ここだけレグルスに兄がいて、幼馴染ちゃんも幸せな結末を迎える世界線 作:ねえ、おなまえは?
僕はレグルスに言った通り、レグルスと彼女と周った街や国を順番に歩いて回った。
お祭りの時期や、花の開花の季節なんかに合わせるために、長く滞在したりしたり、歩いてゆっくりと思い出を辿る様にして過ごした。
居心地が良かった町には結構長期間滞在したりもした。
お金はいくらだって稼げる。
僕は金を生み出せるし、それを狙ってくる人を潰したりして、僕が居ると魔獣も盗賊なんかも倒してくれるからと、ありがたがる人も居たなあ。
僕に時間の変化はない。
だから幼馴染ちゃんとの思い出の地を随分かけて周った後はダラダラとしながら、他の土地を見て周った。
何年も経って、レグルス元気にしているかなあ、小さな王が発動できていなかったら、年をとって、僕より年上のお兄さんになっちゃうなと笑って、久しぶりに大切な弟の様子を見に行こうと思った。
アリバイブロックでレグルスの居る都市へ、と思い描いて飛ぶ。
おお、大きな都市じゃん、僕はこっちの方には来たことがなかったから街中に入ってその賑わいに驚く。
さて、レグルスを探そう、直接レグルスの場所に飛ぶことだってできたけれど、急に現れたらほら、プライバシーとかプライベートの侵害とかさ、あるでしょ?
それに街中を見てみたかったのもある。
僕は美味しい料理を出す店を通りすがりの人に教えてもらって、もきゅもきゅと食べて満足して、レグルスに会うのに手土産として、何を買おうかなあと考えていた時だった。
視界の端で女の子が路地裏に無理やり連れ込まれるのを見た。
彼女が抱えていた紙袋からリンガが1つ溢れ落ちてころりと転がる。
誰かに助けを求めるような、縋るような目をして、あたりを素早く見渡していたけれど、口を塞がれてすぐに路地の闇に消えていった。
うっわー、最っ低〜。
女の子に酷いことをする奴なんて、赦せる訳がないよね!
僕以外は誰も気付いていない様子だった。
ざわざわ、わいわいと活気のある日常が続いている。
僕はすぐに路地裏へと入っていった。
そこには5、6人のごろつきが居て、彼女を押さえつけている所だった。
『おいおい』
『君たち、女の子の扱いがなっていないじゃないか』
『蝶よりも花よりも丁寧に扱う、が基本だろ?』
何だァ?コイツ、ひょろいただのガキだ、問題ない殺しちまえと言われる。
『酷い言われようだなあ』
まあ、確かに一理あるけどさあ。
女の子1人助けるなんて、ほら、殴りかかってくる奴らを一瞬で螺子で服を縫い止めれば簡単な話だ。
女の子の前で流血騒ぎなんて起こしたくないしね。
彼女は、脅えた表情から、すっ、と無表情になって、助けていただきありがとうございました、と頭を下げて丁寧にお礼を言ってきた。
おお、無表情キャラか。
何かお礼を、と言うからそんな必要はないよ、女の子に優しくするなんて当たり前のことだからね、と大通りまでエスコートしつつ、後ろでもがいていた男たちの喉に螺子を突き刺し、静かになってもらう。
生かしておいたらまた同じことを繰り返すだろうからね。
それじゃ、気をつけてねと、別れようとする。
服の裾をつままれて、あの、屋敷がすぐそこですので、ぜひお礼を、と伝えられて、うーん、そうだなあ、ここで断るのも彼女の気持ちを尊重していないことになっちゃうか、と思ってついて行くことになった。
彼女に連れてこられた所はびっくりするほど立派なお屋敷だった、中に入って少々お待ちください、と言われ、客間に通される。
センスがいい、品のある整った家具や調度品だ。
前の屋敷とは違うなあ、と思っていると2人分の足音が聴こえる。
屋敷の主人と彼女かな、と思って挨拶のために立ち上がって、それと同時にドアが開く。
そこで、目と目が合って、お互い固まる。
いや、瞬間、恋に落ちたわけでもなんでもないよ。
驚いた、そこに居たのはレグルスだったのだ。
レグルスに会いにきて、彼女を助けたらレグルスに会えたんだから、人助けのついでに探す手間が省けてよかった。
一石二鳥だね!
