今回ほんのちょっと長めです。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。水が流れる音とモンスターが走る音の二重奏が響く洞窟の中、アスナは岩陰に身を隠しながら膝を抱えうずくまっていた。
時は遡り数十分前、アスナとシアはキリトに先導してもらいながらダンジョンを探索していた。入り口を直進し、岩で塞がっている場所の脇にある横穴を通る。
あの時はシアノ槍がガツンガツンとあちらこちらに当たって煩かったのを覚えている。
そうして数分歩いたのち3人はまるで聖堂のような、石レンガの壁に囲まれた広間に出たのだが、そこで運が尽きたのか。
広間を照らすろうそくが消えるとともに、どこからかおどろおどろしい空気と共にアスナの背後、に部屋の中心が妖しく光る。
あいにくなことにその時アスナは一人先行し、キリトともシアとも離れた場所にいた。
腰の細剣を抜き、振り向いたアスナの目の前にいたのは黒髪の長髪の女性。その姿はまさしくアスナが苦手としていた幽霊そのものだった。
その異様な姿がアスナのもとに飛び掛かってくる。その開いた口からはまるでサメのような鋭い牙が覗いていた。
アスナは幽霊が怖いわけでない。そう、少しだけ苦手なだけなのだ。
だがさすがのアスナでもその異様な姿には、小さな悲鳴とともに後ずさりする、そしてその時のアスナは運が悪かった。
一歩、二歩、そうしてそうして三歩目でアスナの右足が何かを踏みしめる。そのタイルはアスナに踏まれると同時に赤く輝き、アスナが気づいた頃にはもう遅い。立っていた床がひっくり返り、アスナは下の層まで落ちていく。
「マズい!」
シアが槍の石鎚の方を伸ばし、それにアスナも手を伸ばすが届かない。本来シアが使う長さの槍なら届いたかもしれないが、それはたられば。結果としてシアの助けは間に合わなかった。
落ち行くアスナが最後に見た光景は腕も槍も伸ばし切ったシアに襲い掛かるモンスターと、剣を抜きシアを庇うキリトの姿だった。
そうしてさらに、アスナの不運は続く。落ちた衝撃でアスナの手から離れた細剣はフードを被ったネズミ型モンスターに盗まれてしまった。
アスナも必死に追いかけるがそのモンスターは素早く、なかなか捕まえることができないうちに、アスナは濡れた岩肌と水たまりに足を取られてしまい、とうとう見失ってしまった。
そうして現在、耳を澄ませば洞窟の先、どこからかモンスターの鳴き声や押し音が聞こえてくる。そうして2人とはぐれ、武器を失ったアスナは、最初こそなれない環境、久しく体験していなかったソロゆえの恐怖に体を震わせ、膝を抱えてうずくまった。
だがアスナの心は折れなかった。目から零れ落ちそうな涙をぬぐい立ち上がる。コンソールを操作し聴力強化の効果がついたイヤリング、移動速度上昇の効果があるブーツを装備すると、予備武器である《アイアンレイピア》を腰に下げる。
「仕舞いっぱなしでごめんね」
剣を構え、倉庫の肥やしとなって久しいペンダントを目の前の水たまりに投げる。
岩陰に隠れ耳を澄ませると、数秒もしないうちにとたとたと軽快な足音が聞こえてくる。顔を出し、先ほど剣を盗んでいったモンスターと同種であることを確認すると、岩陰から飛び出し突進系のソードスキルを放つ。
アスナの鋭い突きを受けたモンスターは短く断末魔を上げ吹き飛ぶ、モンスターのHPは少なく、また防御力も低かった。アスナの一撃はモンスターのHPバーを完全に削りきり、ネズミ型モンスターは少し離れた場所に墜落し、ポリゴンの塊となって消滅した。
アスナの目の前にウィンドウが出てドロップアイテムを知らせる。剣を鞘に仕舞いながらも確認するが今回ははずれ。だがアスナもたった1回で剣が取り戻せるとは思っていない。それを確認するとアスナはまたアクセサリーを投げ、また岩陰に身を隠した。
同じことある繰り返すこと数分、既に何体ものネズミ型モンスターを屠っているがそのどれもが細剣を落とすことはなかった。
「なにかしらこれ?」
そうしてまた新たなモンスターがアスナにより倒された時、アスナの目の前に浮かぶウィンドウには今まで倒したモンスターのものとは違うアイテムが1つあった。
アイテム名、《丸めた紙くず》。今まで見たことないアイテムだった。
アスナはそのアイテムが気になり、ウィンドウを操作し、アイテムを取り出してみるが、その見た目はアイテム名そのまま。無造作に、ぐしゃぐしゃと丸められた紙くずでしたがなかった。
