ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」   作:rikka

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前話で割とデカいミスをしていたので、こちらで報告を。描写が一つ抜けていたので修正いたしました

「分かっているのだろう、お前も関わる事になる」

「分かっているのだろう、お前も関わる事になる。その果てにセイバーが完成するのだからな」

大変失礼致しました。


赤い勇者の伝説
036:


 赤の勇者の特徴として、あまりにその逸話が多すぎる事にある。

 

 本当に。

 相も変わらず、町から次の町に私たちが移動する度に三つも四つも増えている。

 

 元より目撃情報――すなわち、魔物や魔族との交戦を目撃される事は多かった。

 相変わらず多くて、どこに行ったかは分かるのにおおよそはすぐに分かるのにそこから詰める事が出来ないままだ。

 

 それが更に爆発的に増えるようになったのは、エルフの聖女に加えてもう一人――凄腕の女剣士が見られるようになってからだ。

 

 常に変装をしているのか容姿の情報は中々合致しないが、反りのある細い剣を腰に提げているという事だけは共通している。

 

 村や町に訪れるどんな小さな仕事でも受注していくその女剣士は最初はそうと分からないのだが、依頼の中で魔物や魔族、あるいは災害などの異変が起こるとどこからか紅い外套を着た聖剣使いが聖女と共に現れ、三人で瞬く間に事態を解決して去っていく。

 

 川の氾濫で水没し、流された村の住民を一人残らず救い出したとか。

 

 連絡の取れなくなった村へ調査に向かい、道を塞いでいた魔物を討ち取り道を修復したとか。

 

 魔物の襲撃を受けた村へ救援に入ったとか。

 

 度重なる魔物の襲撃で食べ物を失った村を救助したとか。

 

 相変わらず、人間の危機となると体が勝手に動くヤツだ。 

 

 そして事態を解決して去っていく時に、必ず何かを残して行く。

 花畑だったり、あるいは届かなかった人間の墓だったり。

 時には料理や立派な小屋、場所によっては堤防や。

 

 色取り取りの花や飾り細工で飾り立てた物を魔法で――正確には併用して人の目を楽しませるものを作って去っていく。

 

 道中、アイツの戦いらしき物に巻き込まれかけたという老鍛冶師に話を聞きに行ったのだが、離れの小屋など近くの溜池の中に噴水を作り、その周囲をちょっとした庭園にして飾り立てていた。

 

 木々と花で飾り立て、水路を利用して手を入れずとも水やりが行われるように工夫された庭。

 ご丁寧に様々な動物の彫像まで作られていて、足を運んだ子供がその背に乗って遊んでいた。

 

 来客用の小屋まで建てられたために商人が立ち寄る事が多く、家主である一人暮らしの老鍛冶師は「寂しいと思う暇もないわい」と苦笑していた。

 

 ……本人は知らないと言っていたが、恐らく匿っていたのだろう。

 

 ふと、最後にこの目で見たアイツ()の魔法を思い出す。

 私が教えた『花畑を作る魔法』を。

 

「何をやっているんだ、アイツは……」

「ここも凄い庭園だね」

 

 エルフの弟子を連れた赤の勇者の足跡を辿る旅は、思った以上の旅路になっている。

 最近では赤の勇者を名乗る偽物まで現れて、情報の精査そのものが難しくなった。

 

 加えて最近のアイツは、分かりやすかったあの『神機』という機工剣を使っていないようで益々見つけづらくなった。

 

「ここは領主が直々に保護するらしい。後世に残すんだって絶賛庭師大募集中だ」

「これだけ立派な物ならそうなるよ。植えてる花も魔法で出した物じゃなくて全部本物だし。でも、『赤の庭園』か」

「庭園というよりは薔薇園だから……まぁ、合ってるといえば合っているだろう」

 

 同じく『赤の勇者』がこの地に残した料理――『ほうれん草のクリームサーモンパイ』を弟子のエルフとパク付きながら、薔薇園を見に来た商隊や冒険者たちに紛れて辺りを観察している。

 

 クソ、分かっていたがアイツの味だ。

 

「魔族に誘拐された領主の娘を救出して、怖がる彼女を慰めるためにこれを仕上げたらしい」

 

 城塞都市ヴァール。

 赤の勇者の活躍で魔族や魔物が大量に駆逐された結果戦線が押し上げられたために、少し平和になった人類側の守りの要はまるで祭りの最中(さなか)のように賑わっていた。

 

