ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
――ドォ…………ォゥ……っ
重々しい音と共に、魔力の塵へと帰りつつある魔物の体が崩れ落ちる。
ジャイアントオーク。
特に育った個体は城壁にまで届く程の巨体を以って町や村を襲い、人を喰らう魔物が今討伐された。
通常のオークと同じく緑色の硬い肌に覆われた手足は、バラバラにそこらに転がり同じく塵に還りつつある。
少し後ろにいる赤毛の女と白髪のエルフ目掛けて振り下ろされそうだった棍棒も、完全に砕かれただの大量の木片と化した。
「よし。これで最後ですね」
そこらに転がっている同じような魔物の残骸――八体ものそれを尻目に、カタナと呼ばれる剣を握る女はそれを鞘に納めつつ周囲を警戒、後方の二人の魔法使いも怪我をしていないことを確認すつつ息を整えていた。
「
「うん、大丈夫だよ。モニカは強いね」
白い髪のエルフは汗一つ、疲れ一つ見せない顔でしきりに「うんうん」と頷いている。
フレイという人間の魔法使いも一度頷き、
「モニカ」
「? はい」
「お前、クビ」
「いきなりどうして」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「強すぎるんだよお前は!!」
「はぁ……」
(またエラく癖の強い人にひっかかったなぁ……)
仕事を終えて支払われた報酬でとりあえず一緒に食事をしているが、今回の同僚である女魔法使いはえらく……お師様風に言えば、『キャラの濃い人』だった。
「剣差してる割には身体は細いし筋肉もまだまだだから隙が出来て、フリーレンに予想外の事態ってのを叩き込むいい機会とか思えば魔法使わせる前に9割片付けやがって! 少しはポシャれ! 肝心な所で足
「最低か」
というか、そういう狙いがあったのならば先に言って欲しい。
前衛として依頼に誘われたから普通に仕事をしようと、二人に敵を近寄らせないように動きの速い奴から確実に片付けていた。
言ってくれれば一匹か二匹そっちに流したのに。
「ごめんねモニカ。先生、結構いい加減な人なんだ」
「急に刺すなと言っているだろう。暴力に訴えてもいいんだぞフリーレン」
一方でエルフは、なんかすごい量の肉を一心不乱に食べている。
食い貯めらしい。
気に入った料理は気が付いたら消えているから、そうなる前に山ほど食べておくんだとか。
その質量、本当に胃に収まる?
(……私、師匠だけじゃなく主人にも恵まれていたんだなぁ)
いつもお師様の料理を上品に食べているエルフの姿を思い出して、吐き出しそうになるため息を慌てて抑える。
ミリアルデ様と同じく余り感情が顔に出ないタイプのようだが、ミリアルデ様に比べて心なしか幼いように感じてしまう。
仕草の一つ一つとか。ちょっとした雰囲気とか。
「まぁ、お話は分かりました。フリーレンさんに実戦を積ませたいんですね?」
「……コイツは戦闘そのものは体験している。だから一番大事なクソ度胸はもうある。後は戦闘という異常な空気の中でどれだけ頭を働かせられるかなんだが」
「あぁ、魔法使いってそこらへん大変そうですよね」
戦いの最中では常に色んな物を読み取らなくてはならない。
例えば互いの間合い、例えば相手の出方、例えば地形。
直接斬りつける剣士の私でも考える事がたくさんあるんだ。多種多様な手段を持つ魔法使いでは尚更だろう。
(私の場合はお師様が算術重視の戦い方を大事にしているってのもあるんだろうけど)
連立方程式あたりまではパズル感覚で楽しかったけど関数あたりから座学が難しくなったな。
幸いお師様は気が長いから、焦る事無く出来るまで伸び伸び学べるけど。
「というか、マジで強いなお前。戦士の家系か?」
「いえ。父親は冒険者だったらしいですけど私が生まれる前に旅に出て、お母さんは野草や薬草を摘んで生計立ててました。なんてことない、普通の村娘ですよ」
