ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線   作:ねえ、おなまえは?

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大切な人に置いていかれたくもないし、置いて逝きたくもないよね。


7話 そりゃあそっか

 

そんなこんなで3人での生活が始まった。

 

とりあえず買い出しでも行こうか、と3人で遠くの町まで空を駆けていく。

 

 

おー!これ、めちゃくちゃすごいなあ!

レグルスすごい!レグルスすごーい!!と褒めると得意げにしていた。

かわいいね。

 

 

空を飛ぶって男の子なら誰しも憧れるよね。

 

これ、感覚を掴めばスキルを使って僕にもできるかもな、と思う。

 

 

買い出し行って、帰って、とりあえずありあわせの物とあわせて料理を作る。

 

 

家事全般は僕が担当を希望した。

毎日やっていたから、やらないと何となくしっくりこなかったからね。

 

 

レグルスは権能のおかげで食事とか睡眠とか、そういうのを必要としない体になったけれど、権能は調整が効くらしい、僕や幼馴染ちゃんと一緒に食べたり寝たりして暮らした。

 

 

僕が2人の好きな料理を作ったり、時々お菓子を作ったり。

幼馴染ちゃんと2人で料理をすることもあった。

 

 

家の近くの土壌を栄養価の高い腐葉土に変えて、作物がよく育つ様にした。

 

2人の間に挟まれて、というか抱き枕にされて寝て、まだ2人が寝ている間に朝食を作って、匂いに誘われて起きてきた2人とご飯を食べて、幼馴染ちゃんの髪の毛をセットしてあげたり、レグルスの髪をとかしてあげて、買い出しに行ったり、掃除をしたり、紅茶とお菓子でお茶をしたりして、お風呂上がりには髪の毛をよく乾かしてあげて3人で眠る。

 

 

 

そんな感じで普通の、本当に普通の生活を僕は噛み締めて過ごした。

 

 

そうそう、僕が昔、安心院さん、に気まぐれにもらった「悲学者論に負けず」ドクターアゲインストで、運動力学を無視して動けることを思い出して(だって村でも屋敷でも使うことなんてなかったんだもの、忘れていたって赦しておくれよ)空を飛べるようになった。

 

やったあ!

 

こう、重力だとか揚力とかを弄ってね。

 

とんと跳ねてから足場にする空気を作って、後は繰り返し。

 

これおもしろーい。

とん、ふわり、とん、ふわりと空を跳ねる。

 

 

でも、慣れるまで時間がかかりそう。

 

 

けどこれで1人で買い出しもできるようになったよ!えっへん。

 

 

 

 

 

そうやって何年も暮らした。

 

不幸せな僕には見合わない様な、普通の、かけがえのない幸せな時間だった。

 

 

 

3人で色々な所を巡った。

 

街で幼馴染ちゃんに手をかけようとした人を僕がなかったことにしたり、レグルスが消したり。

 

ま、幼馴染ちゃん、かわいいからしかたないね。

 

 

 

幼馴染ちゃんは成長して大人の女性って感じになった。

僕とレグルスは見た目が変わらないから、年齢を重ねるとか、そんなこと、全然気にしていなかったんだけど、ますます素敵になったよね、と褒めると嬉しそうにはにかんでいた。

 

 

 

 

 

 

でも、年を重ねるにつれ、彼女の精神は不安定になっていった。

 

少しずつ、少しずつ。

 

 

 

ぼんやりすることが増えたり、僕が作った料理を3人で食べている時に、ふと手を止めたり、悲しいとか、辛いとかそんな感じの雰囲気が感じ取れることもあった。

 

 

僕もレグルスも彼女の変化を感じていて、どうしたら彼女の憂いを晴らすことができるのかあれこれ画策した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決定的な出来事って、突然くるんだね。

 

 

紅茶を淹れて、お菓子を出して、3人で他愛のない会話をしていた時だった。

 

 

彼女は、それまで笑顔で話していたけれど、クッキーを食べる手を止め、暫く悩んだような表情をして視線を下に向けて右に左に、考え事をしている様に瞳がゆらゆらと揺れていた。

 

 

僕とレグルスはすぐに彼女の異変に気付き、彼女の横へ移動して、背中をさすりながらどうしたの、体調でも悪い?どこか具合が悪ければ、治してあげるよ、と声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

ぽろ、ぽろと涙が彼女の大きな目から溢れ始める。

 

