アインクラッドの英雄   作:夕方の月

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19 嘘つき

 ボスが倒れポリゴンの塊として消えた後、部屋全体を覆っていた蛍光色の幾何学模様も消えていき、その後ろからは普段見慣れた石壁、迷宮区のそれが姿を表す。

 

 Congratulations

 

 空中に浮かぶ文字が俺たちの勝利を知らせると広場全体がどっと湧いた。別に比べるようなものではないがその声はフルレイドの時と比べると小さい、そもそも人数が少ないのだからさもありなん。

 

 それでもその熱量はフルレイドの時のそれと遜色なく、贔屓目もあるだろうが、こちらの方が高いようにも感じられた。

 

 自然と息が漏れる。

 

 これは別にため息というわけではなく、緊張が解けた故のものだ。

 

 通常なら入念な準備と情報収集、そして複数のパーティーで攻略する筈のボスを、前回のボス討伐からたった3日の強行軍で。それも人数にして3パーティーにも満たない人数での攻略だった。

 

 雄叫びを上げ、皆んなと一緒に喜びたい気持ちもあるが、それよりも今は安堵と疲労が上回る。今回俺がしたことと言えばアルゴの情報収集の手伝いをして、いくつかの知り合いに連絡したぐらい。

 

 ボス戦でも俺自体がMVP級の活躍をしたわけではないが、それでもやはり疲れはする。肉体ではなく精神面で、やはり俺はリーダーや責任者には向いていないのかもしれない。

 

「お疲れ」

 

「ああ、お互いな——」

 

「僕はそこまでじゃないよ。ボス戦でもそこまでダメージ出してないし」

 

 シアが手を振りながら近づいて来る。今回IGLを任せた分、疲労は彼の方が多いだろうが、それでも今の彼の姿からは疲労を感じず、むしろ生き生きとしてすらいた。

 

「なんでそんな元気なんだよ」

 

「そら僕はそこまで忙しくなかったしね、ボス戦もそこまで活躍しなかったし。気楽なもんだよ」

 

「お前はIGLやってたじゃん、活躍とか言い出したら今回、俺がやったこと、アルゴをぶん投げただけだぜ」

 

 IGLなんて大役を任せたシアがここまでけろっとしていると、ここまで疲れている自分が恥ずかしくなってくる。

 

「ちゃんとダメージも出してたと思うけど……」

 

「今回のDPS多分キリトの半分ぐらい——」

 

「なら役立たずじゃん」

 

 コイツ…。

 

「ま、元ベータテスターの援軍を4人連れて来た時点で十分でしょ」

 

「慰め程度に受け取っとくよ」

 

 上出来じゃないだろうか、初見のボスに対してこの人数で挑み勝利した。そして脱落者は一人もいない。

 

 ボスの仕様がかなり変わっていたのは計算外だがうまく対応できて、苦戦もしなかった。

 

「ギルドフラッグが出たやつは申し出てくれ」

 

 広場全体にキリトの声が響く。

 

 その声を聴き、あるものはすでに確認したのか首を横に振り、あるものはウィンドウをスクロールして確認をしている。

 

「なあシア、俺実はアルゴと賭けしててさ」

 

「はあ、どんな?」

 

 ウィンドウのアイテム一覧の一番上、newと横に着くいくつかのアイテムを確認する。

 

「厳密に言えば勝敗もない、賭けとはちょっと違うことなんだけど」

 

「だから何を賭けたの?」

 

「まだ秘密だな。言えるとしたら新年から忙しくなるって事ぐらいだ」

 

 シアと会話をしながらも俺はあるアイテムから目が離せなかった。

 

「誰も……ドロップしてないのか?」

 

 キリトの呟きは先ほどのものとは逆にこの大きな広間の中なら消えいりそうな声だった。

 

 こちらをじっと見つめてくるアルゴに頷く。

 

「なあキリト、そもそもなんだが。正式サービスでギルドフラッグは削除された可能性があるんじゃないか?」

 

 キリトが、いやキリトだけではなくこの場にいる全員がこちらの方へ顔を向ける。

 

「ボスやクエストの仕様が変わったんだ、ドロップアイテムが変更されることだってあるはずだろ。それにギルドフラッグなんて壊れ武器、修正される方が自然だと思うんだが」

 

 納得する顔、訝しむ顔、まだ理解できないという顔。俺の話を聞いたメンバーの反応はそれこそ十人十色バラバラだ。

 

