ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
『魔族が私に
『そうだ、大魔法使いゼーリエ。この世界で最強の魔法使い』
夢の中で魔王軍から接触を受けたのは一年前。
育て上げた弟子が成長し、孫弟子を連れて訪ねて来たその日だった。
『不快なのは重々承知している。だが、偶然に頼らず確実にあの
『くだらん。なぜ私がわざわざ魔王軍のために働かねばならん。お前達の駒を動かせばそれでよかろう』
『駄目なのだ。我ら魔族では、少々消費させることはできてもそれだけだ。我ら魔族に対して、あの従者はもはや存在そのものが猛毒に等しい』
余りに在り得ない、聞く意味のない頼みだった。
『かつてお前にも視えていただろう
だが。
『なによりこれは、お前の弟子の安全を確定させる一助になる』
実際確認した未来を見て、大魔法使いゼーリエはどう動くべきか、ここで初めて迷いを見せた。
魔王の右腕と言われる男の言う、かつて在り得た未来の一つ。
ゼーリエもまた覗き見た未来を見て、しばし逡巡する。
『……そうか。孫弟子を連れて来た時にフランメに感じた違和感はコイツが原因か』
夢の中で、神話の時代から生きるエルフは小さく舌打ちする。
『手短に済ませろ。何を頼みたいんだ』
『一つはかの従者――今は『セイバー』と名乗る魔族を消耗させてほしい』
『……一つは、だと?』
『そうだ、もう一つある』
『もう一つは――』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「
対大魔族戦でしか使った事のない札を展開する。
自立型兵装の研究を進めている獣の成果の一つ。
「純粋な火力という意味では十分。液体金属をベースにしたのは……なるほど、発射口の形を自在に変えてその時その時の状況に合わせる為か」
エルフはそれを上回る火線を持って相殺する。
集中して火力を高めた一撃を。
剣のように振るい、エルフの攻撃を分散させるためのそれら悉くを。
「実に面白い。これを魔王軍が使っていれば今頃北部は壊滅し、中央諸国は蹂躙されつくしていたな」
そしてすぐさま背後に多数の魔法陣を作り出し、そのそれぞれから
咄嗟にラミエルを戻そうとするが間に合わず、元より耐久性という物をさほど重視していなかったそれは蒸発してしまう。
「……っ……これすら通じないか」
逃げるための一手が余りに遠い。
「悪くはない」
こちらの猛撃を全て対処してみせるエルフは、こちらを一瞥してそう評する。
「いや、言葉が足りんな。道具を介してとはいえ魔法そのものは素晴らしい。魔法の応酬の中で背筋が何度も冷えるなど、私の長い生の中で何度あったか」
エルフの左右からレフト&ライトが、背後からモニカが斬りかかる。
だが、分厚く何重にも張られた障壁によって届かない。
刃と爪は宙に止まり、魔力砲撃はある距離までエルフに近づいた所で拡散する。
「だが、まだお前は成長が足りん。お前自身の魔力もそうだが、一番肝心の魔法そのものが成長していない」
エルフが腕を振るい宙を飛び回る光球を発生させる。
不規則な動きで飛び交うそれの迎撃に移ろうとした二体のメタルゴーレムは、次の瞬間近寄った光球の炸裂により片方は小破、もう片方は大破しその場に膝を付く。
「
壊れた二体を空間倉庫に仕舞いながら、モニカの動きを援護するために砲戦に切り替える。
ライヘンバッハ。
自動追尾性の大量の魔力弾を連射できるのと同時にそれ自体が打撃武器として使えるそれを用いて、全力でエルフに向けて攻撃する。
エルフはモニカの斬撃を警戒してか、戦闘が始まってから何層もの魔力障壁を全方位に張っている。
その上でこちらの砲撃を警戒して、その都度防御魔法を展開して守りを固めている。
(つまり、魔力の消費は尋常じゃないハズなのだが……っ)
「だが、お前は込めるだけしか使っていない。より強くイメージを反映できる魔族の魔法にしては、その一点だけがお粗末だ」
「使いこなしていないと?」
「だから多くの切り札が完成できていないのだろう?」
エルフの足元が光ったかと思うと、地面を伝って獣目掛けて光が一直線に走る。
咄嗟に獣は跳躍して距離を取りながら地面を殴り、聖別した血液で巨大な十字架の盾を作り出す。
「その棺桶の恐ろしい速度で撃ち出される魔力弾も、その勢いならば私の防御魔法を貫けずとも、この倍は私を消耗させてしかるべきだ」
その隙をついて、地面を這うように入っていた光から上空に向けて光柱が撃ち出される。
一度撃ち出された光柱はそのまま攻撃魔法となり、無秩序な機動を描いて獣に降り注ぐ。
そのうちの数本が、ライヘンバッハを撃ち抜き破壊する。
「お前が増やした多種多様な魔法はつまらん物から興味深い物まで多種多様だ。その研鑽と研究の日々は敬服と賞賛に値する。馬鹿弟子よりも、ある意味でお前は真摯に魔法と向き合っていると言えるだろう」
「だが、お前は己の根幹をはき違えている」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(身のこなしからして、別に接近戦が出来る訳ではないんだろうけど!!)
