「——多分、俺の技のほうが一瞬速く当たったんじゃないかなーと」
「いいえ!
眩い星々とひと際大きい月が出ている夕方。夕方といっても夜のとばりは深く降り月は輝くそんな時間。アインクラッド第5層主街区「カルルイン」のレストラン。そのテラス席にて2人の男女が言い合いをしていた。
男3人女2人で座っておるこの集団、中でも対面に座っている2人が言い合っているものだからテーブル全体が騒々しい。
その男女、キリトとアスナなのだが、いったい何をここまで言い争っているのか、その原因は、数時間前アインクラッド第4層迷宮区で行われたフロアボス討伐戦にある。
ボス討伐自体は順調に進み、問題であったベータテストとの変更点。部屋全体が水に沈むというのもアルゴの協力によりボス部屋の扉が開かれ解決された。そんな戦いで何を今まで言い争っているのかというとラストアタックについて語らなければならない。
ソードアート・オンラインのボスにはラストアタックボーナスというものが存在する、簡単に言えばボスのHPを最後に削り切ったプレイヤーに特別なドロップアイテムがあるというものだ。それこそいまキリトが来ている黒いコート《コート・オブ・ミッドナイト》は第1層ボスのラストアタックボーナスだ。
キリトのそれが第4層攻略済みの現在でも使えるようにラストアタックボーナスで手に入るアイテムには破格の性能を持つものもある。
「でもシステム的には俺が早かったことに……」
まあこの口喧嘩はそのラストアタックボーナスをめぐってのものではない。ただ単に同時に攻撃したはずなのに、ラストアタックをキリトに取られてしまったアスナが納得できずにキリトに突っかかっているだけだ。
ただ別に剣呑な雰囲気があるわけではない、いつもボス討伐とその後のプチ宴を開いてる俺たちからしたらいつものことだ。
「ユートh——」
「パス」
アスナの言い分に困りはてたキリトがすぐ右隣に座っている俺に助けを求めてくるが、それを断り
このアスナとキリトのケンカ未満の言い合い第1層攻略から1月の間で何度も起こった。最初の頃は間に入ったりしていたのだが最近になって無視するのが一番だと気づき目を背けている。がんばれキリト。
「シアは」
「そもそもシステムがそう判断したんだから今そんなこと——」
「ごめん何でもない。アルゴからも何か言ってくれよ」
「犬も食わないものにかかわる気はないヨ~」
キリトがシアに助けを求めシアが手に持っていたローストチキンを離し、自らの見解を述べようとするがそれは悪手だ。シアは割とノンデリの気があるのだから、気の利いたことを言うわけでもない。そもそもキリトは一度、痛い目を見たのだから学習するべきだ。
「え「犬?」」
「それよりもアーちゃんそこのローストチキン取ってヨ」
アルゴの言葉にキリトとアスナが詰め寄るがアルゴは気にせず、飄々とした態度でチキンを要求する。俺も1個もらっとこ。
「でも確かにハイペースよね」
「なにが?」
「ユートのそれ何?」
「これ? 蜂蜜酒。甘くて旨いよ」「オイラも次それ飲む」
「攻略よ、2層、3層、4層とどんどんペースが上がってるわ」
右隣に座るアルゴからの疑問に答えている間に、アスナが不安を吐露する。
大変喜ばしいことに第1層攻略後からは1層の攻略に一月かかるなんてことはなかった。第2層は一週間と数日、3層は1週間。4層に至っては六日で攻略されている。このままのペースだと8層を攻略するころにはマイナスまで行くかもしれない。まあそんなことはないし、問題もあるのだが。
「キバオウの
「今のところそれがいい結果に結びついてるけど問題も多いんだよな。」
アスナの言葉にアルゴが反応しキリトがそれに補足する。
ALSとDKBこの2つのギルドはもともとディアベルのもとに集った第1層ボス攻略メンバーだ。それが今はキバオウとリンドを中心に2つに分かれて、競うように攻略を進めている。
この2つの組織なのだが、もちろん仲が悪い。リーダー同士の中が良くないのもあるが、お互いのメンバーもそれぞれ仲が悪い。そもそもとしてそりが合わないから2つに分かれたのだからさもありなん。それが今では2大ギルドと言われるように攻略の要になっているのだかさらに予後が悪い。
「あいつら、顔を合わせるたびに小競り合いしてるからな」
ため息とともに吐かれたキリトの一言には共感しかない。俺自身、その争いは何度も見たし、暴力沙汰になっていないことは奇跡だとも思う。
「2人ともディアベルの後継者を目指してるのに考え方は正反対なんだよな」
そういってキリトは腕を当たもの後ろに組み背もたれに完全に体を預け夜空を見上げる。