 そもそもがギルドフラッグをキバオウ達よりも早く入手するための強行軍だったんだ。それが終わってみればギルドフラッグはドロップしなかったなんて、そう簡単に納得できるようなものじゃない。

 

 それに、もしかしたら誰が隠し持っているのではないか。なんて思いも少なからずあるだろう。

 

「それに俺は昨日アルゴとボス関連の情報を調べてたんだが、ギルドフラッグについての情報もクエストも見つからなかった。なあアルゴ」

 

「ああ、オイラたちで集めれた情報はボス名前と弱点だケ、それ以外の情報は無かったはずダ、ギルドフラッグのことだっテ、そもそもベータテストの情報にすぎなイ」

 

「じゃあなんだ、俺たちは存在しない武器のためにこんなことをしたのか!?」

 

「ま、言ってしまえばそうなるのかもな」

 

 俺とアルゴの言葉にシバタが叫ぶ。「ギルドフラッグは正式サービスでは存在しない」もしかしたら今後、さらに攻略を進めるとまた別のボスからドロップするかもしれないが今それはどうでもいい。

 

 重要なのは、俺たちが渡った危ない橋は、別に渡らなくても問題なかった。ということである。

 

「万が一があったんだ。やって損はなかったさ」

 

「それに、DKBに黙ってALSだけでボスを討伐するってだけでも問題になってた。完全に無駄だったってわけじゃないだろ」

 

 時計を確認するがキバオウが言っていた時間まではまだ時間がある。ここでこのまま話し合ってても問題ないが、こんなところに長居をさせたくもない。

 

「こんなとこで長話するのもなんだ、ALSの連中が来る前にさっさと出ようぜ。連中には俺から言っとくから」

 

 

 

 

 

 

 

 そうしていったん解散になり、元ボス部屋に残ったのはいつもの4人とアルゴ、合わせて5人だけになった。こうしてボス戦が終わった後もキリトは浮かない顔で、アスナはそんなキリトを心配している。

 

 シアはいつも通り余裕綽々、ボスのドロップ相手宇を確認したり、今回のボス討伐でレベルが上がったことで次に習得するスキルの吟味をしている。

 

 そんな中、アルゴが1人近づいてきて声を潜めて話し掛けてくる。俺たちと3人はそこそこ離れている。俺の記憶が確かなら、誰も聞き耳スキルは取っていないはず。

 

「なあユート、本当にやるのカ? もしバレたラ——」

 

「その時はシアに毎日墓参りでもさせようかな。アルゴもしてくれていいんだぜ」

 

「これ以外に方法はないのカ」

 

「まあ、そうだな……条件付きで、例えばこの武器がもう一つ見つかるか、それともALSとDKBがくっつく時か、そうなったら渡すってのもいいんだろうけど」

 

 正直そっちの方がいいんだろうし、こっちを選んだとしても今の状況を変えることは出来るかもしれない。

 

「ただそれだと後回しにしてるだけなんだよな。キバオウはいい奴なんだけど、それ以外がな」

 

 ALSの会議でDKBを出し抜くことが決まった時、キバオウは最後まで反対の立場だったがそれでもALS全体はDKBを出し抜くことを選んだ。おとといの地下ダンジョンでアスナが聞いたレッドプレイヤーの会話の内容。

 

 ALSには少なくとも1人、レッドプレイヤーが紛れ込んでいる。

 

 ALSだけじゃない。おそらくDKBにもいるだろう。もしかしたら今日のメンバーにもまぎれているかもしれない。

 

「ギルドフラッグの情報はどこにもなかった。それは本当なんだろ?」

 

「そうだけド……」

 

「ならいいだろ、——ギルドフラックは正式サービスで削除された」

 

 アルゴはまだ納得できていないようだが、俺がどんな選択をしようが彼女を納得させることは出来ないだろう。

 

なら俺は俺の信じる方を選ぶ。

 

「キバオウたちが来る前にさっさと行った方がいい。——ついでにキリトたちも連れてってくれたら嬉しいんだけど——」

 

 潜めていた声を元の音量に戻し、アルゴとの会話を切り上げる。

 

「俺たちもここに残る」

 

