ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「まさか、たった一月の探索でさっそく一本目が見つかるとは思わなかったわ」
「あぁ。私もだよ、ミリアルデ」
息子が打った剣の行方を調べるために、彼が賊に襲撃された地域を調べるというセイバーに付き合い久々のちょっとした旅に同行して一月。
女二人と見て美味しい獲物だと思ったのか、碌に包囲もせずに襲い掛かって来た盗賊団。
その全員を叩きのめしたセイバーが、彼らの持ち物の中から例の一本だという代物を見つけ出したのだ。
「しかし、思った以上にアッサリ片付いてしまったな。せっかくだから先生の家や近くの街から離れた所でもう少し『赤の勇者』の噂を上げておきたかったんだが」
「お爺ちゃんやモニカがこれ以上窮屈にならないように?」
「未だに商隊に混ざって兵士や役人がモニカの勧誘や調査に来ていると
お爺ちゃんの鍛冶小屋に戻るため、こうして人気のない道を歩いている。
行くときは『赤の勇者』の目撃情報になればと月霊髄液を馬の形にしてその背に乗っていたけど、帰りの今は目立たないように、セイバーに腕を組んでもらいながら徒歩で帰路に就いている。
セイバーは魔力消費の少ない『地面を平らにする魔法』で道中の道を整備・拡張しながら、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
ここしばらくの旅の同行者であるモニカは、今はいない。
今はお爺ちゃんの家に留まって護衛役を務めている。
少々強力な魔物を相手にするだけの腕がある事はセイバーが認めているし、いつぞやの混沌花のように行動不能にするような呪いはそれを無効化するアーティファクトをセイバーが持たせている。
条件を達成するまで『小烏丸』を魔法効果のないただの刀にしていたように、基本的にセイバーはモニカに余り物を持たせない。
まずは素の実力を高めなければ、本当の窮地に対処できないというのがセイバーの教育方針らしい。
かと思えばレシピだけ用意して料理を作らせてみたり、道中で手に入れた詩集や騎士物語などの本を触りだけ紹介して見たり、野草の植生とその利用法などを教えて実際に料理や調薬を一緒にやってみたりする。
「モニカは大丈夫かしら?」
「連絡用兼緊急用に
「……まぁ、あれだけの魔力障壁を突破出来るだけの剣技があれば、確かに大丈夫ね」
あのエルフ。
突然現れ、興が乗ったというだけで本気で三人まとめて消し飛ばす勢いの攻撃魔法を撃ってきた、恐らくは神話の時代から生きて来たレベルの最高位の魔法使い。
その魔法使いが張っていた防御の魔法壁を、モニカは相打ちに近い形とはいえ――
――『牙突!!*2』
――『! 防御魔法をっ?!』
それを撃ち抜いてみせた。
完全に真芯を捉えた一撃。
セイバーが接近戦を仕掛ける素振りを見せてあのエルフの注意をモニカから逸らした事もあって、それまで傷一つ付ける事も叶わなかった相手にそれなりの深手を負わせる事に成功した。
「なにより、ちょうどよかった」
「……お爺ちゃんの事?」
「我々は魔族とエルフ――種族特性もあって長命だから、きっと感覚が大きく人間からズレている」
「セイバーはもっと根幹からズレていると思うのだけど」
「ああ、魔族だからね」
違う。そうじゃない。
上手く言えないけどそうじゃない。
「町から来る人間が少々不安だが、そちらは先生が応対してくれる。モニカはもう少し、人間と交流を持つべきだ」
「だから一旦別れるために置いてきたの?」
「先生は信頼のおける方だ。モニカともそれなりに過ごしてお互いの距離も測れたようだし、かつ互いに好意的だ。もし商隊などでまともな人間がいれば、先生が上手く間を取り持ちながら交流を促してくれるだろう」
……数年の間セイバーと過ごしてきたが、やっぱり分からない。
信頼できる同居人であり、愛しい従者であるのは確かなのだが……。
アッグ*3やデストロイヤー*4みたいなトンデモアーティファクトを作ったかと思えば、時折自分の見て来たどんな人間よりも人間らしい側面を見せる事がある。
特にモニカを拾ってから見えてきた事だが、セイバーは人を育てるという事にかなり熱心だ。
真摯といっていい。
「……モニカから、母親以外の村の人間の話をあまり聞いたことがないの」
「試作釣り竿23号のテストを一緒にやった時に少しだけ話してくれたが、母子家庭だったそうだ」
