ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「……なんだ……あれは……」
魔王軍にとって、この一戦は必勝を約束されたものだった。
近隣のエルフの里は片っ端から襲い、喰らい、焼き払ったために魔法を使える者は少ない。
数だけは多い人間の兵達も、北方戦線に引き摺りこんだためにこの城塞都市に残る鍛えられた兵は少ない。
事前に一人、物珍しい人間の魔法使いとエルフが一人ずついる事が判明していたがそれだけだ。
たった二人ではどうしようもない。
ましてや、魔法を使わぬただの人間の戦士――それも筋力で雄個体に劣る雌ならばなおさら。
――牙突!!!
――ぐおおおおおぉぉぉおぉおぉおぉぉぉお!!??
だが、その取るに足らないはずだった個体にまた同胞が討ち取られた。
城門を突破する処か、近づく事すら出来ない。
「あれは本当に……人間なのか?」
一人の人間の雌が剣を振るうたびに風の刃が飛び交い、七崩賢がその魔法で生み出した強力な魔獣が立ちどころに斬り裂かれる。
たった一匹の活躍で他の脆い人間共まで勢いを吹き返し、列を組んで合成魔獣を押し返し始めた。
ならば奴をと、腕に覚えのある同胞が先頭の女を襲う。
殺してその肉を喰らい、かつあの美しい『風の魔剣』を己が物にしたいという欲があったのだろう。
だが――
「すでにあの人間一人に三体もの同胞が討たれているなぞ……っ! あり得るのか!? このようなことが!!」
その悉くが討ち取られた。
確かに、あの個体に挑んだのは将軍の位には手が届かない者達だった。
だがそれでも魔族。
その魔力で、その腕力で人間の頭蓋を砕き、心臓を撃ち貫き、その
「さぁ、どうした魔族共!! 魔物共!!!」
女が――吠える。
これまで見て来た、どんな戦士よりも強い個体が、すぐにも折れそうな細い剣を掲げ、その刀身を日の光で煌めかせる。
「これだけの数で攻め寄せて未だ城門に一匹たりともたどり着けず! 一体たりとも触れられず! これで魔王『軍』とは笑わせる!!」
どんな戦士であれど、扱う得物は剣なり槍なり、弓でさえ射程がある。
高い筋力を持つドワーフならまだしも、人間のそれは非常に限られている。
だが、この個体は違う。
「お前達魔族に誇りがあるのならば前に出るが良い!! それとも――」
「その膨大な魔力はただのお飾りか!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(お、気配が変わった。やっとあの指揮官っぽい奴を釣れたか)
お師様から、剣を握って何度か実戦を繰り返した頃から言われていたことがある。
――モニカ、知っての通り私は算術を主軸に教えているが、同時に君は多くの書物を読むべきだ。
――えぇと……たとえばどういう?
――騎士物語とかだ。
――……ちょっとお偉い領主や村長辺りが娯楽で買ってたりする、無駄にお高いアレですか?
――そうだ。
「調子に乗るなよ、人間。その魔剣の力さえなければ貴様など……っ!!」
(数頼りの魔物はともかく、さっきから魔族を斬る時は普通の剣術しか使ってないんだけどなぁ)
――……意味、あります? いえ、興味はあるんですけど。
――先日、君は商隊護衛を経験した。その背中に人間を庇っての戦いを。
――はい。
――どうだった?
――………? と、言いますと……
――商人達は君の言う通りに動いてくれたかい?
――……いえ。待てと言っても勝手に動いたり、危険だと言う所に逃げようとしたりで大変でした。
――そうだ。すでに君はそれなりに剣を振るえる。だが剣だけでは戦闘以外の事には役に立たない。
「警邏隊長さん」
「ハッ! いかがされた、『剣聖』殿」
どうしよう。なんか、気が付いたら私出世してる。
すんごい出世してる。
私程度で剣聖ならばお師様はどうなるんだろう。……武神?
魔法無しの竹刀戦でも未だにお師様から一本取れたことないのに。
「今から敵の首魁――いえ、それは不明ですが、とにかく今この場にいる敵指揮官を討ち取ります」
とはいえ、今そんな事を言ってもしょうがない。
――君が剣を、誰かを守るために振るうのであればこそ、君は言葉をより深く学ぶべきだ。
――言葉を、ですか。
――無論、君の実際の働きや知名度も大切だろう。だが、それらと併せて言葉の力は無視できない。
――魔族の貴女が言うと説得力が凄いわね、セイバー。
――マスター……いや、まぁそうだ。言葉の力という物は、攻防双方に於いて決して安く見てはならない。
――なるほど。
――というわけで、まずはこれだ。
――……なんです? その冊子?
――『マオお姉さんの海兵隊式罵り手帳』(仮)だ。*1
――…………マオお姉さん? かっこかり?
――中身が不明なために、私の持つ知識を総動員して記録しただけのものだから(仮)だ。記録に残っていた軍隊式の罵倒を全て記録している。
――それ役に立ちます!!?
――相手を挑発したり、いつか君が弟子を持った時に心をへし折るのに使えるだろう。
――弟子の心をへし折る意味は!!!?
