ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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12話 僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない…うん!そうだね、きみが悪くて、いい気味だ。

 

僕は魔女教大罪司教"強欲"担当、レグルス ・コルニアスだ!!!

 

この世で最も満たされていて最も個として完成された心身ともに揺らぐ余地のない存在!

 

僕は悪く無い!何も悪く無い!お前らが悪いんだ!!!

 

お前らが僕を哀れんでかわいそうがって……笑い声が聞こえる。

僕を見ているだろう!僕を見て笑ったんだろう!!

僕の何がおかしい!?僕の何を見て笑った!?

 

ヘラヘラと笑うな!

 

 

 

僕の最初の妻は、彼女はそんなことをしなかった。

 

僕の妻は綺麗な顔をして、僕に、僕の兄さんにいつも優しくしてくれて、柔らかな表情で微笑んでくれた!

愚かな妻の家族を殺して、馬鹿な僕の家族を、村人を殺して、街を、国を落とした時も、兄さんを助け出して安心した時も、嬉しそうにしてくれた!

妻に言い寄る馬鹿どもを兄さんと一緒に殺して、それで、3人でお茶をしながら色んな話をしたり、美味しいものを食べに行ったり、彼女はどんな些細なことでも喜んで楽しそうに笑ってくれた。

 

 

 

 

他の妻は笑わなくていい。

笑う必要がない。

笑う価値がない。

表情変化なんて要らない。

 

 

 

だがなんで!

 

彼女以外の他の奴らは、どうして最期の瞬間にだけ"嗤う"んだ!

 

妻の最期のあの満たされた、僕たちを案じてくれた言葉と、一緒に死ねることを、心の底から喜ぶ、僕たちと一緒に過ごせたことを、美しい思い出として切り取って心の底から満足したあのとびきり美しい、世界で1番綺麗な"笑顔"とは似ても似つかない顔で!!

 

 

 

僕が、僕だけが独り残されて、僕が独りきりになるのをうれしそうに、お前は独りぼっちだ、それがいい気味だなんて、僕から解放されたかの様に、嗤うんだ!

 

 

 

ふざけるな!!!

 

 

 

 

僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない……

 

 

 

 

 

 

 

空へと落ちていく背中にズシリと重みを感じる。

 

「本来の決闘であれば、戦う意志をなくした時点で僕も剣を引くところだけどね」

 

ラインハルトだ。

ラインハルトが、レグルスの背に立ったまま、悠然と語る。

 

「バ、ケモノめ……」

「そうだね。僕は化け物を狩る化け物。──君も運命を受け入れるときだ」

 

 

 

レグルスの背のど真ん中に、ラインハルトの振り下ろす手刀が、ぶつかる、その直前。

 

 

 

 

死ぬ、避けられない、どうしようもない死が来る。

 

死にたくない。死にたくない!!

死なんて、僕から1番遠い場所にあったはずの物がすぐ近くまで迫っている。

生まれて初めて心の底から怖いと思った、思考は加速する。

止められない。

いやだ、怖い、怖い!怖い!!怖い!!!

 

限界まで死の恐怖に迫られたレグルスは、掠れる声で、必死にもがいて、惨めに空に向かって大声で叫んだ。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、僕を助けて!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

兄さん?彼は何を言っているんだ、と思った瞬間、ゾワリ、と得体の知れない、この世のあらゆる負の物を集めた様なそんな感覚がして、瞬時に新たな脅威が来ると判断して攻撃する手を更に早めて、早急にこの戦いを終らせようとした。

 

 

刹那、レグルスが今居た場所に違う人影が一瞬にして、レグルスを守る様に抱えて現れる。

 

ラインハルトの動体視力を持ってしても、もう避けることは出来ない程の勢いと、あり得ない出来事だった為、勢いを殺せずそのまま腕を振り下ろして、見知らぬ彼の背中に叩きつける。

 

 

地の底まで届く攻撃だった、はずだった、のだが。

その場から全く動くことなく、くるりと相対する様に振り向いて笑顔で話し出す彼を驚きの表情で見つめる。

 

 

『いっ』

 

『たーーーい』

 

運動力学を無視するドクターアゲインストで地の底まで撃墜されるはずだった勢いを相殺し、「大嘘憑き」で僕とレグルスの傷をなかったことにする。

 

 

 

『お待たせ!レグルス』

『おにーちゃんが助けに来たよっ!』

 

 

レグルスを抱き抱えて、空を蹴って距離をとる。

 

いわゆるお姫様抱っこってやつだぜ、流石の僕も実の弟にするとは思わなかったよ。

 