 

「ごめん、ね、急に泣き出したりして、ごめんね」

 

「あのね、2人は、何があっても、ずっと、ずうっと変わらないでいてくれるでしょう」

 

「私が成長して、どんどん年を重ねて、おばあちゃんになってもずっと今の、私の大好きな2人のままで居てくれる、それってとっても幸せなことなの」

 

 

 

「私、どうしよう、わたし、」

 

「2人と一緒に過ごして、幸せに暮らせて、それで十分なのに」

 

 

「2人に置いていかれちゃう、とか、2人を置いて先に死んじゃうとか、そんなことばかり考える様なっちゃって」  

 

 

 

「2人に置いていかれるなんて、置いていっちゃうだなんて、考えたくなんてなくて、わた、っ、わたしっ、どうしたらいいのか分からなくて、それでっ、それで」

 

 

 

綺麗な目からボロボロと大粒の涙が、ぎゅうっと洋服を握りしめた手に落ち続けている。

 

 

 

 

「私だけ置いていかれちゃうのも、置いていっちゃうのも、どっちもいやよ、いや、つらいの、こんな気持ち、持ったらいけないって、ダメだって分かっているのに、2人には幸せに生きて欲しいってすごく、すごく思うのよ、本当なの、でも、でも、どうしたらいいの、…わたし……」

 

 

 

 

 

 

そっとレグルスと一緒に彼女の背中をさすり続けてあげる。

 

少しでも気分を落ち着ける様に、固く握りしめているその手に、僕たちも手を添える。

 

 

彼女越しにレグルスをそっと見ると、レグルスも僕を見ていた。

どうやら双子らしく考えていることは一緒らしい。

 

 

ふうん、お兄ちゃんが良い所貰っちゃっていいんだ、と小さく呟くと彼女の為だからね、それにコレは兄さんじゃないと叶えてあげられないだろう?と返ってきた。

 

うん、確かにね。

 

 

『うん、うん。』

『そうだよね、置いていかれるってさ』

『置いていっちゃうって思うのってさ』

 

『とっても辛いことだ。』

 

『君の気持ちに気付くのが遅れちゃって本当にごめんね』

 

 

『辛かったね』

『苦しかったね』

『悲しかったね』

『寂しかったね』

 

 

 

『でもね』

 

『大丈夫!』

 

『君がどんなに辛くても』

『僕がぜーんぶなかったことにしてあげるから!』      

 

 

 

 

"──じゃあさ、僕たち2人で心中、しちゃおうか"

 

 

 

それまでぎゅっと目を閉じて溢れ続ける涙を止めようとしていた彼女が僕の声を聴いて、ほぅっと、息を吐きながら、安心した様な、安らかな顔になって僕を見つめる。

  

 

 

 

「いま、しんじゅうって、心中って言ってくれたの?わた、私と一緒に死んでくれるの?私を置いていかないで、私と死ぬっていう、そんな選択をしてくれるの?幸せな時間のままで時を止めて、ずっとずっと一緒に居られる様に、そうしてくれるの?」

 

 

 

 

泣き顔から笑顔になった彼女が矢継ぎ早に話す。

 

嬉しい、嬉しい、こんなに嬉しい最期があるなんて、私、幸せだなあ。

 

 

『本当は心中って夫婦とか、恋人同士とかさ』

『そーいう人たちがする1つの愛の形でしょ?』

『僕は、レグルスのお兄ちゃんだからさ』

 

『君たちの間に入るのはまあ普通とは違う』

 

 

『でも』

 

 

"君のことを大切に思っている気持ちは本物だよ"

 

 

 

『だから、一緒に死んじゃおう!』

 

『めいっぱいやりたいことをやって』

『もう思い残すことはないや、って思えたなら』

 

 

『僕に言って』

 

 

『一緒に死んで、ってね!』

 

『僕は、僕の能力のせいで君と一緒に死んでも、生き返っちゃうけれど』

『それでも死ぬ時は一緒だから』

 

『安心していーよ!』

 

 

 

彼女はわあわあ泣きながら、僕に抱きついて、それからレグルスにもぐりぐりと抱きついていた。

 

ほら、よくあるでしょ?死ぬまでにやりたい、100のこと、とかさ。 

 

 

 

 

 

それからは、色んなことをした。

 

3人で沢山の街を周った。

 