色々間違っていた気がするし、大声で復唱させられたあの下品な罵倒の数々を使う日は絶対に来ないと胸に誓っているが、それを切っ掛けに様々な式典や戦場での口上を調べてはみた。
私からすると、飾る意味はあるのかと思う。
言葉で飾らず、ただ行動とその背中だけで生きる伝説となったのがお師様だ。
飾り立てた言葉など、お師様のような真心込めた行動にはとても及ばないと思っているのだけど……。
「その間、魔物への圧がどうしても減るのでこっちに押し寄せてくるでしょう。大盾隊を中心に守りを固めてください」
「承知いたしました」
「何かあればお師様の薔薇園へ。魔族の魔法ならまだしも、小型から中型が主軸の魔物らでは城門の突破は難しいでしょう。兵を無駄に損失するくらいならば一度引くのも手です」
「……ティナ様を救ってくださった『赤の勇者』の御力を疑うわけではありませぬが、兵力を振り分けなくていい程に薔薇園の結界は強力な物なのでしょうか?」
「仮に包囲されて常に攻撃され続けたとしても、余裕で耐えます。頑強な鱗を持つ竜でも突破は不可能な代物なので」
その効果は良く知っている。
精神や魔力そのものに干渉するタイプの呪いですら弾く絶対防御結界。
あの化け物に突破されてから急ピッチで改良に改良を重ねた結果、結界を張れる範囲こそ酷くせまくなったけどその分絶対の防御となった。
先日その掛け方を記した魔導書を書き上げて、手持ちの
「なのでその間、城壁上の弓兵と協力して城門を適度に守ってください。指揮官を討ち取った後は、私がまた城門の守りに入ります」
あのお師様の守りがある以上、絶対の逃げ場という強いアドバンテージがある。
それに、恥ずかしいけど『立派な騎士』を演じたおかげで兵隊さん達は慌てず立て直してくれた。
魔族は私の挑発で怒り狂って魔力を練り上げているけど、その狙いは明らかに私一人。
(これで負けたら、恥だな……)
魔族の魔法を侮るつもりはない。
呪いという物は極めて危険で、場合によってはお師様の呪い避けを抜いてくる物もあると知っている。
まずお師様の魔法を見て侮れる奴がいたら大したものだ。
その上で――
(コイツからは、お師様やリヴァーレのような強者の匂いがしない)
死臭は確かにするが、あの蟲ほど濃いわけではない。
魔法使いじゃない私でも魔力を感じるのが容易くて、狙いも手の内も透けて見えている。
なにもかもが中途半端だ。
「来なさい。己を強者と勘違いしている山羊風情」
こんな魔法頼りの奴に、お師様の教えを受けている私が負けるなんて、
「――本当の武という物を見せてあげます」
絶対に許されるわけがない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これは……なんだ!?」
名無し。
三百年前に魔王軍前線部隊の一つを、たった一体で壊滅させた裏切り者。
魔族でありながら魔王に反旗を翻し、ここ数年の間に多くの将軍を討ち取っている異端者。
魔族でありながらエルフや人間と共に生き、魔族を狩る者。
『赤』の勇者。
(その魔道具の数々が脅威だというのは聞いていた。無様に逃げ帰ったグラオザームから、血闘術なる技を得た事も聞いていた。その特徴も……っ)
相当に『名無し』という存在を調べ上げていたソリテールからも、各種魔道具の特徴や血闘術は聞いていた。
特に、先日謎のエルフの襲撃を受けて破壊された――使えなくなった魔道具がどれも特に強力な物だというのも聞いていた。
実際、恐れていた魔道具――文字通り全てを薙ぎ払う強力な魔術光線を放つ青いスライムの姿は見当たらない。*4
(私の魔法の天敵と言える物はないのだ。ない……ハズだったのに……っ)
「その剣はなんだ、名無し!!」
とても剣ではない。
斬るための形をしていない。
抜き放ったその時は普通の剣。
名無しが好む片刃の細剣だった。
だが――
――面を上げろ。
奴の一言で、剣がまるで生きているように形を変えた。
直角に、折りたたむように二度折れ曲がった。
斬る形状ではない。
なにせ刃は折りたたまれた内側にあるのだから。外側にあるのはその反対。
もはや剣ではなく鈍器に等しい。
――クゲェェェェェェェェ……っ
――ギィィイィィィィィィイイィィィィ!!!
だが、その剣とも言えない剣に殴られた魔物が、悉く地面に沈んでいる。
比喩ではない。
一度斬りつけられれば動きが各段に悪くなり、もう一度斬りつけられれば地面に貼り付けられ、もう一度斬りつけられれば体を壊しながら地面の中に徐々に沈み込む。
(いや、それはいい。名無しの作る魔道具が異常な性能なのは知っている。一本でも手に入れば人間を瞬く間に食い尽くせると、半端な同胞らが目の色変えて求める品。だが――!)
