アインクラッドの英雄   作:夕方の月

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20 ギルド創設

「一旦はこれでいいですか、キバオウさん?」

 

「ワイはええが、これちゃんとリンドにも話してんやろうな?」

 

 1月1日の早朝、5層主街区の一部、数時間前花火が上がり、多くの人が新年を祝っていた場所で、2人の男が話していた。一人は、大剣を背負った体格のいいスポーツ刈りの男、ユート。もう一人は片手剣を背負った……どう表現したものか、オレンジの髪をとげとげした髪型にしているアインクラッド解放隊(ALS)リーダー、キバオウ。

 

「もちろん。——てかすみません。こんな朝早くに」

 

「それは別にええねん。昨日の今日で話す時間なんて今ぐらいやさかい」

 

 昨日の夜、丁度24時を過ぎたあたりでALOとDKBの両組織と話した。そこでもひと悶着というか、かなりのもめごとが起こったのだが、他のギルドメンバーを交えずに3人で、もしくは2人ずつで話をしたい、と俺がキバオウとリンドに頼み、キバオウさんとはこんな朝早くに来てもらうことになった。

 

「この会話、誰かに聞かれてないやろな?」

 

「それは大丈夫です。シアとアルゴが辺りを索敵してくれてるんで。相当高レベルの、それこそ攻略組の斥候プレイヤー以上の隠密スキルでもない限りは大丈夫だと思います」

 

「そうか、ならええ。この話はここでしまいや」

 

 シアとアルゴは姿こそ見せていない物の、キバオウがくる30分前にはここ全体の索敵を終わらせてもらって、今も索敵スキルで見張ってもらっている。

 

「そういやユート、自分ギルド作るってホンマか?」

 

「まあ、うまくいったら。ですけどね」

 

 キバオウとユート、普段はあまり話さないこの二人だが、意外なことにメッセージを送りあうこともある、それこそ年末パーティーにユートを誘ったのはキバオウだ。それも抜け駆けが決まる前の、完全な善意のものだ。

 

「なら人はちゃんと選ばなあかんで、——うちはそこんところはもう無理や。どいつもこいつもDKBを出し抜くことしか頭にあらへん」

 

「忠告ありがとうございます、一応そこはちゃんと気を付けてます。——じゃあ次はボス討伐前に3人で」

 

「ほなおおきにな」

 

 話し合いを終えた2人は足早にそれぞれの居場所に帰っていく。キバオウは自らのギルドホームへ、ユートはパーティーメンバーと待ち合わせをしている。6層主街区の広場へ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 2月2日、年が明けてすぐの世間はまだ正月休みだろうそんな時期に、アインクラッド第6層主街区である「スタキオン」のとある店にて、11人のプレイヤーが集まっていた。

 

 その装いはバラバラで、フードで顔を隠したやや小柄のプレイヤー、それとは逆に大柄で人好きのする顔をした男のプレイヤー、はたまた忍者のような出で立ちを押した2人組、全身真っ黒な服を着たまだ年若い青年、日本人離れした容姿をしたダークブロンド髪の少女、それとは逆にきりっとした大人の女性。

 

 これらのプレイヤーたちには統一感がなくまさしく寄せ集めといった風貌だった。

 

「今日は、忙しい中この場に集まってくれてありがとう。一応、この会の主催みたいな立場のユートです」

 

 当初から決めていた時刻になり、声をかけたメンバー全員が集まったことに安堵しながら一人立ち上がり自己紹介をする。

 

「まあ、各々の自己紹介は後にして、この会の主題から説明しようと思います」

 

 11人のプレイヤーが席に座って顔を向ける、その先には1人の大柄な男、その顔はまだ年若く黒髪を短くそろえ、全身を鎧で多う。その背中には身の丈ほどもある鉄色の大剣を背負っている。——まあ俺だ。

 

「まあここにいるメンバーは集まる前に知ってるとは思いますけど、ギルドを作ろうって話です」

 

 ここに集まっているメンバー全員は、俺が誘った。一部エギルからの紹介もあるのだがおおむね全員がなぜこの場に集まり、何を話すのかは知っている。それでもなぜこんな御託を並べるかというとまあ雰囲気と再確認だろうか。

 

「アインクラッド攻略は今のところ順調、年末に第5層を突破してこの第6層攻略も時間の問題だろう」

 

 俗に言うSAO事件からもうすぐ二カ月、最初の1層こそ一ヶ月近くの時間を要したがそこからは順調に進んだ。1層につき1週間、第2層までの時間と比較すると圧倒的な速さで攻略は進んでいる。

 

 このペースで攻略が進む場合、全100層からなるアインクラッド攻略に掛かる時間は残り95週間。1年と約10カ月程度だろうか。

 