 更に前線へと兵や物資を送るための荷馬車隊とその御者、護衛達で市場は賑わい、まるで平時のようだ。

 

 城門の脇に作られたこの一角は、もはや見慣れた――だがより一層の改良が加えられた広域結界魔法で覆われており、そのためか城門の外だと言うのに人で賑わっている。

 

 今では多くの職人や労働者が、その結界に沿うように壁を作るための基礎工事に入っている。

 

「で、しばらくはここで足止めなの? 先生」

「ここら一帯は『赤の勇者』や最近現れた『ワルキューレ』*1や『アイルー』*2の村によって比較的平和になったとはいえ、それでも前線寄り。近くを流れる川は、魔族との戦いで橋が落ちちまって今渡れないらしいしな」

「ふぅん……」

 

 これにも赤の勇者が関わっている。

 

 薔薇園の一件となる事件が起こる前、戦場になってしまった開拓民およそ百五十名を『赤の勇者』一行が救出し、お付きの領主騎士と協力して脱落者を一人も出さずにこのヴァールまで護送したのだという。

 

 その間、どこからか大量の食料を用意して多種多様な料理を供し、逃避行の旅であるにもかかわらず暗い雰囲気を吹き飛ばしたという。

 

 アイツだ。

 

 分かってはいたがもう絶対にアイツだ。

 

 あの時解体した肉も、全て熟成とやらを終わらせた後に保管魔法をかけて例の倉庫にぶち込んでいた。

 奴ならばこの要塞都市を賄えるだけの食料を蓄えこんでいたとしても納得できるし、大勢のために手早く調理するのだって慣れている。

 

 あの半年の間、魔物に襲われた村への補給と言って六十人分の飯を、魔法ありきとはいえ一週間の間朝夕二食を毎日作っていた。

 

 今ならばミリアルデというエルフに加えて、アイツの弟子という女までいる。

 

 料理まで教えているかは分からないが補助位は出来るだろう。

 

「まぁ、良い機会だ。腰を据えてお前の魔法の練習に入るとしよう」

「魔力隠蔽の?」

「それと防御だな。まずは確実に生き残る術をしっかり身に付けないと危ない」

 

 料理人としても名を残しつつある『赤の勇者』は、各地にそのレシピをばら撒いている。

 逃避行の旅の中でも避難民の中の女衆に直々に教えて、おかげでこの町は城塞都市であるのと同時に美食の町になりつつある。

 

 立ち入り希望者の検査で並ぶ者を目当てに、元避難民を始め商魂逞しい連中が屋台を開いている。

 

 領主も良く許可を出した物だ。

 今の町の宣伝になると考えたか?

 

「が、その前に物資の補充だな。『赤の勇者』の一撃らしい痕跡の調査でしばらく山暮らしだったからな。消費した分を集めておきたい」

「お金はあるの?」

「当然。私は大魔法使いフランメ様だぞ? そもそもの調査費用として国から貰っている」

 

 凄まじい魔力を持ち、最近戦闘にも慣れて来たエルフの弟子も育っている。

 そろそろ先生に一度顔を見せる頃合いだろう。

 

「それに私の先生から。ワルキューレの村に行って渡してこいって手紙……というか魔導書も預かっているしな」

「魔導書? なんの?」

「結界についてのだ。全く、直接行けばいいだろうに」

 

 

 ついでに、これまでの調査結果を報告したついでに豚貴族共から追加で金をせびって来るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……。買い出しついでにお師様の料理がどれくらい流行ってるか様子を見に来たけど……」

 

 

「ミリアルデ様以外のエルフって初めて見たな」

 

 

「……あ、おじさん! お土産用にテリヤキ・バーガー三つお願い! オニオンリングも三袋!」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 ジョッキよりはやや小ぶりの、背が高い奇妙な木の器の中にセイバーが掌程の大きさの粉塗れの何かを放り込んで、お湯を注いで薄い木製の蓋をしてじっと待っている。

 

 側にはわざわざ作った手製の砂時計――ではなく、せっかくだから見た目でもっと楽しめるようにしようと先日五つ目を作った油時計で残り時間を測っている。

 

 透明な液体の中を、青く色付けした油の粒が「ポツ、ポツ」とゆっくり落ちて、すでに溜まっている青い油の上に落ちて、繋がっていく。

 

