聖園ミカに舌打ちされたい   作:性癖多面体

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6. 自覚できないタイプが至高(諸説あり)の一般性癖

 

 日向イリヤは、キヴォトスに生まれたその日に前世の記憶を自覚した。

 この世界に酷似した世界を舞台にしたソーシャルゲームをプレイしていた記憶を持つ他には、これといって特徴があるわけでもない前世である。しかしこの記憶を受け取ると同時に、彼女の存在としての器が修復不可能なまでに欠損したことには気が付かなかった。なぜ欠損したのか、彼女には知る由もなかった。

 原因は、彼女が生まれながらにして持っていた『原作知識』と呼ばれるものである。

 彼女が記憶していた未来の情報、持ち得るはずもない知識はこの神性に満ちた学園都市において一つの役割として認められた。即ち、預言者としての素質である。

 ただの『知識』として持っているだけなら何の問題もなかった情報の一部が、『預言』として与えられたことで彼女の魂の器は大きく破損した。それは、神秘を恐怖へと反転させる存在にまつわる情報―――色彩の干渉である。

 日向イリヤは、神秘を持って生まれた直後に『色彩』の何たるかを理解し、それ故に彼女自身の器は不完全なものとなった。

 

 預言者。それは本来であればキヴォトス最高の神秘にも比肩しうる存在であったが、器の欠損により日向イリヤはごくごく平凡な生徒として成長する。あるいは、魂に欠陥を抱えてなおさしたる病や苦痛に冒されることなく生き長らえることができたのは、有り余る神秘の賜であるとも言える。

 しかし、仮に。もし仮に、彼女の器が完全だったなら。

 『預言(原作知識)』を持たない『預言者』という、矛盾した存在であったならば。

 その時彼女は、全ての不可能を覆す奇跡の体現者となり得たはずである。

 

 

 定期試験が終わった。そして色々と終わっている状況になった。

 まず言っておくと、私の結果としてはかなり良好だったのである。何の憂いもない。平均点が六割くらいの試験で押しなべて九割超えの得点率となれば、大抵の同級生には自慢して回れるほどの成績ではなかろうか。張り合いたい相手がいるわけでもなし、やるつもりはないけど。

 問題があるのは私ではなく友人二人であった。

 

「ヒフミ?」

「ごめんなさい」

 

 私が求めているのは謝罪ではなく弁明である。

 何故こんなことになってしまったのか、その納得できる理由を聞きたいだけだ。一体どうして、何があってヒフミは―――定期試験当日に欠席なんてしてしまったのか。

 試験の日、教室で一向に埋まる気配のない友人の席を休憩時間の度に確認しては胃を痛め続けた私の気持ちを考えてほしい。モモトークも何度も送って通話まで掛けたのに全然反応ないし。

 

「どうして試験当日に欠席なんてしたの?」

「ぺ、ペロロ様のゲリラライブがあって……それに参戦していました。その、試験の日程を間違えていたみたいで……」

「ふーん……」

 

 果たして本当にそうだろうか。

 ヒフミは言うまでもなくモモフレ……特にペロロに関してはあらゆる危険や障害を省みないくらいには熱狂的なファンである。ペロロのためならブラックマーケットにも考えなしに突撃するくらいのファンである。そんな彼女が、“試験当日だと分かっていたとして” 登校中にペロロのゲリラライブ情報を入手してしまったら。果たして、本当に我慢できるだろうか。

 

「ほ、本当なんです! 何度も日程を確認したんです!」

「へえー……?」

 

 状況からも考えてみる必要がある。彼女が道を踏み外しそうな状況についてである。

 前提として、ヒフミは普段は良識のある良い子なので試験日を正確に把握できていたものとする。

 まず私たちは基本的にオンデマンドで授業を受けている。予め配布されたBDに学習に必要なデータが入っているわけだ。つまり普段であれば教室登校の必要はなく、試験や始業式、終業式など特別な日にのみ私たちは教室に集まる。

 私とヒフミは一応同じクラス、二年三組に組み分けされているけど、先に述べたような行事がなければクラスメイトであることを意識することはない。

 だから、教室登校の日というのは特別なのである。今日は教室に行く日だ、と思いながら私たちは登校するわけである。よって試験当日のヒフミも、ゲリラライブを知る前はそのつもりで通学路を歩いていたはずなのである。普通に考えて、そこから日程を間違えるはずがない。

 

 しかし彼女は知ってしまったわけだ。いつも通りにSNSを巡回していたらにわかにタイムラインが騒がしくなって、ゲリラライブ、つまり告知なしライブの情報が流れてくる。これは是非とも参戦したい、参戦しなければ。ヒフミはきっと熱に浮かされただろう。ファンとして当然のことだ。

