放置していたら、私達が魔王と呼ばれていたかもしれないもの。
『機動要塞デストロイヤー』ってなに?*2
縦横無尽に八つ脚で走り回る超巨大要塞なんてものをどうして作ったの?
お願いだから君の倉庫の中に永遠に封印しておいて。
「握りは握りやすく滑りづらい、そして鍔の部分はかなりガッシリ。……使い手を守る剣ですね」
「おぉ、モニカの嬢ちゃんには分かるか」
「お師様の剣以外の自前を選んだ時に、刃よりも握り周りをしっかり見ろと言われていたので」
「当然だ。私の剣を受け継ぐという事は、自分を守る剣術を身につけるという事だ。その得物もまた守りやすい剣でなくては、いざという時にダメージが入ってしまう」
セイバーが来るまで適当に棚に押し込められていた古い刀剣は全て磨き上げられ、棚に真っ直ぐ入る物は再びその中へ。
斜めにしたりして無理やり押し込められていた剣は、セイバーが作ったフックによって壁に掛けられるようになった。
目にしたことはないが、貴族の応接室はきっとこんな感じなのだろう。
「……気になっていたのですが、先生」
「なんじゃ」
「この一本は、誰が打ったのです?」
全員分のお茶とお茶請けを出し終えたセイバーが最も簡素な椅子に腰を掛けて、自分の後ろに掛けてある一本を示してそう尋ねる。
刃が真っ直ぐではなく、刀のように峰側に沿っているのではなく、なぜか刃の方へかなり折れ曲がるように打たれた剣。
セイバーが良く使う「ヒラガナ」とかいう文字だと……「く」の字を反転させた形に近いかしら。
「……儂の作ではないと?」
「刃が曲がっているのは、刃の重心を上げる事で振り下ろした時により素早く断ち切るための仕掛けでしょう。随分と攻撃的な剣だ。先生らしくない」
鍛冶をしっかりと教え込まれるようになってから、セイバーは御爺ちゃんの事を先生と呼んで慕っている。
「あぁ、なるほど。振った時に重心が乗りやすくて、かつ刃がちょうどいい角度になっているから適当に振っても相手を斬りやすいんですね。相手は受け止めようにも、形状的にそのまま斬られる恐怖があるし」
「刀剣はたくさんあったが、これだけが明らかにそういう意図で打たれた物だからずっと気にかかっていた」
だからこそ、セイバーはよく観察しているのだろう。
私がセイバーの料理を口にした時などあからさまだけど、セイバーは親しい相手ほどよく観察する。
「…………息子が打ったもんだ。死んだけどな」
「……他に、ご家族は」
「いんや、いねぇ。妻は昔、俺や息子の目の前で山賊にやられてな」
賊、という言葉にモニカの手がピクリと震える。
魔族ともそれなりに交戦してその醜悪さは目にしているのだが、それでもモニカは人間の方を警戒しているようだ。
「そうか。お爺ちゃん、この剣って」
「ああ。賊を相手にするための――対人戦闘に重きを置いた剣だ」
お茶を飲み干したモニカがそっと剣の前に――座っているセイバーの横に立って剣を眺めている。
「当時ここいらは魔王軍の影響なんざなかったんだが、魔物被害と並んで賊の被害がよく出ていてな。気を付けていたんだが……地方の騎士団が駆け付けてくれたおかげで俺と息子は助かった」
「……この剣は、賊と戦うために」
「俺は止めろと言ったんだがな。いつしか、アイツが打つモンはそういう剣ばっかりになりやがった」
お爺ちゃんは、複雑な顔をしている。
懐かしんでいるのか、悲しんでいるのか、嘆いているのか。
正直な話を言えばどうだっていい。
起こってしまった事は変えられないし、他人の自分が関わってもいいことなどない。
「武器はまぁ、命を奪うもんだ。魔物や魔族だってそれは同じ。……特に魔族に至っては、時に人の打った剣を奪って自分のモンにしちまうと耳にしている」
「? そうなんですか、お師様?」
「ああ、事実だ。魔族の多くは自分の固有魔法を磨くことに専念するが、逆にその身体能力を生かして武芸に進む魔族もいる。そういった者の一部は、特別な剣に目を付け奪おうとする」
「へぇ……。戦った事あります?」
「ある。一人で旅をしていた頃、とある教会に奉納された名剣を巡って魔王軍先遣隊と戦ったのだが、その中の将軍の一人が剣のコレクターだった」
だけど、私の従者はそうではない。
知っていた事だが、セイバーは人間が理不尽な脅威にさらされた時に動かずにはいられない。
「私の剣にまで目を付けて、教会の僧侶達を人質に取って『神機』を要求してきてな……。敵の目を引き付けながら可能な限り離れた所で解放・起動させたレフト&ライト*3で後方から奇襲させてどうにか人質を救出できた」
「レフトアンドライト? ……あぁ、あの顔のないメタルゴーレムですよね? 女性型の奴二体、この前の戦いで起動させてた」
「その戦いでどちらも半壊。もう使い物にならんがな」
「? 修繕はしないんですか? あのエルフ相手の牽制で、私随分と世話になったんですけど」
「ちょうど鍛冶を習っている所だし、頭脳部分だけ取り出して新調した方がいいだろう。より強化できる」
身を守るために作った数々のアーティファクトを、人間のために惜しげもなく使う。
