聖園ミカに舌打ちされたい 作:性癖多面体
シスターフッドは基本的に戦闘を行う機会の少ない部活である。トリニティの生徒が平穏無事に過ごすことを祈り、支える部活としては当然のことかもしれないけど、要は部活全体で『不穏分子を全員倒せば平和』みたいな方向に舵を切っているわけではないということだ。
しかしキヴォトスの生徒として銃の所持は必須であり、もちろんシスターフッドの部員も全員何らかの銃を常に携帯している。私も入部当初に部の推奨する高威力自動拳銃*1を購入したのだけど、これの使用感があまり好みではなかった。
威力の高さは折り紙付きとしても反動が硬く、一発ごとの照準が定まりにくいのである。しかもハンドガンだ。サイドアームとしてならともかく、単なる高威力を求めるのであればショットガンで良いじゃないかと私は思ってしまった。
「おい見ろよ、あの黒ベール」
「ああ。確かシスターなんちゃらって部活の奴らの制服だ」
「戦い慣れしてない甘ちゃん集団ってウワサじゃねーか」
いやいやシスターフッドは戦闘を避ける部活だと言った舌の根も乾かぬうちから何故そんな物騒な想定をするのかという話だけど、それはそれ。部活全体では、と注釈した通り概して部活の方針に従うものの『戦闘を避けることと戦闘ができないことは別だ』と考える生徒も中にはいる。私もその一人だ。
最近親しくなったアズサちゃんに教えてもらったのだけど、確か古代語にも似たような諺があったはずである。Si Vis Pacem, Para Bellum――汝平和を欲さば、戦への備えをせよ……だっけ。
「見たところお一人様だな。襲って身ぐるみ剥いじまうか」
「朝のお祈りとやらで早く登校するんだってよ。格好のカモだぜ」
「最近は自警団の新入りがやたらと首突っ込んで来やがるからな……この機会は見逃せねえよ」
そんな私が現在愛用しているのは、回転式のマガジンによって大容量を実現したセミオートショットガンである。3つのチューブマガジンにはそれぞれ異なる種類の弾薬を装填することができ、様々な状況に対応可能であることも魅力といえる。
例えば3インチのサボットスラッグ弾をチューブマガジンの二つに装填しておくだけでも、大抵の標的を打破することができる。昨今ブラックマーケットで流通しているというトリニティの
「なぁ嬢ちゃん、ちょっと止まってくれよ」
「あんま時間は取らせないからさあ……」
「身につけてるモン全部あたしらに寄越しなァ!」
「イヤです。それと、忠告します。私はシスターフッドに所属する身ではありますけど、襲われれば抵抗しますよ」
当然、普段このショットガンを持ち歩くのであればブリーチング弾や焼夷弾を装填しておくべきではない。それよりも対人に有効な00バックやサボットスラッグでマガジンを埋めておくと良いだろう。
もしくは、シスターフッドでありながらこの好戦的な銃火器を携帯する酔狂な生徒であれば―――。
「はっ、笑わせやがって。それが精一杯の威勢か!?」
「カワイイ脅しだなお嬢ちゃん。そんなんであたしらが退くわけないだろ!」
「目ェ付けられちまった時点でオシマイなんだよ。大人しく諦めな!」
一人の銃口から、弾丸が放たれた。
私の額に命中したそれは、僅かな傷を作ることもなく弾かれて何処かへ消える。
「……そうですか。ではお説教です。言っておきたいことは他にも色々ありましたけど、それは後回しにします」
私は愛銃を構えた。
脇を強く締め、銃床を頬に押し当てる姿勢で照準を定める。
「まず、隣人の財産を欲しがってはいけません」
1発。
次弾は自動的に薬室へと送られる。
「それから、相手を弱者と知っていながら襲うことは尚更許されません」
2発。
標的からビシャリと勢いよく何かが飛び散る。
染色弾。
ザッ、と私の行く手を塞ぐように並んだスケバン三人組それぞれのみぞおちを狙って、威力の低い特殊弾を撃つ。彼女たちの制服を汚す、特殊配合された染料。
これ自体に破壊力を求めていないが故に、反動は少なく素早い射撃が可能である。2発を二人に命中させた時点で、チューブを切り換える。薬室に残るは1発の染色弾。
「っおいおいなんだよ。お嬢様にしちゃ喧嘩っ早いなァ」
「しかしなんだこの弾、ずいぶん弱っちいじゃねえか! 水風船かってんだ!」
「綺麗な色で汚してくれちゃってさあ! 覚悟は出来てんのかコラァ!」
「最後にそもそも、人が嫌がることをするべきではありません。……私が言えた口ではないですけど」
3発。
全弾命中。マシンガンを背負った最後の一人の腹部も、鮮やかな水色の染料が彩った。
マガジンは既に切り換わっている。銃のストックを頬に押し当てたまま、二つ目のマガジンから電気ショック弾を射出した。皮膚に電極を突き刺すことで人体に電流を流すことができる、こちらも特殊な弾薬である。
「ハチの巣にしてや―――ッヅ!?」
「どうした!?」
まずは、ようやくマシンガンを構えたスケバン。
染色弾が着弾したのと同じみぞおちに電気ショック弾が突き刺さったことで、染料という導体を通して広範囲での通電が起きる。乾燥したヒトの皮膚であれば電気抵抗はそれなりであるとしても、今やこれ以上ないほど潤っているため抵抗力は大きく低下。ショック弾の威力は平時より遥かに高まる。