「普通のって……じゃあ、剣は子供の頃から誰かに習っていたのか?」
「いえ。お師――師匠に出会って……三年ちょっとくらいですかね?」
「なんでそれでそこまで強くなれるんだよ!?」
「そう言われましても……師がいいからです……かね?」
あと、こう言っては何だけどとんでもない戦闘が多かったから経験が濃いのだろう。
あの村にいた頃の行商護衛が私の初戦だったけど、一歩引けば全滅しかねない敵ばかりだった。
単独で強い敵がいなかったのが幸いだったけど、代わりに圧倒的な数という怖さを死ぬほど思い知らされた。
(お師様の薔薇*1の訓練なかったら最初は逃げ出してたかもしれないなぁ)
「対多数戦を第一とする教え方でしたので、対応力もやはり鍛えられました。群れの中に放り込まれたり」
「ちっ、やっぱそうなるか。だけど魔法使いが実戦でそれやるにはリスクが高いんだよな」
「なんというか魔法使いって……一度崩されたら立て直すのに苦労しそうですよね。魔族とかと戦っていても、将軍とかじゃない限りそんな感じがします」
将軍クラスは本当にしぶとい。
魔法にこだわる奴は魔法次第だけど、武術磨いている奴らは武器を破壊しても油断できないし、なんならそこらの石を投げてくるだけで脅威になる。
あの蟲に止めを刺す邪魔をしてくれた奴――リヴァーレ。
お師様曰く、もう私の人生の中で関わる事はないらしいが、それでも私の中で最強の敵といえばあの将軍だった。
あの時、不意打ちで蟲の片腕を捥いだが……もし相手がリヴァーレだったら果たして上手くいったかどうか。
「それでどうします? 私としてはソロに戻ってもいいんですが」
「先生、モニカはやっぱり必要だよ。万が一の時に備えられる前衛なんて貴重なんでしょ?」
「まぁ、そりゃそうなんだが……」
問題は敵がいるかどうかだなぁ。
勢力圏を押し広げた以上、危険な魔族はそういないだろうからとりあえずは一安心。
当然そうなると相手は魔物という事になるが……。
「だったら、文字通り最小限の護衛に徹しましょうか。近寄る敵にのみ対応して、攻撃はそちらに任せます」
「そこらの連中ならばそれで良かったんだが……強すぎて正直安心感があるからな。本来ならばいい事なんだが……」
フレイさん――隣のフリーレンさんの反応からして偽名かな。
万が一に備えて、人間の魔法使いが本名を堂々と名乗る事は珍しいとミリアルデ様も言っていたっけ。
魔法使いへの偏見は強く、土地によっては排斥されかねない。
彼女もそれを警戒しているのだろう。
それでも比較的堂々としているのは、ここが魔王軍の脅威に晒されていた前線だったからだろう。
戦えるのならなんでもいい、誰でもいい。
そういう空気があるのだろう。
「だから――っ、野郎共に用はねぇって言ってんだろうが! 散れっ! 散れっ!! お前らじゃ束になってもコイツ一人に勝てねぇよ!! 邪魔だ!!」
だからか、ちょっとガラの悪い連中がこちらを女所帯だと舐めて何かと関わろうとして来る。
ウチの最年長――違う、最年長はどう考えてもエルフのフリーレンさんだ。
年長に見えるフレイさんが定期的に絡んできそうな連中を追い払っている。
有難いが……ただ面倒なだけの連中と本気でヤバい奴の見分けが付きづらくなるのがアレだ。
たま~~に出る本気でどうにか私達を手籠めにしてやろうって連中はしつこいからこそ変に警戒させたくないんだが。
却って対処しづらくなる。
「ん~~」
なまじお師様と一緒に暴れたからここいらは大分平和になったもんなぁ。
省エネモードとか言って『鉋』*2一本で戦い抜いてた。
「だったら、私も慣れない武器で戦いましょうか。練習がてら」
多分、緊張感は出ると思う。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(たかだか三年と少しの訓練で、ここまで強くなれるものか?)
