幻想世界と輪廻の蛇   作:ハラッパー

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偽聖女編1

私は殺された。死因は剣だった。

懐かしい死因だったので、死に際につい笑みが浮かんでしまう。

転生を繰り返すと肉体を鍛えるのが億劫になるのだ。だって次回に持ち越せないから。最近の転生はずっと知識を蓄えていた気がするから、次は久しぶりに肉体を鍛えても良いのかもしれない。

 

目を瞑る。私を裏切り、最後から突き刺した弟子は血の滴る短剣を片手に何かを叫んでいる。

身体強化魔法が切れているのでどんな内容かは分からない。いつかまた出会う機会があったら聞いてみようと思う。

 

ハイファンタジー世界で宮廷魔術師として過ごした私の人生はこうして齢二十五で幕を閉じた。

やっぱ宮仕えはダメだ。仕事続きでロクに給料を使えない。きっと何周か後にはまた安定性目当てで公務員になってるだろうけど。

 

 

「おぎゃあ」

 

慣れた暗転と、それから眩しい光。混沌とした意識の海から、一つの“我”として引き上げられる感覚。

私は()()転生を果たした。視界の端で母親の姿を捉える。端麗なエルフだ。

 

今生は肉体の鍛錬に専念するつもりだったが早速雲行きが怪しくなってきたな。どうすんだコレ。

 

 

 

□■

 

 

 

三度目の転生で、世界は複数の系統が存在するのだと知った。

謂わゆる並行世界の様に少しだけイベントが異なる世界線だけではなく、神の名から創世の経緯に至るまで全てが異なる世界まで多種多様である。

何周かの人生を費やして世界間移動を試みた事もあったが、大抵の場合は失敗に終わってしまった。成功した場合も世界観の中で既に前例があった場合だけ。

 

だから、そう。

神と古竜と悪魔が戦乱を繰り広げる超巨大統一大陸から、教会と国王と大貴族が政争を繰り広げる大陸の片隅に転生するのも慣れている。

被差別種族に生まれるのも、毎度どうしてか美少女として生まれるのも慣れている。今では実質容姿チートと喜べる程度には。

 

私は輪廻の蛇。無限転生の呪いを授かった者。

今世での名前はテオ=リューゼ・オルベイン。第一の神樹オルベインの眷属にして、リューゼ族の女でもある。

そして普通に奴隷だ。

 

「おっと、貴重な経験値。努力が明確に数値として報われる世界というのも良いですね。構造的にこの世界の神格は適度に強者を輩出したいのでしょうか?」

 

齢五つの幼子でも、入り込んだ羽虫を叩き潰すのは容易い。

蹴りの一撃で羽虫──正式名称はレッサー・モスキート、とのことらしい。図鑑には最下位種と記載されていた。──を殺害して、微々たる量の経験値が流れ込むのを感じる。

既に何度かレベルアップをしているので今更この程度の経験値でレベルアップはしないが。

 

美しい黄金の髪の白皙の美貌。幼く貧しいながらも容姿端麗なのはエルフの特性が原因だろう。特に手入れをせずとも容姿が劣化しないお陰で気が楽だ。

何度転生を繰り返しても、やはり綺麗なものは綺麗な方が嬉しい。感性が変わり果てる、という事象とは生憎と無縁だった。根が俗なのだ、私は。

 

チラリ、と自身の情報を確認する。『従者』のジョブがLV.3。スキルは家事の補助のみ。ステータスは一桁が精々。

エルフというのは種族傾向として魔力値の伸びが良く、また魔術師系統のジョブに適性を持つらしいが、今の私とは縁遠い話である。

肉体を鍛えるなら闘士や戦士かな、と考える。ジョブ同士の組み合わせによって派生先が変わるという話もあるので割とシステマチックな世界だ。

 

「ちょっと、一体何を考えているかは分かりませんが先ずは虫の死体を片付けた方が絶対良いですわよ。傍目から見るとかなり怖いので」

「あぁ、ごめんなさい。経験値の量を計算していまして。次のレベルアップまで二千回は殺さないと話にならないですね」

「随分とレベルアップに貪欲ですわね………下剋上とか狙ってらっしゃるので?」

「ぶっちゃけ下剋上してもあんまり旨みがなさそうなので別に。エルフの差別激しくないです?貴族の従者でも表立って侮辱されるの、教会の権威が一般貴族の権威を上回る証明ですよね?」

