ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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はじまりとおわりです。


1話 chu♡いちごオレ、絶望♡

 

僕はどこにでも居る様な、ありふれた唯の人間だった。

 

普通の家庭で、普通に育って、普通の学校生活を送って、普通に就活して、ブラックな企業で普通に社会の歯車の1つとして働いている、普通の人間だった。

 

週刊少年ジャンプが好きで、憂鬱な月曜日はそれで乗り越えて、休みの日には平日の分まで死んだ様に昼過ぎまで寝て、持ち帰りの仕事をこなして、漫画を読んだり、時々実家に連絡して変わりないかきいたりして、ありものでご飯を作って、テキトーに食べて、また会社へ行く。

 

そんなことを繰り返して生きていた。

 

 

 

 

 

 

僕には幼馴染がいる。

 

彼女とは、幼稚園から、小、中、高、大学とずっと一緒で就職先まで同じだったからとても仲が良かった。

 

恋人とかそんなんじゃない。

 

好きな物が同じで、お互いに気を使わなくて良い所がなんとなく居心地良くて、親友みたいな感じだった。

 

彼女とは退勤時間が合う時には(まぁこんな企業だったから残業まみれで殆どなかったけれど)一緒に帰ったりしていた。

 

その日も僕はいつものサービス残業をこなしていて、彼女は一足早く退勤したらしい、LINEで"こっちは終わったけどそっちはどんな感じ?"と連絡がきた。

 

先輩が"規定の"退勤時間の10分前に明日使う資料の訂正を、わりぃ、お前は仕事が出来るからって僕に押し付けてさっさと帰っちゃって、珍しく僕しか残っていないオフィスは伽藍としていて広く感じて、変な感じだった。

 

僕は"まだ残業だよ、遅くなるから、先に帰っていて良いよ"と送ったけれど"ううん、待っている時間も好きだから良いの、だから一緒に帰ろ!"ってにこにこマークの絵文字付きで返ってきたから"ありがとう、でも本当に暗くなったら帰るんだよ、夜道で1人だと危ないからね"と念押しして、さぁて、終わらせちゃわないと、と思ってコーヒーを流し込んで伸びを1つして、黙々と作業を再開した。

 

 

 

 

冬の入りで、風が寒くなってきているし、外が暗くなるのも早かった。

 

途中で"待たせてごめんね、風邪を引くといけないしもう暗いから、悪いけれど今日は先に帰っていて"と連絡する。

 

 

すぐに既読がついて"カフェに居るから平気、仕事終わりそう?"と来たので"ぼちぼち終わりそうだよ、ありがとう。終わったら食べたいって言っていたコンビニの新作のロールケーキ、奢るよ"と打つ。かわいいうさぎがありがとう!とハートを飛ばしながら言っているスタンプが返ってきて、あともう少しで終わる仕事を黙々とこなした。

 

 

 

 

よし、思ったより早く終わった、先輩には今度缶コーヒーご馳走して貰わなきゃな、と思いながら彼女へ連絡して一緒に帰る。

 

待たせてしまったお詫びに家の近くにあるコンビニで彼女が選んだ新作だというチョコレート味のロールケーキと、おまけにいちごオレを買って渡してあげる。

 

あ!いちごオレ好きなの覚えてくれていたんだ、と喜ぶ彼女に、学生時代にいつも飲んでいたじゃん、と笑いかける。

うれしそうに、スキップをする様に跳ねて歩く彼女を見て、くすりと笑いながら、それからくだらない社内旅行の話だとか、ブラックすぎる会社への愚痴なんかを話して、彼女の家の前まで送る。

 

僕の家はもう少し進んだ所だから。

 

 

 

 

彼女の家の前まで来たから、じゃあ、明日も仕事頑張ろうね、と笑いながら言おうとした所でカラン、と金属の様な何かが地面に当たる音がして、反射的にそちらを見るより先に、ガツンとこめかみに衝撃が走る。

 

視界がチカチカと明滅する。

激しい痛みと共に体が傾いて、倒れかけて、たたらを踏む。

こめかみから生暖かい液体が頬を伝うのが分かる、けれど、何が起こっているのか理解が追いつかない。

 

 

僕はとっさに強盗だ、と思った。

僕はもう良い、きっと助からない。

 

