「Noch eine Schwarzesmarken ~赫奕~」   作:Unberührbarer

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少し長いですが、本編前の内容が続きます。




第二話

黒塗りの車に向かって、歩を進めていく。

 

車の前にて待機していた黒服の軍人の前まで進むと、僕は停止して敬礼を行う。

 

 

『被験者No.17、ルーカス・ファビアン・ライマンです。ハインツ・アクスマン中佐でしょうか。』

 

 

僕の言葉を聞いて、漆黒の軍服を着た高官--ハインツ・アクスマンは不敵な笑みを浮かべる。

 

人間を人間としてではなく、あたかも壊れた何かを見るような視線と、僕の視線が交錯する。

 

事前に渡されていた封書を渡すと、中身を確認しながら、僕に言葉をかけてくる。

 

 

『…いかにも。君のことを迎えにきた。

 

 君は「国家保安省」に到着次第、私の指揮下に入ってもらう。』

 

『了解しました、アクスマン中佐。』

 

『いい返事だ。

 

 それと、君は少尉として軍属になる。今後はライマン少尉として動くように。』

 

『はっ』

 

 

どこか異質な空気が漂っている中、取り交わされていく言葉達。

 

恐らく僕の被験者生活の中で、何が行われていたのかを知っているのだろう。

 

封書を確認している途中でも、こちらに対して警戒は怠らない。

 

むしろ、化け物を見るような…恐れているような、そんな雰囲気が見て取れた。

 

 

『よし。そのまま後部座席に乗車しろ。

 

 任務より帰還中の故、一人同乗者がいるが…それは気にしないでくれ。』

 

『了解しました。』

 

 

僕はアクスマンに返答しながら、後部座席の扉の取っ手に手をかける。

 

扉を開けて乗り込み、座席に腰掛け、そのまま扉を閉めた。

 

座るときの衝撃が原因なのか、右隣より嗅ぎ慣れない香りがふわりと漂ってくる。

 

 

『…?』

 

 

僕は香りの正体を掴むために、無意識にそちらに視線を向けた。

 

 

『……』

 

 

そこにいたのは、まだ幼い面持ちを残した金髪碧眼の少女だった。

 

旗から見てもわかる見目麗しい容姿をしていたが、少女の象徴的な碧眼はどこか陰っている。

 

迎えに来ていたアクスマンと同様の軍服を着ていたが、雰囲気は彼のそれとは全く異なっている。

 

まるで、"既に壊れてしまった人形"を彷彿とさせるような、そんな佇まいをしていた。

 

 

(…なるほどな。要するに彼女は「兵器」というわけか。)

 

 

僕は"被験者"として実験をされている最中、密かに情報を集めるために文書を読み漁っていたことがある。

 

無論、先ほど白衣の男に見せた"針"はその時から使用しており、監視網を完全に無力化できるため、重宝していた。

 

気づかれたら対策を施されるのは自明の理だったため、気づかれないように最小限での行動だったのだが。

 

まさかその時に、目を通していた文書の中に記されていた少女に出会うのは想定外だった。

 

 

(リィズ・ホーエンシュタイン少尉…だったか。)

 

 

走り出す車の中、他の乗員に気づかれない最小限の行動で彼女を改めて観察する。

 

年端もいかない少女には釣り合わないほどの双丘。僅かに濡れそぼった髪先。

 

僅かに漂ってくるこの香りから、彼女が何をして帰ってきているのか想像に難くない。

 

 

(ハニートラップ要員か…本当に、この国も堕ちたものだな。)

 

 

そこまで考えて、一度視線を窓の外に向ける。

 

流れゆく景色を眺めながら、初めての外の景色に感慨に浸っているのであった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

side:リィズ

 

 

いつも通り、要人から重要な情報を引き出すことに成功。

 

仕事を終えた後、私はアクスマン中佐の迎えの車に乗り込んで、帰路に着く。

 

気怠い身体を休められる車内で、思考を放棄して揺られているこの時間。

 

誰にも汚されずにいられる時間が、私にとっては安らぎのひと時だった。

 

 

『今日は帰路の途中で一人、迎えに行く用事がある。』

 

 

ふと、アクスマン中佐の声が聞こえる。

 

それを聞いた私は、またいつもの流れかと肩を落とす。

 

アクスマン中佐の"迎え"は、基本的に私に"相手をしろ"という意味を含んでいる。

 

無論、そっちの意味も含めてだ。

 

今までのこともあってか、そうとしか取れなくなってきつつある自分に少し吐き気がする。

 

 

『…相手は誰ですか。』

 

『いや。今回は君に、その子の案内を頼みたいんだ。』

 

 

思っていたことと全く異なる内容が返ってきて、私は益々困惑する。

 

 

『…どういう事でしょうか。』

 

『なに。新しい諜報員の候補を見つけてな。その子を迎えに行く用事があるのだよ。』

 

 

この時期に…新しい諜報員候補…?