アホみたいな強さで魔物の群れを剣一本で蹴散らした娘は、鍛えている事は分かるが戦士と呼べるほどではない――ハズだったのだが。
(恐ろしく体の使い方が上手いんだろう。受け止められない攻撃は綺麗に流して、身体にダメージを入れないまま戦い続ける。剣士としてはおそらく理想的な動きだ)
目の前の娘は、フリーレンと同じステーキを一枚頼んで早速口にしている。
なんてことない大衆食堂だと言うのに、えらくナイフとフォークの使い方が丁寧だ。貴族並みに。
本人はなんてことない村娘と言っているが、どこかの国の将軍の娘と言われた方がしっくりくる。
(報酬の振り分けも計算が早かったし正確だった。テーブルマナーもそうだが、相当高い教育を受けているのは間違いない)
「で、モニカ。慣れない武器ってのは?」
「最近思う所があって、私の師匠に頼んで二刀流での戦い方を教えてもらった所なんです。いい機会なんで、こっちもそろそろ実戦で試さないとなぁと思っていて」
加えて、食べられる野草や薬草の判別、その活用法や処方の知識。
野戦に関する知識が豊富すぎる。
これに関しては野草摘みをしていた母親から受け継いだのかもしれないが……。
「二刀流?」
「前に蟲――ある魔族に元の剣が壊されてしまって……。その後も予備の剣で戦って一矢報いたんですけど……あのままだとやっぱり負けてたなぁって思うと、戦い方や装備に工夫が必要だと思って」
「片手に一本ずつ持つより、両手で一本持った方が威力は出るんじゃない?」
「いやフリーレン、コイツみたいな剣士はそっちの方がいいんだろう。短い間合いに踏み込みながら、両手で攻防を切り替えられる強みがある」
「そう! そういうことなんです!」
話からして、すでに魔王軍の連中とも戦っている。
勝ち負けは分からないが話から察するに、魔族の将軍ともやりあって五体満足でここにいる。
全てが事実なら、もうすでに人類側の英雄と呼ばれていてもおかしくない。
(コイツ、聖都に連れて行けば今すぐ召し抱えられそうだな……。だからこそ、問題は――)
これだけの逸材を育て上げた、コイツの『師』の存在だ。
それに――
「そもそもお前、よく『カタナ』なんて持っていたな。それ、本物だろう?」
カタナ。
最近何人かの鍛冶師が
振りやすく鋭い剣を目指して今もこの地方の鍛冶師が打ち続けている、未だに成功例が少ない片刃の細剣。
「ダンジョンで拾った物なんですよ。攻略そのものには失敗しましたが、まぁ使い勝手がいいんで。私の今の装備は大体そうです」
「なるほど」
確かに、剣その物から魔力を感じる。
腰に付けているベルトや、背に羽織ったマントにも。
曰く付きのダンジョンに転がる曰く付きの代物ならおかしくない。
(とはいえ、片刃の剣といえば……)
今も覚えている、たった一度の攻防。
初めて交戦した
モニカが振るう刀とは大きさも重さもまったく違う。
そもそも変形しない。
それでも、細かい仕草の一部が似通っている……ような気がする。
(クソ、アイツが私の前衛だった時は、強く握りしめたら棘が飛び出す大剣*3と武術が武器だったからな。『神機』みたいなアイツ固有の武装に関してはなにも知らん!)
一応、王命という事もあって赤の勇者が何者かと戦った痕跡である装備の破片は全て回収して聖都に送った。
今頃数少ない
なにせ本当にヤツならば、すなわち魔族の扱う魔法という事になる。
「実際、最近武器屋とかにいくと刀結構見ますよね。形だけの安物を」
「模倣品の中でギリギリ使い物になる代物だ。最近じゃとにかく刃部分をキチンと作るためにって短い刀と同質のナイフでの試行錯誤を繰り返しているんだとさ」
「包丁かな?」
そのヤツが使うと言う事は、奴はカタナを作ったハズだ。
あるいは、奴が最初に作ったのかもしれん。
そうなると、カタナ使いのこの女が例の同行者である可能性は高いんだが……
(この一週間、コイツは依頼以外で外に出ている様子がない)
バレる事覚悟でこの剣士を尾行もしてみたが、門近くのちょっといい宿の個室で寝泊まりしている事しか分からなかった。
仕事の連絡にかこつけて同部屋に止まってる者があと二人いないか確かめてみたが、間違いなく奴は一人で泊まっている。
(クソ……っ、決定打がないな)
あのクソ魔族め。
お前、今どこでなにしているんだ……っ。
――フィィィィィィィィィィィッシュ!!!!!!!!
――…………ねぇ、セイバー。
――? なにかな? マスター。
――魚を釣る度に、どうして叫ぶの??
――今の私は君の剣であるのと同時に、アングラーだからね。
――…………??????
――獲物を掌中に納める時、アングラーはそう叫ぶものだ。私の記録がそう言っている。
――…………………………………………そう。
――ちなみに釣り竿ではなく銛を使ったなら「獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉ」に変わるらしい。
――(わざわざ変える必要性はあるのかしら。語尾を伸ばす必要はあるのかしら)
――まぁ安心してくれ。モニカの写真付き報告メールのおかげでここいらの魚料理はおおよそ把握した。今日は試作としてレシピ通りに作るが、明日にはより君の舌に合わせた一品に仕上げて見せよう。
――ええ。楽しみにしているわ。