でも、女の子が捕まったらどんな目に遭わされるか分からない、回らない頭で、とにかく彼女を少しでも遠くへ逃げさせなくては、と思って、鍵を開けて家に入るより、僕が何とかして時間を稼いで、人が居て安全な場所、コンビニ、そうだ、彼女の居た方へ向かってコンビニへ走れ、と声を出そうと、した、したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん、と、声がする。

 

 

 

それは、さっきまで聴いていた、彼女の声で、彼女はコンビニで、抹茶味か、チョコレート味、どっちのロールケーキを買うのか迷っている様な、そんな日常の様な声で。

 

困ったなぁ、と言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

1発じゃ駄目だったみたい、こんな事なら、ジムとかに通ってもっと筋肉つけておくんだったなぁ、まぁ時間がなかったから仕方ないかぁと続ける。

 

 

じくじくと傷が痛む。血が止まらない。

 

脳が揺さぶられる様だ、目が痙攣する様に視界が左右にぶれる。

 

酷い眩暈に耐えきれず足の力が抜け、体が崩れ落ちて、手をアスファルトについて、痛みを少しでも緩和する様に、落ち着かせる為に、肩ではっ、はっ、と息をする。

 

彼女の事を見上げる。

タラタラと流れた血が、顎先からぽた、ぽた、と垂れてアスファルトに血溜まりを作っていく。

 

 

どうして、と呟くが、答えは返ってこない。

 

 

 

 

ヂッ、ヂヂッと音を立てる切れかけの街灯を背に、細めの鉄パイプを握った彼女が、こちらを見て困り笑いを浮かべている。

 

ごめんね、1回で上手くやってあげられなくて、と言ってバットを素振りをするみたいに振りかぶる彼女と、さっきよりも強い衝撃を最後に、僕の視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の痛みで目が覚めた、ズン、ズンと脈動する様に痛む。

皮膚が裂けてしまっているんだろう、傷口の、空気に触れている所がヒリヒリして、流れ出ていた血が固まって皮膚に張り付く感覚も不快だった。

 

体のあちこちをぶつけた様な鈍い痛みもある。

 

僕は結束バンドで両手足を何重にも縛られていて、横になって丸まったまま身動きが取れなかった。

口には布を噛まされていて、流れ出た唾液が染み込んでいて気持ちが悪い。

 

 

ここは、何処だろう、目だけでぐるりと見渡すとモノトーンで統一されたシンプルな部屋だった。

 

ドアがガチャリと開く。

 

あ、起きてる、良かったぁと笑いながら彼女が近づいてくる。

あぁ、ここは彼女の部屋なのか、そうだ、大学の途中で僕の家の近くに越してきたんだった、家へあがったことはなかったから知らないのも当然か。

 

変に冷静になった頭で考える。

 

僕は自分に起こっていることが現実だとは思えなかった。思いたくなかった。

 

日常が壊れるのは、こんなにも、あっという間なのか。

 

 

 

 

あのね、と申し訳なさそうな顔をしながらしゃがんで、僕に目線を合わせて彼女が話す。

 

ごめんね、2回も叩いちゃったから、血が沢山出て、ずっと起きなくて。

 

どうしよう、死んじゃったかもって思ったの。

 

ここまで運ぶのにも、私、力が足りなくて、色んな所にぶつけちゃって、アザになっちゃうよね、と悲しそうな顔をする。

 

 

死んじゃったかも、って心配してくれているって事は、僕を殺す、気は、ないのかなぁ。

 

そしたら、消去法で監禁とかなのかなぁと回らない頭で考える。

 

 

 

 

彼女は床に座って、微笑みながら僕の頬に付いた乾燥してパリパリになっている血をかり、かり、と優しく触りながら話し続ける。

 

この部屋、素敵でしょう、モノトーンで纏められていて、とってもセンスが良いのよね。

 

まるで自分の部屋じゃないかの様に話す。

 

 

 

 

  

 

いや、待て。

 

ここを、僕は知っている。

 

ここは、僕の部屋と作りこそ違うけれど、置いてある物がまるっきり一緒だった。時計も、観葉植物も、敷いてあるラグもカーテンも、シトラスの香りのディフューザーも、デスクも、パソコンも、ベッドに転がるポケモンの抱き枕も、本棚に並んでいる漫画まで一緒だった。