アスナはそれを確認するなり、自分への不甲斐なさや一向に細剣を盗んだモンスターを誘き出せないないことから怒りを覚え、その紙くずをさらにグシャッと握り振り上げる。
が、途中で止める、振り上げる前、紙くずに何かが書かれているように見えたからだ。
強く握り込んでいた拳を解き、その紙くずを両手で開くと確かに文字、数字が書かれていた。
29 22:00
B3F (181 203)
29日の夜10時に近い3階で待ち合わせ。()の中の数字はおそらく座標だろう。
だが、ダンジョンの奥で待ち合わせなど、普通するだろうか。そんな疑問を浮かべながらもマップで確認をすると、現在地からそこまで離れていない。
再度メモを見返す。メモの一部、()内のおそらく座標の数字に一部書き損じた跡がある。書き間違えたから捨てたのだろうか。もしかしたらそれをモンスターが盗んだのかもしれない。
時計を確認すると現在時刻は21:45、メモに書かれている集合時間まではまだ時間がある。
アスナは再度メモとマップを見返すと、視界の端にマップを浮かばせたまま歩き出した。
◇◇◇
「キリトはダンジョン出てユートとアルゴにメッセージ送って。 ——僕はアスナを探しに行く」
「それならシアがダンジョンを出て俺が探したほうがいい。俺はベータテストで何度かこのダンジョンにもぐったことがある。だからシアがメッセージを送りに行ってくれ」
「いやキリト一人でダンジョンに潜るのはだめだ。アスナは強い、それrに無謀なことはしないだろうからしばらくは大丈夫なはず、それならいったん2人でダンジョンを出よう」
「1層の時は基本ソロだったんだ、この程度どうってことない」
アスナがトラップによって下層に落ちた後、見た目はほぼ貞子の幽霊型モンスターを2人で倒し、アスナはどうするかといったタイミングで俺たちには3つの選択肢ができた。
1つは先ほどシアが言ったように、1人がいったんダンジョンを出て助けを呼び、もう1人が先にアスナを探しに行く。そして安全を取り、2人で助けを呼びに行った後でユートやアルゴと合流した後でアスナを探しに行くこと。そして、
「ならメッセージを送らずに2人でアスナを探しに行こう」
「ユートたちは呼ばなくてもいいのか?」
「安全マージンは取れてるんでしょ、ならできるだけ早くアスナを見付ける方向で行こう」
シアはやたら過保護だ、ユートならこんな時。いやユートも俺がソロで行動するときあまりいい顔しないから同じか。
とにかくユートもシアも俺とアスナがリスクをとるような選択肢を選ぶようなことをするのを嫌う、そしてリスクが高い方は自分たちが選ぶ。多分2人は 自分たちのほうが年上だから、なんて考えでそんなことをしているのかもしれないが、それを少し煩わしく感じてしまう俺がいる。
「ベータの時とマップが変わってないなら、道案内は任せるよ」
先ほどまでやたら俺をダンジョンから出そうとしていたのに、いまはこれだ。この切り替えの異常な速さが俺は苦手だ。
◇◇◇
「この先、開けた場所に2人いる」
階段を下りて3階に入る。そこからベータテストの記憶を頼りにくまなく探す。そうして少し歩いた時、シアが俺たち以外のプレイヤーの存在を知らせた。
記憶が確かなら小川が流れていた小さな開けた空間がこの先にあったはずだ。もう何ヶ月も前の記憶だし、このダンジョンはそこまで重要な場所でもなかったけれどそのくらいは覚えている。
「マジかよ、なんだこの攻撃力。ちょっとした両手武器ぐらいじゃねえの」
「え~ほんとですか~」
「おいおい、反応うっすいな。あんたが興味ないなら、俺にくれよ」
そこに向かう最中、道の先から声が聞こえてくる。聞こえてくる声はシアが言うように2人のもの、それも片方は何やら興奮しているのか声色が高くなっている。
アスナとはぐれ、シアと2人でさまようこと数十分。いまだ手掛かりがないまま地下三階の奥地まで来てしまったが、まさかこんな所で俺たち以外のプレイヤーに会えるとは。もしかしたらアスナ捜索の手掛かりになるかもしれない。
隣を歩くシアへと顔を向け、お互いに頷く。俺たち2人の足取りは少しだけだが早くなっていった。
「名前は……シルヴァリック•レイピアか、カッケェじゃねえの」
「よく見てくださいよ、”シュヴァルディック”ですよ」
「いいねそれ、僕にも見せてよ」
「うぇ!?」
「いったいいつから話を聞いていたんですか」