「ディアベルが生きてればよかったのにね」
キリトの言葉にシアが口を開く。もともとディアベルがまとめてた組織が分かれたんだ。もしディアベルが生きていたらこんなことに頭を悩ませることもなかったかもしれない。初戦はたらればでしかないが、まあ言いたいこともわかる。
「ま、ディアベルが生きてたとしても、どうせ分かれてたと俺は思うぜ。あいつらが仲良くとか考えられねえ」
あの2組織の中の悪さを見ると、ディアベルが生きてた程度でそれをどうにかできるとは思えない。外野の俺から見てもその2組織は別かれるべくして別れたのだと思う。
「それでも今度のカウントダウンパーティーはDKBとALSが共同で企画したんでしょう」
「まあさすがのあいつらも年明けぐらいはいがみ合いたくなかったんだろうサ」
「そうそう、あれは特例だって。それに主催はあの2人だろ」
ちょうどクリスマスが終わったころ、ALSの知り合いから送られたメッセージに思いをはせる。まさかDKBとALSが仲良く新年を祝うとは思わなかったが、主催の2人の名前を見て納得もした。
ALSのリーテンとDKBのシバタ。別の組織であるものの仲良く行動する姿がしばしばみられ、しかもリーテンの鎧の中身は女の子。あれは絶対付き合ってる。もし付き合ってないなら、年末のこのパーティーでくっつくだろう。間違いない。
アスナの言葉に、心の中に飼っているカプ中、もしくはスケベおやじが勝手に1人で燃え上がる。これは悪い癖だな。
俺たちの会話を聞いてか夜空を見上げていたキリトが、手をほどき起き上がる。その顔は疑問の表情を浮かべていた。
「それ、なんの話?」
「え?」
「キー坊、お前——もしかして……」
「誘われてなかったの?」
キリトの衝撃的な一言にアルゴと会う名が気まずそうに確認を取る。俺も驚きの声を出してしまった。
「誘われるって、なににだよ」
豪勢な食事と各種飲み物が乗った華やかななテーブルを何とも言えない空気が覆う。その様子は文化祭や体育祭に一人呼ばれなかったクラスメイトのよう。気まずすぎて今のキリトを直視できない。おいシアお前何無視してチキン食ってんだよ、テーブルはもう冷めてるぞ。
「あのナ、お前さっき今年はあと二日だって言ってたロ。明後日は何日ダ?」
「そりゃあ12月31日だな」
ハァ~
誰のため息だろうか、全員のものかもしれない。ただ一人キリトは困惑していた。
「その大みそかの夜に2大ギルドが合同でカウントダウンパーティーをやるんだって」
「え…………俺、なんも聞いてないぞ……」
キリトの顔が驚愕に染まる。
「ちなみにアスナはその話誰から聞いたんすか」
はやる心をジョッキの中身を空にすることで落ち着き、キリトがアスナに問いかける。その声は若干ドスがきいた声でいてそのしゃべり方からもジョッキ一杯程度では気持ちを落ち着けることができないことが明らかだった。
「DKBのシバタさんから
「フーン」
その声はどこかだみ声が混ざっているようで、ありていに言えばキリトはふてくされていた。
「ほかの人たちからもインスタントメッセージが沢山来てたけど……
「フーン」
だんだんと沈んでいく顔同様その声も低くなっていく。もはやキリトの言葉には濁点がついているような気さえする。
「そんなに拗ねることないでしょ」
「拗ねてない! 俺はもともとパーティーとか興味ないもんね」
先ほどまでキリトの様子を確認するように話していたアスナが、少し笑いながら諭すと、キリトがすぐさま反論する。さっきまで下を向いていた顔がバッと跳ね上がり言い返してくるその様に、拗ねてないなどと言葉に説得力はない。
「ニッヒッヒッヒ」
普段大人びているがキリトは中学生、仲間外れにされたら拗ねるのも当然か。そんなことを考えながら半分ほどがなくなったジョッキに口をつける。お代わりでも頼もうかと思っていると突然アルゴが笑い出した。
「なんだよ、アルゴ」
「いやいや。なんでもないヨ~」
キリトに返事をしながらアルゴは立ち上がる。
「さて、そろそろオイラは行くかな。この町のクエストとか、店売りアイテムのデータを集めなくちゃいけないかなナ」
キリトがデザートも食べないのかと尋ねるが、アルゴはそれも席から離れる。なるほどここから離れるならここだな。
「じゃ、俺らも手伝おうかな。シアもいくぞ」
「え、いや僕はデザート食べてかr」
「ほら、さっさと立て」
嫌がるシアを無理やり立たせてアルゴの後をついていく。せっかくいいタイミングなのだからここを逃す手はない。
「じゃあまたな。あーちゃん、キー坊」
「じゃ、またあした」
「今度、デザートの感想教えて」