 

 

 

僕は、彼女を、部屋に入れたことなんて一度も、ない。

 

 

 

「あ、気づいてくれた?ふふ、あれも、これも、全部あなたとお揃いなんだよ、だから私はこの部屋が好き。あなたの好きな物に囲まれているって、それってあなたに好きって言われているのとおんなじことだと思うの、そうでしょ?うれしいなぁ。小さい頃からあなたは私に優しくしてくれるし、困った時には何も言わないで助けてくれたり、今日だって私の好きな、いちごオレのことを覚えていて買ってくれて、私だけ、私のことだけを見てくれているって感じられる所とか、とっても気遣い上手だよね。私はね、幼稚園の頃、他の男の子がボールで遊んでいても、私のおままごとに付き合ってくれた時のことも、意地悪する子から助けてくれた時のことも、駄菓子屋さんでアイスを半分つした時のことも、夜の学校に忘れ物を取りに行くのが怖くて着いてきてくれた時のことも、中学に入って数学が苦手な私の為に遅くまで一緒に勉強を教えてくれた時のことも、お弁当のおかずをつまみ食いしても笑って許してくれた時のことも、席替えで隣になった時にいたずらっぽく笑いかけてきてくれた時のことも、修学旅行で同じ班になれて色んな所を一緒に周った時のことも、文化祭でメイド喫茶やって、女装させられて恥ずかしそうにしているのを見た時のことも、部活の大会の応援に行ったら驚いた顔してでもニコッて笑いかけてくれた時のことも、みんなで行ったカラオケで優しくて落ち着いた歌声を聴いた時のことも、夏祭りに一緒に行ってりんご飴を買ってくれてみんなで花火を見た時のことも、大学のサークル、何にしようかって一緒に考えてくれた時のことも、バイトのシフトを交換してくれた時のことも、ネイルとか髪の毛切ったのすぐに気付いて褒めてくれた時のことも、この香水好きだなぁって何気なく言ってくれた時のことも、僕は外食ばかりだけど、君はいつもお弁当作っているの偉いねって言ってくれた時のことも、夏のバーベキューで焼く係からそっと代わってくれた時のことも、社会人になりたての時に靴擦れして痛かったのを我慢していたらすぐに気付いて持っていた絆創膏を貼ってくれた時のことも、飲み会でお酒が苦手な私に代わってさりげなくウーロン茶に取り換えてくれたことも、ダル絡みしてくる同僚をさりげなく他の場所に連れて行ってくれた時のことも、ミスして泣いている私にこっそりハンカチとお菓子を渡してくれた時のことも、食堂でご飯食べているあなたの隣に座って食べるのを静かに許してくれた時のことも、今日みたいに一緒に帰った時のことも全部全部大切な思い出なの。私1人じゃ生きていけなかった、あなたと離れたくなかった。だから頑張って勉強をして、そう、あなたに分からないところを沢山沢山教えてもらって、高校も、大学も、就職先だってあなたと同じ所に居られる様に、私の身の丈に合わない生活をぎりぎり送ってきたんだよ。あなたの為に、あなたが居てくれたからここまで生きてこれたんだよ。あなたはいつも誠実で、優しくて、暖かくて、人柄が良くて、誰からも好かれていて、頭が良くて、それを鼻にかけない謙虚さを持っていて、スタイルも、顔も良いし、柔らかい笑顔も、ちょっと癖っ毛な所も、スーツをかっこよく着こなす素敵な所も、ネクタイのセンスも、丁寧な所作も、仕事が出来る所も、そんな所に漬け込んで利用してくる馬鹿共に嫌な顔1つせずに対応してあげる所も、みんな、みんな好き。好きなの。私、あなたがこんなにも好きなのよ。こんなことじゃ言い尽くせないくらい好き。

って、まって、まって待って!!!あー!!わぁ!好きって初めて言ったから、ちょっと、すっごく、恥ずかしいなぁ!!わ、私、顔が赤くなっていない?

うぅ〜っ、恥ずかしい!本人の前で言うって、声に出すってやっぱり恥ずかしい!