レグルスは目をまんまるにして、2、3秒止まった後、笑顔になって部屋へ入ってくる。
「兄さん!随分と久しぶりじゃないか、元気そうでなにより、というかそんな言葉、僕たちには不必要か。彼女、僕の妻が命を助けてもらったからって、客人を連れてきたと思ったら兄さんだったなんてそんな偶然があるんだね、改めて、僕の大切な妻を助けてくれてありがとう。兄さんは僕に会いに来てくれたのかい?そうか、いや、嬉しいなぁ。あぁ、兄さんにもそう言ってもらえると僕も嬉しいよ。久しぶりの再会だし、ゆっくりしていって欲しい。そうだ、滞在してくれるのなら、僕の妻たちの紹介もしなくちゃね。彼女たちは僕が直々に選んだ花嫁たちなんだ。もう少しだけここで待っていて欲しい、彼女たちを集めるから」
ふうん、妻たち、かあ。
あー、そう言うことね、理解したよ。
小さな王の発動の為に、命のストックというか、あぁ、そんな言い方したら失礼か、大切な人は居れば居るほどいいものね。
あれこれ考えているうちに、ノックの後また扉が開いて、レグルスに連れられて玄関ホールに行く。
広い広い玄関ホールには、ずらりと、僕の予想以上に沢山のかわいい女の子が並んでいた。
みんな一様に表情が抜け落ちていて、前髪が短く切り揃えられてより一層その表情が強調されている。
無表情キャラ、というより、表情の変化を禁止されているっていう感じだなあ。
レグルスの隣に立って、にぱっと笑い挨拶をすする。
『えーと』
『花嫁の皆さんこんにちは!』
『僕はレグルスのおにーちゃんです!』
『よろしくねっ』
はい、お兄さま、よろしくお願いいたします、と声を揃えて彼女たちが答える。
レグルスが続けて話す。
「さっき君たちに軽く説明したけれど、彼は僕の大切な兄さんだ。この家に暫く留まってくれるそうだから、兄さんに無礼のないようにね」
はい、旦那様、と虚空を見つめながら答える。
世話係をつけるとしよう、101番、102番、103番、105番、106番、兄さんの身の回りの世話をお願いするよ。よろしく。
それじゃあ、各々の持ち場に戻る様に、とパンパンと手を打つ。
さっとはけていく彼女たち、残った5人の花嫁さんたちに案内してもらって、部屋を教えてもらう。
ありがとね、と笑って、僕はレグルスとちょっと話さなくちゃいけないから、そうだなあ、君たちは僕の部屋のベッドに腰掛けてお喋りでもして、楽に過ごしていて欲しいな、と言って部屋を出た。
レグルスの居る部屋を彼女たちに聴いていたから、軽い足取りで向かう。
ドアをノックして、返事があったので入る。
あぁ、兄さんか、どうしたの?と言われたので、ちょっと色々聴きたくってねと言って紅茶飲む?と聞くと、久しぶりに兄さんの淹れた紅茶なら飲みたいな、というので用意して淹れてあげる。
それで、兄さん、聴きたいことって?