2人のプレイヤーこ会話にシアが混ざると、俺たちに気づいていなかったのか、1人は焦ったように、そしてモルテは腰の剣に手を当て、冷静にこちらを探ってくる。
見覚えのあるレイピア片手に話し合う2人のプレイヤー、2人ともフードを被っていてその人相はこちらからはわからない。が、片方のプレイヤーを俺は知っている。
「たった今だよ、あんたらのおしゃべりが聞こえてきたんでな」
あの声、そしてあの喋り方。顔を見なくてもわかる。あいつはモルテだ。そうしてもう1人のプレイヤーの手にはアスナの剣がある。
脳裏によぎるのは最悪の可能性。未だ冷静でいるものの自らの声色が低くなっていくのが分かる。
「いや〜、参りましたね〜。メインの通路には届かないボリュームで喋ってたつもりなんですけど、レア武器のドロップでテンションが上がったみたいですね」
そういって、モルテは剣を握りながらも笑って見せる。3層の時と変わらない、ユートはこの飄々とした態度が気に入らないと言っていた。
ただいまはそれよりも聞かなければならないことがある。
「そのレア武器だけど、さっきシュヴァルディック・レイピアって言ってたよな。間違いないか」
俺が確認を取っている間にも、シアは隣であたりを見渡している。索敵スキルで伏兵がいるか確認制ているのだろう。こんな調子でいつもの4人で探索をする時は、基本シアが索敵をしてくれている。
「へ~、よく一回聞いただけで覚えましたね~、それが、どうかしたんですか?」
「そのレイピアは俺たちの仲間が装備していたものだ」
「つまりあれですか~、お友達の武器だから返せと?」
もう一人の男が何かを言おうとしていたのをモルテが手を挙げることで制し、またいつもの常ににやついたようなしゃべり方で聞き返してくる。
「いや、そんな難癖をつけるつもりはないさ。だけど……」
モルテたちがアスナにディエルPKをして武器を奪ったかもしれない。そんなことを口にしようとしたとき、肩に手を置かれた。
横を向きその手の主であるシアのほうを見るとこちらにウインクをして半歩前に出た。
「見たところ君たち2人はレイピア使ってないよね、だったらそれ売ってからない?」
「譲ってくれてもいいけどね」と付け足しながら、レイピアに指を刺し提案をするが、そもそもそんなコルをシアは持っていただろうか。
「僕たち探し物はもう終わったし、さっさと帰りたいんだよね、何コルってだったらってくれる?」
「もし、売らないと言ったら?」
「そうだな……その時はまあ。ユートには悪いけど僕は攻略組を引退かな」
その言葉と同時にシアは先ほどまで背負っていたと槍を構え、それと呼応するようにモルテもフードを脱ぎ剣を構える。俺も剣を抜こうとしたがシアが自らの背中に右手を回し、モルテたちには見えないようにジェスチャーを送ってくる。
普段シアが索敵をしているときに送ってくる「待機」もしくは「待て」の合図だ。シアには何か考えがあるのだろうか。
そうして2人が間合いを確認している間、俺はレイピアをもったもう一人のフードのプレイヤーから目線を放さないようにする、シアなら不覚をとるようなことはないだろうし、もしこのまま持ち逃げdもされようものならたまらない。
そういえばなんでシアはさっき「探し物はもう終わった」などといったのだろうか、いまだアスナは見つかっていない。ここにあるのは明日なのレイピアだけだ。
——いや、シアはさっき索敵スキルであたりを見回していた。ならもしかしたら。
そうしてこの空間の緊張が一層高まった時、モルテたちの後ろに丸められた白い何かが転がり込んだ。
「わ~~~!!」
女性の叫び声が広間全体に響き、意表を突かれ驚いた先ほどまでレイピアを持っていたプレイヤーがそれを地面に落とす。
それだけでは終わらない、ベータ時代、そして数分前に何度も聞いた足音が聞こえたかと思うと、ルーター、ネズミ型のモンスターが現れて地面に落ちた明日なのレイピアを盗んでいく。
そしてモルテたちの背後の岩陰から躍り出たアスナが突進系ソードスキルでそのモンスターを倒すと、平間にいるシア以外の3人が唖然とする中、ドロップした元は自分のレイピアを装備しなおした。
「おかえりアスナ、ナイスタイミング」
シアで毛は冷静にアスナに言葉おかけている。俺もシアの言葉でもしかしたらアスナも近くに色のではないかと思ってはいたが、まさかモルテたちの背後にいたとは。それにこんな、大声をだすなんてことをするとは。俺もすこしびっくりしてしまった。
「なっどっどどっからでてきやがった」