ありがとう、ありがとう、死んでしまうと思った、僕が、この僕が、死ぬと思ったんだ、あいつら……と僕の胸で呟いていたけれど、急に静かになった。

レグルスを見ると、安堵した顔で目を瞑っていて、どうやら死の恐怖と安堵で気絶してしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さあて。

 

 

『もー』

『初めましての人に随分と酷いことをするなあ』

 

『あ』

 

『僕はレグルスのおにーちゃんでーすっ!』

『よろしくねっ!』

『それで』

『君は?』

 

ニコニコと場違いな笑みを浮かべたまま尋ねられたラインハルトは、ひしひしと感じる一種の不快感を払拭する様に名乗る。

 

 

「あ、ああ。僕は、ルグニカ王国近衛騎士団所属、『剣聖』の家系――ラインハルト・ヴァン・アストレアという」

 

 

 

『へー』

 

『君があの有名な剣聖ラインハルトくん?』

『正義のヒーローって感じでさ、かっこいいじゃん!』

 

『でもさ』

 

『もう戦いたくないですよーってそうしている人のさ』

『背中に攻撃するなんて』

『騎士としてちょっとどうかと思うよ?』

『人の大切な弟にさあ』

 

『僕にはもう、弟しか居ないんだ』

 

 

 

ああ本当に痛かったなぁ、知りもしない人に、初めましての人に、よくこんな酷いことができるよ。

 

 

ま、僕が突然現れたから仕方ないんだけどね!

ラインハルトくんはぜんぜーん悪くないから、気にしないでおくれよ!

 

 

ねえ、ラインハルトくん。

 

僕のかわいい弟は、何よりも大事な弟はね、完全で完璧で、満たされていて個として完成された存在なんだって。

 

 

負完全で無価値で過負荷な僕とは真逆の存在だ。

 

 

君も完全で完璧とか、正義とか、正しい方の人間だろ?

たとえ完全な人間が作れたとしても。

それでもさ、もしも完全な人間になれたとしても。

不完全さが欠けてしまう以上、それはもう完全とは言えないだろう?

面白いよね!

 

 

『僕は完全でね、不完全な弟が好きだ。』

『僕は完璧でね、欠陥のある弟が好きだ。』

『僕は満たされていてね、それでいて欲望に忠実な弟が好きだ。』

『僕は個として完成されていてね、それでも群れていようとする弟が好きだ。』

『僕は全能でね、ただの凡人な弟が好きだ。』

 

 

『大好きなんだよ。』

 

 

だからね、戦うよ。

 

 

 

僕は弱い。でもね、決めているんだ。

争いが起こった時、僕は善悪問わず1番弱い子の味方をするって。

 

 

『だからそんな大切な弟を殺そうとした君は』

『ちょっと赦せないなあ』

 

『会って早々で悪いけれど』

 

 

『そんな理由で僕は君が嫌いなんだ』

『だからラインハルトくん』

『君とは仲良くできないね!』

 

 

『まあ?ここに来るついでに下にいた男の子はうっかり殺しちゃったけれどね!』

 

 

『たしかスバルくんって言ったっけ?』

 

 

『それでおあいこってことで』

 

『だけど八つ当たりはやめて欲しいな』

『僕みたいな危険人物のいる所に』

 

『スバルくんを残して去っていったのは他ならぬ君なんだぜ?』

 

『つまり今彼がこの世から消滅し』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『帰らぬ人となったのは君のせいだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕は悪くない。』

 

 

『きみが悪いきみが悪いきみが悪いきみが悪いきみが悪いきみが悪いきみが悪いきみが悪い』

 

 

『きみが悪くて』

 

『いい気味だ』

 

 

 

大きな目をきゅうっと細めて、口の端をぐっと持ち上げて、至極愉しそうに笑ってそう言う彼に、背筋が凍る。

 

彼は、異端だ。異常だ。異状だ。異物だ。

 

 

眼下に素早く目をやると、スバルが血溜まりの中で倒れていて、エミリアが側で放心した様子でぺたんと座っている。

 

 

宙に浮かぶ彼らを置いて、空を蹴って直ぐに2人の元へ戻る。

スバル!!と駆け寄ろうとして、一瞬足が動かず躊躇する。

 

 

これは、惨過ぎる。思わず絶句する。

 

その、直ぐ側で、耳元で、あっけらかんとした明るくゾッとする声が、のんびりと囁かれる。

 

『あー』

 

 

『ごめんごめーん』

 

 

 

『スバルくんのこと、そのままにしちゃって』

『だってさあ』

『スバルくんがあまりにも甘々だったからつい、ね。』

 

