ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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14話 死に至る病かも〜

 

さて、色々言ったけど。

どこまでが本当のことでしょう、ねっ!と地を蹴って螺子を片手にスバルくんに向かって行く。

 

 

呆然としたまま動けないでいるスバルくんの代わりに、ラインハルトくんが咄嗟に動いて攻撃を受け流し、勢いそのままに地面に僕を叩きつけ、受け身をとれないでもろにめり込む僕に、追撃で上から綺麗な踵落としを喰らう。

 

 

身体中からゴキリ、と嫌な音がして、口から血の泡が出てぱちんと弾ける。

 

 

『い』

『ったーい』

『うわー右腕が動かないー』

 

『呼吸も何だか苦しいぞぉ』

 

『鎖骨が折れて肺に突き刺さったかなー』

 

『一生後遺症が残るなーこれは!』

 

 

『あー、でも痛く無くなってきた?』

『治る兆しかなー』

 

『それとも壊死する兆候かなー』

 

『どっちでも似た様なもんかあ!』

 

 

 

ぐにゃぁあと、気味の悪い姿勢で反るように笑顔で立ち上がる。

 

エミリアからヒッと短い悲鳴が上がり、どうなっているの、治癒魔法、なの?と呟く声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

そうだ、さっきからずっと気になっていた、あれは何だ?

 

治癒魔法でもかけ続けているのか?

 

そうじゃなきゃあんな攻撃を、というか今までの攻撃を受けてまともに立っていられるはずがない。

 

 

 

俺が攻撃された後、なかったことにしたから赦してとか言って、実際に"なかったこと"にされたあれと関係がある、とは思う。

 

でも、螺子で串刺しにされたあれは確かに兄さんが言った通り痛みも伴わなったし死に戻りもしなかった。

…ってことは、幻か?

 

 

 

服や傷が治るのは、そう見えているだけの幻覚?

 

 

自分に対しては、例えば痛覚を消して、自分以外の誰か、特定の対象への、ダメージの押し付け?

いや、俺にした様に痛み自体、なかったことにしているのか?

それに治癒魔法でも組み合わせてんのか?

 

 

 

巻き戻し、とも違うよな、そもそも、なかったことにするって、何なんだ?

 

 

 

頭が混乱して、説明がつかない。

 

 

 

『おいおい』

『適当なことを言わないでよ君たち』

『それじゃあまるで僕の過負荷が治癒能力か何かみたいじゃないか』

 

 

 

 

 

『治癒能力のように前向き的な能力が』

『僕のような負完全から生まれるわけがないだろう』

 

 

 

 

 

僕はなかったことにしか出来ない。そんな人間なんだ。

 

なかったことを、なかったことには出来ない。

 

そんなやり直しの効かない力でしかないんだよ。これは。

 

 

くすくすと自虐的に笑いながら説明される。

 

 

 

 

 

『それにしても』

 

 

 

 

 

『……やれやれ』

 

 

『スバルくんさあ、攻撃する時に目を瞑って』

 

 

 

『僕から目を逸らして』

『目の前に居る僕から』

 

 

『目を背けて攻撃してさ』

 

 

 

 

 

『目の前にいる僕を無視するなんて酷いなあ』

 

 

 

 

 

 

『これは規制されかねない、いじめの描写だよ』

 

 

 

 

 

『目を閉じたくらいで僕の過負荷を封じた気になるなんて』

 

 

『それこそ現実から目を背けているとしか思えないなスバルくん』

 

 

 

 

『しょうがないなあ』

『スバルくんは僕のことなんか見たくもないみたいだから』

 

『ずっと見なくても済むようにしてあげたよ』

 

 

 

 

 

 

 

『つまり──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「きみの視力をなかったことにした」』

 

 

 

 

 

 

ヒュッと息を呑む。

 

視界が瞬時に暗くなって、自分がどう立っているのさえ分からなくなった。

 

 

絶望が這い上がってくるが、地獄ならいくらでも見てきた。

こんなことくらいで折れる俺じゃない。

 

 

出来る所までやってやる!

 

 

こいつの能力のタネが判れば死に戻りをする必要も無い!

 

 

倒せば能力は解除されるだろ!!

 

 

 

最悪死に戻りをする必要があるかもしれないけれど、それでも、俺に今出来ることを全力でやるまでだ!!

