アインクラッドの英雄   作:夕方の月

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もう踊り狂うしかないね!


21 ギルド創設2

「それじゃあ、まあ。シアから自己紹介して貰おうかな。あとは時計回りにいい感じで」

 

 各々がそれぞれ好きなものを注文し終わり、俺はシアを指さし声を上げる。いまさらながらではあるが、自己紹介の順番をミスったかもしれない。

 

「このギルドの副団長をすることになります。シアです。どうぞよろしく」

 

 シアが立ち上がり簡単な挨拶をしてまた座ると、一同が拍手をする。この場にシアと初対面のメンバーはいないから、そもそもこの場にいる全員がすでに顔見知りの状態なのだからこの自己紹介にあまり意味はない。それでもなぜこんなことをするのかというと、——本当に意味ないかもしれない。

 

「どうも。拙者、名をコタロウ。ユート殿とはとある縁で世話になった故、助太刀に参った次第」

 

「右に同じくイスケ」

 

 シアの隣に座っていたイスケとコタロウが2人ともガバリと立ち上がり両の手のひらを胸の前で合わせ礼をする。

 

 こうやって2人の挨拶を見るのはこれで3回目だが、やはり奇妙というか……珍妙というか。——確実に忍者ではないと思うのだが、一度も指摘できたためしがない。本人たちが妙に満足しているのもあるし、俺自身、海外の映画に出てくる似非日本描写は嫌いじゃない。

 

 まだ2層を攻略していた頃にキリトとアスナにもこの挨拶をしていたのだが。キリトは突っ込み、アスナは只々ひたすら反応に困っていた。そう、まさに今の状況と瓜二つだった。マジ笑える。

 

「リンドはもうしたから飛ばして、——次エギルたのむ」

 

 

 

 

 

 

「アルゴだ、正式にはこのギルドに所属するわけじゃないけド、アドバイザーとしテここにいル」

 

「ご注文の品をお持ちいたしました」

 

 そうして各々が自己紹介を澄まし、残されたのは俺の左に座るプレイヤーだけになったところで料理が運ばれてくる。

 

「タイミングがいいのか悪いのか、……普通に悪いか。あと一人だし食う前に終わらせよう、シルドさん」

 

 机のあちこちに置かれた豪勢な食事を前に、俺たちは最後の1人に体を向ける。パーマをかけられた茶髪、両耳には金のピアスがはめられている。見た目だけで言えば完全にチャラい大学生である。——まあ本当にそうなのだが……」

 

「ハンドルネームはシールドマン、長えからシルドとでも呼んでくれや。メイン武器は名前通り大楯、それとメイスを使ってる。ま、これからよろしくな」

 

 彼とは元々、はじまりの町で出会っていて、その縁で何回か攻略を手伝ってもらったり、彼も元ベータテスターだったらしく、割とマイナーよりな情報を教えてもらったりした。この前会った5層ボス討伐戦で誘ったけど来なかったのも彼だ。最近リアルのこともいくつか話したのだが。年は俺の1つ上、今は大学3年らしい。

 

 ALSとDKBそのどちらにも参加していない攻略組プレイヤーは少ない。そもそも攻略組と言われているプレイヤーの人数自体がかなり少ないのだから本当に少ない。てかここにいるメンバーでほぼ全員だ。あとはチマチマとソロプレイヤー、第1層の時のキリトみたいなプレイヤーがいるぐらいだ、それも数人だけ。

 

 そんな数少ない無所属のプレイヤーの代表格がシルドだ。

 

 正確には彼がリーダーをしてるパーティーがそれなのだが、そのパーティーはカエデのとこと違ってボス戦にも参加していて結構強い。だから両ギルドに一目置かれていて、それこそスカウトもあったらしいのだが、それらをけってここに来てくれた。

 

 シルド自身も前線では貴重な盾役で元ベータテスター相応にかなり強いので、彼らがいるだけでもこのギルドに箔? がつくというものだ。

 

「ま、こんな感じで自己紹介はこのぐらいで飯食うか」

 

 

 

 

 各々で注文した料理は別で、その分食卓の上は随分と賑やかになっているが、方向性は皆んな一緒。並べられた料理の数々を一言で表すとしたらイタリアンだろうか、パスタにピザ、そして何かのスープが並べられている。

 

 早速目の前にあるクリーム色のパスタをフォークに絡めさせて口に入れる。

 

 味は見た目通りクリームパスタに近いものだが、現実のそれよりもやや大雑把で、そして牛乳に近い味だ。別に不味いわけではなく、むしろ美味しいのだが、見た目そのままクリームパスタを想像して食べると少し、肩透かしを喰らうかもしれない。

 

 フォークを一旦置き、傍に推してあるコップから水を飲むとその味は現実の水そのまま。水道水そのままのようなカルキ臭さこそ感じないがそれはむしろ加点だろう。

 

 水の味は全ての飲食店や川や湖でも統一されていて、川や湖でば飲もうと思わなければ口に入って来ない仕様になっているのだが。現実そのままの水の味と、現実とは少し違う味の料理の組み合わせは、中々変な感じがしなくもない。