うん、えーっと、いくつかあるんだけれどとティーカップを片手に話し出す。
『レグルスは花嫁さんたちのこと、番号で呼んでいたよね?』
『それに』
『彼女たち、みーんな無表情だった。』
『前髪を揃って短く切られて、顔がよく見える様にしてある。自分から話す、ってことはしなくて、受け身だね』
『僕みたいな奴のさぁ、何となくの考えだけれど』
『レグルスにとっての大切な人を沢山増やして、小さな王の発動条件を確実に満たせる様にしているって感じなのは分かったよ』
『随分昔に別れた時にそう言っていたからね』
『それで』
『えーっと』
『レグルスがしている番号呼びとか、発言の制限とか、そういうのはさ』
『彼女たちという存在の、個を取り払って、純粋無垢な、花嫁として必要な部分だけをこう、集めた感じなのかなあ?』
『表情が変わらないのは』
『表情変化を禁止している様に感じるのは』
『レグルス』
『君、彼女が、僕たちとの生活で見せてくれた素敵な表情と、最期の時に最高の笑顔で、素敵な顔で、逝ったから、ぜーんぶ持って逝ったから、じゃないのかな?』
『それ未満のものは赦せない!みたいな』
『どう?僕程度の杜撰な考えだけれど、答えを聞かせてほしーな!』
パチパチ、とカップをテーブルに置いてレグルスが驚いた表情で拍手している。
流石兄さんだね、僕のことを、彼女たちのこともよく理解してくれて、嬉しいよ。
その通りだよ、と嬉々として答えるレグルスに面白いことしているなあと思う。
幼馴染のあの子への大切に思う気持ちと、集められた理想の、というか理想に少しでも近い彼女たちへの大切は似ている様で全く違う。
多分、ゲームの沢山ある残機の様に、レグルスの機嫌1つで殺されたりするんだろうなあ、とぼんやり考える。
まあ、僕には関係ないから、レグルスたちはレグルスたちで好きに過ごせばいい、彼女たちは恐怖とか、規則だとか、そういうので支配されているだろうけど、僕がとやかく言うこともない。
あ、でも僕はさ、彼女たちのことを知りたいし、女の子には優しくしたい、紳士でありたいんだ。
まあ、レグルスもきっと"普段"は紳士って感じだけれどね。
『個人的な話だけれど』
『僕はさ、女の子のことは名前で呼びたい』
『それに』
『色々話をしたいし、色んな表情も見たいなあ』
『だから、レグルス』
『君の赦す範囲で僕は彼女たちと関わってもいいかな?』
レグルスは、暫く考えた後、まあ兄さんがそう望むなら、兄さんの前でだけは赦そう、彼女たちにも伝えておくよとお許しがでた。
わーい!よぉし、いっぱいお話しするぞぉ!
僕の所謂"気持ち悪さ"や"気味悪さ"は、味方というか身内というか、まあこちら側に、うーん、あっち側って言うのがいいのかな、とにかく相手に受け入れられると感じられなくなる、らしい。
ほら、禊ちゃんも敵の時はゾンッて感じの禍々しいオーラを放っていたけれど、味方についたら頼もしいことこの上なかっただろ?
そんな感じ。
だから彼女たちと早く仲良くなって、お友達になりたいなっ!
部屋に戻って、談話もせずにベッドに腰掛けていた彼女たちにレグルスから僕の好きにしていーよって言われたから、そうするね、と伝える。
何をされるのかという怯えた表情を押し殺した目でこちらを見る彼女たちに、そうだな、まずは名前を教えて!と言う。
それから、好きな物とか、嫌いな物とか、そういうのも知りたいな、表情も、硬くしなくていいよ、笑ったりする方が素敵でしょ?と笑いかける。
彼女たちは最初こそ戸惑った様子を見せたが、ニコニコと笑う僕に他意がないと悟ったのだろう、お兄さまがそう言うのでしたら、と少しずつ、ぽつりぽつりと話をしてくれる様になった。
あ、レグルスからも伝達があると思うけれど、他の花嫁さんたちにも同じ様に言っておいてねー!と伝える。
はい、かしこまりました、と返ってくる。
それからは色んな人たちと交流を図った。
みんなやっぱり最初は警戒を強めたけれど、僕が使用人として働いていた頃のノウハウを活かして彼女たちの手助けをしたりしていたらいつの間にか彼女たちから話しかけてきてくれる様になる程には馴染んだ。
名前を呼んで、褒めに褒めて、絶対にこちらからは触らない。
ノータッチ!
彼女たちは人間だからやっぱり失敗することもある。
そりゃそうだ。完璧な人間なんて、居ない、と思う。
だから怪我をしたり、割ってしまった皿なんかをなかったことにしてあげ続けた。
僕は屋敷に来た頃から比べるとだいぶ馴染んだ様に思う。
時々、外出というか小旅行みたいな感じで空を跳ねて出掛けては、行った先の名物品だの、美味しい物だのを買ってきたりレシピを教えてもらって彼女たちやレグルスに振る舞った。
レグルスは僕の作るご飯やお茶菓子は食べていた。
それまで食事を摂ることをしてこなかったんだろう、彼女たちは少し驚いた様子を見せていたが、レグルスは気にすることなくあの頃と同じ味だ、美味しいよと満足そうに笑っていた。