 この数字は、多くのプレイヤーに希望を与えた。2年掛かると考えると長く感じるがそれでも、2年でここから解放される。道のりはまだ遠いといえゴールまでたどり着けるという希望が見えたのだ。

 

 俺も含め多くの攻略組プレイヤーはさらに時間がかかると思っているが、ゴールが見えるのと見えないのでは大きく違う。

 

 これだけ見ると、何も問題がないように思えるのだがそうはいかない。現在、一般プレイヤーから攻略組と飛ばれるこの集団は大きな問題を抱えている。よく言えば政治、悪く言えば人間関係だ。

 

 人間集まると気に入らない奴の一人や二人、争いごとの三つや四つはあるものだが、攻略が進みプレイヤー組織、ギルドが作れるようになりそれがさらに顕著になった。俗に言う二大ギルド。キバオウ率いるアインクラッド解放隊(ALS)と、リンド率いるドラゴンナイツ・ブリゲート(DKB)のことである。

 

 もともとキバオウとリンドは攻略方針の違いから仲がいいとは言えない状態だった。その2人がそれぞれ別のギルドを、それも現在1.2位を争うギルドを率いているのだからさもありなん。

 

「さすがに二大ギルドがこのままなのはまずくねえか?」

 

 そしてなんだかんだ協力し合って攻略を進めていた両組織に大きな亀裂が起きた事件がある。第5層ボス≪フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス≫のドロップ品《フラッグ・オブ・ヴァラー》をめぐる暗闘だ。

 

 見た目はやや装飾がついたただの両手槍、攻撃力は雀の涙、ただの武器としてみたらとんでもなく弱い。初期装備握ってるほうがまだ強い。だがこの武器の真価は使用効果にある。

 

 《フラッグ・オブ・ヴァラー》は使用したプレイヤーの半径15メートル以内の同一ギルド所属プレイヤーに攻撃力上昇、防御力上昇、状態異常耐性、スキルクールタイム短縮を付与する。言ってしまえば今後アインクラッド攻略において最後まで重要あろう人権装備だ。

 

 まあこの世界のバフの使用上、脳死で最強とも言えないわけだが。

 

 だが効果の破格さ、バフは同一ギルドにしか付与されない、二つのギルドが争う理由には十分だ、それに何やら暗躍しているらしいPK集団。年末のカウントダウンパーティー中にキリトとアスナを襲撃したプレイヤーってのも気がかりだ。

 

 ちなみに当の2人は現在この場にはいない。2人にはこの層であるキャンペーンクエストを進めて貰っている。俺たちは元々あまり興味が無かったし、とある事情により進行不可になってしまったので、あのクエストは完全にキリトとアスナの2人に任せてしまっている。

 

 話が脱線したのでギルドフラッグの話に戻すが、ぶっちゃけるの現在この武器を持っているの俺だ。が、それは一部の人間しか知らない。まずアルゴ、そしてシア。それにキバオウとリンドの4人だけだ。 

 

「今回ギルドを作る目的はALSとDKBの緩衝役、もしくはまた大きな諍いが起きた時の中立役をするためだ。——まあ最悪、三国志みたくなってもいい」

 

 このままの状態で攻略を進めるとどこかで必ず不備が出る、具体的に何が起きるかはまだ予想はつかないが、キリトが言うにはMMOでのギルド間戦争は面倒くさい、PVPコンテンツとは違うそれは、終わりの見えない不毛な戦いになることもあるらしい。

 

 5層時点でも狩場の独占、情報の隠匿はあったのだ。さすがにこれ以上悪化するのは止めなければならない。

 

 と、いうことで現在どのギルドにも所属しておらず俺の考えに賛同してくれたメンバーを今日集めたわけだ。ちなみにキリトとアスナは別行動、今頃エルフのキャンペーンを進めているだろう。

 

「で、まあここに来てくれた以上反対ではないと思うけど、質問ある人いる?」

 

 手を挙げてから発言してね、と付け加え辺りを見渡す。

 

 この質問時間の意味はそこまでない、そもそもここに誘った時点で、趣旨も一緒に話しているしその時点で質問もありその内容もチャットで伝えている。ただその後、新たな疑問も生まれているかもしれない。まあ、それに対してもある程度チャットで済ませているので、ぶっちゃけ今回集まった意味は最終確認でしか無い。

 

「改めて聞いていいか」

 

 ダンディーな声と共に右手を軽く上げるのは、筋骨隆々な体に浅黒い肌、厳ついスキンヘッドのエギルさんだ。もともと第1層ボス攻略会議で一方的にし追っている程度だったのだが、2層を開放して、アルゴ含めた5人でご飯食べてる時にたまたま遭遇、あの時はボス部屋のことで詰められるのかと思ってめっちゃビビった。

