京ちゃんは死にたくない! 作:清水の舞台からパラシュートで降りたい部
その糸が、いつ切れてしまうか分からなくても
正直俺には、罪を犯した感覚というものがない。
やはりお前はサイコパスだったなこの人間のクズが!なんて思わないでほしい。
漆間の両親を殺したのは、他人を踏み躙って悶え苦しむ様子を観察していたクソサイコパスの至極京であって俺ではないのだ。
むしろ何故こんな理不尽なことが俺に降りかかるのか不思議だった。
俺は自己愛と保身の権化である。だからと言って他人を積極的に害するほど覚悟がキマっているわけではないが、自分が生き延びるために自分以外の誰かを見捨てるくらいはする弱い人間である。
思想そのものが重罪と判断されてこんな苦境に追い込まれているのだろうか?
もしそうだったならこの世界はクソだ。
「あーあ」
桜の舞う校門を見ながら、俺はぼやいた。
もう高校の入学式。あまりにも早い。
死亡エンドの対策が思いつかず、やけになってはっちゃけた中学三年間は最高だった。
一年での文化祭で試しにDJをやってからは、三年間『DJ・KYO=TYAN』として文化祭のシーズンが来る度に学校を盛り上げた。
あ、あと女装コン三年連続一位だったのは誇らせてほしい。
別に俺が根っからのパリピだったわけではない。小学校とは比べ物にならないほど、学校全体の民度とノリが良かったおかげである。
話が通じるって本当に素晴らしい。
小学校生活は地獄でしたね…マジでね…
こちらの一挙一動全てを「漆間を更に追い詰めろォ!殺せェ!」と解釈してくる暴走機関車共を侍らせていた至極京はとんでもなく趣味の悪いガキンチョだと痛感した。
時には言いくるめ、時には笑いながら脅して黙らせる毎日なんてもうなかった。
小学生にして「ヤリチン」と不名誉なあだ名で呼ばれたり*1、改造エアガンを人の腹に押し付けて何発も打ったり*2、早熟だろうと達人でもない分際で地面へ人を投げ飛ばしたり*3、ケヒャケヒャと煩い笑い声を上げたりする奴*4など、中学校には一人もいない。
人が不快になるようなことをしないのだ、俺のクラスメイトたちは。
だが、悲しいことに恋愛には発展せず*5、もっぱら俺は女子の恋愛相談にロングのカツラを被って相槌を打つことが多かった。
ここまでして女子から嫌われてたら立ち直れないので、俺が恋愛対象にならないのはシンプルに童顔が原因だと思いたい。
そういえば、修学旅行は楽しかったな…
ホテルに着いて、『京都の名所についてのレポート(提出課題)』を書き始めたものの、なかなか進まずじまいだった。
気分転換にと雑談していたら、山田の好きな子が委員長だと暴露されたらしくなんやかんやで枕投げの大乱闘が始まって、結局一文字も書かずにみんな寝落ちしたんだっけ。
後から聞いたところ、女子はレポート書きながら恋バナで盛り上がっていたらしい。
レポートを一部写させてくれた委員長はありがとう…本当にありがとう…
まあ。
怯えながら死を待つのは嫌だったから、二度目の中学校生活を健全にやりたい放題エンジョイし終わった俺だが、やはり怖いものは怖い。
いつどこから漆間が来るのか分からない上に、俺というイレギュラーが入ったことで漆間の復讐計画が変わり、順番が変わる可能性もあるのだ。
原作知識は頼りになるが、信じ切るには難しい。
…いや、待てよ。
原作でぶっ殺されていた奴らのように悪事なんてせず、罪悪感を背負っている風に
俺を含む五人を殺すという漆間の復讐の師匠となった“じいちゃん”。
戦争の時になんちゃら部隊に所属していた暗い過去を持つかっけえ爺さんが漆間とした約束が、脳裏に浮かぶ。
「改心した者は見逃すこと…!」
希望が見えた。
それが砂漠に遭難した旅人が見る蜃気楼だったとしても、実行すれば1%でも助かる可能性があるのだ。俺がやったことではなくても、ある程度反省の意思を見せていないと漆間にブッコロリされてしまう。
問題は大根演技と見抜かれたらもうお終いだという点だが、あいにく俺は命を狙われている状態で優等生の皮を被りつつ悪事を犯すなんてことはできない。
普通に青春を送るだけ送ってマジで何もしていない俺の様子を見てあいつは一瞬、たった一瞬だとしても戸惑うはずだ。
言い方があまりにもアレだが、漆間俊は割とチョロい。
キモい性癖持ちだと身を持って知っていたはずの千光寺*6の演技に騙され、まんまとしてやられたのがいい例だ。
いける、いけるぞ…!
俺の原作知識は1話から右代*7が後ろの穴を切り裂かれたところで終わっている。後は無料公開されていた最終話のみ。
見切り発車にも程がある生存戦略である以上、油断はしない。気を緩めたが最後、ガソリンをぶっかけられてバーナーで焼かれるに違いないだろう。
漆間俊は確かにチョロいが、それはこちらが改心しているかを見定めるため。なので完全に敵と認識したら俺は秒で死ぬ。
こちらがバスケ部で毎日のように身体を動かしていたとはいえ、あのやべぇじいちゃんからどんな技を施されているかも分からない漆間を侮るなんてことを絶対にしてはいけない。
大丈夫。
これからは俺の行動次第。
なら、サボっていた分も積極的に動かないと。
なんかすごくガバガバだけど…いけるの…?(不安)
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