ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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6話 楽しい愉しい話し合い!

 

 

とりあえず家にあった適当な服に着替える。

家をさっと片付けて、いやあ、使用人として働いていて良かったなあと思った。

 

 

 

さあ、気になっていた能力の話を聴く時間だ。

 

レグルスは誇らしげに語った。

 

僕は魔女教大罪司教"強欲"担当になった、と。

 

 

魔女教大罪司教って何だろ?宗教、なのはまあ分かるけれども。

 

大罪ってあの7つの大罪か。

暴食だとか、怠惰だとか、色欲だとか、傲慢だとかの。

それの"強欲"担当かあ。

 

ふうん。

 

 

レグルスってそんなに強欲だったっけな。

まあ、いいや、それで、レグルスの力は、空に留まったり、空気の刃を作ったり、何でもありのすごい力だったね、と思考を戻す。

 

なんでも「権能」と呼ばれる力を授かったことで、できるようになったらしい。

 

 

 

話を詳しく聴いていく。

権能の力は2つ。

 

1つは獅子の心臓。

これは言うなれば一時停止、っていう感じだった。

自分の心臓を止めている間、完全不変の存在になれるというもの。

 

自分に使用していれば、どんな攻撃でも、防ぐことができる。

 

防ぐとかいう概念すら超越していると思う、ただそこに居るだけで攻撃してきた自分以外が勝手に壊れるとかそんな感じか。

 

 

レグルス自身だけじゃなく、例えば触れている空気の時間を停止させて、えーと、等速直線運動だったかな……それので空気の刃となって何でも切り裂く見えない刃になるし、投げつけた物がただの砂粒であっても、物理法則を無視して散弾のように相手を貫くのだろう。

 

面白い特性だ。

 

 

2つ目は、小さな王。

 

獅子の心臓は確かにチートだ。

だけど、決定的な欠点がある。それは自分の心臓を止めている間のみ発動できるということだ。

 

心臓を止める、なんて苦しいことは嫌だなあ、と思う。

レグルスが言うには、心臓を止めていられるのは5秒が限界だと。

 

まあ、そうだよね。無敵の存在が、うっかり自分の心臓を止めすぎて死んじゃった、なんてお笑いだ。

 

それを補うのが小さな王だという。

 

 

レグルスが思う大切な人に、自分の心臓を、擬似心臓として寄生させて自分の心臓が停止するということをなかったことにするものだ。

 

なるほどね、これが完全で完璧で完成された僕ってことかあ。

 

 

我が弟ながらとんでもスキルだぜ。まったく。

結構''僕ら側"の才能があると思うなあ、レグルス。

 

 

『レグルスはすごいなあ』

 

『そんな力を得られるなんて』

 

『選ばれた存在なんだね』

 

 

 

そう言うと嬉しそうに笑っていた。

 

あ、あと気になることがあったんだった。

 

 

 

 

『あ』

 

『あとさ』

 

『2人は、結婚したの?さっき幼馴染ちゃんのことを妻って言っていたでしょ?』

 

 

2人はお互いを見つめ合って、微笑みながら、そうだよ、と教えてくれた。

 

 

僕が屋敷勤めになった後、2人がいつ結婚したのかは分からないけれど、きっとものすごく反対されたんじゃないかな、と思った。

 

だってレグルスも幼馴染ちゃんも、村人やら家族やらに散々罵声や恨みつらみを言われて去った僕と関わってしまっていたから、というか、レグルスに至っては僕の家族だから、隷属されていた者が居た家族との結婚なんて反対されるに決まっている。

 

排他的なあの村で、奴隷未満の扱いを受けていた僕を庇ってくれた2人がどういう目で見られていたのかなんて、容易に想像できる。

僕は、僕というマイナスのせいで2人が辛い思いをして欲しくない、と思っていた。

 

いくら退廃的な考えを持つ僕でも、僕が居なくなった後まで迷惑をかけ続けていたのか、と思うと死にたくなった。

 

いや、まあ死にたくはないんだけれど。

 

 

よかったね、おめでとう、2人は優しくて、お似合いだから素敵だね、幸せになって!と言おうとして、僕には、僕みたいな人間にはそんなことを言う資格もないか、と笑顔のまま、ぽろぽろと涙を流し始めた僕を見て、2人が慌てて心配し始める。

 

 

『いきなり泣いたりしてごめんね』

 

『僕みたいな奴のせいで、きっと2人は村の人たちに、もしかしたら家族にまで、酷い扱いを受けて、酷い目で見られていたんだと思ったら』

『例えば結婚なんて赦されないとか』

 

『さ』

 

『そんな酷いことを言われたのなら』

『僕のことなんて、なかったことにした方が良かったのかなあ、と思って』

 

『そうしたら、僕みたいな奴のことなんて村の人たちはすっかり忘れて』

『僕が居ないいつもの生活に戻れただろうから』

 

『2人の幸せな結婚の為には、僕は邪魔でしかなくて』

『僕なんかが居て』

 

『ごめんね』

 

 

 

言い終わるかどうかのタイミングで、2人が僕を抱きしめる。

 

