「Noch eine Schwarzesmarken ~赫奕~」 作:Unberührbarer
私個人はマヴラヴシリーズ全ては読み込んでいませんが、このシュヴァルツェスマーケンの話は非常に好きで、小説・アニメを両方とも何回か見させて頂いてます。
今回はそんな読み込みによって、ふと思ったことを小説にしてみようと考えて投稿させて頂きます。
社会人のため、更新速度は亀ですがよければお付き合いください。
<「録音テープ:候補者No.17」より抜粋>
<「軍事機密計画「Schwarzlot」の記録」より抜粋>
<「秘匿記録:候補者No.17 ルーク」 より抜粋>
僕は生まれながらに、独りぼっちだった。
僕には、お父さんやお母さん、お兄ちゃんがいたらしい。
でも、物心つくときには、誰もいなかったんだ。
だから親の顔なんて知らないし、僕の周りには誰もいない。
それが当たり前だったし、よくあること?だったらしいから。
僕は気づいた時から、小さな牢屋の中で過ごしていたんだ。
朝早くに、怒鳴り声とか、何かが壊れる音で飛び起きて…
点呼をして、すぐに医務室に連れてかれて…
真っ黒な色をした、注射器を毎日打たれてた。
注射をされてたのは、僕だけじゃないよ。
他にも、僕と同じくらいの子がいっぱいいたんだけど、
気づいたときには、僕以外の子はみんないなくなっちゃった。
軍人さんは、静かになっちゃった子を見て、いやそうな顔してた。
注射された子は、みんな辛そうだった。
血を吐きながら、泣きわめいて、そのまま静かになっちゃう子もいっぱいいた。
僕も最初はすごい痛かったし、注射された日の夜はずっとつらかった。
でも、他のみんなと違って、3回目くらいから痛みがなくなった。
僕が注射されてても、何も反応しないし、何も感じてなさそうにしてたから、
お医者さんは、僕に凄く怖がってる表情してたな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後も毎日、数えきれないくらいの注射をした。
そしてある日、僕は牢屋から出ることになった。
お部屋を出てしばらく歩き、絢爛な部屋に入って。
中で、勲章を複数枚つけた軍服の男と、白衣を着た男が待っていた。
『被験者No,17。』
『はい。』
僕に、名前なんてものはない。
この『No.17』って数字が、僕の名前の代わり。
『貴様は、Schwarzlot計画における唯一の生き残りであり、適合者である。』
この言葉を聞いた時、僕は悟ってしまった。
静かになっていった子達は、もうこの世にいないことを。
でも、不思議なことに悲しむという気持ちは全くなかった。
『よって貴様を「国家保安省」へと移送、適合訓練及び教育を施すものとする。』
『拝命いたします。』
即座に敬礼の姿勢を取り、失礼のない形で取り繕う。
この場において「拒否権」なんて存在しない。
形式上こういう形があるっていうだけで、強制執行と同義なのだから。
『移送はこの後すぐ行われる。着き次第、現地の者に指示を仰げ。』
『承知いたしました。』
『話は以上だ。おい、連れていけ。』
『はっ!』
僕に簡潔に説明した後、近くにいた白衣の男が僕を連れていく。
部屋を出た後、歩きながら僕の方を一瞥して、怪訝な表情を浮かべていた。
『君のような若い子が、人体実験の挙句に「兵器」として使われるとはの…』
白衣の男は、僕によく注射をしてた人だった。
注射をするときに、毎回僕に「ごめんよ」って謝ってくれてたっけ。
最初いたかったのは許さないけど、今の僕からすれば正直どうでもいい。
『僕のことを、すごく気にかけてくれてましたよね。』
『まさか…気のせいだろう。私はそこまで情に厚くはないよ。』
『…嘘はつかなくていいよ。今、カメラと盗聴器は動いてないから。』
僕の言葉を笑いながら最初は一蹴したけど、僕は知ってる。
ここは「国家保安省」の直下にある、非合理な実験施設。
複数人の諜報員、監視カメラ、盗聴器が常に監視を続けている。
表面上はないように見えるけど、僕にはすべて「視えている」。
『なっーー! 一体どうやって。』
思わず声を荒げて、即座に声を押し殺して僕に問いかけてくる白衣の男。
相当びっくりしたのか、平静を取り繕うのに必死になっている。
僕は無言で、死角になる場所で敢えて見えるようにナノ粒子を具現化する。
そのままそれは一つの形状を象り、針の形を成していく。
『僕に打ち込んでた注射器…それが、僕に教えてくれた。』
『…まさか、適合することでここまでの力を発揮するとは。』
『少しは見直しましたか、僕のこと?』
『…余計に怖く見えてくるな。正直、君は他の子達とは根本的に違う。』
