ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
あの時に比べて少し顔立ちが変わった気がするが、それでも雰囲気は変わらない。
あの少年に続いて、あの小屋で過ごした二人目の人間。
半年という時間を共にした二人目の――同居人。
「体が動かせないのか……」
「その子は大丈夫なの?」
遅れて、月霊髄液を馬にして走らせていたミリアルデが到着する。
ズルリと独特の音を立てて月霊髄液を馬の形からいつもの半球状にして、体の周りでグルグルとさせている。
万が一に備えて、防御体勢に入っているのだろう。
「一応は。どうやら呪いを受けたようだ」
「……生きてはいるの?」
「ああ。……恐らく、生きたままじっくり食べるのに専念するための呪いだろう」
「悪趣味ね」
「魔族とはそういうものだ。ことさら、食いしん坊はな」
ベスティア。
七崩賢。
『獣牙』のベスティア。
三百年前に相打ち同然とはいえ叩きのめしたのだが、また活動を開始していたのか。
使う魔法も随分と変わっているようだ。
(……幸い、
空間倉庫を展開し、小瓶を取り出す。
この呪いは肉体の動きを止めるものだが、内蔵の動きにはさほど干渉していない。
内蔵や脳まで完全に止めたら、それはそのまま『殺す呪い』だからだ。
三百年前、多くの人間を捕らえて生きたまま腸を貪っていた奴が求める『生餌』にはほど遠い。
瓶を空けて、中身に『液体にトロみを付ける魔法』をかけてから自分の口に含んで、フランメに口付ける。
少しだけ顎を持ち上げて舌を差し込み、反応しない彼女の舌の上に軽く左右を巻いた自分の舌を乗せて、流れを止めていた液体を流し込む。
予想通り、嚥下する気配がない。
彼女の舌の上に広がる液体を舌を使って喉へと押し込む。
一度ではうまくいかなかったが、舌の先で薬に込めた解呪魔法が徐々に作用し始めているのを感じる。
喉や舌の働きを直に取り戻すだろう。
一度流し込んだ薬が零れないように注意しながら口を離して、もう一度新しい薬を口に含んでまた繰り返す。
二度。三度。
そして四度目で、ようやく喉を通ってくれた。
コクリ、という小さな音と共に、薬が彼女の中へと流れ込んだ。
「……もう大丈夫だ。フランメ」
眼は虚ろだ。
奴の呪いの影響がまだ強いのだろう。
――……ぅ…………ぁ…………。
小さく、フランメの呻く声がする。
同時に、それまでダランとしていた腕に僅かながら力が入り、プルプルと震えながらその腕が持ち上がり、
森の向こう側を、示していた。
指が上手く動かず、ただ腕を突き出しているようにしか見えないが、
意図する事は、伝わった。
「ああ、分かってる。分かってるよ、フランメ。大丈夫だ」
そっと、震えるその手を取って、包みこむ。
呪いの副作用か、冷えたその手を、両手で包んで温める。
「……君と過ごしていた半年の間、ずっと恐れていたことがあった」
手を通して身体を適度に温める魔法を発動させて、その魔力で包みこむ。
「私は君に、
急に温めると冷えた血液が心臓に流れ込んで負担がかかる。
手と同時に胸部にも強めに魔法をかけておく。
「私は一度死んで、再起動を果たした個体だ。ゆえに、本来与えられる名を持たない。この身体の個体名である『ヴィーラ』は、彼女自身の物であるから……私は私自身を識別する名称を持っていなかった」
そうしていると、手のひらに感じる熱が段々彼女本来の物に戻って来た。
「ゆえに、私は私を世界の異物と判断していた。あの少年にも、『姉ちゃん』と呼称を固定することで、名前に関して触れないように誘導していた」
もう、大丈夫だろう。
「抑えていても嫌悪の対象に入ってしまう同胞はもちろん、人間を含むその他種族とも、関われない存在だと思っていた」
「――君が、来るまで」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ぼんやりとした視界と、妙な浮遊感。
そして心地よい熱――あの小屋で酔っぱらったふりをした時に、毛布で包まれた時のような……温かさを感じる。
「君は、名前のない……理から外れている私という例外個体と、普通の生活をしてくれた」
「普通に、共に食事を取って、共に労働して、共に話して……「おやすみ」を言って別れて、また朝を迎えて……」
「あのなんということのない毎日が、私の目を外へと向けさせてくれた」
「君と過ごした半年間が、私の背中を押してくれた」
徐々に、少しずつ。
魔族の呪いを受けてぼんやりしていた五感が戻って来た。
――また酔っぱらったのか君は……。
――ベッドまで運ぶからしっかり捕まってくれ。ほら、毛布で包むからな?
