ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
お師様が使う双剣は、そもそもが魔物から採取し厳選した素材にこれでもかと魔法を注ぎ込んだトンデモ剣である。
ほぼ全てに共通する特徴としてそれ自体が特別な身体強化魔法のトリガーとなっていて、ただでさえ機敏なお師様が更に速く、そして強くなって敵を斬り裂く。
加えてうっすらと水や氷の刃が切っ先を覆ったり、炎や雷が噴き出たりする魔法も掛けられているために殺傷力は極めて高い。
この間作った赤いザリガニのハサミを模した双剣は、何故か振るう度に『ギリギリィ!』『マイマイィ!!』という意味不明な、恐らく人間の男の声が出る意味の分からない謎仕様だったけど。
なんで急に笑い声が飛び出す仕様なんだろう。
ともあれ、お師様の双剣は対魔物戦に置いて絶大な力を発揮するが、同時に私には少々扱いが難しい。
「フリーレンさん、大丈夫でしたか? すいません、数匹斬り漏らしちゃって」
「大丈夫、こっちで問題なく対処できたよ。モニカこそ左腕、相当疲れているみたいだけど」
「ええ。さっきデカブツの攻撃を両方の小太刀を合わせて受け止めたんですが……利き腕との間に負担の差が出たみたいです……」
「……やっぱり普通に剣一本の方がいいんじゃない?」
「まぁ、これ自体が訓練ですから」
今は腰に差したままの小烏丸が正にそうだが、いざという時に威力を出せる風の魔法は便利で助かるけど、普段使いとしてはただの刀として振るう方が楽なのだ。
いや、正体バレを防ぐという意味もあるけど、とにかく大きな威力を出す事にまだ自分が慣れていない。
もろもろ微調整が必要な高出力の風で叩き潰すくらいならば、感覚的に慣れ親しんだ『旋空弧月』を使って斬った方が早いと考えているのもあるだろう。
基本的に自分の戦術は間合いを錯覚させて無防備に距離を取った所でぶった切る、である。
頑丈な外皮や硬い結界なんかで身を守っている魔物や魔族の場合なら『烈風』の方が優位なのだが、今の所それほどの強敵や風ありきでないと対応できない物量相手に戦った経験は片手で数える程しかない。
――クギャアアァァアアァァァアアァァァァ!!!!
足が長く、二本足で素早く走る蜥蜴のような魔物が噛み付こうと長い口を開けて迫っている。
「……それに、こういう相手ならこっちの方がやりやすいです」
私用にお師様が作ってくれた短い刀――
魔法そのものに干渉し、切ったり受け止めたりできる以外には特徴らしい特徴がない、普通の剣。
左手に握っている一本を手放し、その柄をもう一本を使って殴りつける事で弾丸のように撃ち出す。
――グゲ…………ッ
お師様が『キョーリュー型』と呼んでいるタイプの魔物。
前にお師様が馬に変わる戦闘用に騎乗獣候補として捕獲を計画したこともあった魔物の頭に、撃ち出した小太刀が突き刺さり、絶命する。
同時に横から襲い掛かって来ていた同じ魔物の首を右手の小太刀で斬り落とし、撃ち出した小太刀を回収するために走り出す。
当然、その行く手を残る二体が邪魔をしようとするが――
「最後は私がやるよ。ほい」
その二体はフリーレンさんの放った魔法の炎に包まれ、苦悶らしき鳴き声を上げてその場に崩れ落ちる。
「お疲れ様です、フリーレンさん」
「ん。お疲れ」
残りの警備順路の長さから言って、今日の戦闘はこれで終わりだろう。
馬を使って街道を見回っているが、他に目立つ魔物はいなかった。
お師様の魔力探知に頼れないのが少し怖いが、役目そのものはフリーレンさんが受け継いでくれている。
「にしても先生、いきなり二人で仕事してこいって言うのは酷いと思うんだよね」
「まぁ、万が一の時の装備はあるので了承しましたが……本当に突然の無茶ぶりでしたね」
なんか、魔族なのに生真面目なお師様とは正反対の人だ。
師匠としては優秀なんだろうけど、こう……魔法以外が割とずぼらというか。
「それでフリーレンさん、そのフレイさんは?」
「なんかやらなきゃいけない事あったの思い出したんだって」
「それで弟子を会ったばかりの前衛に任せて魔物や賊との戦闘があり得る街道警備の依頼に放り出すんですか」
「先生だからね」
「……はぁ……」
いくらなんでも不用心が過ぎるのは?