 

 パスタを更に数口食べた後、今度は二品目に注文したトマトスープに口をつける。こちらは分かりやすく、トマトとコンソメで味付けされていて、現実の味とあまり変わらずとても美味しい。

 

「そういえば、いまさらだけどもボス討伐、参加できなくてごめんな」

 

 シルドがスプーンを置き、こちらを向きそう口を開く。

 

「いやいや全然、てかいきなり要件も言わずに連絡した俺が悪いって」

 

 年末の第5層ボス討伐戦で連絡したのはシルドだったのだが、彼はそれに参加しなかった。一応彼自身、元々予定があったし、前日の夕方にいきなり要件も言わずに連絡をした俺が悪い。

 

「てか普通にシルドいなくてもよかったし」

 

「はあ、それはどして?」

 

「ギミックボスだったんだけど、それがあんまタンクと相性良くなかったんだよね」

 

 第5層のボス、≪ヴェイカントコロッサス≫討伐戦はかなりの少人数での挑戦で我ながらかなり不安だったのだが、蓋を開けてみれば簡単なギミックボスで、ベータテストの時と違い体中を動き回る弱点に関しては忍者2人のおかげて簡単に対処できた。

 

 あれ以上人数が増えたら足元のラインを誤って踏むみたいな事故が起きる確率もその分増えただろうし、むしろあの時シルドが断ってくれてよかったのかもしれない。

 

「めっちゃ大雑把にいうと地面のあちこちにラインが引いてあって、それを踏んだら攻撃が来るって感じ。でその攻撃を避けて反撃してダメージを稼ぐ。まあ、大体こんな感じ」

 

「じゃあ俺が居てもあんまりか……まあそれならよかったよ」

 

 シルドはそういうと両手を上げて首を振る。

 

 別にあの時にシルドが居ても足手まといにはならなかっただろうし、むしろ彼なら彼なりに何か別の仕事をしてくれたと思うのだが。

 

「で、ずっと聞いてなかったけど。なんであんたらだけでボス討伐したんだよ?」

 

「確かに、それは私も気になる」

 

 シルドの声にカエデが同意する。

 

「やっぱそこ気になるか、……まあ秘密にしてた訳じゃないからいいんだけど」

 

 二人の言葉にそう返しながら眉間を揉む。あの件に関しては当初、箝口令を引くことも検討されていたんだが、そこまではしなくてもいいだろうということで、攻略組に聞かれた場合はしゃべってもいいことになっている。

 

 まあそもそもこれから仲間になるってやつにこのことを黙ってるつもりはないしな。このことに関しては。

 

「シルドは知ってると思うけど、ベータテスト時のあのボス、ドロップアイテムでメッチャ強いバフ撒く槍があったらしくてな。それを奪取するためにALOが抜け駆けしようとして、それを阻止するために俺たちが更に早くボス討伐をしたって感じだな」

 

「?」

 

「ああ!! ギルドフラッグか! なら確かに抜け駆けもするな」

 

 元ベータテスターではないカエデはあまりピンときてないようだが、元ベーターのシルドはこの説明で合点がついたのか、右の拳で左の手のひらを叩き、声が大きくなった。

 

「なるほどな、確かにな。うんうん」

 

 一人で納得したシルドは一人で何度も頷いている。

 

「そのギルドフラッグというのはそこまで重要なのか?」

 

「重要も何もかなりやべーぜ、なんせただでさえバフ関係が少ないこのゲームであのバフ量、上昇率だって馬鹿みたいな数値だったしな。極め付けが同じギルメンしか使えないとかいう不親切設計。ベータの時は奪い合いになって、最後はキレたギルマスがアインクラッドの外にぶん投げてロストしたらしいぜ」

 

「ベータテストの時はそんなことになってたのか、アルゴもキリトもそこら辺はあんま知らなかったんだよな、忍者二人はその時いなかったらしいし。何かあってロストしたぐらいしか」

 

 ベータテストでのギルドフラッグの行方は俺も疑問だった、うちは結構元ベータテスターが多いと思っているのだ、それでもギルドフラッグの最終的な行方に関しては誰も知らなかった。せいぜいが奪い合いの最中にロストしたぐらいしか。

 

「あ〜だろうな、アイツベータでもソロだったし。俺もそのギルマスのギルドに所属してたから知ってただけだしな」

 

「そうだったんだ、てか結構物知りだよなシルドって」

 

「そりゃな、なんせ自他共に認めるゲーマーだぜ俺は」

 

 そう言ってシルドはガラスのコップを傾けて、中の水を飲み干す。

 

 ゲームの知識に関してはキリトがかなり詳しいし、情報についてはアルゴの専売特許みたいなイメージがあるが、ベータテストの時の事情についてはシルドが一番詳しいみたいなところがある。やはり彼は見た目通り顔が広いのだろう。

 

「てかそのギルドマスター、SAOの使用的には団長だろうけど、その人って誰? 俺の知ってる人」

 

「ああ? そういえばそうだったなこのゲームは団長呼びだったな。あの人に関してはスカウトするつもりなら無理だろうな」

 