「父親は早くに?」
「……村に立ち寄った冒険者だったらしい。北の最前線に行って手柄を上げると言っていたとは母親から聞いていたらしいが、逆にそれ以外は顔すら知らないそうだ」
「…………そういうこと。あの村の人間は、身寄りがなかったからあの子を私達の所に寄越していたのね」
「おそらく。余所者に対して余所余所しかったのは君の方が肌で感じただろう」
きっと、いい思い出が少なかったのだろう。
それでも故郷であったのだろうが、ああして
「モニカを連れている間は、中央諸国の比較的落ち着いた場所を回りながら彼女を人間社会に馴染ませたい。村ではなく、人が多い故に関係性を自分である程度選べるような場所でだ」
「……買い出し担当をモニカに?」
「ついでに、修行の一環という形で依頼を受けさせてみるつもりだ」
「大丈夫? 今みたいに地元の軍に目を付けられないかしら?」
「当然内容は選ぶ。場合によっては私が赤い外套を着て出て、モニカの存在を覆い隠す」
「……逆に、モニカが剣術で世に出たいと言ったら?」
「無論、背を押すさ」
「あら」
「? 意外?」
「ええ。彼女に剣以外で生きて欲しいのかと思っていたわ」
実際、剣をあくまで自衛の手段として叩き込んでいるハズだ。
セイバーの剣は基本的に、生き延びるための剣なのだから。
「……まぁ、安全に生きて欲しいという気持ちはある。武器を取るという事は、何かと命を奪い合うという事だから……」
実際、料理を始め貴族付きの執事レベルの掃除の仕方まで教えたり、どこで知ったのか各地の作法やマナーを教え込んでいる。
その気になれば彼女はどこでも生きていけるだろう。
「ただ、彼女は人間だ。魔族のように本能に支配されているわけではなく、エルフのように何かを追い求め続けるだけの時間はない」
「だからこそ、モニカには彼女が思う所に、思うように飛んで欲しいと願っている」
「この先、いつか彼女が自分の足跡を振り返った時に微笑んでくれるような……そんな生き方を」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「遅くなってごめんお爺ちゃん、釣って来たよー。今日の食事は久々に普通の焼き魚に普通のパン!」
「おぉ、暗くなりつつあったから心配しとったぞ。にしても、あの……グルグル回す妙な釣り竿は本当に使えるんじゃな」
「いやこれがびっくり。釣り糸を巻けるだけでも滅茶苦茶便利なのに、ボタンを押すだけですぐに緩めて糸の張りを調整できるから、釣り好きの人こそ合うでしょうねコレ」
「……儂が作る事が出来ればいい商品になりそうじゃが」
「これ、『物を完全な円や球にする魔法』がないと部品が作れないからね。実質お師様の専売」
「じゃなぁ……」
お師様が御爺ちゃんの剣の調査にでてかなり経つ。
時折お師様が持ってる方の
「なんでセイバーの奴はあんな魔法を作ったんじゃ……」
「作りたい物に正確さが求められていたそうです。ほら、神機とか」
「あの頭おかしい剣か」
「頭おかしい」
「そうとしか言えんわい。部品もそうだが刃の部分など、あれだけの大剣なのに何層も重ねおって……修理に時間がかかるのも当然じゃ」
「鍛冶師としてそんなにおかしいんですか? お師様の剣」
「サイズの違う歯車や部品がそれぞれ完璧に噛み合っておる。部品それぞれがあの小ささで尋常ではない頑強さじゃし、刃に至っては奴の武器全般と同じく鋭さがイカれとる。鍛冶見習いとしてアベコベじゃが、研ぎの腕前は既に一流のそれじゃ」
「あの……なんていうか……御立派な神殿とかに使われてそうな石柱ぶっこ抜いて無理やり剣にしたような物も?」*5
「あれはただの変態の狂気じゃ。数えてはならん」
あぁ、よかった。
やっぱりあれはアホの阿呆なトンデモのアホ剣だったんだ。
あれをお爺ちゃんが絶賛し始めたら私の常識を疑う所だった。
八つ首の何度も再生する蛇だか蜥蜴を一瞬で細切れにしたアレ、訳が分からなかったもん。
お師様から技は教えてもらってるし、それ以外でも再現しようといくつか頑張ってる物もあるけど、あの九連撃は特に意味が分からない。
私の小烏丸ですら中々に難しいのに、お師様は馬鹿みたいな重量の武器でブッパするから本気でヤバい。
あの九連撃を魔法一発で弾き飛ばしたあのエルフはもっとヤバい。
チクショウ、修行が全然足りないなぁ。
基本的に許可がない時は不殺という命令がお師様から出されているけど、格上相手にそれが出来るのは札が足りている場合のみだ。