あの時と同じように、温かい。
「だから……大丈夫だよ、フランメ」
「君の守りたい物は、私が守りたい物でもある」
「私が力を振るうに足る理由がここにある。私が剣を振るうに足る理由があの町にある」
「もう一度、口にしよう。もう一度、宣誓しよう」
「もう大丈夫」
「――私が来た」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今現在、魔王軍の軍勢に対抗するための主力は北に向けて進軍していた。
赤の勇者の活躍により有力な魔族は数を減らし、その後の活躍で魔物も追い払われた。
ゆえに主力は激戦区へと送られ、問題を解決するための雇われ兵が増え、
「う、うわああああああああ!!」
「もう駄目だ! 逃げるぞ!!」
「馬鹿者! 持ち場を離れるな!!」
「うるせぇ、こんな数どうしようもねぇだろうが!!!」
こうして守りが崩壊するのは自明の理だった。
突然現れた魔物の群れ。
否、もはや軍勢と言って差し支えない数の『波』に、ほとんどの人間は戦意をへし折られていた。
城壁の中に逃げ込もうとする者。
比較的薄く見える箇所を突破するために無謀な突撃をする者。
上官の指示を無視して無理やり城門を閉じようとして取り押さえられる者。
薔薇園の結界に気付き、あわてて駆けこむ者。
一部は必死に統制を維持しようとしているが、歴戦の兵士でさえ無残な死が脳裏を過ぎる状況で、冷静でいられる者はいなかった。
とある、力強い蹄の音が響くまで。
――フリーレンさん、一度周囲の敵を薙ぎ払ってください!
――ん。わかったよ。
とある、魔法の炎の熱が周囲を焼き尽くすまで。
魔法による炎によって、城門前に殺到していた魔物たちが焼き払われ、その炎を裂いて白馬が飛び出す。
その背から、人影が飛び出した。
大きな、大きな跳躍だ。
まるで空を飛んでいるかのような跳躍をしてみせた人影は、細長い片刃の剣を握りしめ、
「烈風!!!!!!!!!」
とてつもなく強烈な、風の一撃を撃ち放つ。
鋼鉄の鎧すら撃ち抜く固い弓を用いて、なお貫くことが難しい魔物の頑強な毛皮ごと押しつぶし、魔物の濁流の中に巨大な穴を空ける。
「皆さん、落ち着いてください!!」
着地すると同時に返す刀で二撃目を。
真横に放った風の鋭い刃により、更に殺到する群れの先頭集団を文字通り
それまで支離滅裂な行動が入り混じっていた集団の動きが、ピタリと止まる。
「大丈夫です! 私が最前線を維持し続けるので、その間に避難を! 避難が難しい人は薔薇園に入って! あそこは
その言葉に、空気が先ほどとは違う方向にざわつく。
この場にある薔薇園とはただ一つ。
『赤の庭園』と呼ばれる物のみ。
それは造った者の呼び名から取った名である。
そして今、吟遊詩人が方々で歌として語り継いでいる、『風の刃』を操る剣を振るう女性が現れた。
歌の言われている通り、ある『勇者』の弟子を自称して。
「モニカ、私は?」
「薔薇園の中から援護してください。お師様の結界は一種の魔力による要塞で、外からの攻撃は通さないけど内側からは魔法が通るようになっているんです」
「……そうなの?」
「元はともかく、今はミリアルデ様を守るための結界ですから。ミリアルデ様が反撃も出来るように改良している真っ最中なんです」
「……そっか。うん、分かった。イーグル、お願い」
先ほどまで少女が乗っていた白馬に乗っているエルフの少女との会話の中で、かの勇者を連れているという『聖女』の名前まで出て来た。
エルフの少女が自身のまたがる馬の首を撫でると、白馬が踵を返して薔薇園へ方へと駆けていく。
「……勇者だ」
どこに向かっていいか分からなくなっていた、雇われ兵の一人がボソリと呟く。
「勇者一行だ……」
魔物に足をへし折られ、立ち上がれあかった兵士が槍を付いて無理やり立ち上がる。
同時に、遠くの方で爆発音が響く。
突然現れ、城塞都市ヴァーレを包囲している魔物の群れの一角が、なにかの光線によって焼き尽くされ、包囲網が徐々に削り取られている。
「お師様も来た。ならば、もう大丈夫」
その光景を見て、兵士達の前に立つ女性剣士は、使い手が限られる『カタナ』を――とある勇者と、その一行の剣士の象徴として徐々に知られるようになった珍しい剣を掲げる。