化け物がお師様に集中している間に、小烏丸の範囲ギリギリの上空でずっと練っていた竜巻を叩き落とす。
渾身の一撃を叩きつけて、補助に展開されていた部分結界をどうにか全て破壊出来た。
けど一番肝心の結界が揺るがない。
(防御を張られたらどうしようもない! この防御をなんとか解いて、その時間合いに入り込んでいないと!)
対魔族戦を想定した訓練の中で、遠距離での戦い方は訓練している。
主に攻撃魔法を捌き、躱し、自分の間合いまで接近することを目的とした訓練だった。
これは一つに、『旋空弧月』を習得した事で射程・威力共に十分だとセイバーが判断したからである。
実際この旅の中で魔族と交戦した事もあったが、そのいずれも旋空弧月は防御の上から魔族を両断出来た。
(物理的に突破するの、今のままじゃ無理かも……っ!)
魔力砲撃で援護してくれていた二体のメタルゴーレムも破壊された。
(でも、破壊したという事は邪魔だったって言う事。実際、私もあの二体も物理攻撃で部分結界の方は何枚か壊している。どれくらいかわからないけど、魔力は確実に削れている)
先ほどの攻防の中で神機を使った攻撃を行おうとした時、コイツは真っ先にそれを破壊した。
全壊とまではいかなかったようだけど変形ができないようだ。
つまり、お師様が先日完成させた切り札のブラッドバレットや敵の魔力での精製弾も使えない。
(せめてお師様の神機が砲戦可能だった間に、私が死ぬ気で前衛努めればワンチャンあったかも…………)
一瞬、手が止まる。
そうだ。
なぜ破壊した。
この化け物とは今日初めて会った。
にもかかわらず、お師様の届き得る兵装を真っ先に叩き潰している。
魔法使いの天敵である『神機』も。
近接から中距離まで万遍なく戦え、恐らくは一度に破れずとも結界に大きなダメージも与えられる『ライヘンバッハ』も。
魔力装填をしている上、手だけではなく足までカバーしている以上AMG78*1の上位互換といえる『ベオウルフ』*2も。
令呪による制限解除と魔力装填があれば山を貫くほどの火力を出せる
私が結界を破れるかもと考えた兵装はその悉くが間合いの外から確実に破壊されている。
セイブ・ザ・クイーン*3やブレイズブレイド*4なんかは無視したのに。
(私には視えない世界だけど、魔力の込め方なんかで効果が分かる? いや、いくらコイツが凄い魔法使いでも、見た瞬間に多種多様な兵装の詳細を正確に判別なんてまず無理でしょう?)
たまにミリアルデ様が使ってる使い魔の類で調査していた可能性はあるけど、お師様の多彩な武装を全て把握するなんて不可能。
現にAMG78を完成させてからは、威力過多だと言って『ベオウルフ』は封印していた。
私が旅を始めたばかりの頃の話だ。
ずっと見ていたなんて考えられない。
(だったら……残る可能性は……)
――魔法とはイメージの世界。語弊はあるが、正しくイメージ出来た現象を起こす術だ。
――なぜ魔族がエルフや人間の魔法使いの魔法を越えているのかは、この差が大きい。
――奴らとって魔力とは生まれ持つ手足のような物だ。学ばねば使えない人類とは違う。
――現に、これまで戦ってきた中で特に強かった敵の一人は『未来予知』なんてデタラメな魔法を使ってこちらの実力を最初から把握されていて……
(未来視!!)
距離を取って構え直す。
(そうだ、それなら話が通る!)