さすがに手渡すような真似はほとんどないが、確実に目を引くそれを使う事を躊躇わない。
隠れようとしても、勝手に身体が動いてしまうのがセイバーだ。
「まぁ、そういうわけでな。……息子は町の鍛冶屋ではなく、軍付きの鍛冶師を目指した。恐らく、打った剣を使って領主軍に賊を討ってもらいたかったのじゃろう」
「領主軍専属の鍛冶か。鎧や武器を打ったり修繕したりする」
「あれってなれるものなんですか? てっきり家業として代々受け継がれていく物と思ってたんですが」
「その家業でやってる親方への売り込みを目指したんだ。打った剣を見せて、腕を認めてもらうんだってな」
それは、ある意味でこの家との決別を意味するものではないのだろうか。
ここの鍛冶を受け継がずに、余所に行ったというのは……。
(……棚やそこらに押し込められていたのが刀剣類ばかりだったのはひょっとして……)
セイバーも同じ考えに辿り着いたのか、気まずそうに後ろの剣を見ている。
セイバーが手ずから磨き、飾ったものだ。
「アイツの打った剣は全部で三十二本。これはその中で、奴が忘れていった一本だな」
「では、息子さんは今向こう側の鍛冶に?」
「いや、たどり着けなかった」
お爺ちゃんは甘いお茶を飲み干して、息を吐く。
「途中、同行させてもらっていた商隊が賊に襲われたらしい」
モニカの顔が歪む。
魔族や魔物に対しては基本淡々と戦う彼女だが、人間の賊相手には変わらず相当に複雑な気持ちがあるようだ。
「……幸いにも息子の遺体は残っていて埋葬できたが、積み荷や手荷物は全て持ち去られていてのう」
「では、その剣は……」
「売られたか、使われているか。……まぁ、なにせ二十年も前の話だ。もはや行方知れずよ」
セイバーが、壁に掛けているその一本に手を伸ばす。
「先生」
「ん?」
「この一刀、しばしの間借り受けてもいいだろうか?」
「むお??」
お爺ちゃんの子供の作品。
つまりは遺作を持って、セイバーはそんなことを言い出す。
「刃の部分は間違いなく、先生の息子の憎しみが生み出したモノなのだろう。効率的に人を斬る剣。……毛皮に覆われた魔物や、想定外の挙動をする魔族相手を考えていない純粋な殺人剣」
セイバーがそれを手にして、握りしめる。
「だが、握り周りは違う」
他に飾り直した多くの刀剣と同じように。
「程よい太さの握り、そしてガッシリと作りこまれた鍔部。……愚直に、持ち手を守る剣」
その剣を、今度はモニカに差し出して握らせてみる。
なぜか恐る恐る触ったモニカだが、握り部分を両手で握りしめて軽く構えてみると、小さく「おぉ……」と感嘆の声を上げる。
「先生の教えをちゃんと受け継いだ、立派な剣です」
「うっわ、思った以上にバランスがいい。……先が重いから人間の腕力じゃ一度攻撃したら防御に移りづらいけど……いやでも一撃離脱戦法には向いてるなぁ」
私には分からない世界だが、剣士の二人には光る物があったのだろう。
お爺ちゃんの息子が打ったという剣を、少し離れて安全を確保した場所でモニカが何度か構えてみせている。
「これが行方不明のままでは――ましてや、もし魔族や賊に使われていては息子さんも浮かばれない」
「まさか、お前さん……」
「はい」
「時間こそかかると思いますが、息子さんの剣を探してみようと思います」
なんとなく、そうなると思っていたわ。
さっきチラリとこっちを見て来た時になにか問いたげだったので、先んじて頷いておいたのだが、それで決めたのだろう。
「……別に誰かが喜ぶわけでもあるまい」
「ええ。ただ私がそうしたいだけです」
「……息子の墓に添えると?」
「そのつもりです。あとで場所を教えていただきたい」
お爺ちゃんはため息を吐いて、剣を構えているモニカを見る。
「時間がかかるぞ。なにせどこにあるのかさっぱりだ」
「時間はあります。私は魔族ですし、主人はエルフです」
「百年かかってもか」
「千年かかっても。残る三十一本全て。私の自己満足ですが……」
あの形ではセイバーやモニカが得意とする『ヒテン・ミツルギリュー』*4や『イアイ』といった剣術は難しそうだけど、純粋な斬り合いではどうなのだろう。
「そこであの握りの感覚を忘れないための見本として、手元に置いておきたいのです」
「……セイバー」
「はい」
「これは頼み事じゃない。儂からお前さんへの依頼じゃ」
「……依頼?」
「息子の剣を、取り戻してくれ」
「依頼料は剣そのものだ」
「儂はきっと、あの三十二本が揃う所を見られんだろうが、遠い未来でアイツの剣を振るうのがお前さんだというのなら」
「儂はおそらく、満足して逝ける」
「息子の剣を――頼まれてくれんか」
北辰天狼刃
出典:中華一番!シリーズ
作中のメインキャラの一人、『七星刀』のレオンが一度だけ使った馬鹿包丁。
削り出した氷河を磨いて作った一品。
必殺技はまるで鏡のような切り口の鋭い刺身を切る『羅漢水晶斬』。
放つには布など巻かず素手で握る必要があり、これを放つと刀身は砕け、手の皮が握りに張り付き多大なダメージを負う。
超カッコいい。
お願いだから近くに持ってこないでくれ。