〜野外 簡易治療所〜
「先生っ!待って、止まってっ!お願いだからっ!!」
”離してくれ、ヒナっ!!ルイが......ルイを助けに行かないとっ!!”
「何を言ってるんですか、先生っ!?先生だって、少なくない怪我をしているんです!今は安静にしていてくださいっ!!」
”駄目なんだよ、セリナ......。それでも私は、彼女を......ルイを失いたくないんだっ!!”
「そのルイ......という方が、どのような方かは存じません。ですが、先生がその方を心配するように私達も先生が心配なのです。......私は、先生の死体など検分したくありません」
”セナ......。でも、私は......私はッ......!!”
「はーい、そこまで。心配かけたな、先生?......先生のルイは、ここにいるぞ♪」
”あ......。る、い......?ルイっ!!”
「ひゃんっ!ちょ、ちょーっとだけ大胆じゃないですか?......先生?生徒たちの前で、そんなに強く情熱的に抱き締められたら、いくらアタシでも恥ずかしいんだぞ♪」
”ーーー怖かったんだっ!!”
「っ!......先生?」
”......もう駄目だと思った時に、私は何よりも君のことを思い出していた。会いたいと思っていた!”
「......うん」
”......そんな君が目の前に現れて、戸惑いもあったけど嬉しかったよ。......けどさ。その直後には君一人を残して、自分だけが安全な所に追いやられた......。どんな気持ちだったか、君に分かる......?”
先生はそこまで言って、一拍おいてアタシを抱き締める力を更に強めると、続けて言った。
”怖かった!不安だった!身体が凍ったように冷たく感じた!心が痛かった!君を......君を失うんじゃないかと、本気で思ったっ!!”
「ごめんな、先生......。心配、かけ過ぎたな......」
”本当だよっ!お願いだから、もうあんな無茶はしないで!”
「あ、それは無理。今からクソババアを殴り飛ばしに行くからさ」
”ねえ、ルイの情緒どうなってんの!?今の流れで、そうはならないでしょっ!?”
「なってんだよなぁ......。取り敢えず先生、一旦離れてくれ。後でタップリ......癒してア・ゲ・ル・か・ら♪」
”っ!!それは反則だってぇ......”
先生の耳元で甘く囁いてやると、身体を震わせて腰砕けになる。完全に脱力した先生を近くにあった椅子へ座らせ、アタシは本題に入る。
「えーっと......。あ!そこのピンク髪の可愛いナースちゃん!それと、クール系銀髪ゲヘナナースちゃん!悪いけど、この子らの手当してくんない?大した怪我はないけど、一応ね?」
「ピンク......あ、私ですか?それは構いませんけど、ちゃんと名前で呼んでくださいね?セリナといいます」
「私はセナです。それよりも、アナタが連れてきたその方々はもしや......」
「アリウス......ッ!!」
「銃を下ろせ、シナシナモップちゃん。ちゃんと理由は話すから」
「誰がモップよっ!?」と噛みついてくる空崎ヒナを宥めつつ、アタシは先生にも目配せしてから事情を話した。
ーーールイ、説明中......。
「ーーーと言う訳なんだ。んで、今後のためにも今から諸悪の根源であるクソババアを殴り飛ばしに行くから」
”事情は分かったけど、何でルイが介入するのさ!?ここはシャーレの私に任せてよ!!”
「いやアタシ、添い寝屋ぞ?一度癒した相手には、最後まで寄り添うのがアタシの信条なんだ。あと単純に、この子らを洗脳しやがったクソが気に入らねえ」
”絶対、最後のが本音じゃん!?”
「先生?あんまり細かい事を気にしすぎると、女の子にモテないぞ♪」
”べ、別に私は、その......。ルイにさえ側にいてもらえたら、それで......”
アタシは小声でボソボソ喋る先生に首をひねっていると、サオリに声をかけられる。
「......取り込み中に、すまない。一応、私達の紹介をさせてもらってもいいだろうか?」
「そうだな。自己紹介、挨拶は大事だ。基本が出来てて偉いな、サオリ!よしよし〜!」
「ん......少し、くすぐったいな。では、改めて......アリウス分校、アリウススクワッドのリーダー錠前サオリだ。今回の事件、いくら謝罪しても足りないが......申し訳ない」
「戒野ミサキ......。安心して。全部終わったら、ちゃんと報いは受けるよ」
「ミサキちゃん、まだまだネガティヴだねー。ルイさんのハグ治療を受けましょうねー」
「は!?ちょっと!や、やめ......!すぅ......すぅ......」
「ハグ治療......。そういうものもあるのですね。救護を担うものとして、勉強になります!」
”セリナ?多分あれは、ルイにしか出来ないから真似しないようにね?”