美味しい名物料理を食べて、分け合って、美味しいねえ、と笑ったり、お祭りをしていると聞いた街に飛んで、花や色とりどりの紙吹雪に囲まれて、陽気な音楽が鳴る中、出店を見たり、彼女とレグルスと僕とで色違いの宝石の、光を受けてきらきらと光る揃いのイヤリングを買ったりした。

 

 

ゆっくり過ごせる様に、温かい湯が、まあ温泉だね、湧いていることで有名な所へ行って、のんびり過ごしたり、暖かくなったら大木に桜に似た薄いピンクの花が沢山咲いている町に行って花吹雪の中見上げたり、暑くなったら大きな湖がある場所へ行ってぱしゃぱしゃと足を水につけて、子供の様に氷菓子を食べて、涼しくなってきたら、黄色や赤や緑の混じった紅葉の道を歩いたり、寒くなったら、暖かい格好をして、しんしんと降る雪にはしゃいで、雪うさぎを作ってあげたらかわいい、かわいいと、とっても喜んでいた。

 

 

綺麗な花畑で何にも考えないでゆっくり過ごしたり、静かな森で澄んだ空気を吸って昔みたいに話しながら散歩したり、星空を眺めて、時々流れる流星に目を大きくして珍しそうに彼女は見つめていた。

 

 

 

そうして過ごして、彼女は満たされた様子になっていった。

 

 

 

 

そして、家でゆっくり僕の作ったクッキーを食べて、紅茶を飲んで、彼女が自分の気持ちを吐露したあの日と同じ様に過ごしていた時、彼女はにっこり笑って、あのね、私、もう満足したわ、十分、色んなことをしてもらって、こんなに沢山2人との楽しい、美しい思い出ができて、とっても幸せだなぁ。幸せ者だなぁ。と噛み締める様に呟いた。

 

 

 

そしてレグルスと、僕を順番に見て、ありがとう、もう心残りはないわ、とにっこり笑って、そうね、明日、明日晴れたら、森の、ほらあの開けていて花が沢山咲いている場所に行きましょう、そこで一緒に死にたいな、と言った。

 

 

僕もレグルスも彼女が満たされたことを感じ取って、僕たちも、君が幸せなら、幸せだよと伝えて、それから彼女の好きなものを夕飯に作っていつも通り過ごした。

 

 

   

 

 

 

  

 

 

 

 

朝、昨日もそうであった様に、明日もそうであるかの様に、いつもと同じく朝食を作って、2人が起きてきて、3人で食べて、僕とレグルスの果物を彼女に1つずつあーんと食べさせてあげて、お返しに蜜が染み込んだパンケーキを1口ずつ食べさせてもらって、そんな些細な幸せに笑った。

 

 

身支度を整えて、髪型を編み込みにしてあげて、3人で手を繋いで丘へ行く。

 

 

花畑の真ん中で、座り込んで暫くそうしていた。

 

 

 

 

 

 

彼女が僕たちの手をとって、話出す。

 

レグルス、あなたと出会えて、一緒に過ごせて私、とっても幸せだった。

かけがえのない時間だったわ。

 

お兄さま、沢山助けてくれて、ありがとう。

素敵な思い出を、これからのことも、全部感謝しています。

 

レグルスとお兄さまと過ごした時間はとっても綺麗で、輝いていて、私には勿体ないくらいの美しい時間だったわ。

 

 

うん、もう、大丈夫よ。不思議な感じね、ふふ、と笑って手を広げて、じゃあ、よろしくね、と明るく言う。

 

 

彼女の頭を優しく撫でて、目を細めて甘える様な仕草をする彼女に伝える。

 

 

『まかせて』

 

『痛いこと、なかったことにしてあげるから』

『安心して』

 

 

『それで一緒に逝こうね』

 

 

 

 

あ、と彼女が最後に1つ、とっても大切なお願いがあるの、と言う。

 

 

もし、レグルスに大変なことがあったらどうか助けてあげてね、お兄さま。

 

私が居なくなったら、きっとレグルスにはお兄さましか心を許せる人が居なくなっちゃうでしょう?