 

 なんかガッツがあるとかなんとか褒められたけども……

 

「このメンツでギルドを作ったとして、本当に緩衝役なんてできるのか? 確かにメンツこそ攻略組がそろってはいるが、それでも二大ギルド相手取って主導権を握るなんて、本当にできるのか?」

 

 エギルの質問は他のメンバーからも何度か来ていた。それこそこの質問をしてこなかったのは今いるメンツで1人だけだ。

 

「それな、みんな聞いてきたし、まあ、前言ったみたいに、すぐどうにかする。ってのは難しいだろうけど、このメンツ、それと今はいないそれぞれのパーティーメンバー、合わせれば24人だ。この規模のギルドを無視は出来ないんじゃないかな。それに、まあそうだな——

 

 切り札がないってわけじゃない。……まあ諸刃なんだけどね」

 

 これ秘密ね、と付け加え唇の前に人差し指を立てる。

 

 最悪の場合、本当に最悪の中でも最上級に最悪の場合にはギルドフラッグの存在を周知しようと思っている。今現在は一部を除き全てのプレイヤーが正式サービスで削除されたと思っているか、そもそも存在を知らないこの武器は、その性能はベータテストの時と同じように性能は変わらない。切り札になり得る。

 

 しかしこれを使った時点で、多くのプレイヤーからの反発が起きるのは必然だろう。攻略の要になるような武器をずっと他の仲間に隠し持っていたんだから。

 

 だから諸刃の剣。これを使う時があるとすればそれは、第一層外壁からのワンチャンダイブをする覚悟が出来た時だろう。

 

「私からも聞きたいことがある」

 

 エギルの次に声を上げたのはSAO全体ても、もちろんこの場でも少ない女性プレイヤーだった。

 

 軽鎧を着込み、伸ばした髪は後ろでまとめられている。吊り目でありながらどこかやわらかさを感じされるその顔は、アスナのような少女のものではなく、大人の女性のそれだった。

 

「私たちでギルドを作るとして、どこまで連携し合うんだ?」

 

「どこまでとは?」

 

 彼女の名前はカエデ、第1層、第2層ではボス戦には不参加だったが、第3層からはボス戦に参加するようになったパーティーのリーダーだ。

 

 そのパーティーは、全体的に攻撃偏重の気がある攻略組の中では珍しく、堅実な戦い方と安全重視の探索方針で、普段はボス戦に不参加ながら知られているのだが、それとは別に彼女はその美貌とリーダーとしてのカリスマからちょっとした有名人だ。

 

「ALSやDKBではギルド単位で迷宮を攻略するらしく、パーティーメンバーもその時々で変化するそうだ、私自身ゲームに詳しいわけでは無いが、このギルドでもそのようなことをするのか?」

 

「今のところはそこまで考えてないかな、ひとまずは今までのパーティーで行動する、必要があればその時考える。まあ緩く情報共有だとか、あとは専属鍛治士とか、ギルド単位でするのはこんくらいかな」

 

 今ここに集まってあるメンバーは所詮寄せ集め、今からみんなで連携して、探索もローテーションしていこうと思ってもそう上手くはいかないだろう。だから攻略ギルドと銘打っていてもその実、互助会に近いものになるだろう。

 

「そうだ、ついでに紹介するよ。自称、全プレイヤーの中で最も武器作成スキルのレベルが高いリヨンさんです」

 

 俺がそう言い右斜め向かいに手を指すと、そこに座っていた黒髪の男が立ち上がる。

 

「生産職やらせてもらってますリンドです。鍛冶スキルが解放された日から、毎日かなりの量の武器を作ってるんでスキルレベルにはかなり自信があります」

 

 見た目は中肉中背、やや細見な男だ。実のところ彼とはSAOサービス開始2日目に知り合っていて、最初に死んだプレイヤーの事を教えてくれたのも彼だったりする。

 

「ギルドが出来たら、素材の融通の代わり無料で皆さんの武器のメンテをするようになるのでよろしくお願いします」

 

 リヨンはそういうと一礼して座る。

 

「せっかくご飯屋さんに着てんだからなんか注文しようぜ、自己紹介は待ちながらでもできるだろうし」

 

 メニュー表にロックをするように、めんどくさい広告のように浮かんでくるパズルを解きながらそんなことお言うと、みな同意して思い思いにメニュー表をののぞき込む。

 

 俺自身も始めてくる店だが、この店を選んだのはシアなので、多分まずいなんてことはないだろう。

 

 そんなことを考えながら2品目を注文しようとメニュー表の写真をタップしたら再びパズルがうかびあがってくる。そしてそれは先ほどのものとは全く違うものだった。

 

「え、これ注文する度にパズルやんないといけないの?」

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