 

『……が』

 

 

『その甘さ』

 

『嫌いじゃあないぜ』

 

 

『ほら、"なかったこと"にしたから、赦してよ』

 

 

何本も突き刺さっていた螺子は最初からなかったかの様に消失し、流れ出た血も、破れた服も、傷も、全てが元に戻る。

 

 

はっ、治っている、血も傷も何もかも、元からなかったかの様に、いつもと変わらない俺であることに、間違いはない。

 

 

エミリアも手を口に当てて、スバルよかった、スバルと繰り返している。

何が何やらだ。訳が分からない。

 

 

『僕の力のさあ』

『大嘘憑きは』

『なかったことにしたら戻せないんだよねー』

 

『だけど』

 

『スバルくんが可哀想になっちゃったからさ』

『傷も服も血も痛みも』

『ぜーんぶ』

『特別になかったことにして治してあげた訳だ』

『実際、痛くも何ともなかっただろう?』

 

 

 

立ち上がって姿勢を立て直す。

 

ニコニコ笑ったままレグルスを大切そうに抱えるレグルスの兄さんを指差して、まずお前、何なんだよ、何が目的なんだ!?

 

 

 

こんなに場をかき乱して、気分1つで俺を殺そうとして、それもなかったことにして、意味が分からねえ、何か言いたいことの1つでもないのかよ!と問う。

 

 

 

誰もがそう思っていた。

 

表情や声が明るいだけの、この底知れないグルグルと渦巻く陰鬱で仄暗い目をした男の動向をザリッと石畳を踏み締めながら伺う。

 

 

 

 

 

『んー?』

『僕が君たちに』

『言いたいこと』

『ねえ──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『別にないけど。』

 

 

 

 

 

『あー!』

 

『ひょっとして勘違いしてる?』

『僕が君たちを倒しに来たとか!』

『その為にここで待ち伏せしてたとか!』

 

 

『さ!』

 

 

『うわ恥っずかしいー』

『自意識過剰ー』

 

『どんだけ自己中な考え方してんの君たち!』

 

 

『自分のことをそーんな重要人物だと思いながら日々生きているんだおもしろーい』

 

 

 

 

じゃあお前は何のために居るんだ!?

レグルスを、そのクズ野郎を助ける為に来たって言うのか!?

 

 

『うん、そうそうそれそれ!聞いてよスバルくん』

『僕は今とても困ってるんだ』

 

『僕はさ、かわいいかわいい弟を助ける為に来たんだ』

 

『けどさ』

 

『3対1でボコボコにされちゃってる姿を見た訳だ』

『だから君たちをどうにか説得するか、僕たちがどうにかされるかしないといけなくなっちゃったんだよね』

『参ったよ全く』

 

 

『僕は平和主義者なのにさあ』

 

 

 

 

 

『さて、きちんとした自己紹介といこう!』

 

『改めまして』

 

『僕はここにいるレグルスのお兄ちゃんだよ!』

 

 

『いぇーい!』

 

 

 

『"2人目"の魔女教大罪司教"強欲"担当』

『不完全で不平等で不公平で負完全、混沌よりも這いよる過負荷、そんな僕だけれど、よろしくねっ!』

 

 

2人目!?まじかよ、勘弁してくれというスバルの吐き捨てる様な呟きを聴いて、僕は騙されやすい、まっすぐな子なんだなあと笑みを深める。

 

 

過負荷の言うことなんて信用しないことが当たり前なのにね!

 

 

僕は答える。

 

『なんだ、本気にしないでよ、スバルくん』

『うそうそ!』

『僕は大罪司教だなんて崇高な者じゃないよ』

 

 

『ただの過負荷、負完全な人間なんだ。』

 

 

『完璧で完全で』

『満たされていて』

 

『個として完成された弟とは正反対なんだよ。』

 

 

 

 

そいつの、存在が、話す言葉が、全てが不愉快だった。

 

頭の螺子が足りないとか、螺子が外れているとかそんなレベルじゃない。

 

 

 

言葉に重みなんてなくて、乗せているふうに見せている感情なんてこれっぽっちもなくて、全然どうでも良いことだと思っているのか、それとも本気で話しているのか、全く分からない。

 

 

 

話を聞いていると、姿を見ていると、存在を感じていると、酷く、気分が、悪くなる。

 

こいつには常識なんて通じないと思った。

 

 

3人はいつでも戦闘に移れる様に、距離をとって構え直す。

 

 




これやりたくて書いたまであります。
僕は悪くない→僕は悪くない→きみが悪い→いい気味だ
いい流れですね
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