生成していた粒子の針を分解・隠蔽して、二人は再び歩き出す。
立ち話をしてると、不審に思われてしまうから。
それに、僕は即時移送が決まっている身。
待たせるわけにはいかないし、待たせることになったらどんな目に遭うのか。
僕はいいけど、白衣の男の人に何か起きてしまうのは忍びない。
『君はこの施設に来た時から、幼児の時は私が面倒を見ていたからね。』
『…それは知りませんでした。ということは、本当に小さい頃から?』
『ああ。生まれて間もないくらいだったかな。
最初は、こんな子を連れてきて何をする気かと思っていたけどな。』
『日々の注射器投与…あれは想像を絶する形でしたけどね。』
『あれは本当にすまないと思ってる。しかし、それだけじゃない。』
ふと、出入口の手前で白衣の男が制止する。
何事かと思って、僕は顔を見上げる形で様子をうかがう。
白衣の男は…悲痛な表情を隠そうともせず、僕の胸元を指さす。
『君の心臓に癒着・直結する形で、超小型のリアクターが埋め込まれている。
施設の人間は「Glühkakurion」と呼称していたが、はっきり言えば小型の原子炉だ。』
どこかで感じていた違和感。何かが引っ掛かる、その程度ではあったのだが。
僕はそっと左腕に、視点を落とす。
僕は生まれつき肌が白い方ではあったのだが、この白さは明らかに人間のものとは思えない。
そして、人体実験を行う過程で残るはずの注射痕がただの一つも見当たらないこと。
心臓の音とは明らかに異なる拍動だけが伝わる左胸。
そして左腕にうっすらと見える、血管に酷似した形状を有する謎の物。
『やはり、僕は既に"替わって"いたのですね。』
『…残念なことだが。』
僕の儚い呟きを聞いて、益々悲痛な面持ちを強める白衣の男。
白衣で胸部が隠れているため判別が難しくなっているが、ほぼ間違いなく東ドイツの高位将校。
それも「国家保安省」直轄の秘匿実験施設にいる人間の中では常識人になるのだろうか。
演技ではない反応を目の当たりにしつつ、しかし僕は無感情に振る舞う。
僕には既に、感情と呼んでいいものは残っていないのだから。
『最後になりますが、宜しければ名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。』
『…極秘プロジェクトの関係上、私は身分を一切明かすことはできない。代わりに…君に名前を贈ろう。』
そういいつつ、白衣の男は僕に一つの封書を渡してくる。
表面上は『国家保安省』が使用するものだが、よく見れば封をする蝋の紋章が違う。
僕は即座にこれが、彼の身分を証明するに値するものにあたるのだと推測した。
『中には君の名前を記した書類と、身分証明などが記された文書が入っている封書がある。
封書は開封せず、そのまま「国家保安省」に渡しなさい。名前の書類は…この場で確認後、処分しなさい。』
『拝見してもよろしいでしょうか。』
『許可する。ただし時間がない。確認するだけに留め、その後はこちらに返すように。
返された書類は全て、私が証拠を残すことなく焼却処分を行っておくとしよう。』
僕は封をしている蝋を壊さないように接着面から剥がし、中身を確認する。
中には封書が一つと、紙が一つ。
軽く覗くような形で、紙に記されている一番上の文字列に目を通した。
『Lukas Fabian Reimann…それが君の名前だ。希望を込めて、この名前にした。
いずれ君が気を許せる人間が出来たのなら、愛称はルークと伝えなさい。
それが私にできる、君への最大の贈り物だ。』
僕の名前は…ルーク。
これを背負って、僕はこの世界を生きていく。
僕は封書自体を胸元に軽く抱き、外から吹き込む空気を大きく吸っていく。
僕の意識下に刷り込むように脳裏で反芻しながら、封書の中にあった封書を取り出す。
それを取り出した後、僕は白衣の男に紙の入ったままの封書を渡した。
『拝命いたします。僕はルーク。愛称ではなく、大切な皆に呼ばれる名前として。
貴方から名付けていただけた恩義。
そして込められた意味を忘れることなく、生きることに尽力させていただきます。』
『…よろしい。早く行きなさい。時間だ。
私は君に対して畏れは拭えないが、それと同じくらい期待している。』
白衣の男は僕に対して翻り、背を見せながら言葉を返す。
少し肩が震えているようにも感じるが、僕にはそれ以上のことは分からない。
最後に白衣の男に敬礼をし、そのまま黒塗りの車へと歩を進めていくのであった。
読み方の補足
Schwarzlot(シュヴァルツロート)(意味:黒い傷跡)
Glühkakurion(グリュカクリオン)(意味:輝核)
Lukas Fabian Reimann(ルーカス・ファビアン・ライマン)