ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「……よし、試運転成功」
この奇妙な魔族君に小屋を任せて十日。
そのたった十日の間に、小屋の生活は快適になった。
ある意味で、この一帯だけ別世界である。
「それは、一昨日失敗した魔道具?」
「肯定。自動で食器や包丁を洗って乾燥させるアーティファクト。油汚れまで落ちるようになったし、整備性も問題ない。文字通り誰でも使える道具になった。完成と言って問題ない」
「そもそも、私や君なら魔法ですぐに綺麗に出来るでしょう?」
「簡単に、気軽に、そして複雑な魔法を覚えていない人でもキチンと機能する。道具とはそういう物でなくてはならない」
「……君の魔道具に対しての執念には恐れ入るわ」
聞いたことのない、だが耳に心地よいジャズという曲が小屋の中に流れている。
完成した魔道具をキッチンに設置している魔族君が先日、倉庫に仕舞っていたヴァイオリンやピアノといった各種楽器をそれぞれ演奏し、音を記録するアーティファクトの中で混ぜ合わせた物だ。
魔族が楽器を演奏できるというのも驚いたが、その幅広さにも驚かされる。
料理と違って本腰を入れた訳ではないと本人は言っているが、恐らく人の町でも稼げるだろうと私は思う。
ここまで来ると、角が生えているのが何かの間違いなのではと思ってしまう。
「ミリアルデ、そちらは問題ないか? 肌や熱さに異変を感じたらすぐに言って欲しい」
「大丈夫。適度に温かいままよ」
徹底的に洗浄魔法をかけた後に、この小屋は土足禁止となった。
玄関口は広く取った上で靴を脱ぐ場所が出来たのに合わせてダイニングテーブルや椅子は一度下げられ、今は直接床に座る随分と低いテーブルがクッションや座椅子と共に設置されている。
厚い掛布団を敷いて、中に温熱の魔法を仕込んだコタツという暖房テーブルの中に足を突っ込んで、彼女の作業する後ろ姿を眺めている。
テーブルの上にはバスケットが置かれていて、中にはオレンジや薄紙に包まれた焼き菓子が転がっている。
彼女が自分で育てたという、やけに皮が薄くて実が柔らかく、そして甘いオレンジを手に取り、爪を突き立てて皮を剥く。
「このミカンというオレンジは、ここでも?」
「果樹園区域に植えてある。土の質から、少し酸味が上がるかもしれないが……調整すれば近い味になるだろう。……お茶はグリーン・ティーで構わないか?」
「ええ、お願い」
「どうぞ」
「ありがとう。……この後はどうするつもり?」
「畑仕事を終えた後は風呂場を拡張するつもりだ。足こそ伸ばせるが少し不満があるし、体や髪を洗う
「そういえば、一昨日から言っていたわね」
「無論、君の要望があればそちらを優先させるが」
「君のしたいようにしてくれて構わないわ。今の時点で、不満はないわ」
ないどころではないのだが。
正直に言えばすでに大満足である。
家具をそろえた後の改造が上下水道の整備とトイレの増設・改造だったのは疑問だったが……
(……里での暮らしに、戻れるかしら)
システムキッチン――初めて見た時に比べて更に広く、そして綺麗になったそのメインとなる流し場を見る。
捻るだけで水もお湯も出るジャグチという魔道具。
かなり離れた所にある川から水道を引いたらしいが、その水を更に浄化する魔法をかけたアーティファクトが取り付けられている。
(コースイとナンスイを切り替えられるとかなんとか言っていたけど……多分、それを使いこなせるのは彼女だけだろうな)
実質、あのキッチンは魔族君の縄張りと言っていい。
私はたまに食べ物や飲み物を温めるのに『レンジ』とか言うアーティファクトを使うくらいだ。
それと飲み物や酒、一部の食材や料理を冷やしている『
他にもプロセッサーとかブレンダーとかいう器具を彼女は用意しているが、それを使うのは食事を作る彼女だけ。
(それにトイレ……ウォシュレットだったか)
全てが異様に便利だ。
痒い所に手を届かせる全てがあると言えばいいのか。
なにより――
「茶菓子として
「……ありがとう、いただくよ」
警戒する気力が失せる程に、彼女という魔族は献身の塊だった。
まずい。
私は、彼女なしの生活に戻れるのだろうか。
