薬屋と海賊 作:うさ子
ザァァァ···。
静かに揺れる水面。
小さな港町には、今日もゆっくりとした時間が流れていた。
活気に溢れ、港町には買い物客であふれている。
そんな港町の森の奥深くには、コケ生やしたレンガ造りの家がポツンと立っていた。
外見は空き家のように古臭く、周辺には獣が出そうな雰囲気ではあるが、綺麗な小鳥の鳴く声だけが響いている。
ガサッ。
そんな中、トラファルガー・ローは鬱蒼とした草を踏みしめながら〖魔女の薬屋〗へ足を運んだ。
木でできていたドアを開けば、カランカランと客を告げるベルが音をたてた。
ローか薬屋へ入ると、様々な薬草の匂いを感じた。
古びた窓ガラスからは、ぼんやりした光が差し込むだけで店内は薄暗い。
棚に陳列された大きなガラス瓶には、乾燥させられた葉が詰まっていた。
瓶にはそれぞれタグが付けられている。
その他には、小瓶に入った丸薬などが少々値段付きで置かれているだけ。
「いらっしゃいませ」
店の奥でゴリゴリと薬研で薬草をすり潰していたロゼットは、着ていたローブのフードを深く被り、店の方へと出て行った。
フードを深く被った店主に、ローはカウンターに近づくとポケットから紙切れ一枚をポケットから取り出して、カウンターの上に置いた。
「この薬草を頼む」
「···、かしこまりました」
店主であるロゼットはメモされた紙を受け取ると、背後にズラリと並んだ薬箪笥から次々に取り出して行く。
ロゼットの様子を見ながら、ローは問いかける。
「なぁ、この辺りには珍しい薬草が多いのか?」
「···、いえ」
余程寡黙な店主なのだろうと、ローはそれ以上は何も言わなかった。
できる事ならば自ら採取して帰りたいと思ったのだが、薬屋を生業にしているのならば聞くだけ野暮だ。
「どうぞ、3000ベリーになります」
「···、は?」
値段を聞いたローは、珍しい薬草のはずなのに破格の安さに素っ頓狂な声をあげた。
「···、え?」
ロゼットは何おかしな事を言ったのだろうかと不安になるが、ローがポケットから財布を出して受け皿に置いた様子にホッと肩の力を下ろした。
「いや、払おう。邪魔したな」
「お買上げありがとうございました」
カランカランと、ローがいなくなった瞬間にロゼットは床に座り込んだ。
「·····、こ、怖かったよー···!!!」
(あれ、ハートの海賊団のトラファルガー・ローって人だよね!?めっちゃ怖かったぁ───····)
手配表を見て、ロゼットはローの存在をたまたま知っていただけに、受け答えには細心の注意をはらっていた。
(て言うか、こんな小さな港町に海賊が来るなんて)
たぶん、気に障る言葉は伝えていないはずだ。
そう、寡黙だと思われていた薬屋であり、緑の魔女と謂れ万能薬を作り出す事の出来る少女、ロゼット・クリストファーはビビりな所があった。
ローの気配が消えるのを待ってから、フードをゆっくりと脱いで立ち上がると、曇った窓ガラスからそっと外の気配を覗いた。
(良かった。いなくなった)
まるで小動物のように確かめた後で、ロゼットは遅くなったお昼ご飯を買いに行くために、大きめの肩がけカバンを持った。
あまり人が訪れる事のないこの店は、知る人しか知らない場所となっていた。
だから海賊であるローが訪れるなど、余程珍しい事だった。
港に着いたロゼットは、澄んだ空の青さと太陽の眩しさに空を見あげた。
船着場には沢山の船が並び、海カモメが可愛らしい鳴き声を出しながら飛んでいる。
(今日のお昼ご飯、どうしようかな···)
呑気に考えながら森から一歩出た瞬間、ドォォォォン!!!!と大きな爆発音が響いて、風圧によろけて地面に倒れ込んだ。
(何事!?···)
「いったー···」
ロングスカートのお陰で擦り傷は免れた物の、倒れた瞬間に打った腕が地味に痛かった。
港町に視線を向ければ、いつもの平和だった頃の風景とは打って変わっていた。
「·····うそっ」
吹き飛んだ数々の店と、瓦礫の下敷きになっている人達の姿に、体が勝手に駆け出していた。
「うわぁ───ん!!!痛いよぉ!!ままぁ、ままぁー!!」
泣き叫ぶ小さな子供、血みどろになって倒れている人達。
港には、大きな海賊船が船場に着いていた。
「げへへへへ!!!ひっさびさの港町だぜェ!!お前ら、金と飯、それから若い女を攫って来い!!···うるせぇガキはいらね。殺しちまえ」
海賊の親である大男が、泣いている子供目掛けて大剣を振り落とした。
「うぉぉぉ!!!」
「やっちまえ───!!」
と海賊達の歓声がわく中で、ロゼットは地面に手をつけると頑丈な蔓を生やした。
「はぁ!?なんだこりゃ、ビクともしねー!!」
大男が騒ぐ中で、フードを被ったロゼットはそのままギリギリ大男に巻き付かせて縛り上げた。
大の大男が体を動かそうとするが、ビクともせずに蔓に締め上げられていく。
その隙を見て、ロゼットは子供を呼んだ。
「君、こっちにおいで」
「っ、···!!!」
駆け出してきた子供にブチ切れた大男が叫んだ。
「えぇい!!!殺せ!ガキを殺せ!!!」
「·····、させない」
何千枚もの葉を生み出したロゼットは、そのまま大男へと向けた。
飛んでいく葉はブチブチ大男の肌を削いで行く残酷な姿に、子供に見せまいと抱きしめた。
「うああああああああァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!」
大男の断末魔が響いたと同時に、直後にバタンと倒れた音がした。
ロゼットはパチンと指を鳴らすと、葉はひらりひらりと地面へ落ちた。
立ち上がったて見れば、白目を向けて倒れている大男の姿が目に入った。
「·····あれは、魔女だ!」
「緑の魔女だぁ!!」
ロゼットの視線が海賊から一気にロゼットに集中する中で、「早くお帰り」と、ポン、と子供の背中を優しく押した。
「···あ、」
(しまった──···)
ザワザワと広がる【緑の魔女】と言う言葉の裏には、ロゼットの祖母が深く関係していた。
ロゼットはその孫だが、フードを被った姿は小さく年取ったようにも見えるだろう。
この港においての【緑の魔女】と言う言葉は、あまり歓迎されている物では無かった。
「おい、お前」
先程聞いた声に、ロゼットは嫌な予感がした。
「ひっ!」
そんな中で、ローはロゼットの肩に手を乗せた。
やはり、とロゼットは身を縮こまらせた。
「お前、″能力者″か」
「···能力者?」
「さっきのデタラメな力だ。悪魔の身を食わなきゃあんなモン生み出せねぇ」
ロゼットはローからの質問にわけも分からず、復唱するが、周りの民集の空気にローはロゼットを軽々肩に担ぎあげた。
「わわっ!!!?な、何を!!」
「お前嫌われてんだろ?なら丁度いい···一緒におれ達と一緒に来い」
「へ?いやちょっと···、」
「なぁに、悪いようにはしないから安心しろ···ルーム」
いきなり現れた半球型のドームに、ロゼットは驚愕した。
「何これ!?」
「シャンブルズ」
ローはロゼットを抱えたまま、ポーラータング号へと帰還した。