思い思いに別れの言葉を口にして、三人並んで席から離れる。テラス席から屋内に入り、階段目指して柱を曲がる直前アルゴが「忘れてタ」と言ってテラス席にもどっていく。
「アーちゃん、頼まれてたアレなんだけど、もうちょいかかりそうダ。分かり次第また連絡するヨ」
「うん、わかった」
ここからテラスまで壁がないので声が聞こえてくるがアルゴはどうやらアスナに頼まれごとをしているらしい。聞き耳を立てるというわけではないが、聞くのも失礼かと思ったが、キリトもいる場で話しているんだ。そこまで気にしなくてもいいかもしれない。
アルゴの忘れていたことはそれだけだったらしくすぐ帰ってきた。
「ちなみにアレって何?」
「秘密」
シアがアルゴに不躾に質問するがそれはアルゴに一言で断られる。
「お前さ、ほんとに……」
「てかユート、なんでせっかくのデザート前に出るわけ。僕普通に食べたかったんだけど」
「ん、それはな。まあ……雰囲気というか、なんというかまあ——」
言葉にするのは難しい。だけどあの2人と1週間行動を共にした俺のレーダーは言っている。あの2人、相性は悪くない、と。それにいい雰囲気になってもいた。
「——あれだ、さっきまで口論してたろ、仲直りしてもらおうかなと」
「それは僕がいてもよくない?」
「ダメだろ。普通に考えて」
「さすがのオイラも最初あったときはシアがそんな奴だとは思わなかったヨ」
「そうだアルゴ、データって値段と性能メモっとけばいいんだよな」
「ああそうダ、さすがに1人で町全体は大変だからナ。助かるよ」
「どう分担する?」
「そうだなおいらは北から南に時計回りに見ていくから、2人は半時計周りに見ていってくレ」
「オーケー、じゃさっさと行こうか」
そういってアルゴと別れる。あのレストランは町の北、うまくいけば数時間でまたアルゴと再会するだろう。幸いここは圏内だから隠れた名店みたいなのでもない限りマップに映る店に行くだけ。主街区とは言えスムーズにいくだろう。
それにこの世界はいくら徹夜しようと関節が痛くなったりはしない、そもそも俺たちの本体ともいうべき現実の体は寝たきりなのだから当たり前か。
それでも眠気や、たまに頭痛も来るのだからナーヴギアに使われている技術は素晴らしい。本当にどうなってんだこれ?
「なんかあったら買い食いしようぜ」
「じゃああれだ、あの塔の麓にあった夜店に行きたい」
「まあついたらな」
そんな会話をしながらも夜はさらに深まっていく。まだそこまで遅い時間というわけでもないし町全体が街灯に照らされ明るいので、町ゆく人も町ゆくNPCも減っていない。それでも、24時を過ぎたら閉まってしまう店もあるので急がなければならない。
そんなこんなで大体9時ごろ、ちょうど町の半分ほどをめぐったころにキリトからパーティーチャットにメッセージが来た。
kirito
これからアスナと2人で地下のダンジョンに入ろうと思うんだけど、ユートとシアも来るか?
ベータテストの通りならメインモンスターはアストラル系だと思う。
「シア、キリトからメッセージ」
「今見てる」
そういうシアは両手に先ほど買った串肉を持ちながらも器用に指先だけでコンソールをいじっている。
「どうする?」
「そうだね、これもあんまりおいしくなかったし俺はダンジョン行こうかな」
「じゃ俺は続きをしようかな。キリトとアスナに行っといて」
「オッケー」
Yu_to
俺はアルゴの手伝い終わってないからパス
Cia
bokuhaiku
「てかその肉まずかったん」
「そうだね、思いっきり失敗したね」
「ちなみにどんな味?」
「ジューシーなゴムタイヤ」
この話を書く上で、冥き夕闇のスケルツォを見返してたんですけど、かなり良くできてますよね。
原作であったことを大幅にスキップしているのにそれがあまりストレスにならない。
作者もそれを目指してはいるもののなかなか難しい。
それはそうとこのまま投稿までのペースを速めていけたらなと思います。無理かも。
「Echoes of Aincrad」の試写会
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行きたい
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興味はある
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行かない
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知らなかった