ぎゅううっとまわされた手の力が強くて、2人の腕をぺちぺちと叩いて、うあああ折れる、折れちゃうよー!ともがく。

 

2人は力を更に強めながら言う。

 

「馬鹿だなぁ、兄さん。そんなこと、兄さんが気にすることじゃないよ。まぁ、反対されたさ、だから権能を授かってすぐに僕の、あぁ家族と呼ぶのも不快だ、クソみたいなあいつらを殺した。彼女の家族も殺した。それだけのことだよ。彼女もそれを望んだから、そうしたんだ。最後まで兄さんのことを罵って、僕たちが兄さんのせいでおかしくなったとか、錯乱しているんだとか、正常な判断ができなくなったんだとか、アレはあの扱いが最適解だったんだとか生かしておいただけマシだったと思って欲しいだとか、あれらはいくら僕たちが寛容で広い心をもっているといっても、赦されない程の言葉の数々だった。勿論、自分たちに理解できない事象を怖がる気持ちは分かるよ、人類は恐怖を持つことで進化して生き延びてきたからね。でも、さぁ。散々兄さんからその力の恩恵を収奪して、搾取し続けて、その上、人間未満だとかなんだとか見下して、居ないものとして扱うなんて兄さんが生きるという、普通に生活するっていう誰しもが持っていて当たり前の権利を剥奪する恐ろしい行いだ。だから、あいつらはみんなそれ相応の罰を受ける義務がある。

僕たちには、兄さんに代わって執行する権利がある。大切な家族なんだから、兄さんのことを守るのは当たり前だからね。だから、そんなこと、そんな些細なこと気にしないで欲しい、というか、自分の存在をなかったことにするとか、そんな僕たちの心を砕くようなこと、言って欲しくないな」

 

「お兄さま、レグルスの言う通りなの。あの人たちは、お兄さまが居た時も、居なくなったあともみんな狂っていたの。私は、私の考えは甘かった。話し合えば、分かってくれると思っていた、でもダメだった。自分たちの主張だけが正しくて、他は全く無視して良いって、そんな考え方ばかりして、レグルスとの結婚もくだらない理由で赦してくれなくて。だからレグルスにお願いして私の家族もすぐに村の人たちと同じ所に逝ってもらったの。だから、これは私たちの選択。お兄さまと、私と、レグルスで幸せに生活するっていう選択なの。だから、これまでのことなんて何にも気にしないで、これまでの分も取り戻すくらい幸せに暮らしましょう!」

 

 

あぁ、僕みたいなマイナスにとっては、身に余る言葉の数々だ。

 

"あぁ、ありがとう。"

 

今度は嬉し涙を流しながら笑う僕は、2人を抱きしめ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて次は僕の話の番だ。

 

 

何から話そうか。

 

とりあえず売り飛ばされた後、使用人として働いて、自分でも言うのは何だけれど一流の使用人になって、あの日、旦那様、っていうかあの下衆に眠り薬を飲まされて襲われそうになったから逃げてきた所、君たちに助けてもらったって感じだよ、と話す。

 

 

"……僕もいつかあんな風に"

 

 

"君の危機に駆け付けてもいいかな、レグルス"

 

 

 

僕に危機が訪れるなんてことは、あり得ないけれど、兄さんがそう言ってくれるならありがたく受け取っておくよ、満更でもない顔でレグルスが答える。

 

 

さあ、いよいよ僕の能力について話す番だ。

 

禊ちゃんから借りている能力と、その他の人たちから借りている能力。

 

ざっくり説明しだす。

 

 

僕の力は、なんていえばいいのかなぁ、正も負も、正も邪も、善も悪も、良も不良も、とにかく良いことも悪いこともないまぜにした物なんだよね。

 

 

「お兄さまの力は良い力ですよ、沢山助けてもらいましたから、間違いありません」

 

いや、そういってもらえる日が来るなんてね、でも僕の過負荷はどこまでいっても過負荷なんだよ、使い方で正にみえたとしても、負でしかない。

 

まずは、「大嘘憑き」オールフィクションからだね。

 

これはそこにあった現実をなかったことにする力だ。

 

だから僕はいくら殴られても蹴られてもなかったことにして元通りになるし、なんなら死んでも死んだことをなかったことにして、というか強制的にされて生き返り続ける。

僕は色々変わっているし、代わっているから、もうこの見た目から歳をとることもない。

 

普通とは違うから、不完全で負完全な人間なんだ、僕には色々混ざっていている。

少し特殊だからレグルスの小さな王は適応されないと思う。

多分。

 

 

うーん、そんな顔しないでよ、レグルス。

 

ごめんね、でもほら、心はいつでも繋がっているからさ、赦してよー。

 

 

まあ、心臓を2つにする力でもあれば別なんだけれど。

 

 

…分かった、そんなに言うなら、権能が適応されるかどうか、後で試してみよう。

 

 

続けるよ、この能力でなかったことにしたものは、やっぱり戻したいな、って思ったとしてもなかったことにはできない。

 

やりなおしが効かないんだ。

まあ、もっと磨き上げればできる様になる、かもなんだけれど。

 