「皆さん! もう少しだけ耐えてください!! 大丈夫です!!!」
「――『赤の勇者』は皆さんを見捨てません! 決して! だから――」
「あと少しの間! どうにか皆さん死なないでください!!」
そうして掲げたカタナを中心に、風が吹く。
かつて『赤の勇者』が込めた退魔の風は、竜巻となって周囲の魔物たちを――城壁を押し倒さんばかりの勢いだった魔物の群れを僅かに後退させる。
「赤の勇者、セイバーの弟子。モニカ!」
「しばらくの間、皆さんの盾を務めさせていただきます!!」
城塞都市ヴァーレ防衛戦。
後世に、『赤の勇者』と『剣聖』モニカの伝説の一つとして語り継がれる戦いが始まった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「名無し!」
「グラオザームから聞いていないのか?」
吹き飛ばした後を追い、戦場へと到着する。
ベスティア。
かつて戦い、あと一歩の所で取り逃がした女。
「今の私には名前がある」
「名前など……!」
「そうだな。あまり重要ではない」
――輝剣の円陣*2
人ならば美人と呼ばれるのだろう敵を相手に、魔法を放つ。
蒼く輝く魔法の細剣を撃ち込み、相手の動きを牽制する。
「――
魔族の動きはそれで止まるが、自分のすぐ後ろに突然気配がする。
三体。
巨大な牙を持つ、鬼のような魔物が。
倉庫から、小さな金属筒を引き出す。
「――サイ・ブレード」*3
原典ならば精神力と引き換えに光の刃を生み出し、またそれを銃のように撃ち出す装備。
この身に牙を突き立てようとしていた一体を発生させた刃で焼き切り、その亡骸を足場に跳躍する。
「もう一体」
精神力ではなく、専用に作り出した魔法の刃を射出し、鬼の額を撃ち貫く。
時を同じくして更に多種多様の魔物が宙に漂う魔力から精製されるが、その時にはもう片方の手で武器を抜いている。
宝石の様な明るい青の小剣。
「没落した王家の剣、解放」*4
――ギュリアルクロウ。
取り回しのいい、一対一から対多数まで広く使える武器として作った魔法剣。
振りやすい軽く鋭い剣であるのと同時に、魔力を込めて掲げれば宙から多数の光の剣を振らせるアーティファクト。
それによって新たに生み出されていた魔物達はその肢体を貫かれ、霧散する。
「無駄だ、名無し。かつての私とは違う」
「今の私はセイバーだ」
「どうでもいい。お前はお前だ」
「お前にとってはそれでいい。私の名乗りは、只の宣誓だ」
「……ふん」
だが、その霧散した黒い魔力は再び宙に集まり、一度黒い塵の塊となってからまた姿を変える。
今度は多数。
先ほどのような大きい物ではなく、小さな犬のような魔物を大量に。
「しかし運がいい。話を聞いて、是非ともお前の肉を喰らいたいと思っていた」
「……私の?」
「貴様は、その体を聖別とやらを行い変化させたのだろう?」
やはり、魔族は自分の一撃が致命的になり得ると知っている。
魔法で生み出した魔物を、己の盾とするように配置してベスティアは続ける。
「実に興味深い。お前の肉を喰らい、血を啜り、魔力共々己の内に取り込めばどうなるのか」
「肚を壊すぞ。叶えばな」
塵と化しつつあった最初の三体が、その体を再生させる。
文字通り、再構築したのだろう。
「ふん……。貴様の魔道具も面白いが、聖別してからの魔法はお前の血と魔力を扱う物と耳にした。つまり、これまでのお前に比べて消費量は尋常ではないはずだ」
確かに。
従来の戦い方ならともかく、もっとも使い勝手が良い血闘術はそれなりに消耗する。
単純な戦闘ならば気になる程ではないが、目の前の敵は事実上無限の戦力を作り出せる。
「人間など放置して構わない。エルフ共も餌にはちょうどいい」
恐らく、この三百年でそう調整したのだろう。
とにかくこちらが疲弊する程に、大量の敵をぶつけ続けるようにと。
「時間がたてばたつほど、循環する魔力は増えるばかりだ」
――
更に生み出された多種多様の魔物によって、完全に包囲される。
「さぁ。魔力を流し、その肉を寄越せ。その血を、その臓物を。魔族でありながら人に近い肉を持つという、お前の味を私に捧げよ」
そしてベスティアが指を鳴らし、無限に再生する魔物の群れが飛び掛かる。
――ふぅ……。
「
――