 三分。

 きっかり待ってから蓋を退けて、箸で中身をかき混ぜる。

 

 そしてセイバーが二本の箸を引き上げると、そこには長く縮れた麺が掴まれていた。

 数度それを上下し、余計な湯――否、スープを落として口に運び、すすり上げる。

 

「どう?」

「……悪くない。緊急食としては十分だろう」

「エルフの里近くの小屋にいた頃から『スープを粉末にする魔法』は研究していたけど、ようやく完成と言っていいわね」

「あぁ、麺も十分。こうして箸で啜っているがフォークでも食せるだろう。後は揚げて乾燥させる事を前提にした味の改良と、具材も含めたバリエーションだな」

 

 お爺ちゃんの所に残した『魔法のお皿』のように、特定の一人ではなく不特定の他人に食べさせる食事を作る機会を経てから、セイバーは料理の研究により力を入れるようになった。

 

「海に向かうには橋が復興されなくては通れないし、しばらくはのんびりここで隠遁生活。時間はあるわ」

 

 人目がなければセイバーが魔法でパパッと直したのだろうが、すでに工事に人間が入っている以上余り大々的に彼女の魔法を人の目に晒すわけにはいかない。

 

「ああ。それにモニカも大都市に来るのは初めてだ。羽を伸ばすにはいいだろう。明日はミリアルデも行ってくると良い」

「そうね。たまには君を私の世話から解放してあげないと」

「……そう言われるとここから放したくなくなるな」

 

 そういうセイバーはいつもの執事服のまま、残っていた麺をすすり上げてスープを飲み干すとテコテコと近寄って、私の服の裾をつまむ。

 

 抗議のつもりなのだろうか?

 

 とりあえず引き寄せて抱きしめてみる。

 それからちょっと背伸びをして彼女の肩に顎を乗せると、彼女は小さく唸ってみせて――それでもちゃんと腰と背に手を回してくれる。

 

「ここ最近、お休みらしいお休みがなかったでしょう? 装備の修復で忙しいのに」

 

 日頃の鍛錬も欠かしていないのだ。

 さすがに手が回らないと見て、この屋敷の中にも特製のアイルーを使用人として放っている。

 戦闘技能を減らした代わりにより器用な仕事が出来るようにした、云わば『家庭用アイルー』とでも言うべき個体の一号。

 

 セイバーが『ユキチ』と名付けたまだ小さい黒アイルーは、今はお風呂場の掃除をしている。*3

 

「ん……やはりレフトとライトのオーバーホールを急ぐべきか」*4

「それもまた大仕事でしょう?」

 

 肩に乗せた顎をもう片方に移す。

 魔族にしては――いえ、人間だとしてもかなり体臭に気を遣う彼女は、身体の洗浄液からいつも良い香りのする物を作って使用している。

 

 こうして少し汗ばんでいても、変わらずセイバーからは良い香りがする。

 昨日はバニラのような甘い香りが。

 今日はレモンのような、スンッとした香りが。

 

「それに、私としては顔のない二体よりもユキチの方が好きだわ。毛並みもいいし撫で甲斐があるわ」

「むぅ……」

 

 貴女があの金色の腕甲冑*5で生み出した子でしょう? どう見ても手遅れだった猫を拾って。

 

 お願いだから拗ねないで頂戴。

 

 ほら、撫でてあげるから。

 

「そもそも、あれは私の護衛役の兵器として作ったのでしょう? 今はモニカもいるし、まずは君の武器を整えましょう?」

 

 基本立ち入る事がない地下室の工房には、今も修復を待つ彼女の武器が多数眠っている。

 空間拡張魔法で十分な広さを持つ彼女の工房を埋め尽くさんばかりの数々の兵装には私も圧倒されるばかりだった。

 

 モニカに至っては「え? 攻城戦でも想定していたんですか?」と思わず尋ねていた。

 セイバーはそれを耳にして、「なるほど、考えていなかった。いずれ作る事にしよう」と返した。

 

 初めてセイバーだけではなくモニカの頬も捏ねまわした。

 余計な事を言わないで頂戴。

 

 いつぞや作ったデストロイヤーみたいな物に武装まで付いたらとんでもない事になるわ。*6

 

 ただでさえこの子が本気になったら、今すぐ魔王に成り代われるくらいの代物が眠っているのに。

 

「……本音を言えば、君やモニカとこうして暮らしているだけで私は満足なのよ」

「私もだ、マスター。だが……」

「分かっている。敵がいる以上、戦う用意は必要なのでしょう?」

 