「すまない。防臭の結界を張るが、もしそちらにまで血の匂いがしたら言って欲しい」
「構わないわ。君の仕込みを見たいと言ったのは私だもの」
そうして彼女の作った音楽を耳にしながら彼女の仕事を眺めていたら、夜になる。
この数日、彼女の料理の味は全く落ちない。
それどころか、好みを把握されつつあるのかどれも美味い。
わざわざ皿やカトラリーまで程よく温めて提供される徹底ぶりは、本当にどこから出てくるのか。
そうして食事を終えた後、彼女は洗物と風呂の用意、明日の食事の仕込みを終わらせると武器の手入れや作成に入る。
「幾度か試したが、やはりこちらだけはしっくり来ない。結果、試行錯誤を繰り返す事になっている」
だが、彼女が魔族の群れとの戦闘で使った物の調整や強化を終えてから、彼女がやっているのは装備の新調ではない。
「血液の改造……ね」
「そうだ」
「理由を聞いても?」
「私は魔族だ」
「……正直、色々言いたいけどそうね」
「故に、私の身体に掛けられている女神の加護は、どうも従来の物に比べて薄い様である」
「まず魔族に女神の加護は得られないのだけれど」
「実際かかっている以上仕方ない」
「……まぁ、そうね」
実際、女神の魔法――すなわち聖典の魔法を使えるのは事実だ。
近くに魔物が現れた際に、好奇心から女神の魔法を使ってみて欲しいと頼んだら『女神の三槍』という攻撃魔法を使って魔物の群れを薙ぎ払って見せた。
私の知る限り存在しない魔法だったが、確かに聖典が反応していたのは間違いない。
恐らくまだ発見されていない聖典の魔法なのだろう。
「そのために、呪いに対しての抵抗に不安がある」
「加護を上げるような武器は作れないの?」
「……可能ではあると思う。だが、それは戦う際にこちらの装備を限定されるということになる」
「確かに。君の最大の武器は、多種多様な武装だ」
彼女が先日まで調整していた、巨大な棺桶*1を思い出す。
なんでも、神機という武装を参考により攻撃的にしたとかなんとか言っていたか。
一目ではよく分からないが、相当な質のアーティファクトを只の部品として大量に埋め込んでいるのは見えた。
「ならば防具として作製するのは?」
「基本的に、強力な魔法を込めるには込める物自体に魔力に比例して重量か、あるいは質が必要となる。私の作る物が大型武器に寄っているのはそのためだ」
「……なるほど。女神の魔法、それも加護に匹敵する物を疑似的に作り上げたとしても、それを込める物が巨大になってしまうのね」
「特殊な素材ならば話は別だが」
「それで血液に目を付けた」
初めて出会った時にやっていたのは、自分の血液に女神の魔法を流し込む実験だったらしい。
現在分かっている聖典に記された解呪の魔法は、それぞれの呪いに対応する呪文が用意されている。
それは独自に聖典の研究を進めていた彼女にとっても同じだったらしい。
そこで各解呪の魔法を『魔族の血液』という貴重な魔力触媒に溶かし込み、己の身体に循環させようとしていた。
「――が、上手く行かなかったと」
「……一応、効果は出ているとは思うのだが……アイツ相手では恐らく足りない」
「君を襲った精神魔法の使い手ね。……ちなみに、その時はどうやって破ったの?」
「破っていない」
そう答えた彼女は、いつものように倉庫に接続し一振りの剣を抜く。
「……君と出会った時に、壁に掛けられてた剣の一本ね?」
「そう。フリーク・ダイヤモンド。あるいは、蟲の紋章の剣*2」
黒い鞘に納められた直刀。
その黒い鞘を彼女はそっとなぞる。
「この鞘は、単体だと見えない程の大きさの黒い粒で構成されている」
「……それ、全部が?」
「全部が」
「……なるほど。それで蟲」
「この剣を発動させた時、周囲に展開したこの極小の粒――蟲達は互いに干渉して力場を発生させ、それに触れた物を斬り裂く」
「つまり、無数の斬撃の力場か。……恐ろしいわね」
「複雑すぎて使いにくいのが難点だ。あと、一度発動したら再使用に時間がかかるし、長時間の発動も難しい」
説明を終えた魔族君は、その剣を彼女の倉庫の中に戻す。
私は魔力量で彼女を判断していたが、彼女の恐ろしさはそこではない。
