「なんでや!」
その声は歓声に包まれる広間の中であってもよく通った。
「……なんでディアベルはんを見殺しにしたんや」
声の主はキバオウだ。彼らパーティーは涙を流し、そのなかでも彼はこちらを、正確には俺の隣にいるキリトをにらみつけていた。
「見殺し……」
キリトが小さくつぶやく。
「せやろがい! 自分は、ボスの使う技知っとったやないか。最初からあの情報伝えとったら、ディアベルはんは死なずに済んだんや」
キバオウの言っていることは暴論だ。それは結果論だ、タラレバでしかない。それにもし、本当はキリトがこの情報を知っていたとしたら、それは同じ元ベータテスターだったディアベルも知っていることになる。あの技は本当にベータテスターにとっても初見に近いものだったのだろう。それに俺はキリトがそんな奴じゃないことぐらいは知っている。
キバオウの叫びを聞き、歓声一色だった広間の雰囲気が変わり、今度は別のざわめきが覆う。「そういえば」「なんで知ってるんだ」と多くのプレイヤーが疑念の声を出していく。広間全体の雰囲気がどんどん悪い方向へ転がってい行く。これ以上はいけない、どうにかしなければ。
「おまえr」
「そうだ、あいつはきっと元ベータテスターだ! だからボスの攻撃パターンも全部知ってたんだ。あいつら全員仲間で、他にもうまいクエとか狩場とか全部知ってて、俺たちを騙して隠しているんだ!」
どうにかこの悪い流れを変えようと声を張り上げようとする瞬間別のプレイヤーに遮られる。なんか昨日から俺が発言しようとする時こんなんばっか。
曲剣使いの白髪のプレイヤーはキリトが元ベータテスターであることそしてその知識を独占しているのではないかと、昨日のキバオウの発言と同じようなことを繰り返す。
キリトはどんな顔をしているだろうか、怖くて顔を向けれない。あいつは普段から大人びて見えているがまだ中学生だ、そんな奴にこんな言葉は毒だろう。
「あの攻略本も、アルゴって情報屋が嘘を売りつけたんだ——」
「黙れよ!」
咄嗟に出てきた言葉はこんなもの、あのプレイヤーの言葉を遮る方法を他に思いつかなかった、まあ、単純に彼の主張が気に入らないのもある。これ以上あいつに話させたらアルゴやほかの元ベータテスター全体がこの場の敵になってしまう。
「さっきから聞いてたらなんだその話は、お前本気でそんなことを思ってんのか?」
俺とキバオウの間、片手を上げたままの姿勢でキバオウの方を見ていたシアがすごい勢いで振り返ってくる。その顔は「お前マジか」とでも言いたいのか驚愕に染まっている。
「元ベータテスターが嘘をついてる? 狩場を独占? まあ有るだろうよそんなこと。SAO以外でもよくあることだったんだ、俺も否定はしねえよ」
ここにいる全プレイヤーがキリトの人となりを知っているわけじゃない。だけどもここにいる全プレイヤーがキリトの事を疑っているわけでもないのだ。
この場の主導権はこちらが持たないとみんな流されてしまう。多少強引でも話し続けなければならない。
キリトの方へ視線を向けると彼は覚悟を決めたような顔だった。
——ちげえだろ。
「でもなこいつはそんなことしねえよ。それはこいつとずっと一緒にした俺が保証する」
まあ俺が保証したところで何になるんだ、って話なんだけどな。
「そんでこいつがボスの攻撃を知ってたとして、それをずっと黙ってた奴があの場で叫ぶかよ。吹き飛ばされたディアベルの傍に真っ先に駆け寄るかよ」
広場全体に漂っていた疑念の雰囲気はどうにか離散まではいかなくもキリトに対する疑いは、ある程度薄くは出来た。そもそもこんな話はこの場ですべきではない、ボス戦直後でみんな気が立っているんだどうしても犯人捜しのそれになる。
「俺たちは半壊したお前らの代わりに必至こいてボスと戦って何とか勝ったんだよ、それに水差してディアベルを見殺しにしただ?適当言うのもいい加減にしろよ」
自らの胸を親指で差す。先ほどまでコボルトロードがいた場所を指さす。腕を払う。
もはや自分で自分んが何を言っているのかわからない。もしかしたらそこまで筋が通った話ではないのかもしれない。
だがやめない。ついでだここまで来たら言いたいこと全部、吐き出せ。
「そもそもディアベルが死んだのはソードスキル使おうとして被弾したからだろ。あいつの油断だ、お前らの油断だ。ボスと戦ってたお前ら全員の油断がディアベルを殺したんだよ」
何か口を開こうとするキリトを左手を上げ制す。キバオウも言い返してこない。白髪のプレイヤーは——どこいった?
