ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「つまり、ここを仮拠点にしてもっと人がいなさそうな、静かな場所を探そうとしていたら魔族に見つかって交戦したのね?」
「そういう事になる」
「……君も魔族なのに?」
「軍に入る事を拒否したら、同族でも殺していくのが彼らの作法らしい」
「なるほど」
一度血液を取り出し、魔法をかけて再び身体に流し込む作業を終えた魔族は、再び謝罪をしてしばらく身体を休める事に許可を求めてきた。
なんというか、やけに腰が低い女だ。
魔族としてはもちろん、エルフの中でこんな奴は見たことがない。
「幸い、交戦した地域はかなりの遠地だった。念入りに魔力探知を行い、隠れて追跡している個体がいないか確認したから安全ではある」
「わざわざ隠れる魔族がいるかしら?」
「ここに」
「……なるほど、確かにそうね」
小屋の中は、最後に私が来た時よりはるかに快適になっていた。
本当になにもなかったハズだったのに、今ではテーブルに椅子、ベッド。
果てには、表から見た時には分からなかったが暖炉や浴室まで追加されていた。
一時拠点どころか、今日自分がここに来なかったら普通に住み着いていたんじゃないだろうか。
(そしてやっぱり、エルフの里に気付いているわけではないのね……)
近年魔王軍はエルフに対しての敵視を隠していない。
それがどういう理由にせよ、エルフは見つけ次第殺している。
そのためエルフの里では、強力かつ隠密性に長けた結界を張っている。
もしやと思ったが、この魔族がそちらにいく気配はなさそうだ。
……あるいは人がいないと判断してそちらの方に行ってしまうかもしれないが、この魔力量ならばエルフの魔法使い複数でなんとかなるだろう。
エルフの里というだけあって、魔族単体でどうにかなるような場所ではない。
「本来ならば即座に出ていく所だが、私が交戦した魔族は少々厄介な連中だった。一応対策は施したが、出来る限り態勢を整えたい」
「どんな魔族?」
「周りを固めていたのは普通の――少々面倒な将軍級下位止まりだったが、指揮していた個体が強力な精神魔法の使い手だった」
「……無力化されたの?」
「幸い、こちらの武装の一つが効果的だったので対応は出来たし、それなりに深手を与えたが……念のためにさらに手札を増やしておきたい」
……念のため、自分も対策の魔力障壁を自分に掛けておくか。
別に死んでも構わないとは思っているが、進んで死にたいとは思わない。
食い殺されるのは猶更だ。
「それともう一人、私にメタを張るような魔族がいた。……こちらも並行して対策は練ったから、大丈夫とは思う」
メタとはなんだろうか。
聞いてみようかとも思ったのだが、やはりどうでもいい。
「それでその『対策』で体力を消耗しきったから、しばらくはこの小屋で休みたいと」
「動けないわけではないが、今戦闘になったら全部吹き飛ばすか最低限の自衛かの二択になってしまう。……すまない。小屋の使用料として、ちょっとした野良仕事ならば引き受ける」
「なるほど」
さて、どうしたものか。
エルフとしてそれなりに長い時間を過ごしている。
当然、魔族という存在も良く知っている。
人を真似て同情や憐憫、あるいは友情を誘い油断させて喰らう魔物。
(血の匂いは確かにするけど、これは先ほどまで自分の血液を使って何かしていたせい。何人も食い殺している大魔族特有の死臭はしない)
「……ちょうど、私はこの小屋周りを本拠にしようとしていた所なの。少しでもここらを住みやすくしてくれれば、それでいいわ」
「住みやすく、とは具体的に?」
「見た所、君は物を作るのが上手なのでしょう? 家具しかり寝具しかり。それに整地も」
とりあえず様子を見よう。
弱っているのは事実だろう。
「なるほど」
そして私の提案に、魔族はコクリと頷く。
「得意分野だ。任せて欲しい」
魔族君――とりあえずはそう呼ぶことにした――に仕事を依頼して、一夜が明けた。
魔族君はまず、昨晩の内に二階を私の部屋に作り変えた。
私の逃げ場を塞ぐためかとも思ったが、単純に先に二階をイジっていたからのようだ。
今は一応塞いであるが、魔法で内からならば吹き飛ばせる緊急脱出用の出口まで用意されていた。
優に二人は寝転がれるだろうサイズのベッドには天幕まで付けられていて、軽い飲食や作業、読書のための小さなテーブルに丸椅子まで備えられている。
床には保温の魔法が掛けられていて、朝に裸足でベッドから降りても冷たさに眉を顰める事はない。
ベッドの側と入口部分の壁に魔法の発動と停止を切り替えるスイッチという石板が貼り付けられている。
「……本当に、こういうのが得意なのか。魔族君は」
同様に天井にはケーコートウと呼んでいた魔法のランプが設置されていて、これもスイッチ一つで付けたり消したり――というよりはスイッチのつまみを左右に動かす事で明るさを調整できるようになっている*1。