 ソリテール。

 あのセイバーが初めて、激怒の感情を見せた敵。

 

 あの聖剣の一撃を受けたのだ。

 直撃する寸前にもう一人の将軍が盾になって守っていたが、アレに呑み込まれた以上相当の深手を負ったに違いない。

 

 いくら聖別したとはいえ、魔族であるセイバーが振るえたのが奇跡に思える程の聖典魔法の奔流だ。数百年は碌に動けまい。

 

 出来る事ならば、そのまま死んでほしいが……。

 

「私が魔王を倒せば平和になるかもしれない、と思う時はある。恐らく、出来ない事はないだろうが……」

「君は、魔王は人間が倒すべきだと考えているのね?」

「ああ。……怪物が怪物を倒しても、それは縄張り争いのようなものだ。そして私に、魔族を統率する程の器はない」

 

 だろうとも。

 誰かに命令する事よりも、仕える事の方を良しとする。

 

 だからお爺ちゃんの家を出るまで、この家にワルキューレやアイルーを配備しなかったのだろう。

 

 以前、他愛もない団欒の時間でモニカが『一日で一番好きな時間』を話題に挙げた時、セイバーは即座に『食事の後片付け』と口にしていた。

 

 食べ終わって空になった皿を目にする時が、一日で一番気に入っている時間だと。

 

 そういう子だから。

 

 こうしてなにかを求めたり、目的があるわけではない空虚なハズの旅が、こんなにも色付いているのだろう。

 

 失うものすらなかった空っぽの私が、こんなにも満たされている。

 

「……そろそろモニカが戻る頃か」

「きっとまたお土産をたくさん買って来るわ」

「もっと自分のために使ってくれていいんだが……。依頼で稼いでいるのも、私の作品を売買出来るのも彼女あっての事なのだし」

「そこがモニカのいい所じゃない」

 

 最後に背中を数回撫でてから手を放して、セイバーがキッチンへと戻っていく。

 棚にはセイバーが、私やモニカへの誕生日プレゼントといって手作りした『エドキリコ』というらしいガラス製の鮮やかな飾りグラス――の、試作品が並んでいる。

 

 お茶の用意をするのだろう。

 買ってくる物が分からない為か、珍しく茶葉の瓶を数本取り出して並べている。

 

 魔法でいつでも、どこでも好きなお茶を彼女は出せると言うのに、彼女はこういう時こそ直接淹れる事に拘る。

 モニカと出会ってからは猶更だ。

 

 私は大人しくダイニングのテーブルに着いて、鍛冶師の御爺ちゃんに向けての手紙の書きかけを一度除けておく。

 

 このヴァールの近くの森の中に居を構えて一週間。

 

 外は未だ魔王軍との激戦は続いており、とても平和とは程遠いけど。

 

 私達は変わらない、穏やかな日々が過ごしている。

 

(にしても……)

 

 側に置いてある音楽を記録した円盤*7から今日の気分に合わせた一枚を選んで再生する魔道具に設置し、針を落とす。

 

 明るい雰囲気の、テンポの速いジャズを耳に入れながら、恐らくセイバーも考えているだろうことに思考が移る。

 

(あのエルフ。セイバーが聖剣を抜く程の激戦をしたというのに、追って来る気配が全くないわね)

 

 ふと思い出す。

 先日の魔族と戦う前に起こった激戦を。

 

 セイバーが初めて本気を出した、あの戦いを。

*1
Fate/Grand Order

*2
モンスターハンターシリーズ

*3
デキる猫は今日も憂鬱/諭吉

*4
Atomic Heart

*5
ジョジョの奇妙な冒険五部/ゴールド・エクスペリエンス

*6
機動要塞デストロイヤー/このすばらしい世界に祝福を

*7
レコード




ユキチはまだ普通の黒アイルー。
これが原典の諭吉スタイルになるのは多分ヒンメルの時代

瀕死、あるいは死んだばかりの猫を用いてセイバーが作った使い魔がこの世界のアイルー。

そのアイルーでの実践・研究成果を用いて一から作った人工――魔工生命体がワルキューレ。
その内彼ら彼女らの村も出す予定



次回、回想ゼーリエ戦。

プロット上はシュラハトとの会話の後に少し差し込む予定だったのですがカットした上で普通に書く事にしました。
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