 そして、彼女は念のためスマホで試験の日程を確認する。もしかしたら試験は今日じゃないかもしれない、今日であってほしくない、いや今日であるはずがない……! そして、ヒフミは自らが望む通り今日が試験日でないことを確認する。何度も、ぐるぐる回る目で確認したのだろう。

 

「―――それが幻覚であるとも知らずにね!」

「……ひ、否定できません……!」

「一緒に勉強会までしたのに! 当日も何かあったんじゃないかっていっぱい心配したのに! ヒフミのバカ!」

「ごめんなさい!」

 

 ヒフミは本当にもう。これで何の救済措置もなかったらどうするつもりなんだろう。これからの試験で巻き返せると確信できるほど彼女は勉強熱心ではない。いざとなったら私が付きっきりで教えることも考えておこう。今回の試験範囲なら自信あるし。

 

 ……さて。

 涙目になってしまったヒフミは流石にこれ以上怒るのも理不尽なので解放してあげるとして、次はもう一人の友人である。……向こうも私のことを同じように思ってくれているかは、分からないけど。

 

「ハナコ」

「はい♡」

 

 浦和ハナコはいわゆる天才である。本人は少し要領が良いだけだと言って認めないけれど、彼女が天才であると本人以外の誰もが口を揃える。そもそも客観的事実として、彼女はこれまで行われてきた定期試験では1点のミスもなく全科目で満点を取ってきた。何なら一年生の時に三年生の試験を受けても満点だったという噂すらある。

 そんな彼女がどうして、いかなる理由があって―――全科目で0点を取ってしまったのか。

 

「試験時間中、ずっと寝てたとか?」

「ばっちり起きていました」

「そう。じゃあ、どうしてあちこちからハナコが0点を取った、なんて噂が流れてきて、しかも後から本人が公言して回るなんて事態になるの?」

「それはもう、頭が真っ白になってしまって♡ まるで催眠術にかけられたみたいに、無知無知♡な状態で試験を受けていたんです」

「催眠術と無知って何も関係なくない?」

「……なるほど、興味深い意見です」

 

 というかなんで無知って2回言ったの?

 ふむふむと頷くハナコに私は怪訝な目を向けた。

 

「ところで阿慈谷さん。いえ、ヒフミちゃんとお呼びしても?」

「は、はい」

「ヒフミちゃんは、イリヤちゃんとはいつ頃からのお付き合いですか?」

「? えっと、高等部に入ってすぐです。同じクラスだったので」

 

 ハナコが藪から棒に話を切り出した。それも横の机で(ペロロバッグを抱えて)項垂れていたヒフミに矛先を変えて、である。

 表面上はなんの脈絡もない話に思われるものの、ハナコのことである。彼女の頭の中では何かが繋がっているのだろう。常のように穏やかな笑みを浮かべた彼女が、その実いつになく真剣に問い掛けていることは私にも見て取れた。

 

「では、イリヤちゃんの様子がある日突然、変わったように感じたことは?」

「特には……? あ、でも以前より部活に熱心になった気がします」

「なるほど。よく分かりました」

 

 私には何も分からなかった。そろそろ口を挟んでも良いだろうか。

 

「ハナコ、さっきから何の話をしてるの?」

「なんでもありませんよ♡ それよりイリヤちゃん。私のことは怒ってくれないんですか? ヒフミちゃんみたいに問い詰めて罵倒してくれても良いんですよ」

「うーん……ハナコが本当のことを教えてくれたら考えるよ」

 

 ハナコには何らかの考えがあったはずだ。それは間違いないのだけど、私の頭では彼女が何を考えていたのかはっきりこれとは分からないのである。自分で得点を言いふらして回るくらいだから、周りから持て囃されることにいよいよ疲れたのかなとか、その程度の発想しか出てこない。

 どうして試験が返されたその日の放課後にこうして私のところまで来たのかも分からなければ、以前みたいに親しげに接してくれる理由も想像できない。

 

「まあまあ、それはおいておきましょう。……実は試験中、することがなくて暇だったので考えたことがあったんです」

「試験問題を解いたら良かったと思うけど」

「ええ、随分な難問でした。しかしふと、ほとんど偶然のような形で一つの仮説を立てることができました。つい先ほどその裏付けは取れましたが、念には念を挿入れてと言いますし……最後の確認をしましょうか」

 

 ハナコはそこで言葉を区切ると、一つ息を吸い込んでから私を真っ直ぐ見つめて言った。

 

「イリヤちゃん。あなたは今でも日記を付けていますか?」

 

 




ナギサの謀略説もあるヒフミの欠席ですが、ナギサからはっきりと告白があったわけでもなくヒフミは結局その後コンサートでまたやってしまっているため、拙作においては純粋にヒフミの勘違いとして扱います
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