この数々のアーティファクトなのだと改めて思い知らされる。
だからこそ、分かってしまう事もある。
この魔族は、本当に人類と敵対していないのだ。
取って喰おうなんて欠片も思っていないのだ。
だって――
「それで一度周囲の敵を吹き飛ばして、それ以降はわずかに聞こえる音を頼りに戦っていた」
「……音?」
「視覚は幻覚によって奪われていた。なにせ、確かに敵と戦っていたのに、私は突然かつての自分の小屋にいてフランメを起こしている最中。ゆえに、頼りに出来たのはわずかに生きていた聴覚と触覚、そして嗅覚のみだった」
「……君は確か、五十以上は倒したと言っていたけど」
「ああ。すまない。五十というのは蟲を発動した後からだった」
「……そう」
こんな魔族が暴れはじめたら、多分誰にも止められない。
「それで、血液にまた女神の魔法を流し込むと?」
「ああ。それなりに痛むが、痛みには耐性があるため問題ない」
「……君は魔族よ」
「? そうだな」
「その血液も、血液のように見えているがその役割を再現しているだけの魔力そのもの」
「……そうだな。……続けて欲しい」
「ならば女神の魔法を流し込むのではなく、女神の魔法そのものを血液に変換することは出来ないのかしら? 君の魔法技術ならば出来そうよ」
私の言葉に、魔族君は血液を採るための器具から手を放して考え出す。
「血液にすることは出来ない。私の魔法はあくまで、物に魔法を込める物だ。だが……」
なにかを思いついたのか、再び倉庫を発動させる。
取り出したのは何かの薬らしき液体が入った瓶と、恐ろしく鋭い小刀だ。
「ミリアルデ、やはり今日はもう上がるといい。ちょっと肉が食べられなくなる光景になる」
「君は時に容易く正気を捨てるわね……。何をしようとしているか正確には分からないけど、本気?」
「最後に立ち残った者こそが勝者だ。生き残るためには、時に狂気に身を任せてみる必要もある」
「……まぁ、それも君の選択ね。分かったわ。お風呂には入ったし、今日はもう休むとするわ」
とにかく、本気でエグい光景が広がりそうだ。
フリーザーから酒を持って上がって、今日はそのまま寝よう。
彼女の事だ。朝には痕跡一つ残さずに、また朝食を作って待っている。
「肉で思い出したけど、例の売っていいアーティファクトはどれなの?」
「……アーティファクト?」
「近くの人里に行って、家畜と交換してもらうと言っていたでしょう。あれば明日にでも私が行って来るわ」
「……あぁ、そうだったな。もちろん用意している。明日の朝までには纏めておく」
「果樹園、畑に続いて牧場とは」
「解体小屋も離れた所に用意するつもりだ」
魔族君は村でも立てるつもりだろうか。
ともあれ、フリーザーからチェリー・エールの瓶を二本持って、階段へと向かう。
「問題は解体そのものだ。出来なくはないが苦手だし、未だに血や臓物には慣れない」
「自分の身体を切り刻もうとしている魔族がそれを言う?」
私がそういうと、魔族君は珍しく肩を竦める仕草をして、瓶の液体を注射器やらに詰めだしていた。
本格的に始める気だろう。
私は彼女におやすみと告げて、彼女におやすみなさいと返されて二階の部屋に上がる。
部屋に入ってサイドテーブルに酒瓶を置いて、ベッドに腰掛ける。
「自分の身体を切り刻むことにためらいがない大魔族が、血や臓物に慣れない?」
「…………何百年も、そのまま??」
Q:フランメもこのレベルの生活だったのか?
A:ほぼ同じではあるが、暗殺を謀り失敗したペナルティとして労働が課せられていたため、のんびりとはいかなかった。
Q:もしフランメが攻撃をせず、そのまま客として応対しながら隙を伺い続けていたら?
A:24時間365日ノンストップご奉仕サンドバッグ。
おはようからおやすみまで。
三食の食事にティータイムにご希望の各種娯楽、掃除洗濯ベッドメイクはもちろん戦闘だってお任せあれ。
定期健診も行い病を察知した際には直ちに女神の魔法を行使します。
フランメの台頭が数年遅れてちょっと人類の危機だったり、帰ってこない弟子の様子をみた先生とガチンコしたり、あるいは対魔王軍の戦いの最前線に謎のアーティファクト使いが大魔法使いの前衛として参戦していたかもしれない。