「そうなんですか?」
「えへへ、ミサキさんのあんなに安らいだ寝顔は初めて見ました......。あ、わ、私は槌永ヒヨリといいます......」
「私は秤アツコ。治療してくれて、ありがとう。そして、今回のこの惨状......本当に、ごめんなさい」
アタシはアツコがそう言って頭を下げる姿を見て、もの凄くやるせない気持ちになる。
だってそうだろ?この子達の生まれはどうあれ、ベアトリーチェさえやって来なければこんな真似はしてなかったはずだ。......してないよな?
......とにかく!子供ってのはもっと、未来に希望を持って明るく元気に友達とかとワチャワチャやってりゃいいんだよ!
それを自分の醜い欲望の為に、子供達の未来を後ろ暗いもんにしやがって......!崇高だかなんだか知らんが、その計画ごとまるっと潰してやらァっ!!
”......君たちの境遇は理解したよ。軽々しく言えるものじゃないけど、今まで大変だったね?後は私が、大人としての責任を果たすよ”
「いや、少しでも私達の苦しみを理解してもらえたのなら、こんなに救われることはない......。ところで、先生。責任とは何だ?別にアナタは、私達に何も手は出していないだろう?」
”まあ、これは私の持論だけどね。悪意ある大人が、生徒たちに危害を加えるのなら......私は同じ大人として、生徒たちを救いたいんだ”
「そうか......。もっと早くに先生に出会えていたら、私達の”今”は違っていたのかもな......」
「サっちゃん......」
「......貴女達の境遇は分かった。同情もするし、情状酌量の余地もあるとは思う。......だけど、現実として起きてしまった事は変えられない。そこには事件を起こした本人の責任がある。先生の言う、大人の云々は関係ないわ」
”だけど、ヒナ......!”
先生の訴えるような眼差しに、私は首を振り答える。
「先生。貴方が私達生徒に心を砕いてくれるのは、嬉しいわ。けれど例え誰かに操られていたにせよ、間違いを庇ってはダメ。子供だからと、何でもかんでも先生が生徒の”責任”を奪ってはいけないわ。ーーー善意を履き違えては、駄目よ先生?」
”......うん、分かったよ。ありがとう、ヒナ”
「いいえ、私も出過ぎた真似をしたわ。ごめんなさい、先生」
「先生も、生徒から教わることがあるみたいだな?ヒナちゃんも、しっかりしてて偉いねー?はい、ぎゅうー♪」
「ちょっと!?いくらなんでも、子供扱いしすぎーーーくぅ......くぅ......」
「なっ!?あのヒナさんを、秒で......!?先生、この方は一体何者なのですか!?」
”添い寝屋さんです”
「......ふざけてるんですか?」
”......添い寝屋さんなんです!”
「ん?どした?二人とも。あ、セナちゃんもハグしてほしい?」
「いえ、それはまた今度で。......ルイさん、でしたね?ヒナ委員長含め皆さん、色々と限界でしょうし一度休みましょう」
「え、でもババア退治が......」
「これは、医療に携わる者としての言葉です。それに、これ以上まだ先生に心配をかけさせたいのですか?」
「う......。先生を引き合いに出すのは、狡いだろう......。分かった、休みます!」
「それでは、あちらのテントを使ってください。アリウスの皆さんや、ゲヘナの方は今のトリニティ生徒たちに見つかれば、どうなるか分かりませんから......」
「ありがとうございます、セリナさん。では、移動しましょう」
「すまない......。その、ありがとう」
「いえ、困った時はお互い様ですし。気にしないでください♪テントには人が近づかないように私達、救護騎士団が警護に付きますのでご安心を!」
「んじゃぁ悪いけど、少し休ませてもらうな?特に癒しが必要そうなヒナちゃんと先生は、ルイさんと添い寝しましょうねー♪」
「くぅ......くぅ......」
”え。......待って待って待って!?生徒たちの前でそれは、私の尊厳が......!”
「はーい、2名様ご案内〜♪」
”ねえ!?偶には私の言う事kーーー”
アタシはウダウダ言う先生と、スヤスヤ眠るヒナちゃんを抱いてテントへと入っていった。
「......私達も休みましょうか?」
「あ、ああ、そうだな。アツコ、ヒヨリ。ミサキは私が運ぶから行こうか」
「あ、そういえばミサキさんも眠ってましたね......」
「私もルイに添い寝してほしかったなー」
こうして私達は、一時の休息を取ることになった。......それにしてもだ。先生に添い寝しているルイの幸せそうな顔は、とても印象的だったな。
ベアトリーチェとの決戦まで長くなりそうなので、分割しました。