「少なくとも都市民の教育は大抵教会学校が担っておりますもの。教会の価値観も浸透するってものですわ」

 

蹴り潰した虫を掃き取り、微笑みを浮かべて傍らに立っている三年だけ歳上の幼馴染と顔を見合わせる。

お互いに子供離れしているが、貴族教育を受けているというバックボーンがあるだけ彼女の方が普通に近いだろう。

 

「おはようございます、アンネローゼ様。朝食はお母様がフレンチトーストを用意していますよ」

「おはよう、テオ。朝から虫の死体を見せられてちょっと食欲が失せているのだけど、どうしたら良いと思うかしら?」

「ははは、困りましたね。羽虫如きに一々気を取られていると貴族するのは大変そうですよ」

「否定できないわね………ウチみたいな中小貴族だと強盗団の対処まで独力でやらなきゃだもの」

「アンネローゼ様の力なら大貴族の玉の輿だって夢じゃないんですから気にしなくても良いとは思いますけどね」

「五歳児に玉の輿とか言われるの、やっぱりちょっと不気味ね。くれぐれも父上と母上の前では言わないでよ?」

「そりゃあもう。親愛なる幼馴染のお願いなんですから当たり前じゃないですか!」

 

にっこりと微笑めば、胡散臭そうな無言の眼差しが返ってくる。

アンネローゼ・ヴォルゲンシュタイン嬢は疑り深いのだ。『聖女』というどうにも優しそうなジョブを持っているというのに。

まあ歴代『聖女』も大概なのでコレが今世の『聖女』のテンプレートなのかもしれないが。初代『聖女』からして当時最大の世界帝国を民衆の煽動で転覆しているのだ。因みにコレは歴史書にバッチリ残っている。

 

今世の教会は特に隠し立てせずに権力と財力を追い求めているのでいっそ清々しい。そもそもの神がシステマチックに世界を創造したお陰で信仰心がなくてもジョブとレベルとステータスだけあれば信仰がなくても力を振るえるので当然かもだが。

謂わば聖職者系統のジョブに就いている者のギルドなのだ。『教皇』という特殊且つ極めて強力なジョブによって他の系統よりも大きな力を持つというだけで。

 

「………まあ、釈然としませんが良いでしょう。そう、私は冒険者として自由を手に入れるのです………!」

「夢が叶った暁には私も同伴させてくださいね。バンバン前衛として戦いますから。さっさとレベルアップしたいです」

「どうしてそんなに強くなりたい欲求が強いのかは分かりませんが勿論ですわ!夢が叶った暁にはジャンジャンとモンスターを倒して一攫千金でウハウハですわ〜〜〜!!!!!」

 

挙動が面白いお嬢様だな、と苦笑する。

そもそもヴォルゲンシュタインは領地こそ小さいが発言力としては十分に大貴族だろう。そうでもなければ第一神樹の眷属、最も純粋なエルフの内の一人を殺さずにメイドにするのは不可能だ。

というか皆んなして黙っているが、私とアンネローゼ嬢が異母姉妹なのは間違いないだろう。もしも父親が余所に居るのならお母様は監視の目を潜り抜けて逃げる。死んでいたとしても墓参りに駆け付ける性格だ。

冒険者として一攫千金、というのも現ヴォルゲンシュタイン士爵と同じ成り上がりルートだし。血の繋がりだなぁ、と心中で呟きつつ箒を仕舞う。

 

「でも戦うにしても普通にステータス足りませんね。剣闘士か傭兵かのジョブに就きたい所です。『従者』との複合派生で面白いジョブないですか?いつも寝る前にワクワクドキドキで論文読んでましたよね」

「凄い無茶振りな上に真剣味が著しく欠如している………!?」

 

エルフのジョブツリーって魔術師系統に偏りがちなので先人が居ないんですよね。

第一神樹の眷属にもなると常人と比べて魔力値の伸びが約千倍近く高いので当たり前ですけど。

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