特に彼女の場合、改造された制服のせいで腹部を露出してしまっていたので余計に効果的だった。
「何をしやがったこのシス公―――ガアッ!?」
「ふ、ふざけやがって―――ギャッ!?」
次々と痙攣を起こしながら我が身の制御を失って地面に倒れ込むスケバン三人組。鞄から取り出したロープで両手足を手早く拘束すれば、顔だけを持ち上げて先ほどまでとは一転、困惑した表情で私を見上げてきた。
痛みによる気絶よりもこういった手段での無力化を私は好んでいるのだけど、通常の銃撃戦に慣れている手合いであればあるほど搦め手には疎い印象がある。しかしマシンガンを持っていながら、隠すこともなくショットガンを手にしていた私の目の前までやってきたことからして、単に油断していただけという可能性もある。
ともあれこれで無力化は完了である。私は鞄からスマホを取り出して、正実の連絡先を押した。
「……あ、もしもし正義実現委員会ですか? ……」
次いで、私はモモトークで部活にも連絡を取る。私情により朝のお祈りには間に合わなくなりそうだと、グループトークに送っておかなければならない。寝坊だなんだと送る部員が毎朝一定数いるので、私のこれもあまり目立つことはない。
……そう言えば、ヒナタ先輩はお祈り中に居眠りをすることはあっても寝坊で遅刻というのは見たことがないな、などと考えながらメッセージを作り終えた。送信。
さて、と私はスマホを仕舞う。このタイミングで先ほど言いそびれていたことを言っておこう。シスターとしての仕事でもあることだし。
私はしゃがみ込んでスケバン三人と視線を合わせた。
「拘束しておいて言うことではないかもしれませんけど……もし金銭的に悩み事や辛い事がおありなら、私の伝手で
なるべく柔らかく笑みを浮かべながら告げた私の言葉に、彼女たちは何故か必死に首を横に振り始め、三人で見合わせた顔色は徐々に青褪めたものとなった。
◇
猿轡をしたわけでもないのに、冷や汗を流しながらむっつりと口を噤んでしまった三人組の横でしばらく待っていると、学園の方から朝靄に紛れて背の高い生徒の影がやってくるのが見えた。
どう見てもハスミ先輩である。大きな事件でもないのにわざわざ副委員長が来るとは、いったい何事なのか。
「おはようございます、イリヤさん」
「ハスミ先輩、おはようございます。今日は早番? だったんですね、お疲れさまです」
「ええ、まあ」
何故か歯切れ悪く答えた先輩が、ぎこちなく目を逸らした。視線の先にはハスミ先輩を見て震え上がるスケバン三人の姿がある。彼女たちの間でも正実副委員長の顔はよく知られているらしい。
「そちらの方々が?」
「はい。シスターフッド部員の戦闘経験が浅いことに付け込んで、身ぐるみ剥がすのが目的だったみたいですけど……私たちって基本的に金品の類を持っていないので」
「なるほど、シスターフッドについては知悉していなかったと。それによりにもよってシスターイリヤを襲ったとなれば、計画性は低そうですね……こほん、失礼」
「ハスミ先輩?」
ちょっと待ってほしい。
よりにもよって私? 咳払いで誤魔化そうとしてるけど全部言っちゃってるし、そんな言い方は心外である。確かにシスターフッドの中では戦闘慣れしている方だけど、手出し厳禁みたいな好戦的な性格をしているつもりはない。
……いや、戦闘慣れしているというだけで襲う側からしてみたらハズレなのかな。よりにもよって、というのもそういう意味だろう。私は無理やり自分を納得させた。
「ところで、イリヤさんは時々私たちの演習も見に来てくださっていますが」
「はい。あの、お邪魔じゃないと聞いていたので」
「ええ、そこは変わりありません。ですがその……これまで見てきて、特にこの生徒と組めば戦いやすいだろうな、といった感想はありましたか?」
逃走防止のために巻いていた、スケバンたちの足の拘束を解きながらハスミ先輩が聞いてくる。質問の意図が分からず、私は軽く首を傾げた。
「とりあえず思い当たるのはツルギ先輩、ハスミ先輩ですね」
「私とツルギ以外でお願いします」
私から見て強さで上から二人を指名したものの、そういうことではないらしい。単純に私の仕事量が減るから戦いやすいだろうと思ったのだけど、これを除くとなると……個人的に相性が良さそうな正実委員、だろうか。
その面から考えるのであれば、私がショットガンを愛銃にしていることもあって前方に突出しがちなので、後方から支援をしてくれる生徒とは基本的に相性は良いと言える。マシロちゃんとか、あとは……。
「たぶんですけど、コハルちゃんですかね」
「……やはり、あの子ですか」
ハスミ先輩は瞑目して小さく溜め息を吐いた。
「……ありがとうございます。参考にします」
「……」
何のですか、とは聞きづらい雰囲気だった。私は曖昧に頷いて、ちらりとスマホの時計を確認する。
どうやらミサの始めにはまだ間に合いそうな時間であった。
TavorTS12:シスターフッドに共通する銃器メーカーであるIWI(元IMI)が開発したショットガン