 

 

だから、お願いね、2人で私の分まで生きて。

 

 

最期の最後に呪いの様な、祝福の様な言葉を残す、今までで1番の笑顔で話す彼女を抱きしめる。

 

 

『そんなの、おにーちゃんとして当たり前だよ』

 

『だから』

 

 

『安心してね』

 

 

ありがとう、これで思い残すことはないわ、あぁ、安心した!と清々しい表情で明るく話す彼女を優しく抱きしめて、彼女と僕の心臓目掛けて、現れた2本の螺子が勢いよく貫く。

 

 

彼女の痛みを、辛さをなかったことにしたから、彼女はごぽりと血を口の端から流しながらも、優しいね、幸せだわ、一緒に逝ってくれるから全然怖くないの、温かいわ、と喋り続ける。

 

 

 

僕は痛みに朦朧としながらも、そうだね、君と死ねるなんて僕は幸せ者だ、僕には似つかわしくないほどの幸せだと答える。

 

 

 

レグルスがゆらりと倒れかける僕たちの体を抱き止めて、彼女は先に逝って待っているからね、2人とも好きよ、大好きよと"笑って"穏やかな顔をしてすうっと目を閉じた。

 

 

 

 

僕ももう限界が来る、激しい痛みの中、レグルスに笑いかけ、ごめん、すぐ戻るよ、と伝えて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はあの部屋に居た。

 

彼女は不服そうに、ぷくっと頬を膨らませて、ベッドから降ろした足をぱたぱたと動かして僕を見ている。

 

 

なんだよなんだよ、あんなのずるいじゃないか、僕とだって心中してくれはしたけれど、それよりロマンチックじゃないか、ずるいずるいとベッドから降りてもたれかかってくる。

 

 

まあ?僕は君が望めば、死を望めば、望まなくても死んでしまえば彼女と違っていつだって僕と会えるから?別に?いいんだけれども?とむくれている。

 

 

僕は押し潰されそうになるのを必死に堪えて、僕らはチートみたいなものだからさあ、勘弁してよ、それが最善だったんだからと弁明する。

 

 

仕方ないなあ、私が、安心院さんが、この寛大な安心院さんが赦してあげるとしよう、あの甘い甘い思い出は僕たちだけの物だしね、と笑う。

 

 

 

でも今回はスキルの譲渡はお預けだ、とニヒルに笑いながらベッドに戻って足を組んで言う。

 

 

まあ、仕方ないか、じゃ、弟が待っているからさ、そろそろ行くよとドアから出ていく僕に、また来なよ〜と呑気に後ろから声をかけられる。

 

 

 

 

ひらりと手を振って、ドアをくぐって、そして。 

 

 

心配そうなレグルスの顔越しに青空が見える。

戻ってきた。

 

 

 

彼女は穏やかな顔で僕の隣に寝かされていた。

 

 

 

レグルスは安心した顔で、戻って来ないかと思った、兄さんまで居なくなってしまうかと思ったと口早に言う。

 

 

そういえば、レグルスの前で"戻る"のは初めてだったか、と思って心配をかけてごめん、ほらね、元通りの僕さ、と笑いかける。

 

 

 

 

 

それから彼女に着いた血とか、破れた服とか、傷をなかったことにして、綺麗に戻してから2人で彼女を丁寧に埋葬した。

 

レグルスと一緒に彼女を偲んで、どうか安らかに、夢を見る様な心地で眠れているといいなと思う。

 

 

 

 

さて、どうしたもんかなあと思う。

 

レグルスは権能の為に新しく大切な人を探さないといけないだろう。

まあ、彼女が亡くなってから暫く経ってからでないとレグルスの心が回復しないだろうから、それまでは僕も一緒に暮らすことにしようかな。

 

 

その後は、そうだな、彼女と行った所を巡るのもいいな、と思った。

 

 

そうして、レグルスと2人で、彼女が居なくなった家で何ヶ月か過ごすこととなった。

 

 

 

 

彼女、この料理好きだったなあとか、この花の香り、彼女がいい匂いって好んでいたなあとか、彼女が居なくなっても僕の心には、僕たちの心には笑顔の彼女がいつも居た。

 

暫く塞ぎ込んでいたレグルスも、半年くらいするといつもの調子に戻ってきて、安心した。

 

僕は、彼女の足跡をもう一度辿ろうと思う、と伝え、レグルスはレグルスで大切な人を見つけに行こうと思うと話し合った。

 

 

じゃ、また会おうね、とにぱーっとわらってレグルスの頭を撫でて、お互い違う方向へ歩き出す。

 

 

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