ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「驚いたわ」
この場を飽和するだけの剣を作り出し、射出する。
剣を習い始めて数年程度の相手ならば、成すすべなく深手を負い動けなくなるだけの量を。
「まさか手足を一本ずつ捥ぎ取るどころか、傷一つ付けるのすら難しいなんて」
「はあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その悉くが斬り払われる。
風を使った斬撃すら使わず、純粋な剣術のみで自分が徐々に追い詰められている。
正面からの飽和攻撃は、あの『烈風』という風の斬撃で叩き落された。
故に正面からの攻撃を続けながら死角からの一撃で手足を奪おうとすれば、こちらを見たまま――まるで背中に目がついているかのように躱し、斬り弾く。
「……強い。困ったわね、いきなり計算違いよ」
どうにか距離を保つので精一杯だ。
まだ使っていない切り札を使おうにも、確実に動きを止めるだけの隙が無い。
常に動き続けているのは自分が撃ち出す剣を避けるためだけではないのだろう。
遠近両方を警戒する、魔法という物を使いこなす『魔族』との戦いを強く意識した立ち回りだ。
「あの子ったら、人間を育てる才能があったのかしら」
狙いを付けさせる隙を与えず、死角からの強襲に対応してみせる。
十年近く剣を握り前線を駆け抜けた人間側の精鋭剣士に匹敵する――いや、対魔族戦という意味では既に上位に位置する剣士だ。
あの『風を操る剣』の使い手という点を含めれば、すでに魔王軍にとって最上位の脅威と言っても過言ではない。
これまで魔王軍が屠って来た『勇者』達より上かもしれない。
「ええ、私は今追い詰められている」
金属と金属がかち合う剣戟の音に混じって、風の音がする。
『烈風』ほどの勢いはなく、だが十分な鋭さを持つ風の刃が迫る。
無臭かつ不可視の刃は、自分の魔法で生み出す剣以上の脅威だ。
「なのに――」
「どうして追い詰めている方の貴女が泣いているの??」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(全部が……噛み合う……っ!)
再び死角から剣を撃ち込もうとしているのが分かる。
背後から感じるソレの狙いは肩。
反射的に防御のための手が届きにくい場所を狙った一撃。
――カァン……ッ……!
ステップの速度を変えて狙いをずらしながら、刃ではなく左手に握った刀の鞘でそれを叩き落して、そのタイミングを狙った足狙いの剣はその側面を蹴って弾き飛ばす。
(全方位からの攻撃に対応するための訓練)
目の前の蟲の放つ数々の剣は確かな脅威で、だがしかし慣れ親しんだ攻撃だ。
「ねぇ、どうして? その涙の意味は? 悲しいの?」
訓練で常に自分の周囲を飛び回り光線を放つ薔薇の方が脅威として上回っている。
「もしかして、剣を発動させると痛みが走るのかしら?」
――魔族にせよ人間にせよ、いつか君は『良く喋る敵』に出会うだろう。
そして同時に、お師様の教えが浮かび上がる。
――その敵はおおよそ二種類。『とても弱い』か『とても強い』かだ。
――弱いはなんとなく分かりますけど……強い? ですか?
――戦いの中で隙を作ろうと窺う者。すなわちその余力を残せる者だ。ゆえに……。
――戦うと決めたのならば、会話のおおよそは聞き流していい。無価値な事象に戦闘リソースを割くべきではない。
(そうだ。コイツがまさにそうだ)
全方位からの剣の射出を、あえて地面に風を叩きつける事でランダムな風の力場を拡散させて吹き飛ばす。
下手に狙いを付けると、恐らく逆手に取られる。
(……お師様の剣術は、重い一撃への対処と並行して低・中威力の連撃による制圧攻撃への対応も重視している)
距離を詰めようとした瞬間、蟲が前面に大量の剣を精製し打ち放つ。
それら全てを弾くのは無理だ。
いつもの戦闘ならば回避一択だが、後ろにはお爺ちゃんの小屋がある。
「ほら、お姉さんに話してちょうだい?」
蟲が囀る。うるさい。
小屋そのものもお師様の魔法で頑強になっているが、万が一を考えると無茶は出来ない。
かといって『烈風』を撃てば隙になる。
「お師様、使わせてもらいます!」
だから鞘を捨てて、左手でマントを外してその場で振るう。
ただの布や革なんて、この大量の刃の前にはズタボロにされるしかない。
だけど、お師様が仕上げたこれは違う。
大量の刃が布に振れた瞬間、その全てがあらぬ方向へと飛んでいく。
私の防御用アーティファクトとして作ってくれた一品。
『触れた物の軌道を逸らすマント』!*1
「まぁ! すごい、すごいわ! 武器以外もあの子は作れるのね!!?」
蟲が変わらず醜悪な鳴き声を上げ続けている。
歓喜しようが絶望しようが知った事か。
私が狙うのはただ一つ。
「口を開くな! ただ首を寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
その首を叩き落す事だった。
蟲は薄気味悪い表情を一切変えていない。
お師様と同じで、でも決定的に違う。
――『魔族の感性のまま偶然何かの理由で頭が半分人になったからアレなんじゃ』
お爺ちゃんの言った事はきっと当たっていた。
どこか人間からズレている。
それは間違いない。
だけど――
(お師様が、こんな蟲と同類のハズがない!!)