同性だから間違いが起きないのはそうだろう。
お師様風に言えば、大きなアドバンテージと言った所か。
それでも、私が悪人の可能性を捨てるべきではないだろうに。
現に、いくらフリーレンさんが優秀な魔法使いとはいえ、私がその気になれば首を容易く落とせる。
例え遠距離から魔法を撃ち込まれたとしても、旋空弧月を始めとする手の内を全く見せていない今なら容易く。
「……でも、モニカがいればなんとかなるとは私も感じてたよ。魔族が出ても普通に斬り倒せそう。というか、斬ったことあるんだよね?」
「ええ。これまでに三体は」
とはいえ単独討伐したのは一体だけだ。
残る二体はお師様と一緒に戦ったから、お師様のサポートありきだった所がある。
「とはいえ、こうしてフリーレンさんと一緒に戦っていて改めて感じましたが、私はまだスタミナが課題なんですよね……出来る限り動きの無駄を減らして体力を節約する癖は付けているんですが……仕留めるのに手こずる敵が出てきた時が厄介だなぁ」
もしフリーレンさんの魔法で対応しきれないような数が出てきて、それが馬よりも足が速い奴だったら果たしてこのエルフを守りながら逃げ切れるだろうか。
お師様から教えてもらった栄養表を参考に食事のバランスを取りながら、身体づくり用に作ったという『プロテイン』という粉末ドリンクも言われた通り一日二回飲んで運動を続けているが……。
「モニカはまだ強くなりたいの?」
「そりゃあもう。私の師匠はもっと強いですし、実際勝てない相手がゴロゴロいる事も痛い程分かっていますし」
「そいつらに勝ちたいんだ?」
「…………いえ。どちらかと言えば『生き残りたい』ですかね。ちょっと格好つけて言えば」
「格好つけて?」
「はい」
「じゃあ、格好つけなかったら?」
「『死にたくない』の一言ですみます」
「意味同じじゃん」
「はい。だから『ちょっと』なんです」
今でも、あの蟲と戦った時の事を何度も振り返っては鍛錬に当てている。
あの時、伏兵に気付けなかったためにお爺ちゃんを危険に晒した。
次を出さないためにも、もっと感覚を磨かなければならない。
考えるな。感じ取れ。
お師様の大切な教えだ。
「……生き残る」
「脅威に対して勝てるに越したことはありませんけど、それで自分や大切な人の命を奪われたら意味ありません……そういった失いたくない物を取りこぼさないためにも、逃げる事は絶対に選択肢から外すなっていうのが私の師匠からの教えですね」
その上で、先日の御爺ちゃんを背にした戦いのように引くに引けない事もある。
だから鍛える。活路を開くために。
やはり暴力。
お師様は暴力そのものを嫌うけど、なんだかんだで万物に平等に決着をつけるのはやっぱり暴力……っ。
「まぁ、そういう話は落ち着いた場所でやりましょう」
口笛を吹いて、馬を呼ぶ。
お師様が手をかけていた馬の中で一番人懐っこくて、安定した速度を出すからと私に預けてくれた一頭。
お師様からストライクイーグルなんてやけにカッコいい名前を付けられているが、長いので私は『イーグル』と呼んでいる。*1
イーグルはカポカポと歩いてくると私の胸に鼻先を当てて擦り付けてくる。
魔物相手に進むように命じても動じる事のない勇敢な馬だけど、存外甘えん坊な所がある。
ヨシヨシと一通り撫でまわしてやって、フリーレンさんの前まで引っ張って来る。
「フリーレンさん、行きと同じように私の前に乗せますね? 私が適度に走らせますので……」
「ずっと思ってたんだけど、モニカは馬に乗るのも上手だよね」
「はい! 師匠が馬術も教えてくれたんです!」
「…………本当にモニカも、モニカの先生も多芸だよね」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
城塞都市ヴァーレを一望……出来るはずの高さはあるものの木々が生い茂って深い森となっている山を、一人のやや赤味の入ったオレンジの髪の女が歩いている。
(いくらなんでも、あの女は強すぎる。本当に三年ちょっとであれだけの腕に仕上げたって言うのなら、その師匠は文字通り化け物だ。人間ならばとっくに名が売れていないとおかしい。弟子であるあの娘ですら、すでに名を売っておかしくないんだ)
剣についてそこまで詳しいわけではないが、戦う者としての知識と経験があの剣士の化け物っぷりを全力で訴えてくる。
(全く焦りが見られない。どんな魔物がどれだけいても、知り合ったばかりの魔法使い二人しかいない状況で平然としていられる)
おそらく、札を一枚も見せていないのだ。
二人の魔法使いが実は賊で、万が一襲いかかったとしても対処してみせる自信がある。
(そして恐らく、かなり近い所に魔法が常にあった。私やフリーレンが使う魔法に驚いた事が一度もない。モニカにとって全て
あの剣士と肩を並べて歩いていると、懐かしい匂いがする。
別にそこに本当にその匂いがするわけではないが、不思議と――
あのキッチンの香りがした。
木製のカッティングボードの上で野菜や肉を「トントントンッ」と小刻みにナイフで切る音が。
干したキノコや鶏がら、香草を水と一緒に入れた鍋が、ボコボコと火にかけられている音が。
すでにポットに入れられて、注ぎ口から湯気を立てている茶の香りが。
――おはよう、フランメ。早速食事にする? それとも、目覚ましにお風呂かい?