一発でお師様とミリアルデ様の結界を貫いて砲撃魔法を届かせた事も。
最初から対物理性の高い結界で周りを固めていた事も。
あるいは結界を撃ち抜きうる兵装や攻撃を押さえ続けているのも。
(だったら、恐らく絶対の自信がある。守りに関しては絶対の)
その上で、それを突破しなければいけない。
腰を落とし、刀を構える。
(旋空弧月では駄目。威力が絶対に足りない)
警戒する仕草がないという事はそういう事なのだろう。
二年の間に身に着けた技の中では十分威力のある一撃だが、同時にあれは射程を伸ばす初見殺しの技。
一度間合いを見切られたら、お師様みたいな『
だから、威力に全振り。
連撃で意味がないのならば、一か八かで。
あえて後先は考えない。
今出せる最高の一撃を。
その最高の一撃を、少しでも越える事だけを考える。
ポツポツと降り始めた雨音が、恐ろしく間延びしていく。
その中ただ敵を――その結界のわずかな異変一つを見逃すまいと集中しながら――
地面を踏みしめ、間合いに入る。
無防備である事は重々承知。
その上で構える。
刃を上にして、刃の峰を左手の指に添えて、そっと引く。
絶殺の一撃。
対物理性が高い相手に、それでも刀で戦わなくてはならない時の一撃としてひたすら磨いた技。
呼吸を練り、放つ用意を整えるその一瞬の間に。
遠くから、光る白線が化け物の結界に突き刺さった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どうにか解析出来たのは対物理性が強い層のみだけど……」
ミリアルデは、掲げた手から放たれる光の刃を見送り、小さく息を吐く。
(心を許しすぎている。……ええ、耳が痛いけどそのとおりね)
モニカが仕掛けると見て援護に回った
そしてその直前に、ミノフスキー粒子とやらを更に濃く振りまきながらモニカへ赤い小袋を投げつけるのが見えた。*5
おそらく、モニカへのブーストだろう。
(でも、ごめんなさい。私よりずっと長く生きているだろう同胞)
ポツポツと、雨が頬に当たる。
この地域は雨季があり、そして結界が破壊されている今、雨を遮るものはない。
「私はあの子に行く末を見届けると約束した以上、手放す事は出来ないのよ」
打ち放った光の刃が結界に突き刺さり、それを浸食し始める。
ジジ、ジジ、と。
あの子が作った魔導灯に羽虫が寄せられ、ぶつかる時のような音が断続的に響き――
――パキィ……ィ……ッ!!
ついに、結界のいくつかを破壊する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(!? なるほど、
残るは二層。
まさか解除されるとは思っていなかったが、あの
さらには――
「
人間の剣士が迫っている。
せめて三層ならば確実だった。
だが、今、張り直す間を与えず――あるいは、あのエルフはタイミングを計っていたかもしれない――モドキの作った魔刀が迫る。
幸い、まだ完成していない。
だが、断じて侮って良い一撃では――
結界ごと地面を蹴って、距離を取る。
僅かに二年とはいえ徹底的に、そして効率的に鍛え抜かれた剣士の足と目はやはり鋭い。
しかも、あのモドキが作った何かしらの魔道具を追加で使ったのだろう。
赤い輝きを身に纏う剣士が、こちらの真芯を捕らえた。
「牙突!!!」*6
補助の対物理障壁を展開する間もなく、二枚目の防壁に刃が突き刺さる。
「! 防御魔法をっ?!」
二枚目は、セイバーとやらが持つ魔道具の砲撃を警戒して対魔術性を高めていたとはいえ、それでも十分な対物理性も込めてある。
戦士の渾身の一撃でも防げるだろうその結界を貫き、最後の一枚にその刃が確かに突き刺さっている。
罅が入り、徐々に広がる。
それはどうでもいい。
問題は、その突き刺さった刃――その切っ先から、
「!!!????
咄嗟に障壁を張ろうとしたが、鋭いその切っ先が左腕を斬り裂いた。
長い生の中で、もはや忘れ去っていた鋭い激痛が左腕に走る。
気が付いた時には、反射的に魔法を放っていた。
なんの美しさもない、ただ魔力を炸裂させるだけの原始的な魔法。
それが剣士の身体を包む――直前で剣士は、剣を振るう利き手と急所だけは死守せんとばかりに地面を蹴って身体をずらし、だがその左腕と足が吹き飛ぶ。
その向こう側にいる
(しまった!)