「まるで、頭を垂れているようだろう?」
『勇者』がその剣をまた構え、斬りかかって来る。
「――ちぃっ!!!」
反射的に魔物の一体を盾にして距離を取る。
仮に斬りつけられた所で、死にはしない。
だが死なないだけだ。
掠っただけでも、この一刀の一撃は致命的な物となる。
「銘は『侘助』。君も気付いているように、これは斬りつけた対象の重量を重くする剣だ」
敵は一体。所詮一体。
故に大量の魔物をぶつけて手足の一本でも捥ぎ取ってから肉に口を付けようと思えば、その大量の牙も、爪も、名無しの肉は愚か、肌にすら届かない。
(300年前とは全然違う! 剣の腕もそうだが、奴は己の肉体を犠牲にしても確実に敵を屠る戦い方だったはず! なのに!)
尋常ではなく強くなっている。
あのリヴァーレが死にかけている姿を見た時は、とうとう老いぼれたかと思ったが――
どれだけの質量で攻撃を賭けても、魔力弾を打ち込んでも、
掠りすらしない。
「一度切れば倍、二度切ればそのまた倍」
「ふ、
ここにいる魔物は無力化されているが、向こう側の前線では多くの造魔が打ち倒され、魔力へと戻っている。
その魔力を回収し、渾身の魔力を練り上げる。
「焼き殺せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
象るのは竜。
その姿形だけで人間の軍勢を怯えさせ、散り散りに四散させる暴虐の象徴。
――飛天御剣流……
魔族ですら時には食い殺す存在、それを自らの手で強化・調整した最強の個体を前に、それでもこの名無しは動じない。
放たれた業火を魔法で防ぎ、直後剣で火を切り裂き、
――九頭龍閃*5
竜に向けて跳躍すると同時に、その剣技を発動させる。
人間が剣を振るう時に良く見かける9種の動き。
それらをほぼ同時に放つ絶技。
これが剣や斧なら、とっくに細切れになっているだろう連撃はただ竜の肉体を打ちのめし、次の瞬間には地面に叩きつけられていた。
基礎となる骨格にかなりの魔力を注ぎ込んで頑強に作ったハズの肉体は、翼から手足までその重量で内部が粉々になっているのだろう。
体中のあらゆるところから、骨が砕ける音が鳴り響いている。
「やがて重みに耐えかねた相手は地に這い蹲り」
目の前に獲物がいるのに、竜が炎を吐く事はおろか、口を突き出し噛み付く事すら敵わない。
かろうじて骨がまだ耐えている手足を使い、体を起こそうと必死にもがいている。
だが、その細く長い首と頭だけは――
「侘びるように
名無しの奇怪な剣に――その内側の鋭い刃の前に出し出されていた。
余りに大きく、その歪な剣の内側には入りきらない。
だが、軽く引っ掛けるには十分で――
「故に――侘助」
軽く鱗にその刃で傷が付いた瞬間、自らその刃に首を捧げ、名無しはその首を掻き切った。
「おのれ――
巨体故に、構成している魔力の量も豊富だ。
再構成は容易い。
(いくら質を高めた所であの剣の前では無力だ。ならば、やはり数で――!)
構成するのはより小型の魔物。
最低限脅威となりうるサイズの中で、できるだけ小さい個体を大量に精製する。
「……あぁ、やっぱりそうか」
尋常ではない戦力。
これが人間の軍隊ならば疾うに取り乱している。
だが、名無しは竜を前にした時と変わらず、平然としている。
「お前の魔法は魔力を使って思い通りの魔物を造り操るが、一度造り出したら倒されるまで分解や再構成は不可能なんだな?」
その魔力を、爆発させる。
「そして300年前と変わらず、お前は臆病だ。この魔法の本質は無限の軍勢ではなく無限の動く盾。だからモニカがいるとはいえこの数での攻城にこうも手間取り、なれど保身にだけは長けている」
「なにを……――っ!」
「魔族にとっての魔法とは、ある意味で第二の言語であり自己の表現だ。あるいは口にする言の葉よりも雄弁に、担い手の内面を語る」
精製するのはワイバーン。
龍よりも小さく、故に小柄で、空を飛んで鋭い牙や爪で攻撃する個体の群れ。
とにかく、少しでも名無しを削るために、一匹でも多くの魔物をつくりだして襲わせる。
「
それを前に、名無しはまた黄金の渦を発生させて新たな剣を引き抜く。
怪しく輝く両刃の剣。
剣に興味を持たない自分でも見とれる程、美しく輝く刀身の剣。
それによって放たれた斬撃が、造り出したワイバーン達を斬り刻み――だが崩れない。
切り口からはその血は噴き出さず、ただ赤い霞となって宙を濡らしている。
死亡して魔力の塵に戻るのではなく、ただ戦う力を失い地面に叩きつけられ、もがいている。
「来るがいい、ベスティア。持てる全てをこの獣の身にぶつけてみせろ」
「我が主、ミリアルデへの忠義の下に、そして我が友フランメへの誓いの下に」
「その
〇ガードルオープナー 出典:魔術師オーフェン~無謀編~
『活殺の銘』という二つ名を持つ魔剣。
獲物を打っても、その傷口から血でなく露しか漏らさなかったと言われる剣。「活殺」の言葉通り、相手を殺さずに戦闘能力だけを奪う。