 ま、だろうな……

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 あわただしい複数人の足音と共に、ALSの精鋭が階段を駆け上がってくる。彼らは全員慌てたような、苛立った様子で、先頭にいる眼鏡にフードの彼なんかはこちらを憎々しげに睨んできている。

 

「ボスはちゃんと倒したみたいやからな、お疲れさんと言うとくわ」

 

 緑で統一された鎧を纏う集団の奥からキバオウが出てきてすでに空いている扉を確認する。その声はどこかふてぶてしいような、自分不機嫌ですよとでも言いそうなものであるが、その顔には不機嫌さなどは浮かんいなかった。

 

「ボスのドロップアイテムはどうした!」

 

「そうだ! ギルドフラッグがドロップしたはずだ!」

 

 まあ、気になるのはそこだよな。そのためにこんな日のこんな時間にここまで来たわけだし。でもこいつらムカつくんだよな。言い方ってもんがあるだろ。

 

「ああ、それなんだけどな……出なかった」

 

「は?」

 

「ドロップしなかったんだよな~これが」

 

 ALSのメンバー全員が一瞬呆けたような顔をする。

 

「……自分それマジで言うとんか?」

 

「ああ、ギルドフラッグはドロップしなかった」

 

 時間が止まる、空気が凍る、いろいろ表現があるが今のこの空間はまさしくそのような状況だった。ただそれも一瞬。

 

「嘘をつくな!」

 

「そんなわけがないだろう!」

 

 静寂は一瞬、すぐさま怒号に変わった。

 

「おれ、——俺知ってる!」

 

 各々が思い思いの言葉をこちらにぶつける中、ALOの集団から抜け出した覆面を被ったプレイヤーがそう叫ぶ。

 

「こいつら、嘘ついてるんだ。俺たちを騙してギルドフラッグを隠して、自分たちのギルドを創るつもりなんだ」

 

「違う!」

 

「私たちはそんなんじゃ——」

 

 くすんだ深緑の鎧に覆面、右手に短剣を持ったプレイヤーはALOの先頭に行くと身振り手振りで、やや大げさに主張する。キリトとアスナが反論してくれているが、その程度でこの熱は収まらないだろう。

 

 そんな中、俺たちの目に前にシアが出てくる。彼はついさっきまで俺たちの少し後ろ、階段に座っていたはずだがなぜこのタイミングで前にでてきたんだ?

 

「一応聞くんだけど、なんで君達はここのボスからギルドフラッグがドロップするって思ったの? 誰がそんなことを言い出したの?」

 

「それは……おい、お前だろ。会議の時に報告したの」

 

「違う! 俺じゃない。俺はパーティーメンバーから聞いただけで——」

 

 その場にいるALOメンバー全員が首を傾げる。一体誰がギルドフラッグについての情報をギルドメンバーに報告したのか。

 

「まあそれについては別にいいよ。僕が言いたいことは1つだけ、昨日1日使って情報収集してたユートも、アルゴっていう情報屋もギルドフラッグについの情報は見つけられなかったんだ。ならそもそもそんな武器は無いと考えるのが自然だと思うけど」

 

 ギルドフラッグの情報がどこにも無かったのは事実、ならばALOにギルドフラッグの情報を伝えたのは元ベータテスターか、俺やアルゴ以上の情報網を持つプレイヤーか。どちらにしても言い出すことには勇気がいるだろうし今回の本題はそこでは無い。

 

「そもそも今隠して後からギルド作ったとしてだよ、他のプレイヤー騙してたとか人望も何もあったものじゃ無いでしょ」

 

 誰もが黙る。先程まで騒ぎ立てていた覆面の彼も含めて。

 

 そもそもよく考えればわかるばずだ。ここで嘘をつく事で得られることなんてほぼ無いに等しい。例えここで隠し切って、後日ギルドフラッグを使ったとしても。ALOとDKBからの追及からは逃れられない。

 

 例えそれらが無かったとしても、攻略組を騙してまでレア武器を独占しようだなんてリーダーに、他のプレイヤーは着いてこないだろう。

 

 お互いに手柄を争い、いがみ合うことなんてしょっちゅうの両組織。そしてそれらに干渉せず日和見をしているプレイヤーたちではあるが、俺ら彼らはアインクラッド攻略のために戦っている。それだけは全員が共有して、第一に掲げていることだ。

 

 2大ギルドのどちらかがギルドフラッグを使うのを彼らは許容するだろう。寧ろ攻略に積極的なプレイヤーはそれを機に所属を変えることもあるだろう。

 

