ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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11話 庇い"愛"

 

考える間もなく塔へと派手に吹っ飛ばされる。

めり込んで体がくの字に折れ、かはっと息が漏れる。

 

 

痛みと衝撃に何とか耐えながら、考える、が分からない。

何で、何でどうして……!

こんな奴らが、どうやって"強欲"の権能を!

 

僕の権利を!

 

 

 

ナツキ・スバルが何を言っているのか意味が分からなかったが、口調からして馬鹿にされていることは理解できた。

 

クソが。

人様のことをこけにしやがって、と思う間もなくエミリアの蹴りが腹に直する。

 

 

「最初の花嫁さんたちの分、ちゃんと当たってあげて」

 

 

 

僕はといえば、路地裏で、さて、どうなるかなあと思って動向を伺おうとした矢先に超直感が働く「胸騒ぎの海勘」ハートブレイクシーセンスが発動し、気が付く。

 

あ、レグルスしくったな。

さっきの銀髪の女の子にぶっ飛ばされて塔にめり込んでいる。

 

 

 

わお、彼女なかなかやるね。

 

 

仕方ないなあ。

お兄ちゃんが助けてあげるとも!

 

 

 

一瞬の、瞬きの間に、レグルスは叩きつけられた塔から、路地裏の地面に移動していた。

 

痛みに顔を歪めながら見上げると、さっきまで僕が磔にされていた塔がある。

 

更に視線を上へやると、僕の居た所には、兄さんが居て、何故兄さんが?

僕は、どうしてここに居るんだ、どうなっているんだと、疑問が湧き出る。

 

そうか、兄さんの力だ、助けてもらったんだ、痛みに顔を顰めながら、壁に手をついてゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリアはありったけの力を込めて、うりゃ、うりゃ!と殴り続ける。

 

 

誰を?

 

そう、僕を!あはは!

 

 

えーっと、あ、確かエミリアさんだっけか。

 

 

彼女は気づかないよ、怒りに身を任せて殴る人のことはずっと昔からやられてきたからね、よーく分かっているとも。

 

彼女は花嫁さんたちの分の殴打を僕に浴びせ続けるだろう。

怒りを乗せて、視野を狭くしてね。

 

 

レグルスはアリバイブロックで僕と入れ替えで瞬間移動させて状況把握が出来る、僕が居た路地裏に移してある。

 

 

 

まあ、そもそも、彼女と、あと仲間の黒髪の彼は今、認識を弄るスキル「身気楼」ミラージュブナイルで僕がレグルスに見えていることだろう。

 

エミリアの耳に、拳を打ち続ける合間、声が聞こえる。

 

 

『僕が悪かった』

『赦して』

 

『今までのこと全部なかったことにするから赦してよ』

『まだ死にたくない』

 

『お願いだよ』

 

 

 

今更そんなこと言ったって、許してなんてあげないんだから。

 

 

 

53発打ち終わったエミリアは、はっ、はっ、と肩で息をしながらレグルスを見る。

顔をアザだらけにしたレグルスは、レグルスは、れぐるす、は、

 

 

 

──え?

そこにはレグルスに似ても似つかない、夜を溶かした様な紺青の髪の男の子が居た。

 

彼はボロボロで、涙を流しながらこちらを見て、呟く。

 

 

 

『これ以上僕を殴らないで』

 

 

 

違う、ボロボロにしたのは、私で、ちがう、ちがうの、私はレグルスを、花嫁さんたちの分の思いを込めて殴り続けて、何で、どうして、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、

 

『うん、いいよ!』

 

『かわいい女の子の頼みだからね!殴られるのなんて慣れているし!』

 

『何にも気にしてないから、君も僕のことなんてこれっぽっちも気にしないでいーよ』

 

 

 

酷く腫れたあざだらけの顔になってまで、笑おうとする彼に手を伸ばそうとして、エミリアの激しい殴打に耐えきれずに石柱の上部が彼も巻き込んで崩れ落ちるのが、スローモーションの様に見える。

 

 

何が何だか分からなかった。

 

 

私は、無関係の人を、巻き込んで、それで……

 

 

だが、考える暇もない、レグルスがよろよろと壁伝いに歩いて路地から出て来た。

 