魔道具の作成に特化していると話していたが、どうやら想像以上の腕らしい。
今の私の部屋だけでも非常に快適だ。
(さて、一階はどうなっているのか)
階段を下りる前、自室のドア――念のために張っていた結界には、解析された痕跡どころか触れた気配もなかった――を開けた時点でいい匂いが漂ってくる。
はたして、階段をパタパタと降りると、
「……魔族君」
「おはよう。なに?」
「昨日はそんなものなかったと思うけど、その流し台や火が出る石板は……何?」
「システムキッチン。五百年近く前の試作型だから見栄えが悪くて申し訳ないが……他を整えてから新調する」
寒々とした倉庫が、立派な食堂になっていた。
昨晩の時点では彼女の武器が立てかけられていた場所が、完璧な調理場になっている。
反対側の隅っこに彼女のベッドが未だ残っているが、ただ広いだけの一階の半分がダイニングとして完成していた。
「……君は本当に魔族なの?」
「? 角があるだろう」
「……そうね」
そのキッチンとやらの前で、昨日は傷だらけだった魔族がエプロンを付けて調理器具を魔法で複数動かし、出来上がった品をテーブルへと並べている。
「それより、朝食はもう出来ている。飲み物は何がいいだろうか?」
「何があるのかしら?」
「普通の水にミルク、紅茶にコーヒー、ココア、ジュースはオレンジとアップル」
頭が痛くなるほどに至れり尽くせりだ。
昨日の今日でなぜそれほどに選択肢が用意されているのか。
「……紅茶を頼むわ。ミルクを少々」
「了解した。砂糖はテーブル上の瓶に入っている。自由に使って」
妙に手際よく用意するその姿に、一応は持っていた警戒が一気に緩みそうになってしまう。
本当にこの子はなんなんだ。
ついでに食事も美味しかった。
昔、人の町に行った時に寄ったレストランよりも味が上な気がする。
だが、食事の前に女神へ祈りを捧げるのは魔族としてどうなんだ。
朝食を終えたらさっさと洗い物をして、魔族君は外に出る。
何をするのだろうと見ていたら、どうやら彼女の日課らしい鍛錬が始まった。
彼女はたまにいる、魔法と同じくらいに武技を鍛えるタイプのようだ。
魔力強化をせずに、拳を決まった動きで近くの崖の壁面に叩きつけている。
足を肩幅程に開いて、両手を胸の前で合わせ軽く頭を下げて、その後空気を吐くよう鋭い音と共に拳を叩きつける。
最初は動きを確認する様にそれを数回繰り返す。
だが途中で徐々に早くなって、最終的には目で追えない速さにまでなる。
その動作の全てに魔法の発動は一切見えない。
一瞬で崖に横穴が空き、その後もただ鋭く風を切るような音が続いて――最終的に、今度は足を閉じて背筋を伸ばし、そして手を合わせて深く頭を下げる。
頭を下げるというのは確か謝罪の意味だったと思うが、あの魔族は何に頭を下げているのだろう。
その後、やや長い片刃の細い剣――『ヤマト』*2という銘らしいそれを日が高くなるまで振り回し続ける。
先ほどの鍛錬に比べて、こちらには不満があるようだ。
『斬撃を三本出す所までいけない』と言いながら、ひたすらに剣を振り回していた。
一本しか振ってないのに三本になるはずがないだろうに、なにかこだわりでもあるのだろうか。
ただ、その太刀筋は素人目に見ても美しい物だった。
付け焼刃の剣術というわけではないだろう。
内心で彼女への警戒心が、少し上がる。
そして軽く風呂場で汗を流すと、すぐに昼食作りに入る。
どうやら彼女の空間倉庫の中身はかなり豊富らしく、食材は全てそこから取り出していた。
なんでも、『食料
実際、口にした物は問題なかった。
ベーコンとレタス、トマトのサンドイッチにパニーニというパンのサンドイッチを二切れずつ。
料理の知識はどれだけあるのかと尋ねてみたら、空間倉庫の中から彼女が手書きで作ったレシピ本をドサドサッと出された。
……多分、四十冊以上はあったと思う。
それでも一部だけだと言う。何百年もの研究の成果だと。
「多分、魔法と同じくらい研究はしていたと思う」
「一人で?」
「酒飲み料理人のレシピが少し残っていたから、そこから発展させた」
「酒飲み? ……いえ、まぁいいわ。なら食材は?」
「畑に植える物を時折変えたりしてアレコレ試していた」
「畑。…………そう」
「ここらにも畑や果樹園を作ろうと思うが問題ないだろうか。収穫も自動化する方法が作れるか試したい」
「…………任せるわ」
長命種は長い人生の中で何かを探求する者が多いが、この魔族君ほど広く手を伸ばす者は珍しいだろう。
昼食の後は、仕事に移る。
つまりはこの小屋の改善・改修だ。
一階も完全に床暖房にして光源も確保した後は、細かい機能や家具を完成させるらしい。
一階の改修を終えた後に彼女は、見たことない妙に伸びるが頑丈な布や綿と、大量の……なんだろう? 少し大きめの、何かの粒と言えばいいのだろうか?