 

確かに政治的緊張が高まってきている傾向はあるが、この時期に諜報員を増やす意図が読めない。

 

思考に耽っていると、ふと。車が停車した振動が伝わってくる。

 

 

『中で待っていなさい。』

 

 

アクスマン中佐はそう言い残し、車の外へと出ていく。

 

その間に私は、覗き見防止加工が施された車窓から、外を観察する。

 

 

(見たことのない施設…確か、ここには何もなかったはずー-)

 

 

諜報員の教育期間中に、ここに施設があるとは聞いたことがない。

 

地図上でも平らな地形が続いているだけで、情報は何も記されていなかったはずだ。

 

周囲を見渡し、寂れていた入口の看板から、辛うじて読める文字列を読み解いていく。

 

 

("国家保安省"管轄-秘匿実験処理場…?)

 

 

見たことも、聞いたこともない名称。

 

だがわかることは一つ。ここで行われているのは確実に、非人道的なそれだろう。

 

そんなことを考えていると。施設の入口から一人の男がこちらの車に向かって歩いてくる。

 

思わず、彼の容姿に目を奪われる。

 

 

(…何て、綺麗な人なんだろう。)

 

 

白銀色のウルフヘアーに、氷のように透き通った薄青色の瞳。

 

やや華奢な体躯に、雪のように真っ白な肌。

 

無表情で起伏の薄い表情が、逆に神秘的な美しさを讃えている。

 

全身を包む漆黒色の服はあらゆる光を吸収しているようで、まるでそこに"いないよう"な錯覚すら覚える。

 

現実離れした一種の美しさを表現したかのような少年。そんな印象だった。

 

 

『被験者No.17、ルーカス・ファビアン・ライマンです。ハインツ・アクスマン中佐でしょうか。』

 

(…ライマン?聞いたことない……)

 

 

歳は、私とそう離れていないだろうか。

 

同年代にも見えるのに、年齢に反して所作や言動はしっかりしている。

 

むしろ、どこかの富裕層の後継者とも受け取れるような、綺麗な動作だった。

 

 

『…いかにも。君のことを迎えにきた。

 

 君は「国家保安省」に到着次第、私の指揮下に入ってもらう。』

 

『了解しました、アクスマン中佐。』

 

『いい返事だ。

 

 それと、君は少尉として軍属になる。今後はライマン少尉として動くように。』

 

『はっ』

 

 

アクスマン中佐と会話する、白髪の少年。

 

ライマン少尉と呼称された彼は、毅然とした態度のまま対話を行っている。

 

アクスマン中佐が素直に褒める言葉を発してしまうほどに、少年は"異質"に私からは見える。

 

 

(違う…アクスマン中佐が、恐怖している?)

 

 

私が人の感情に敏いからだろうか。

 

普通では気づかない程度だが、アクスマン中佐からは、少年に対して恐怖に似た感情が滲み出ている。

 

確か、彼は挨拶をするときに"被験者"と言っていたような気がする。

 

 

(…帰ってから、調べてみようかな。)

 

 

そう、心の中で決意した刹那。

 

私が座っていた側と逆側の扉が開かれ、ライマン少尉が乗り込んでくる。

 

座席に座るその所作までも、どこか優美な印象が見て取れる。

 

だがその所作とは裏腹に、ライマン少尉の発する雰囲気は抜き身のように鋭く、冷たかった。

 

 

(…見られている、よね。いや、観察されてる?)

 

 

これもまた、普通では気づけない範囲でのこと。

 

ライマン少尉の視線は雰囲気と同様、非常に冷たかった。

 

だが、どうしてだろうか。

 

 

(…冷たいのに、温かい。)

 

 

その冷たさが、どこか心地よく感じてしまう。

 

不思議な感情と、車の振動に揺られながら、私はまた思考を放棄するのであった。

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