 

惨めったらしく話し始める。

 

 

「あ、あのさぁ……!卑怯だと思わないのかなぁ!?」

 

「2人がかりで1人をいたぶるような真似して心が痛まないわけ?それって人として大事な部分がどうかしちゃってるんじゃないの?そんな自分達に疑問とかないのかなぁ。あって当然だよねぇ!?」と叫ぶ声がシンとした空間にこだまする。

 

 

戦略的に一時撤退する、ということも案としてあることは、理解できる。

 

だけれどそんなこと、僕の自尊心が赦さない。

それ以上に、大切な兄さんを置いて逃げることなんて出来るはずがなかった。

 

 

騎士が戦うのが道理だ、と言うと、上手く話に乗ってきたスバルを心の中で嘲笑う。

 

逃げるなんてプライドが赦せない。

 

だから、そうだな、1人ずつ確実に殺してやる。

これで、あいつから殺して、その後は──

 

 

 

スバルは信頼した声で、レグルスに、いや、彼に向かって言い放つ。

 

 

 

 

「だから──またになっちまうが、最後は任せる」

 

 

レグルスはスバルが何を言っているのか、理解が追いつかなかった。

 

スバルの言葉は、レグルスになんて向けられたものではない。

 

そう、『彼』に向けたものだ。

 

「ああ、わかったよ。──挑まれた一騎打ち、騎士として受けよう」

 

 

 

空の彼方から地上に舞い戻る。

 

灼熱の炎渦の中から剣聖、ラインハルトが余裕の表情で現れる。

 

 

確かに吹っ飛ばしたはずの空から、帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

「バカな、空のかなたまで……ど……どうやって……」

 

ありえない、ありえない、戻って来られるはずがない。

 

「確かに、あれには困らされたよ。ただ、君は1つだけ間違えたね」

 

「僕を月に向かって投げるべきじゃなかった」

 

 

 

は…?何だって?

理解が、追いつかない。

 

 

 

ラインハルトが名乗りをあげているが、そんなもの頭に入らなかった。

 

こんなこと、あるはずが、あっていい訳がない!!

理不尽だ!!

待て、待て、待って!

 

こんなのおかしいだろ!と叫ぶがその願いは無駄に終わる。

 

ラインハルトの強烈な一撃によって上空へと打ち上げられる瞬間、とっさに獅子の心臓を使う。

 

安心する間なんてあるはずがない。

 

 

 

吹っ飛ばされた衝撃で視界が回る。

痛い、痛い、痛い、身体中が痛みによって悲鳴をあげている。

ひゅっ、ひゅうと、息がうまくできない。

 

頭が回らない。

ありえない、ありえない、ありえないんだ、何で僕がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインハルトが遥か上空へとかち上げたレグルスを追いかけて空へと跳んだ後、後ろから、ガラガラと瓦礫が崩れる音がして、2人が振り向く。

 

 

2人に聞こえないくらいの声で、呟く。

 

 

『「大嘘憑き」』

『僕の傷をなかったことにした』

 

 

さっき、確かに潰されたはずの彼が、全く、傷1つない状態でそこに居た。

 

 

ぱっぱっ、と服の汚れを叩きながら散歩でもする様にゆったりと近づいて来る。

 

 

エミリアは、あ、あ、さっきの、ごめんなさい、ごめんなさいと小さく呟いて、ふるふると震えている。

 

 

 

 

スバルは、お前、さっきも会ったよな、と言うかお前、さっき巻き込まれて……いや、そもそもお前、レグルスの仲間なのか?

それとも、身代わりにさせられているのか?

さっきレグルスとお前が入れ替わって攻撃を受けていたよな、どうなってるんだ!?と混乱しながら叫ぶ。

 

 

 

彼は、ゾッとする様な、表情を削ぎ落とした真顔になって答える。

 

『いいや違う

『僕は彼の仲間じゃない』

 

『彼に弟を殺された男だ』

 

 

 

何だって?弟を殺された…?

レグルスの仲間だとてっきり思っていたけれど、まさか、それで脅されて、いいように利用されているっていうのか!?