とにかくそれらを大量に倉庫から取り出し、彼女が魔法を使うと、瞬く間にフカフカのソファーになった。
自在に椅子を作る魔法というらしい。
五十年かけて作った魔法で、素材さえあればサイズも高さも自在に好みの椅子が作れるが消費魔力が大きいとのことだ。
何を考えてそんな魔法を作ったのだろうか。
ただ……座り心地は悪くなかった。いや、素晴らしかった。
しばらく座って背中を預けている内に、魔族がすぐそこというのに夕食時まで無防備に眠ってしまう程に快適だった。
彼女に毛布を掛けられても気付かなかったとは相当だ。
尋ねたらビーズソファーという物らしい。
私が心を動かすことはもうないと思っていたが……これは良い物だ。
「前に同居していたフランメという女には、人を駄目にする椅子と言われていた」
「……正直、分かるわ。……作り立てなのに涎で汚してしまってごめんなさい」
「構わない。これは貴女のために作った物だ。後で外装を洗濯しておくから問題ない」
「……ちなみに、そのフランメという人間はこの椅子をよく使ってた?」
「家の中にいる時は大抵試作品を占拠していた」
「でしょうね」
彼女に起こされ、少し間を置いて夕食を済ませる。
サラダはともかくビーフシチューなど仕込みが大変そうだが、一体いつやっていたのか。
尋ねたら、昨晩の内にもう数日分の仕込みを始めていたらしい。
……さすがにここまでされたら、相手が魔族といえど頭が下がる思いだ。
これほど快適な一日など、これまでの生で果たしてあっただろうか。
夕食を終えて一息ついていると、私が酒を飲んでいるのをそのまま酒好きと受け取ったのか、様々な酒が用意されていた。
彼女が得意な魔法の一つという、『
麦で作った普通のエールからオレンジ、リンゴ、イチゴにライチ、ライムにレモン。
これまで彼女が集めて保管していた物を絞って酒に変え、よく冷やされたガラスのタンブラーに注がれる。
いわゆる本当の酒好きが見たら歓喜を通り越して気絶しそうな光景をあっさり作り出した彼女は、『欲しい味があったら言って欲しい』と言ってそのまま彼女の装備の点検や作成に入る。
握りしめると刃の部分から複数のさらなる仕掛け刃が飛び出す大剣。*3
手にしただけで強力な対物理加護が付与される長剣。*4
手足に付けて使うらしい白銀の小手のような物。*5
番えた矢に強力な毒の呪いを込める、蒼く輝く魔弓。*6
朝に見た片刃の剣を少し短くした、酷く頑丈な剣。*7
魔物を捕まえる道具だという、ちょうど半分がそれぞれ紅白で塗られたボール。*8
ざっと出てくるだけでも凄まじいアーティファクトの数々だ。
今日一日で一気にこの小屋を飾り立てた家具の数々もそうだが、物作りに特化した魔族というのは間違いない。
「君の鍛錬は、これらを使いこなすための?」
「そう。魔法戦も可能と言えば可能だけど、私にはこっちの方が合っている」
「……あれだけの動きを見せる君をあんなに傷だらけにした魔族とは、何者なの?」
「数が多かった。二十、三十は過去にもあったが、あれほど大勢で囲まれた上に精神魔法で感覚のほとんどを封じられたので対応が雑になってしまって…それで昨晩の傷だ」
「……大勢って、どれくらい?」
「視界が完全にゼロだったため、正確には不明だ。……倒した感触は数えていたけど、五十を超えたあたりから余裕がなくなっていた」
「…………君は、思っていた以上の結構な化け物なのね」
「そうだ、ミリアルデ」
「この身は、人を模倣する『獣』である」