頭の中ではいつも言っていたんだけれど、好き好きって好きすぎてどうにかなっちゃいそうだって。あぁ、あのね、あなたに近寄るメス豚共は本当に醜いのよ、優しいあなたなら押せばワンチャンあるかもって媚び売ってさ、べたべたと汚い手であなたの体に触ったり、手元にないフリをしてあなたのボールペンを借りたり、お土産とか特別にあなたにだけ違う物を用意したり、バレンタインなんて最低だよね、お前らみたいな豚共が寄こすゴミみたいな菓子なんて、ましてや手作りのカスみたいな物なんて、この世にあるべきじゃない汚物だよ、何が混ぜられているのか、どんな気持ちで作ったのか考えただけで吐き気がする。あなたは良い人だから全部受け取って、1人1人きちんとお礼を言ってお返しをしてあげていて、やっぱり優しくて、飲み会ではあなたの側に寄りたくてソワソワしている奴とか、サラダ取り分けますよだの飲み物次どうしますだのと喚いて気がきく私、女子力の高い私って素敵でしょう?って馬鹿の1つ覚えみたいにしているクソ女とか、そんな奴らばっかり。馬鹿みたい。頭お花畑かよ。お前らごときが憧れることも叶わない様な人なんだって何で分からないのかなぁ。昔、あなたは誰も恋愛的には見ることが出来なくて、そういうことが苦手で、特定の誰かを好きになれないけれど、みんなを大切に思う気持ちはあるって教えてくれたよね。私は逆に安心したよ、だって誰かに取られることなんてないから。ずっと片想い出来ているなら、私はそれで良かったの。でも、それじゃあやっぱり我慢できなくなっちゃってさ、私ってあなたみたいに頭が良くないから、どうしようもない、取り返しのつかない人間なんだ。あなたがそう言ってくれていても、もし、もしもあなたの前に、押しがとっても強いクソみたいな女が現れたら?優しいあなたは断るでしょう、今まではあなたがやんわり断って、粘着質じゃない物分かりのいい私、素敵でしょう、みたいな馬鹿みたいな考え方で諦めるどこまでも考えの浅い女ばかりだったよね、そもそも足りない頭で考えてみろよ、お前らじゃ釣り合わないんだよ、アホほど物事を客観的に考えられないんだね。あぁ、ごめん、私も客観的に見られていなかったから、そっち側だったんだね。でも、でもね、あなたが取られちゃうかもって、ずっと怖かったの。次の馬鹿女が諦めなかったら?今度は酔わせたりして無理やり既成事実を作ったフリをして責任感の強いあなたを利用する頭のおかしい女が現れたら?次は勝手に社内であなたと付き合っているの、なんて嘘を吐くカス以下の女が現れたら?次は?次は?次は?その次は?私は頭がおかしくなっちゃいそうだったの。それでね、ふふっ、あのね、私、一生懸命、考えたのよ。それで、思いついたの。あなたとずうっと一緒に居られる方法を!」

 

彼女が顔を赤らめながら、うっとりした表情で話し続けている。

 

 

 

 

ずっと一緒か、あぁ、やっぱり監禁されるのだろうか、でも、死んじゃうよりはマシかな、と思った。

 

 

 

彼女は、ちょっと待っててね、と言ってドアの向こうに消えていった。

 

そして、暫くしてから、ごめんね、お待たせ!と元気な声が聴こえて。

 

よいしょ、よいしょ、と何かを持ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ガムテープと、"簡単に着火します!徳用練炭"と書かれた箱と、テレビでサンマとかを焼く時とかによく見る、七輪だった。

 

 

 

 

 

 

殺されないだとか、監禁されるとか、そんな生ぬるいことを考えていた僕をどうか殺してほしい。

いや、これから殺されるのか。

 

 

もうどうにもならないんだ、そう思ったら、涙がボロボロと溢れた。

 

母さん、仕送りに手紙を入れてくれて、今時だからLINEとかで良いのにと思いながら体調を気にするそれに温かい気持ちになっていたよ、もっとありがとうって伝えておけば良かったなぁ。

 

父さんは僕が一緒にお酒を飲める年齢になってからすごく喜んでくれて、時々飲み過ぎて母さんに怒られていることがあったから、飲み過ぎと健康には気をつけて欲しい、なぁ。

 