あの半年の間、目を覚まして扉を開けた時にする匂いが、音が、近づいている気がする。
いる。
きっと、この近くに。
アイツがいる。
受けた依頼は赤の勇者の調査と、帝国への帰属の説得。
アイツに会って、
会って――
「……クソッ」
――……酒だな。迎え酒だ。二日酔いで気持ち悪い……。
――第三の選択肢を生やすな。まったく、ペースが早い気はしていたが……。
――お前の酒が美味いのが悪い。
――責任を擦り付けるな。
――あ゛ぁ…………とりあえず水くれ……。
――…………ほら。ついでに酔い覚ましと臓腑を綺麗にする魔法をかけてあげるから、手と顔を洗って席についてくれ。
――わかったよママ。
――誰がママか。
「……何を話せって言うんだ、チクショウ」
「……どの
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
主人を起こさないようにその腕の中から抜け出し、主人の着る服を選んでサイドテーブルの上に畳んで用意して、更なる従者として作った黒猫の
執事服に着替えてエプロンを身に着け、念入りに手と腕を洗い消毒したセイバーはまず、魔法を利用して一晩中温め続けアクを取り続けた鍋の中を確認する。
鶏がら、牛骨、牛バラそしてタマネギやニンジン、セロリといった各種香味野菜をじっくり煮込んで作ったブイヨン。
を、一度冷ましたものに牛ひき肉、大量の卵白、トマトペースト、赤ワインを混ぜ込み、タマネギ、ニンニク、セロリ、ニンジンをまた入れて、弱火で延々混ぜ続けたのがいまだ。
鍋の温度を一定にする魔法を用いて、さらに魔法でスープ用の木べらを回し続けたのがこれだ。
コンソメスープ。
ミリアルデが最も好むスープで、かつ恐ろしく手間がかかる上に難易度が高い一品を、セイバーは所有している中で最も大きな鍋を作って大量に作っている真っ最中だった。
なにせ、この一品を完成させるのに三日――全力で魔法を使って短縮しても二日はかかる。
料理そのものが大好きなセイバーとはいえ、これだけのものを毎日恒常的に調理するには純粋にマンパワーが足りていなかった。
彼女の仕事は料理だけでなく、また自身の鍛錬や研究もあるのだ。
調理や家事を手伝わせるためのアイルーなのだが、セイバーの集大成といえるこのスープを完成させられるほどのアイルーはまだいない。
完全に混ざりきり、濁った鍋の中身の温める火力を上げて、仕上げにかかる。
加熱された牛ひき肉と卵白の過熱による凝固作用に伴い、濁りが固まり澄んでくる。
そこまでいけば今度はスープを濁さないよう、混ぜないようにやさしく一回一回、掬っては濾し器へと移していく。
もう完全に力仕事かつ根気の作業だ。
それをセイバーは無言で、無心のまま進めていく。
その間アイルーはテーブルクロスを変えて、お茶を淹れるための湯を用意している。
「ユキチ、今日はクロックムッシュ……いや、クロックマダムとフルーツのヨーグルト和えだ。私が先に軽く目玉焼きを焼いて形を整えるから、君はトーストを切り分けたらサラダ用の野菜を洗ってスピナーにかけてくれ」
セイバーの指示に、今はまだ体の小さい二足歩行する猫が「ナオウ」と返事をする。
家の掃除に関して完璧にこなすようになったアイルーに、セイバーは少しずつ食事の用意を教え始めていた。
主人の為の調理そのものはセイバーの楽しみであり譲る気はないのだが、主人から休日を設定された以上時折交替する相手が必要ではあった。
それに主人が席を共にして食事をしたいと言って来る以上、その間の給仕係も。
「……今日は外出の予定はないし、昼は軽めにしようか」
すでにちょっとした辞典のようになっている主人の好みや日々の摂取栄養量やカロリーを書き込んだノートを開いてここ一週間のメニューを再確認し、朝食と並行して昼食の仕込みも行う。
――トン……トン……トン……。
そうして朝食が出来上がった頃に、階段を下りてくる音がする。
「ふぁ……ぁ……」
「おはよう、マスター」
「えぇ……おはよう、セイバー」
「すまない。今日はスープの仕込みに手間取って着替えを手伝えなかった。段取りのミスだ」