腰を落とし、刃を構える。
確実に狙いを射抜く、絶殺の突き。
先の戦いでは不殺のために逸らした狙いを、今度は確実に仕留めるために。
「あぁ、やっと止まってくれた」
蟲が、鳴く。
「さぁ、お姉さんとちゃんとお話しましょう?」
そしてその魔力が膨れ上がり、放出される。
極めてシンプルな、魔力の撃ち出し。
その輝きが私の足を吹き飛ばそうとし――
――ボジュゥ……ゥッ!!
「――は?」
煩わしかった蟲が、ようやく口を止めた。
やはり、隠し手があった。
それ自体は予想済みだった。そして、その瞬間にこそこの蟲は確実に隙を晒すだろうと。
剣を撃ち出す魔法での狙いは全て正確だった。
正しくは大量に撃ち出すランダムな面制圧攻撃の中に、正確な本命打を潜ませる。
実に巧妙で、効率的な戦い方だった。
ならば切り札もきっと効率的で、使いやすい単純な手で、そしてそれゆえに防御が難しい物なのだろうと。
だがその上で、お師様が渡してくれたコレならばその一瞬を引き出せると確信していた。
この蟲が私の命ではなく、あくまで身柄の確保を第一とするならば確実に。
「あの子のアーティファクト!? まだ……っ!?」
シールドベルト。*2
攻撃魔法を含む遠距離攻撃に対して発動する、少なくとも一度は確実に奇襲を防いでみせる魔力シールドを発生させる防御補助アーティファクト。
(全部、全部噛み合う! 渡してくれた装備が!)
事前に装備させてくれたアーティファクトの種類、過剰とも言える徹底的な防御訓練。
そしてより細かく、威力そのものよりも手数を重視した剣術。
(お師様が教えてくれた剣が……っ! お師様が編み出したこの戦い方が……っ!!)
――『なに、ただの約束のためだよ』
お師様が話してくれた、とある少年との日々。
その結末を、私は知らなかった。
お師様はただ出会い、穏やかな日々の中で『約束』をして、そして別れたとしか言わなかった。
そうだ、言わなかった。口にしなかった。
だからこそ分かる。
だからこそ伝わる。
お師様は悲しんだんだ。
いっぱい、いっぱい。
悲しんで、怒ったんだ。
だからこそ、対策した。
もう奪われないように。
もう失わないように。
「お師様の! この剣は!!」
蟲が防御に入る。
やはりだ。切り札は相当に使い勝手がいい魔法に違いない。
なればこそ、隙を突かれた際は反射的に守りに入る。
「お前を斬るための剣だった!!!」
涙が零れる。
この剣が、お師様の無念が形になった物だと分かってしまうから。
だからこそ――っ
「
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「!!!!????」
反射的に魔力を練って防御に回す。
ただひたすらに硬くした、対物理としては出来得る最上の守りを。
だけど――
――パキィ………………ィ…………っ!!!!
自分がここの結界を破った時と同様に、強烈な突きを受けた魔力防壁が砕け散る。
あのエルフの守りすら撃ち貫いた、攻城魔法の一撃にさえ匹敵する威力。
「――っ、でも!」
彼女が放ったのは大きな突き技。
体勢は乱れ、次の動きに入るまでに僅かとはいえ間が出来る。
足だ。
とにかく足を潰して機動力を奪えば、後は両手をもぎ取ればいい。
――ザリ……ィッ!
だというのに。
そのはずだったのに。
剣士は更に、踏み込んで来た。
真っ直ぐ、こちらを見据えたまま。
こちらの懐に踏み込み、そして強く地面を踏みしめる。
防壁を砕いた剣からなぜか手を放して、そして私の知らない構えを取って――
「――
指を全て折り曲げた掌で、思い切り剣を押した――いや、
咄嗟に彼女の足を吹き飛ばそうとしていた自分では、間に合わない。
(あぁ……)
刃が飛ぶ。
ただ真っ直ぐ、自分の喉へと切っ先が迫る。
「
間違いなく自分という個体に死をもたらすその一撃が、
「今度は最初から
――ドゴォォォッ!!!!!!