 

 

「いんやぁ?こんくらいで俺が折れるとでも思ったか?残念だったな!こちとらこれまで駆け抜けてきた死線の数が違うんだよ!」

 

 

「それに漫画じゃ目ぇ閉じてる方が強いって言われてんぜ!」

 

 

こんなことくらい、余裕だぜと啖呵をきる。

 

 

 

 

 

 

 

『あはは』

 

 

 

『見えた方が強いに決まっているだろ』

 

 

『もしかしてスバルくん』

 

 

 

 

『「目を閉じた方が強くなる」とか』

 

 

 

 

『そんなたわごとを本気で信じていたのかな……?』

 

 

 

 

 

 

 

ゆらりと這い寄る死の恐怖が、声と共に直ぐそこまで迫って来るのを感じる。

 

首元にあの螺子の鋭い先端が触れる、その時、アル・ヒューマ!!とエミリアの力強い声がして、俺はぐんっと後ろへ引き寄せられる。

 

氷塊が地面に激突する音がした。

 

 

 

 

 

俺はラインハルトに抱き抱えられて少し離れた安全な場所に移された、みたいだ。

 

 

スバル、君はここで待っていてくれ。君は十分戦ってくれた。

後は僕たちで何とかする、と言われて、返事をする前にトンッと駆け抜けていく音がした。

 

 

 

 

 

何だよ、これじゃまるでレグルスと一緒の、守られているだけの状況じゃねえか、と自分の不甲斐なさに、はは、と乾いた笑いが出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリアはアル・ヒューマや、足元を凍らせて動きを制限したり、ラインハルトは斬撃や体術を織り交ぜて2人で連携し、息つく間もなく攻撃をし続けた。

 

 

氷塊の激突での傷、なかったことにする。

 

斬撃による傷、なかったことにする。

 

鋭い氷片が首を掠め血が吹き出す、なかったことにする。

 

殴打による骨折、なかったことにする。

 

骨折に伴う内臓損傷、なかったことにする。

 

激しい衝撃による複数の内臓破裂、なかったことにする。

 

体を貫く氷柱による攻撃、なかったことにする。

 

首を掴まれ持ち上げられてぎりぎり絞められ、首がゴキリと音を立てて折れる、なかったことにする。

 

急所に直撃する氷の打撃、なかったことにする。

 

水路に突き落とされて氷漬けにされる、なかったことにする。

 

急激に凍傷を進行させられて壊死した体の末端、なかったことにする。

 

剣で突き刺される、なかったことにする。

 

壁に激突された上に氷塊で殴りつけられる、なかったことにする。

 

ラインハルトくんが隙を見てレグルスに近付こうとしたから庇って腕を切り落とされる、なかったことにする。

 

 

 

 

なかったことに出来ることは、僕が認識出来ていることだけだ。

 

 

それこそ、認識出来ているのだからこの世界を、なかったことにも出来る、理論上はね。

 

レグルスが居るからそんなことする訳ないんだけれど。

 

 

 

とにかく、僕のなかったことにする力を、更に上回る位の乱撃というか、連撃が加えられ続けた。

 

体力がないから、ふぅ、ふぅ、と肩で息をする。

 

 

 

この戦闘での疲労も、なかったことにする。

 

 

 

 

じりじりと押されてきていて、レグルスにも攻撃が届きそうになるので僕の守備出来る範囲ギリギリまで下がってもらいながら戦っている。

 

 

戦っているって言ったって、殆ど攻撃する機会なんてない、避けるか、避けた先で喰らう攻撃をなかったことにすることしか出来ない。

 

 

というか僕みたいな奴が剣聖とこんな強力な魔法をバンバン撃ってくる女の子相手にここまで出来ていることが奇跡に近い。

 

 

 

でも、そろそろちょっとまずい、かも。

 

認識が、間に合わなくなってきている。 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

そうやって必死に、這いつくばって喰らいついていたけれど、激しい攻防の末。

 

ついに、ついに。

 

 

 

エミリアさんに首から下を氷漬けにされ、身動きが取れなくなり、ラインハルトくんによって、瞬時に首元に剣を突きつけられる。

 

振りかぶられる剣の軌道が見えて。

 

考える時間さえくれない。 

 

 

僕は、はは。

死に追い詰められた袋のネズミだ。

 

 

『…………』

 

『嫌だよ』

 

『死にたくない』

 

『謝るから離して』

 

『僕が悪かった』

 

 

 

涙ながらに語る僕の言葉にまったく耳を貸さない様にして、ラインハルトくんが、すまない。とどこか悲しげに、哀れな者を救う様に言いながら振りかぶった剣でズプリ、と喋り続ける僕の首を、斬り落としていくのを他人事の様に感じる。

 

 

あぁ、ちくしょう、痛い、痛いな、人間って頭を斬り落とされても、少しは考える時間があるんだなあ、なんて無駄なことを考えて、視界が暗転した。

 




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