「にしてもお爺ちゃん、お師様のお皿があるのにたまに料理頼むよね。私が魚焼くとお師様みたいに甘く柔らかい物にならないですよ? 私がやるとまだちょっと火が入りすぎて」
「それでええんじゃ。アイツの料理は美味すぎる。目の前にいれば恐らくアイツも察して微調整するんじゃろうが、皿の料理ではな」
「……肉一つ、魚一つから野菜のソレまで形や温度に滅茶苦茶気を使いますからね」
「火が入っていればそれで充分じゃった儂にはもはや理解できん領域じゃわい」
チラリと、キッチンに並ぶお師様のアーティファクトの一つに目をやる。
基本的に外に出れないお師様が退屈しのぎに作った、『
元々はお師様が研究実験用に作り出していたそれを、調理器具として設計し直したものだとか。
これとお師様が作った透明な袋を合わせて、肉や魚を焦げすら付かない温度で火――いや、熱を通す。
なんでそういう調理法を思いつくんだろう。
話を聞く限り記録と言っていたからお師様じゃないようだけど、食あたりのギリギリを探ってまで美味さを追求するなんて変態の所業だ。
「あれ作った日にお師様が作った『無国籍風肉じゃが』という味のしみ込んだステーキ、本気で美味しかったですからね」*6
お肉だって解体してから、凄く寒い専用の保管室で絶対に最低二,三日――この間の牛は二週間も寝かせてから料理に使うし。
新鮮な方が安心して食べられるんじゃないかな……。
お師様の料理でお腹を壊したことないけど。
「のう、アイツの角はどうにかならんのか。もうアイツ角さえどうにかすれば人間の町で店出しても誰も気づかんじゃろ」
「魔族と気付かれなくても闘いの日々になりますよ。料理人との」
「それでええじゃろ。セイバーなら嬉々として勝負に乗るわい」
「それはまぁ……はい」
七星刀*7を完成させてからお師様は料理に更に力を入れるようになった。
もっとも、うち一本――お師様の剣みたいな大きさの牛刀は実質封印状態だ。
お師様、家畜の解体ダメだし。
内臓抜いた後の肉ならばその後の熟成を含めてテキパキと出来るのに、いざ実際に牛の解体を実践しようとしたら牛刀握ったまま顔を真っ青にしてプルプル震えはじめて、そのまま動かなくなったためにミリアルデ様にお腹や脇腹をされるがままにプニプニされていた。
可愛かったのでミリアルデ様に許可を取って私も後ろからモフモフさせてもらった。
一人の時はどうしていたのか聞くと、屠畜する覚悟が付くまで丸一日かかっていたとか。
「あぁ、それと嬢ちゃん。また昼頃に勧誘が来ておったぞ」
「……領主様ですか?」
「いんや、冒険者の一団だった」
「どちらにせよお断りです」
「じゃろうなぁ」
くそう、最近本当に勧誘がしつこい。
しつこい上に数が増えた。
領主様は分かる。
自警団も分かる。
商隊……はまぁ、まだ分かる。護衛役は欲しいだろう。
冒険者は……どう見ても実力のないパーティに限って声をかけてくる。
実力がないだけならまだしも――
「完全にあてずっぽうで言いますけど、男だけの一団だったでしょう?」
「おう」
「なんかちょっとガラが悪い?」
「おう」
「絶対にお断りですね」
「儂も嫌な感じがしたから会わせずに断っておいた」
「ありがとうございます。脅されたりしませんでした?」
「捨て台詞だけ残して帰っていきおったわ」
「……私も出来るだけこっちにいようかな」
どうも女という事で舐められている所がある気がする。
仮にも領主の部下だというのに断った時に微妙に嫌味を言って来たりして。
少しはお師様を見習ってほしい。はっちゃけていない時の。
「わざわざ不快な想いをせんでもええじゃろ」
「ぶっ飛ばさないとスッキリしないじゃないですか」
「そっちか」
村の時も思ったが、人間は自分よりも下だと見れば傲慢になる。
どれだけ必死に隠したとしてもその驕りは消えない。
(……お師様は、何一つ届かない私を価値あるものだと見てくれる)
村ではずっと後ろ指を指されていた。
冒険者という武力を持つ男相手にあてがわれた女の娘。
畑仕事も野良雑用も頑張ったのに、いつもいつも。
母さんが死んでからは、裏でいつも私をいつ頃売り飛ばすか話し合っているのを知っていた。
私がなにも反撃できないと、舐めていたから――
「……なまじ暴力を振るうって選択肢を手にすると、カッとなる時と冷静になる時が交互に来ますよね」