「みんな気が立ってるんだ、これ以上ここで話し合ってもいいことはない。この話はこれで終わり。——いいな、じゃあ俺はこれから2層の転移門に行くから。生きてたらまた会おうぜ」
キバオウたちを背にして部屋の奥、階段へ歩い向かって歩く。胸を張って余裕がある風に、決して歩幅を早めたりはしない。心拍数がやばい、過去一だ。
いや~すっきりした。昨日の会議でもなんだかんだキバオウに言い返せなかったし、最近俺が何かしようとした瞬間に誰かに代弁されて俺は黙ってうなずく。ムカついてたんだよね。うん、気分がいい。
いや〜でもあれはさすがに言い過ぎたな、一息ついたらなんかナーバスな気分になってきた、おれなにしてんだろ。
開いた門をくぐり階段を上り始めると一気にこうふんが冷め、始まるのはみっともない一人反省会だ。
だけどもあそこで声を上げなければ元ベータテスター全体へのヘイトが膨らんで今後に支障が出ていただろうし、キリトは何か覚悟してたし、それにアルゴが嘘つき呼ばわりされたのは普通にムカついた。
うん、これで良いや。多分どうにかなる。
どうしよう次のボス戦呼ばれなかったら。ワンチャンあるよな。
そもそもディアベルの話はあそこでする必要あったか? まあ元ベータテスターへのヘイトを誤魔化せたってだけで大成功か? どうだ。
うじうじと一人反省会をしながら階段を早足で登っていくと、階段の先、迷宮の壁と同じ、冷たい石造りの巨大な扉が見えた。
(あ、そういえばシアたちのこと忘れてた)
もう着いたのかと思いながら階段を上りきったところでふと気づく。
これもしかして付いてきてないとかあるよな。全然ありうる。……どうしよう、俺一人で初見のモンスターに対応しきる自信は無いんだけど。
てか急に怒鳴って、行動決めて、アスナに嫌われたりしただろうか。キリトの行動を止めたのも悪手か? これあれだな、パーティー解散だな。
まあもともとボス戦用の即席パーティーだったからボスを討伐した後に解散するのは普通、むしろ当たり前の事なのだがなんだかあれで別れになるのはなんだか気まずい。そもそもああなったのは俺の所為でしかないんだが、とても気まずい。次合った時どうしよう。
そうして扉の前でフリーズしていると背後に人の気配を感じる。人数はおそらく2、いや3か。——もしかしたら4かもしれない。どうやら階段を登り切ったらしく俺のすぐ後ろで足音が止まった。
もしキバオウたちなら気まずすぎて振り返れない。
あれか? お礼参りか?