 

 

レグルスの家族だと思って怒鳴っちまって悪かった、なあ、お前、俺たちと一緒に、と彼の精神状態を、身体の面も心配して、言いかけた所で面白くて仕方のないという表情で、心配する俺たちを、酷く滑稽な者を見る様な、これ以上ないくらいの笑顔で、にっこり笑いながら明るく続きを話しだす。

 

 

『なーんてね嘘嘘っ!』

『引っかかったあ?』

『だいじょーぶ正解正解っ!』

『あってるよ大正解!』

 

『そーです』

『僕がレグルスのお兄ちゃんでーーーっす!』

『いやんっ!』

 

 

 

 

 

……は?良いも悪いもないまぜにした様な、深淵を覗き込む様な、覗き込まれている様なそんな感覚に陥る。

 

こいつ、何を言っているんだ?

本能的な拒絶だった。

俺は、こいつのことを、理解したくない。

 

 

っておいおいおいおい!

待て、レグルスの兄ちゃん、ってことはやっぱ敵じゃねえか!

 

 

エミリアたん、下がって!と言いながらエミリアを守る様に前に立ちはだかる。

 

エミリアは、お兄さん、と言う言葉を聞いて、花嫁さんたちの言っていたことが頭をよぎった。

 

 

 

スバル、と混乱した様子のエミリアを背に、大丈夫だエミリアたん、いくぜ、先手必勝!これでもくらえと鞭で頭を狙って叩きつける。

 

ニコニコと笑ったまま、避ける様子も無く、ヒュッ、パンッと大きな音を立てて鞭が顔に直撃する。

 

 

ねえねえ、鞭って音速を越えるの知っている?

結構痛いんだよ、これ。

 

裂けた皮膚からダラダラと垂れる血なんて、傷の痛みなんて何にも気にしないかの様に、打ち付けられたそのままの姿勢で、首を傾げて言う。

 

 

『ふうん、君の名前はスバルって言うんだ』

『いい名前だね、スバルくん』

『もう、嫌だなあ。そんな目で見られたらさ』

 

『恥ずかしいじゃないか』

 

 

 

っ…気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!!!

 

 

 

『って、そんなことを気にしている場合じゃないだろう!?君たちは!』

『君たちはあんな血生臭い戦いを見て何とも思わないのかい!?』

 

『こんなのは決闘でも何でもないただの一方的な殺し合いだよ!』

 

 

上空を見つめて、笑顔から打って変わって真剣な表情で、涙を流しながら真面目な様子で語りだす。

 

 

『僕はさ、弟想いだから』

『ちょっと助けに行ってくるね』

 

『じゃあねっ!』

 

『ばいばーい』

 

 

 

そんなこと俺の目が黒いうちはさせるか!と鞭を再度構えてスバルが叫ぶ。

 

 

『へーえ』

 

『じゃ』

 

『おめめを白黒させてもらおーかな』

 

 

『自分なら攻撃されないと思った?』

『安全だと思った?』

『僕が可愛らしい顔立ちだから』

 

『おしゃべりの最中なら死なないと思った?』

 

『甘ぇよ。』

 

 

 

スバルの顔面に、僕が蹴り込んだ螺子が突き刺さる。

 

反動で吹っ飛ばされたスバルの体中に地面から突然出現した螺子が突き刺さる。

 

血が吹き出して、ぐらりと視界が揺れ、自重で更に螺子に身体が沈み込む。

 

 

『じゃ!また後でね』

 

 

手を振って、一瞬でその場から消える様に居なくなる。

 

 

スバルはこれまでの経験から、瞬時にあぁ、俺は助からない、死ぬと思った。

 

どこから死に戻りする?

 

死にたくなかった、でも、実際十分過ぎるほど死に至る攻撃だ、血だってこんなに出て、クソ、あぁエミリアたんが俺の名前を呼んで叫んで泣いている、大丈夫だよって言ってあげたい、顔面に螺子込まれたコレがなきゃな。

 

ごぽりと血を吐き出す。でも、不思議と痛みは全くなくて、俺の思考ははっきりしていて、一向にあの死に戻りの感覚が来ない。

 

何が起きているのか、スバルは混乱に混乱を重ねていた。

 

 

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