「そりゃ師匠の教えがいいんじゃろ。ちゃんと踏みとどまれるという事だ」
考え事をしているのに、身体が自然にキッチンに向かって、手は勝手に魚を捌いて骨を処理していた。
ここら辺の仕事はもう慣れた物だ。
お師様が散々教えてくれた。
パンの焼き方から野菜の下処理、保存方法に栄養バランス。
「実際、このままセイバーの嬢ちゃんと一緒にいるつもりか?」
「……どうでしょう。お師様は、私をいつか人の町で住めるようにしたいようですけど」
「あぁ、まぁ……そりゃそうじゃろう。アイツは先を見据えておる」
お爺ちゃんの言う通りだ。
お師様は私がどこでも生きていけるようにと、色んなことを教えてくれている。
「……別に定住したくないわけじゃないんです。お師様は色々手段を持っているから連絡は取れるでしょうし……現に、かなり精密な魔法を使うので今は開発の手を留めていますが、『音声と画像を双方で共有できる板』*8を作ろうとあれこれ試行錯誤してたから……」
「アイツに出来ない事ってあるの??」
「屠畜と解体」
「……アイツ、なんでわざわざ牛刀作ったんじゃろうなぁ」
本当に。
とにかく、お師様と別れる事自体はそこまで気にしていない。
実際、もし別れたとしてもお師様の性格なら数年に一回。
下手したら一年に一回か二回は会いに来そうだ。
「だからまぁ、結局私の問題ってどこで、どんな人と住みたいかなんですよね」
「希望はあるんじゃろう? どんな奴ならいいんじゃ?」
「……そうですね」
「……お師様レベルの人格者が側にいてほしいです。強さは問わないので」
「高望みにも程がある」
「でも魔族でアレなんですよ? だったら人間の中にもっといないとおかしいじゃないですか」
「目を覚ませ嬢ちゃん。魔族の感性のまま偶然何かの理由で頭が半分人になったからアレなんじゃ」
別に欲望は持っていていいから、せめてもうちょっとだけ紳士的な人はいないだろうか。
お師様を料理人として雇おうとする貴族と出くわしてしまったけど、お師様の実力を測れずただの女と見ていた貴族の目は凄く気持ち悪かった。
(お貴族様でもアレだもんなぁ。お師様が『赤の勇者』と分かってからは態度いきなり変わったけど)
「儂も自分で魔族の娘を持ち上げるのはどうかと思うが、セイバーは上澄みの中の上澄みじゃぞ。もうちょっと基準を下げんかい」
分かっているけど、ミリアルデ様への献身や私の鍛錬や授業を見ているとどうしてもあの人が基準になってしまう。
最近じゃ算術は十分と判断されて、一段上の数学という物を少しづつ教えられている。
他にも『商売に関わる時に、覚えておくといい』とフクシキボキという帳簿の作り方と読み方を練習させられたり……。
……やっぱりあの人とミリアルデ様と一緒に暮らすのが一番幸せなのでは?
いやでもお師様、なんとなくだけど私に相手――とは言わずとも人間の友達を見つけてほしそうだしなぁ。
実際、年老いたらお師様に迷惑かけるし……。
…………。
まさか、屋敷をバリアフリーとやらにしようと階段を使わずに上下階に移動できる大きな箱みたいな部屋を作ったり、座ったまま移動できる車輪付きの椅子を作り始めてたのはそういう??
トイレやお風呂にもなんか、掴まれるようにっていう棒が付いたし。
「どういう形になれど、嬢ちゃんが楽しそうならセイバーは安心するじゃろう」
「ですねぇ……」
まぁ、どちらにせよもうしばらくはお師様といるだろう。
お師様、海に行くのをすごく楽しみにしてたし。
――パキィ………………ィ…………っ!!!!
「!? な、なんじゃ!? この音は――」
突然、薄いガラスが割れる音がした。
この音を知っている。
「お師様の結界が……!?」
あの時、あのエルフの魔法で砕かれた時と同じだ。
ドラゴンの一撃すら通さない、お師様が得意とする絶対の――絶対だった防御魔法。
ちがうのは、攻撃魔法の轟音がしない事。
七層のそれが完全に同時に割られた事。
そして――
――コン、コン。
『こんばんは。こんな時間に尋ねてごめんなさい』
優しくノックされたドアの向こうから、気配がする。
もはや隠そうともしていない膨大な魔力。
魔法使いではない私でも――恐らくはお爺ちゃんでも感じる威圧感。
そして――
『あの子がエルフと人間のお友達を作って旅をしてるって耳にして、少しお話したくなったの』
背筋に寒気が走る程の、圧倒的な死臭がドアの向こう側から漂っている。
『ねぇ? 少しお姉さんのお話に付き合ってくれないかしら?』