ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
004:
エルフの里からは相当離れていて、正直言ってその掘っ建て小屋は少々行くのが億劫な立地にある物だった。
だからこそ、私は時折この小屋に足を運んで酒を嗜むのがここ最近の数週間に一度の日課になっていた。
「まったく……一々絡まれるのも面倒な物ね」
この小屋ならば、わざわざ同胞が足を運ぶこともない。
別に自分は、すでに目的ある生を送るつもりはない。
というより、それはもう失くしたものだ。
だから別に目的があるわけでないし、また得ようとも思わない。
今の自分は、ただ生きているだけだ。
そしてその無意味な日々の慰めが酒なだけ。
それ以上は求めないのに、エルフの里の同胞たちはなにかと構って来る。
(いっそのこと、この小屋に私物を持ち込んでこっちに住むか)
すでに吞み慣れた――味はどうでもよく、ただ酒精を摂る事だけを目的としたエールを詰めた酒瓶に口を付ける。
「…………本当に美味しくないわね。この酒は」
昔存在していた大きな国の、とある王様の即位式で配られた安酒。
量だけはたくさんあったので拝借して、ついでにちょっとした興味本位の暇つぶしを仕掛けてきたが……。
いっそ人里まで降りて、物々交換でなにか手に入れるかとも思ったが、それをするのも面倒だ。
そうして小屋までの道を歩いていくと、途中で違和感を覚える。
「……結界?」
以前来た時にはなかった対魔結界が張られている。
高度、かつ仕組みをわざわざ変えている物を七層もだ。
そっと手を触れてみるが、特に反発する事もなくあっさりと手が突き抜ける。
「魔物や魔族を阻害する結界。……これだけ完璧に対象を選別できるという事は、相当に高度な女神の魔法……」
冒険者の僧侶が通りかかりでもしたのだろう。
ならず者では少々困るが、これほどに高度な魔法が使えるのは敬虔な女神の信徒なのは間違いない。
七層もの結界を通り抜けて、先へ進む。
「……旅をする人にしては随分とマメね」
そして辿り着いたいつもの二階建ての小屋――使い古され、ボロボロだった小屋はやたら小奇麗になっていた。
壁面に張り付いていた蔦や苔は剥がされ、その壁も更に磨いたのか綺麗な地肌が露わになっている。
挙句に、結界内部に入ってからはもう草木に飲まれつつあったおざなりの『道』が、キチンとした街道になっていた。
雑草は払われ、まるで測量した上で工事したように地面は平らに均されている。
さすがに手でやるハズはないので魔法だとは思う。
小屋の壁はまだしも、道の整備から果てには屋根まで丁寧に人の手で磨いていたら、はたしてどれだけ時間がかかったことか。
(フリーレンみたいな魔法収集家かしら)
使い道が限定される、いかにもな民間魔法をどっさり抱えた変わり者だろう。
あまり関わりこそしないが、時折私の方を見ていたエルフを思い出す。
ボロボロだったドアまでご丁寧に修復――否、新調されている。
……これも魔法か。
ドアを作る魔法*1?
随分と奇妙な民間魔法だ。
まさか自作したのだろうか?
「ごめんなさい、お邪魔するわ」
軽くノックをして、ドアを開ける。
「……構わない。こちらこそ勝手に使わせてもらっている身だ」
果たして。
そこには少女がいた。
リボンで後ろに束ねている、うねりを持つ美しい金の髪。
壁際に並べられた、様々な大きさの刀剣や槌、鎌、そして衣類や鎧の数々。
そして自分の腕をナイフで切り裂き、そこに透明な管を突き刺して流れる血液をガラスの筒の中に移し取っている――
「それと、驚かせて済まない。用事を済ませたらすぐに出ていく」
頭に角を持つ、魔族の少女が。
「……重ねて謝罪する。申し訳ない。すぐにでも立ち去るべきだというのは分かっているが、しつこい勧誘業者共との戦闘の後で、色々と補充をする必要がある」
おそらく、頭を――角を隠していたのだろうフードはボロボロだ。
あちこち傷だらけで、明らかに疲れ切っている。
「…………一応、聞いておくけど」
確かに、一瞬呆気に取られた。
まさかよりにもよって、魔族がポツンとここにいるとは思いもよらなかった。
「外の結界は、貴女が?」
「肯定する。念のために聖典の魔法を混ぜ合わせて隠密性も強度もかなり強化したハズだが……なにか不具合があっただろうか?」
「いや――」
そうではない。
完璧だった。
余りに完璧すぎた。
ゆえにあり得ない。
魔族が『女神の魔法』らしきものを平然と使用したという事実が、あまりにもあり得なくて理解できない。
「私は、ただここに時間を潰しに来ただけよ。好きにするといいわ。私もそうする」
「………………すまない。感謝する」
どちらにせよ、攻撃する気にはならなかった。面倒だ。
邪魔をせず、里へ向かわず、そして襲ってこないのであればそれでいい。
ただの鳴き声でしかない人の言葉で謝罪したその少女は、頭を下げると同時に何もない宙に黄金に輝く何かを魔法で生み出し、その中に手を入れる。
そうして取り出したのは、聖典だった。
それを左手に持つと、次に右の手のひらを自分の傷にかざし魔法を発動させる。
淡い緑の輝き。
まごうことなき『女神の魔法』の輝き。
これでもはや、この魔族のここまでの言葉に信憑性が生まれてしまった。
「…………」
あるいは、隙を窺い襲ってきて、この身体に牙を突き立てるのではないか。
そういう当然の警戒をして魔法を用意するが、少女は身体のおおよその傷を治し終えたら、今度は赤い血液を詰めたガラスの筒に手を伸ばす。
魔法でそうしているのか、ずっと一定の動きを繰り返して中身が揺らめき続けているソレを掴んで、恐らくはその魔族特有の魔法を発動させる。
そしたら今度はそのガラス筒をそのまま同じような――ただ、なぜか針が付けられた物にセットしたかと思えばそれを自分の腕に突き刺す。
(……? ……あぁ、なるほど。針の中は空洞なのか)
そして魔族はその上部を押すと、その血液がみるみる無くなっていく。
おそらく、魔族の身体の中に針を通して流し込まれているのだろう。
相当な激痛が走っているのか、布を丸めた物を口に入れて噛み締めている。
「……まぁ、退屈だけはしなさそうかしら」
「そうだ、貴女の名前は?」
「…………とうに失っている。好きに呼べばいい。逆に、貴女は?」
「ええ」
「ミリアルデよ。覚えても覚えなくてもいいわ」
魔族に血は流れているけど、死ぬと同時に崩壊して消えている説を本作では押していきます。
リュグナーがホラ、血液使いだったし。