僕に対して思春期って感じでつんつんしていた妹も、ずっとずっと愛おしく感じる、初任給で行った焼肉、美味しそうに食べてくれて、思わず笑ったら怒られたよなぁ。

 

 

あぁ、日常って、普通ってこんなに温かくて愛おしい物だったんだな、僕は唯々仕事ばかりこなしてそんな日を消費していたのか、もっと親孝行したかった、もっと妹を甘やかしたかった、もっと、もっと……。

 

 

 

 

僕が泣いていることに気付いた彼女がパタパタと近付いてきて、何にも怖いことはないんだよ、眠る様に逝けるんだって、ネットに書いてあったの、2人で一緒に手を繋いで逝くから寂しくないよ、と涙を指で掬って、乾いた血と混ざって汚い薄ピンクになったそれをぺろりと舐め取ってかわいく笑っていた。

 

 

 

僕は、部屋が目張りされていく様子をただ見ていることしか出来なかった。

 

かなり時間を掛けて、窓の隙間や、ドアの隙間なんかをぴっちりなくして、七輪の中に練炭を入れる。

 

それから、あっ、と何かに気付いた様な声をあげて、せっかく2人だけの思い出なんだから、可愛くおめかししてから逝きたいなと言って、クローゼットからふんわりした花柄のワンピースを手に取って、鼻歌を歌いながら着替え始めた。

 

慌てて僕は目を瞑ったら、ほら、あなたってやっぱり紳士的よね、と笑っていた。

 

さて、これで良し!と明るい声がしたので目を開く。

 

横になっていた僕を起き上がらせてくれて、口に噛ませていた布を解いて、ほら、これ飲んでと有無を言わさず錠剤を口の中に入れられて、いちごオレで流し込まれる。

 

睡眠薬、飲んでいないとやっぱり少し苦しいらしいから、と言われて、もう引き返せないんだなぁと思う。

 

助けを求めて、泣いて騒いでも、きっと彼女は誰かが来る前にもっと短絡的な、包丁とかで無理心中を図るだろうな。

痛いのは嫌だ、なんてこの期に及んでそんなことを思う自分に反吐が出る。

 

彼女も一錠口に含んで、いちごオレを飲んで、あ、これ間接キスだぁ!

きゃあ、ふふ、と嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

彼女が練炭に着火した。

 

死ぬのは嫌だった、こんな人生だったけれど、まだ生きてやりたいことが沢山あったはずだ。

 

 

でも、もう、どうにもならない。

 

少しすると頭がぼんやりしてきた、無理やり脳が寝かせようとしている感じで、変な気分だった。

彼女も睡眠薬が効いてきたのだろう、僕の横にピタッとくっついて頭をこちら側に倒して寄りかかる。

 

後ろ手に結ばれた手を恋人繋ぎでぎゅっと握られて、煙を上げる七輪をぼうっと眺める。

 

 

目を開けているのが、難しくなってきた。

何とも言えない、脳内の思考のズレを感じる。

 

彼女は好きよ、好き、好きと呟いていたが、やがて寝てしまったのだろう、静かになった。

 

 

 

僕も、もう、考えることがむずかしい、徹夜をして、泥の様に、ねむる、そんな感覚がして、からだがささえられなくて、横に、たおれたけれど、もう、もういいや。

 

僕の人生は、とても幸せだった、だから、つぎは、どんな、不幸なじんせいでも、うけとめられるとおもうよ。

 

 

とおさん、かあさん、かわいげのないいもうと、みんなだいすきだったよ、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめ、

 

 

 




好きな物が同じ、は、同じ物を、自然に好きになった訳ではないのかもしれない。
同じ物を好きになれば、共通の話題が出来て、それってお互いに幸せでしょう。
そうに決まっている。
だから。私はあなたの好きな物が好き。どんなに苦手な物でも、あなたの為なら好きになれる。どんなに憎い相手でも、あなたが親しくしていれば、私もそうする。そうやって生きてきて、自分はなくなって、私はね、あなたの為の私になったよ。
だから一緒に居て。だって、きっと私と一緒に居て楽しかったでしょう?そうなる様に頑張ったの、だから一緒に生きて。でもね、生きていたら取られちゃうかもしれないの。それがたまらなく怖い。だからね、一緒に逝って。
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