「どうしたんだ、さっさと開けようぜ」
振り返るとキリト、アスナ、シアの順番で3人が立っていた。
「いや、今開けるとこだ」
扉のほうへ向き直り、先ほどまでの焦りなどを隠していつものような返事をする。ちゃんとごまかせただろうか。
ただ扉を開けるだけだというのに3人に見られていると思うとなぜか緊張する。
取っ手を握り押していと、その銃根幹とは違って意外と軽く、金具のこすれるような音と共に簡単に開いていく。
扉を開きた先は少し開けていて、夕日の眩しさとほほをなでる温かい風を感じながら4人で歩いていく。
「綺麗——」
そうアスナが呟き、俺たちはそれにつられてあたりを一望する。
迷宮区の出口は丘の上にあったようで、視界の先には地面を覆いつくす森、そこから突き出す雄大な山々、そして現実では到底あり得ないような広大な自然が広がっていた。
「よかった、この景色を見られて」
「そうだな」
景色にめを奪われそうつぶやくシアに対してキリトが同意する。
俺自身も何か感想を出すべきなのだろうが、今はただただこの景色に圧倒される。ちょうど夕暮れ時にここにこれたのも良かった。
沈みかけの茜色の光に包まれて、この景色がより素晴らしきものに見える。
記念に写真でも撮ろうとズボンのポケットにてをやるが、途中でこの仮想世界にはスマホなど無いことを思い出し、ごまかすようにズボンで手のひらをぬぐう。
「さっさと町まで行こう、このままだと日が暮れちまう」
景色を見ながらゆっくりではあるが丘を下り始める。目的地は第二層の主街区。キリトがいうには名前は着いてからのお楽しみらしい。まあ無難に「セカンド」とかどうだろうか。
夕日に照らされた道を歩いていくとふと思うことがある。
「これでやっと二層目だなあ」
この景色を見ると感動と達成感。そしてこれまでの一か月のことが浮かんでくる。
たった一月されど一月、多くのことが起こった長い一か月だった。ここに来るまでにいったい何人が死んだだろうか。
「百層は遠いなあ」
ここに閉じ込められて二週間が経ったときから、怖くて黒鉄宮には行けてない。だがおそらく数人ではないだろう、もしかしたら、もう3桁に届いているのかもしれない。果たしてゲームクリアまでに何人が生きていられるだろうか。
「大丈夫よ、私たちなら」
声に出してしまっていたらしい。悪いことをしてしまった。せっかくのいい雰囲気が台無しだ。
「ここまでこれたもの、これから先もこの4人なら大丈夫よ」
「あれ、このパーティーはボス戦が終わったら解散するんじゃ」
「え、そうなの——」
アスナの励ましにキリトが突っかかる。
一応予定ではそうなっている。だがまあこのパーティーならこのままでもいいかもしれない。
「で、僕らをあの気まずい空間に置いてい行った謝罪は?」
アスナとキリトが何やら話しているのを後ろで聞いていると、シアが声を潜めて詰めてくる。
「すまん。——本当に」
「まあいいよ、別に気にしてないし、それに僕もちょっとだけスカッとした」
気にしてないのかよ。
「てか、さっきもしかして俺たちがついてきてないとでも思ってたでしょ」
「……さあな」
これ以上何か言われてもたまらないのでシアから距離を離し、早歩きになる。
あたりはもう薄暗くなり始め、先ほどまで俺たちを照らしていた夕日はもう3分の1ほどしかその姿を見せていない、俺たちが丘を下って行っているのもあるだろうがさすがにゆっくり歩きすぎた。
「暗くなる前にさっさと町まで行こう、下で待ってるやつらもいるしな。あれだ競争だ」
「勝ったらどうする?」
俺の提案にいち早く乗ってきたのはキリトだ。こいつはこういったとき案外ノリがいい。
「そうだな、じゃあ最下位は今晩奢りにしよう」
真っ先に動いたのはシアだった。大人げなく最初から全力で走っていく。
それにアスナ、キリト、俺の順番で走っていくのだが、ビルドの差か、そろそろアスナはシアに追いつきそうだ。それに比べ俺はキリトにすらどんどん距離を離されていく。
こうやってみんなで走っていると初日のことを思い出す。あの時はシアと二人、あるのかどうかもわからない町を目指して走っていた。まだこの仮想世界が檻だとわかる前だ。
ただ、今もあのときと同じ様になんだか無性に楽しかった。声を出して笑いたいような気分だ。さっきの考えが吹っ飛んで、このまま俺たちならこのゲームをクリアできるそんな風に思ってしまえる。
丘を下り森を抜けると町が見えてきた。はじまりの町にも引けをとらない立派な町だ。俺もそろそろ追い上げないと。
夕日は沈み薄暗い空には春日に星々が瞬き始める。第三層の床に映し出された星々は偽物だ、そして今感じる風も偽物だ、だけども俺たちは確かにいまこの世界で生きていた。
ちなみにもちろん最下位は俺だった。しかもどこから来たのかアルゴの分も奢ることになった。
アイデアもやる気もあるのに筆が進まない。そんな毎日を過ごしていたら前回の投稿から2週間もたっていました。時間の流れって怖いね。
この話を執筆中、作者が創作活動を始めよう思ったきっかけの一つである、とある作品に見習って、南米原産のモフモフに頼ってみたものの。あんまりでした。
後書きでほかの作者の作品に触れるのって大丈夫なんですかね。ダメだったら消します。
それと、新作ゲーム楽しみ。