焦げ付いているその左の手足に、攻撃も防御も忘れて反射的を手を出した瞬間、今度は突然緑色に輝く粉塵が立ち上る。
「モニカ! 力を抜いてくれ!」
ヤツは剣士の周囲に
その肢体は、元通りだった。
吹き飛ばした箇所の衣類はそのままに、だが左の手足は元の通り、傷一つ無く再生していた。
粉塵がそれで舞い散ったのか、斬り裂かれたハズの自分の腕まで治っている。
「っ! モドキ――」
「ようやく、隙を見せてくれたな」
そしてその瞬間、同じように鎖で引き寄せられている獣の主人が、その左手に刻まれた紋様を赤く輝かせながら、叫ぶ。
「セイバー、いいのね?」
「頼む、マスター!」
「ええ。令呪三画を以て命じる」
枷が、解かれる。
「蔵の鍵を開けなさい。全力で」
――ガチャリ
本当に鍵が開く音が、どこからか響く。
そして、
――オン・マケイシヴァラヤ・ソワカ
なにが起こったかは分からない。
視えていた未来に、この現象に値する物は一つもない。
そも、あの剣士が防御を抜いた事自体が想定外にも程があった。
分かるのは、とてつもない質量を持つ何かが圧縮され――
解き放たれた事だけだった。
それを認識したのと同時に、
視界が真っ暗になった。
「まさか……これほどだったとは……」
ゼーリエは口の中の土を吐き出しながら、起こった現象を解析する。
とてつもない一撃だった。
それほどの、今の魔法ではどうしようもない現象だったことは分かる。
身体が急に重くなり、射出された何かに引き寄せられた。
あれが直撃していれば、一たまりもなかった。
ならばなぜ自分は生きているのか。
簡単なことだ。
「……通り道だった一か所は中腹が抉られ、その先の一つは完全に吹き飛んでいる。一度極限まで圧縮された後に開放された結果か」
ここから少々離れた山の一つは大穴が空き、もう一つは確かに消し飛んでいた。
その射線上の青々とした森はなく、文字通り吹き飛んでいる。
「……確実に私の動きを抑え、かつ巻き込まれないギリギリを狙ったというのか?」
左腕を見る。
確かに斬り裂かれ、重傷だったそれは完全に回復している。
狙ったのかどうかは分からない。
だが――
「……私としたことが、長い生の上に胡坐を掻きすぎたか」
まさか、魔族に後れを取った上で救われるなどと。
(……とはいえ、目的は果たした)
最後の一撃は相当な物だ。
唯一視えていた奴の切り札。
今回と同じく開錠の音と共に天に広がる無数の赤い光線、その起点にして終点である、天地を別つ剣。
あれが出なかったのは予想外だが、それでも同等の魔力消費は果たしたハズだ。
なにより――
(あれで理解したハズだ)
なぜ、そうするのかは分からない。
すでに
だが、
――お前は己の根幹をはき違えている。
これであのモドキは辿り着く。
自分の魔法の可能性。
その使い方の研鑽の果てに、あの
「……そして、これでお前は魔力を失った。魔族にとってそれは致命的。手っ取り早く回復するには、それなりの魔力を持つ人間を食うのが一番だ」
その未来は確かに視えない。
だが、この目で見るまでは信じられない。
なにせ、この一戦の中で視えていなかった未来がいくつ出て来たのか。
想定通りならば、この後奴らは老いた人間の元に辿り着くハズだが……。
「……見極めるにはちょうどいい」
そして長い年月が経った後。
この地には、一つの伝説が残ることになる。
当時の老鍛冶師、シュレートの証言によりこの地を訪れていたことが確実となった『赤の勇者』が、強大な力を持つ何者かと戦った痕跡。
当時の調査隊が、赤の勇者が使った物に違いない魔道具、その破片や残骸を回収した事でここで
それがどのような敵だったのか。
シュレートからの証言でもそれは分からなかった以上、当時の領主軍はそれまでの魔物の目撃情報の精査から入り、大きな脅威がそれまでなかったことから外来の何物かとの激戦だったと断定。
未だに多くの謎を残す、見た者がいない大決戦。
未だ語られる『赤の勇者』と『謎の大魔族』の決戦の地として保存される巨大な大穴と中腹を抉られた山は要調査地として、勇者ヒンメルとその一行によって魔王軍の脅威が薄れた世では観光地として、様々な逸話や憶測と共に残されている。
「おい」
「? どうしたんだい、ゼーリエ」
「赤の勇者であるお前と私が戦ったのは確かだが、なぜ私の存在が大魔族になっている」
「いや、あの時の君は普通に大魔族だったよ。それも最高に質の悪い」
「…………ふん」
「それより、ありがとうゼーリエ」
「なにがだ」
「君、毎年とはいかずとも、よくモニカの墓に花を添えてくれていたのだろう?」
「…………………………」
「五十年前、人目を忍んでマスターと共に花を添えに行った時に、君の魔力を感じた」
「……咄嗟の事とはいえ、悪い事をしたとは思っている」
「ああ。きっと、伝わっていると思うよ」
「……長い生の中で、お前の数々の弟子も含めて色んな戦士を見て来たが」
「『刀使い』という括りであの小娘は……ああ」
「正しく、頂点といっていい剣士だった。千年近く経った、今という時代まで来て尚」
「……君がそう言っていたとモニカが知れば、きっとすごく面白い顔をするだろうね」
「なんだそれは。……おい。貴様もミリアルデも、その顔を止めろ」