 だが、ぽっとでの弱小ギルドがそれを使うなどと、そのようなことを彼らは許容しないだろう。そして俺が同じ立場でもそのような行為をする人間を認めることは難しいだろう。

 

「——とりあえず、自分らが言うてること信じてみるわ」

 

「キバさん!」

 

「今ここで隠すことのメリットなんか無い、それに証明する方法もないんやからな、なら信じるしかあらへんやろ」

 

 大半のALOメンバーはまだ納得いかないようで、中にはこちらを睨んできているプレイヤーもいるが、リーダーであるキバオウが決めた以上この話はここでおしまいだ。

 

「転移門はもう解放してると思うから登り切った方が早いと思うよ」

 

「そうか、ほなおおきにな」

 

 街へ帰ろうと階段を降りようとしているキバオウに声をかける。

 

「細かいことはカウントダウンパーティーで話します」

 

「年が明けてから来い、細かいことはメッセージで送るさかい」

 

 すれ違う時、声を潜めて一言二言、言葉を交わす。事前に送ったメッセージ通りに上手く行き、一安心する。

 

 ALOメンバー全員が立ち去ったの確認する。息を吐くのと同時に肩の力がどっと一気に抜ける。今日はかなり危ない橋を渡ることなくなった。それこそボス戦の時も今さっきのことも。

 

 正月を前に一旦、ひと段落と言いたいところだがそうもいかない。寧ろこれからさらに忙しくなるだろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 カウントダウンパーティーの会場は朝見た時とは大違い、至る所に付けられた照明はまるでイルミネーションのように輝いていて、広場の至る所にあるテーブルの上では、あらゆるプレイヤーが杯を交わしていた。

 

 ここはパーティー会場となっている広場よりも少し高い、廃城のようなこの場所でも、より塔に近い場所だから広場全体を見回すことができる。

 

「塔の上で花火を見ようと思うのだけど、ユートも一緒に来ない?」

 

 空に輝く星を眺めながら木で出来た杯、最近シアに教えてもらったのだがタンカードというらしい。を傾けているとアスナから話しかけられる。

 

 少し前まで彼女はキリトやアルゴと一緒に下で軽食を食べていたはずなのだが、いつの間にやらここまで登ってきていたらしい。

 

「いや俺はここでゆっくり眺めてるよ。それに人と会う約束もあるからな」

 

「そう、誰と会うか聞いても?」

 

「キバオウとランドだよ、ほらボス討伐のリーダーは俺だったから」

 

 重要参考人ってやつだよ、と付け加えるとアスナは表情を少し固くする。

 

「そういえばキリトは?」

 

「シアを探しに行ったの。2人で手分けして、私はユートを探しに来た」

 

「なるほどね。確かシアは今日は年明けたらすぐ寝るって言ってたから早く探さないとな」

 

 普段から早寝をしている訳では無いが、彼もああ見えて今日は疲れたのだろう。さっき2人で少し飲んだ後に、あともう少し食べて新年が明けたらすぐ帰って寝るとか言ってたし。もしかしたらもう宿に帰っているかもしれない。

 

「キバオウさんたちとの話し合い、私たちも参加した方がいい?」

 

「いや別に、今日はそこまで細かい話はしないからアスナたちは楽しんできな」

 

 俺がそう言うとアスナは、無理しないでねと言い残し、こちらに背中を向けて塔の方へ歩いて行く。

 

「確か塔の中は下から上まで全部圏内だったと思うけど、結構暗いから気をつけろよ」

 

「ありがとう」

 

 

 そうしてアスナを見送って少しすると、特徴的な爆発音、空気を切り裂くヒューという音の後に空一面に色とりどりの花が咲く。

 

 それは2022年が終わった合図であるとともに、新年が始まったことを知らせるものである。

 

 アスナが登ると言っていた塔に目を傾けると花火の光に照らされて色鮮やかになっている。

 

 ま、頑張るか。

 

 広場全体、街全体を規則的なリズムで震えさせる爆発音に耳を傾けながらも、俺は立ち上がった。




SAO編、第一章完 て感じですかね

この作品を書く始めた当初は、6月ぐらいまでにはSAOをクリアしたいな。と考えていたのですがずいぶんと甘い見通しだったみたいです。

「Echoes of Aincrad」の試写会

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