呆然としていたフードのプレイヤーが多少どもりながらもなんとか言葉を絞り出し、隣のモルテは笑っている。この2人の気持ちは俺もわかる。驚いて言葉が出ないフードのプレイヤーも、してやられて笑いしか出ないモルテのことも。
「まさかのわーにはびっくりしちゃいましたよ~、いったいいつからそこにいたんですか?」
アスナがこちらの様子をうかがってくるので2人して首を横に振る。ここでアスナとは合流できた、なら今考えることは、どうやってここから脱出するかだ。
「あらら、だんまりですか? 後ろから脅かされて寿命が3秒縮んだんだから、それくらい教えてくれてもいいと思うんですけどね~」
そうモルテがいつもの調子でカル愚痴を叩いていると、フードのプレイヤーが一歩前に出てきた。
「あのさ、俺マジでムカついてるんだけど。つかもうくっちゃべってる場合じゃねえっしょ。全部聞かれた前提で対応するしかねえじゃん」
「短気は損気ですよ、それにあのレイピアのスペック見たでしょ」
「なに、脅かされたのがそんなに嫌だった?」
「黙れ」
お互いに武器を構え向かい合う、人数だったらこちらが有利だが、アスナはPVP初心者、シアの武器はこのフィールドでは不利だ、あまりいい状況ってわけじゃない。
「アスナはキリトに頼んでいい?」
シアが小声で耳打ちしてくる。頼む、その言葉が今の俺にとってはすごく重く感じた。そしてふと大量の足跡が聞こえたような気がした。
確かに先ほどアスナが上げた大声、それにこのダンジョン、確かに条件はそろっている。ん? もしかして任せるってそういう意味か。
「0で飛び出すよ。3——」
索敵系スキルをオミットしている俺でもわかるくらいにモンスターの気配が近づいてきているが、前の3人はそれに気づいていない。シアのカウントダウンを耳にしながらさらに気配を探るのに集中する。もしかしたら思っていたよりもかなり近いかもしれない。
シアの「0」という声と共にアスナを抱きかかえ、近場にあったくぼみへ滑り込む、シアの方向を見るとこれもこちらに走りつつモルテたちに何やらアイテムを投げつけていた。
シアが隣に滑り込んでくると同時にモンスターたちの足音はさらに大きくなる。
「大声でモブ引き寄せるとか、汚いんだよ。やり方が」
「はは、それ言いますか~」
モルテたちが悪態をつきながら走っていった後、さっきほどまで俺たちがいた場所を大量のモンスターたちが通り去っていく、おそらく尾の場所にあのままいたら俺たちはモルテ達も合わせてひとたまりもなかっただろう。
モンスターたちが通り過ぎた後、あたりを確認しようと体を上げると袖を引っ張られる、腕の中でアスナが震えていた。その目じりには若干の涙が蓄えられていて、はぐれてからはずっと不安だったのだろう。肩に手を回し持ち上げて起こしてあげる。
「よく頑張ったな、よかった無事で」
そう声をかけると涙を流しながら抱き着いてくる。今の俺にできることは、この状況を甘んじて受け入れることぐらいだろう。
「怖かった、すごく怖かった。お化けが出て、落とし穴に落ちて、道がわからなくて、レイピアもなくして、もうだめだって思った。こんなくらい洞窟で全部終わっちゃうんだって、そしたら怖くて」
「大丈夫、もう大丈夫だ。もしまたはぐれるようなことがあっても、必ず見付ける助けに来る。ここにいないユートだってそういうはずだ。アスナは俺たちの大切な仲間だから」
そうして涙を流すアスナに肩を貸す、この言葉に偽りはない俺はたとえアスナがどんな窮地に陥ったとしても全力で助けに行く。そしてそれは俺だけじゃなくてユートもシアもだ。
こんな世界で共に戦ってきた仲間なんだ、簡単に見捨てたりなんか絶対にしない。
静かになった洞窟の中にアスナのすすり泣く声だけが響く、俺もしばらくアスナが落ち着くまでは動けないだろう。
「なんかしんみりしてるけど、さっさと行くよ。マッピングは終わってるからダッシュで、時間がもったいない」
気づけば隣にシアが立っていた。やはり俺はこの人が苦手だ。
2週間にぎりぎり間に合った。多分セーフ。
本当は6月末までにSAO編終わらせたいんですけど無理かも。
頑張りはします。
最近、「お気に入り」よりも「しおり」の方がうれしいことに気づきました。
「Echoes of Aincrad」の試写会
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知らなかった