轟音と共に、自分を魔剣一本で追い詰めた少女の身体が蹴り飛ばした藁束のように、穴の開いた小屋へと叩き込まれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「嬢ちゃん!!」
穴の開いた小屋が更に崩れる。
外装こそセイバーが補強していたが、内装はほぼそのままだ。
木製の壁を突き抜け、細い女子の身体が痛々しい轟音と共にその向こうに消える。
――うふふ。ありがとう、助かっちゃったわ。
一方で、女の姿をした化け物が、笑みに見える表情のまま近づいてくる。
「油断するな、女と言えど侮れん。今の一撃を受け流したぞ。これまでどんな勇士でも出来なかった偉業を、この剣士は無手でやってのけた」
恐ろしくデカい、巨漢の魔族を引き連れて。
――ゴシャア!!!
小娘が吹き飛ばされた方向から再び何かが崩れる音がする。
続いて、家畜が暴れ鳴く音を後ろに、近づいてくる足音も。
「クッソ、修理に加えて掃除まで面倒になったな。お師様に魔法使ってもらわないと駄目かも……」
「嬢ちゃん! 大丈夫なのか!?」
「お爺ちゃん下がってて。私は大丈夫」
口から血を流し、その手足に多数の擦り傷を負い――
それでもなお、
「ねえ、大人しく話し合いに応じてくれないかしら。貴女の武器は壊れちゃったでしょう?」
「止めろ、ソリテール」
女の魔族の言葉に、嬢ちゃんが答えるよりも先に巨漢の魔族が制する。
「? なにかしら、リヴァーレ」
「あの娘は戦士だ。そのような言葉で止めるのは無粋……いや、侮辱だ」
「? 良く分からないわ? あの子が作った魔剣は貴方が壊しちゃったじゃない。もう戦えないわ。……あれも研究したかったのに」
「そうではない」
リヴァーレという魔族の言葉に答えるように。
ソリテールという外道に意思を示すように。
嬢ちゃんが儂を背に庇うように立ち、そのままワキザシという予備の刀を引き抜き、化け物共に突き付ける。
「? あら? どうして? 確かに貴女は想像をはるかに超えた強い剣士だけど、ただの剣で私とリヴァーレ相手ではさすがに勝ち目はないわ。危ないわよ?」
外道はさぞ親切をして
「無粋はよせと言っている。一人の戦士が、己が役割を全うしようというのだ」
一方でリヴァーレという魔族は、それを再び嗜めて一歩前に出る。
「連れがすまぬ。俺の名は大魔族リヴァーレ。戦士だ」
強い。
しがない鍛冶師である自分から見ても、外道の不気味さとは違う強者の風格が漂っている。
「お前達人間で言えば『将軍』……いや、この場においては肩書もまた無粋か。名乗れ、剣士」
寒気がするほどのそれに、嬢ちゃんは物怖じ一つせず剣――刀を突きつける。
「赤の勇者、セイバーの弟子。モニカ」
腰のベルトはどう見ても壊れておる。
残るセイバーの品と言えば背中のマントくらいじゃが、それもどこまで通用するか。
「本来ならば一対一で戦いたい所だが、小娘の考えも一理ある。大人しく捕まれば手出しはさせんが、どうだ?」
「……お師様への人質か」
「奴は強い。強くなり過ぎた。生み出す数々のアーティファクトもそうだが、奴自身が身体を女神の魔法を利用し
外道が再び、大量の剣を精製する。
ただ傷つけるだけの物を、まるで手遊びのように量産する悪夢のような魔法で。
「そういうわけよ。あの子を魔王軍に入れる。そうすれば戦争は終わるし、これ以上友達を失わなくて済む。きっと人間だってあの子が保護してくれるわ。魔王様だって、極めて
反吐が出る存在というのは、こういう物を刺すのだろう。
生まれて初めて見る。
これが本物の魔族だと。
そうだ、これが本物だ。
本物ならば――
やはり、あの風変わりなエルフの従者は、魔族であって魔族でない。
「お爺ちゃん」
「む?」
「私が二体を足止めします。その間になんとか町まで逃げてください。さっきぶっ飛ばされた時に後ろの馬小屋まで穴が開きましたので、馬まで一直線です」
嬢ちゃんの目は、全く諦めていない。
この状況で、生き延びるつもりだ。
「ほらリヴァーレ。やっぱり先に動きを封じるべきなのよ」
外道もそれを察した。
自分と嬢ちゃんに向けて剣が射出され――
『――117式!!!』
赤い影が降り立つ。
その手に金の髪のエルフを抱き抱えたまま儂らと魔族に間に降り立ち、拳を地面に叩きつける。
「
巨大な血の十字架が、その全てを弾き飛ばす。
「あぁ――」
「あぁ!!!」
全てを防ぐ赤い輝きと土煙が入り混じるその向こうで、
外道が初めて目を輝かせていた。
「ヴィーラ! 今はナナシ……いいえ、確かセイバー……だったかしら?」
――……貴様……ぁ……。
「元気だった? 私、ずっと貴女に会いたかった。仲直りをしたいのよ!」
「ソリテェ゛ェ゛ェ゛ェ゛エ゛ェエェェェェェル!!!!!!」
そして初めて。
初めて。
あのセイバーが、怒りの感情を露わにする姿を目にした。