あとは「脚本作り」ブックメーカーというのもある。

 

これは使うと相手の能力やら精神やらが僕とおんなじ所まで落ちるってものなんだけれど、まあ、普段使う機会もないから気にしないでほしいな。

 

 

他にも思った場所に移動できる、とか、身体能力が上がる、とか、病気を治す、とか直感が働く、とか色々あるけれど、話して分かる通り僕はあまり戦闘に特化していないんだ。

そこいらの子供にも負けると思う。

見ての通りひょろひょろだからね。

 

 

 

僕の能力については、そんな所かな。

 

 

じゃあ、えーと、権能の実験を早速やろうか。

ものは試しだものね。

 

 

部屋を掃除している間に見つけた地図を広げて、効果範囲から外れるであろう適当な場所にある町へ「腑罪証明」アリバイブロックを使って幼馴染ちゃんと僕で移動する。

 

それから、僕だけ戻ってきて、レグルスに小さな王が使えるか試してもらった。

 

 

それで権能を使った結果、レグルスは4秒くらいでぜぇぜぇして死にそうになっていたから、ほら、僕には小さな王の効果がないと分かった。

 

 

 

その後は大変だった。

レグルスが1日中不機嫌で、何をするにも後ろにくっついてきて抱きつくようにもたれかかってずるずると移動して、何で何でと小さな子供みたいに不貞腐れていた。

 

そうだなあ、いつか必ず使えるようになるから、それまで待っていてね、と笑いかけたら、頬っぺたをむっとさせながら、兄さんが僕に嘘をつくはずがないから、信じてあげるとも。と言って、レグルスが好きな料理を教えてもらって作ってあげたら機嫌が少しなおったようだった。

 

 

 

 

 

 

僕は、僕が死ねば、死んだ時に望めばきっと「多心房多心室」インフィニティーハートを手に入れることができるだろう。

 

そうすれば心臓を2つ手に入れられる。

というか、別れるんだろう、僕の心臓と、禊ちゃんの心臓に。

 

 

 

 

 

あ、僕が死んだら教室で安心院なじみちゃんに会えるのかって?

 

 

 

 

そうだなあ、昔、まだ村にいた頃、僕が魔獣狩りをさせられた時に、飛び出してきた魔獣の対応に失敗して、うっかり死んだら、気付いたら部屋に居たんだ。

 

 

学校の教室ではなく、自分の部屋に。

 

 

そして彼女が居た。

 

安心院さんこと、安心院なじみちゃんが。

 

 

おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない!とくつくつと笑いながらこちらを見つめてくる。

 

 

そういえば僕、ドラクエ好きだったなあ。と思い出した。

 

 

 

 

 

でも、僕には、なんとなく分かった。

 

安心院さんだけじゃないよね、君、混ざっているだろう、と言うと彼女は笑ってベッドから立ち上がりこちらへ近付き、分かってくれているなんて嬉しいよ、と囁いた。

 

 

うーん、僕への執着がこういう形で現れるとは思わなかったよ。

 

彼女は安心院さんのように振る舞って、というか多分殆ど、9割9分9厘9毛9糸9忽9微9繊9沙9塵9埃9渺9漠9模糊9逡巡9須臾9瞬息9弾指9刹那9六徳9虚空9清浄9阿頼耶9阿摩羅9涅槃寂静、安心院さんなのだろうけれどそれでも、ほんの少しだけ混じって存在している。まるで僕と禊ちゃんが混ざった様に。

 

 

彼女は僕にいくつかのスキルを分けてくれた。

流れるような「口移し」リップサービスで。

 

僕としたことが、大切な大切なファーストキスを奪われちゃったぜ!

 

ファーストキスは甘酸っぱいレモンの味なんて言ったのはどこの誰だい?

いちごオレの甘ったるい味しかしないじゃないか。

 

 

うぇ、と声に出さないでいた僕を褒めて欲しい。

僕は本当にこういうことが苦手なんだよ。ゴシゴシと袖で口を拭う。

 

 

僕はもうここには来ない方がいいと思った。

というか死にたくないし。

痛いのは嫌だ。

 

わざわざスキルを貰うために死ぬのも、その度にリップサービスされるのも僕のSAN値がゴリゴリ減るから。

 

それが僕の為にも、彼女の為でもある、と思う。

 

 

彼女はもう成仏した方がいい、僕に、僕なんかに未練を残して僕以外誰も来ないこの部屋でずっと待っているより、新しい生を始めて欲しいと思ったけれど、ここに居ればいつかは、必ずまた君に会えるからと語る彼女の価値観はズレているから、まあ、無理な話だ。

 

 

彼女は僕と一緒に死にたかったけれど、心の底ではやっぱり僕と一緒に生きていたかったらしい。まったくもって両価性の塊だなあ。

 

ま、人間なんてそんなものか。

 

だから、死んでも会えるなんて、こんな機会はない、どうにかして僕に生きて、そして時々死んで欲しいらしい。欲張りだね。

 

 

僕が生き返る時、また来てね、その時には世界の半分、はあげられないけれど、君の望むスキルをあげるかもね、なんて笑っていた。

 

 

 

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