「別にいいわよ。今日の飲み物は?」
「先日モニカが買ってきたお土産の茶葉と、それを私なりにブレンドした物が。あとは各種果実のジュース、ミルクにコーヒー、カフェオレに緑茶……まぁ、いつも通りだ」
「そう。……なら、まずは君の紅茶をもらおうかしら」
「了解した」
これもいつものやり取りだ。
たとえその日が主人の定めたセイバーの休日であろうとも。
その日、最初にマスターが口にする物を用意するのはセイバーが絶対に譲らない仕事だった。
ミリアルデがもっとも飲みやすい温度で紅茶を淹れて、彼女が好むカップに注いでテーブルに着いた彼女の前に差し出し、その横に適量を四角く固めた砂糖がいくつか入った小さな器とミルクの入った小瓶を置く。
日々小さな変化を繰り返していくこの屋敷で、これだけは変わらず毎朝繰り返される、いわば一種の儀式だ。
「たしか、今日もモニカは仕事だったかしら?」
「強くはないそうが、魔物が街道にかなり集まりやすくなっているらしい。おかげで傭兵団も集まっていて勧誘が鬱陶しいとメールが来ていた」
「……あの子、ひょっとして男運が悪いのかしら?」
「いや、剣を差しているから荒い男の目に留まりやすいだけだろう」
そして朝食を取りながら大したことのない話をする。
食事を終えて片づけを終えて、セイバーが日課の鍛錬に入るまでの団欒である。
「グランツ海峡に到着していい感じの人里があったら、彼女には普通の生活を体験してもらおうか」
「普通?」
「……いっそ、漁師でもやってもらおうか。竿や網はもうあるし、船は私が造ろう」
「君が作った物を使う時点でもう普通じゃないわ。どういう船を造るつもり?」
「そうだな。…………ふむ」
クロックマダムというハムとチーズにベシャメルソースをベースにした二段サンドイッチ。
更にその上から目玉焼きとチーズを乗せたモノにナイフを入れて、一口サイズに切り分けたそれを咀嚼し飲み込んでからセイバーはしばし考える。
「……
「あれって?」
「魚の形をした大型船」
「……………………………………魚?」
「ああ」
口の中の物を紅茶で喉の奥に流し込んだミリアルデは、従者の言葉も飲みこもうとする。
が、それは胃もたれ不可避の代物だった。
「緊急時には頭の部分が分離して、砲船として使えるし」
「釣りに使う船よね?」
というか、飲みこむ以前に咀嚼できない
「さらには左右両舷にヒレを展開して戦闘のための足場を確保できる」
「釣りに使う船よね?」
「海上レストラン船だ*2」
「釣りに…………この場合は一応関係あるのかしら。でも、海の上でのレストランなんて、客は?」
「海賊」
「それ客かしら?」
「……確かに。それに、海には海の魔物がいるから脅威度は高かったな……ふむ」
作ろうと思えばなんでも作れる従者は、再び一口サイズに切った
「……よし。まずは主砲や波動砲再現のための基礎理論の構築か……」*3
そして答えを得る。
「良く分からないけどまず砲撃から離れましょう」
「海上での戦闘ならば火力は正義だよ、マスター」
「釣り船の要素はどこにいったの」
正しいかどうかは別として。
「……そうだった。防衛面だけじゃなくそれも考えなくてはいけなかった」
「…………防……衛……?」
「釣り、か。……天候の予測に海中の魚群探知、大魚を釣り上げるためのパワーアシスト、なにより目当てのポイントに素早く行けて、かつ魚の保存……冷凍が最善か。それらを可能とするには、まず相応の魔力やエネルギーの出力と十分なスペースが……ふむ」
「火力の面も踏まえると、スティグロ*4の改造がベストか」
「……どうしても火力を付けたいのね」
「ああ、海は巨大な魔物も多いと聞くから――」
朝食を全て胃に収め、濃厚なチーズと半熟卵の黄身を紅茶で洗い流した時。
滅多に変わる事のないセイバーの表情が、僅かに歪む。
「? セイバー?」
「マスター、装備の用意を」
「……え?」
そして執事服からいつもの旅装に魔法で着替え、剣を取り出す。
ようやく修理が終わった、赤の勇者の代名詞の一つ。
神機を。
「戦場の匂いが急に広がった」
「何かが、来た」