「それはなんで?」

 

「アイツもう死んでんだよな、SAOが始まって一週間ぐらいで」

 

「それは……」

 

「気にすんな、あれはアイツの自業自得だ。ゲーム内での死が現実での死になるってのに、自分を過信してソロで行動して引き際を見誤った。ほら、前言ってただろ、慢心した元ベータテスターの寿命は短いって。——気づいたら死んでたよ」

 

「聞いてごめん」

 

「ああ、いや別に俺は全然気にしてないからな、本当に。むしろ飯の席でこんなの話して悪かったな」

 

 俺もコップを空にしてピッチから水を注ぎ、シルドのにも注いでやる。

 

「いや本当に、全然気にしてないからな。——それでギルドフラッグはユートがも持ってんのか?」

 

「ん? ああ、実はこの話には落ちがあってな。普段よりも少人数で頑張ってボスを倒したはいいものの、ギルドフラッグは正式サービスでは実装されてなかった、ていう。ま、俺たちは変に縛りありのボス討伐をしただけだったって話なんだよ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

 

 

 

「そういえば、ギルド名はどうするんダ?」

 

 料理も食べ終わったころ、アルゴのふとした言葉にこの場にいる全員がこちらに顔を向ける。さっきまで話してたり、料理に集中したり、エルフのキャンペーンクエストの話で盛り上がってたりでバラバラでまとまりのない集団が一気に連帯したような感じがした。

 

「そういえばまだ、決めてなかったな。なんかいい案ない?」

 

 ぶっちゃけるとここら辺は全く決めてない。もともといい案が浮かんでなかったし、今日この場で案を募ろうと思ってたんっだが、それを完全に忘れていた。

 

「そういきなり言われてもな、——いい案は浮かばんて」

 

「拙者ネーミングセンス壊滅的でござる、パスでござる」

 

「イスケと同じく。へんてこな名前にされたくなければ拙者たちに聞かないことでござる」

 

 俺が聞くなりそうそうシルド、イスケ、コタロウがパスして会話からフェードアウト、正確には様子見に近いのだが逃げていった。

 

「僕はエンブレム作るって約束だしそっちは任せる」

 

「私、ユートさんが決めた名前だったらなんだって……」

 

「——オレも」

 

 シアはまあ、エンブレム作りを任せてるからしょうがないとはいえ、ミアとルーク……その期待は普通につらい。

 

「アr——」

 

「オイラは正式なメンバーじゃないからナ」

 

「そうだよな……」

 

 アルゴに振ろうと思ったのに速攻で断られてしまった。まだ名前も言い切ってなかったのに……

 

「カエデさんはどう思います?」

 

 一抹の希望を持ちカエデさんの方を向くも、彼女はコップの水を一口飲み、ひとこと。

 

「君が団長をするのだろう?」

 

「はい……」

 

 こちらに体を向け正面から見つめてくる。彼女の子のまっすぐな瞳が自分を射抜くとき、何かやましいものを隠しているような、そんなことはないのだがそんな気持ちになってしまう。

 

「なら君が決めるのがいいと思う。名前は最も人目に付くものだ、要するにこのギルドの看板。今後、このギルドの活動方針に影響もあるだろう。なら君が決めるべきだ。それとさん付けはいい。私もみんなと同じ、カエデと呼んでくれ」

 

「……はい」

 

 もうほんとおっしゃる通り、反論のしようがない。

 

 最後の希望、エギルに目線を向けるも、絵無言で頭を横に振っている。

 

「そうだな~ボクとしては——」

 

「リヨンは大丈夫、知ってるから」

 

 リヨンには期待していない。彼のネーミングセンスは終わってる。もちろん悪い意味でだ。

 

 彼は鍛冶スキルを鍛える都合上、多くの武器を作ってきたわけなのだがその武器につける名前が大概おかしい。

 

 普段からすべての武器に名前を付けるわけではないらしいのだが、たまにできる変な形の武器だったり、誰かに依頼されたわけじゃないけど個人的傑作だったりする武器には名前を付けるわけだが、たいていそのような武器につけられる名前は珍妙だ。

 

 普段彼が、見せてくれるのはそのような武器ばっかりだから見た目につられて名前もおかしくなる。そのような偏りもあるのかもしれないが、それでもおかしい。

 

 この前シアに買ってあげた妙に短い長槍の名前が《ショートロングスピア(実際短い)》だということからもわかる通り、彼にはあまり期待していない。

 

 ちなみにあの武器なのだが、昨日同じものができたらしく、そっちには《一応長槍》と名付けたそうだ。 次に、似たようなものができたら《多分長槍》か《長槍(推測)》と名付けるつもりらしい。作るのは彼だし別にいいのだが、せっせと集めた素材がへんてこな名前の武器になっているのを見るとすこし悲しい気持ちになる。やっぱ今のうそ、そこまで悲しくはない。

 

「うん、明日までに考えとくわ」

 

 いきなり聞いたせいもあるだろうが中なき慰安は浮かばない、そもそも案すら浮かばない。ならば夜なべして考えるしかないだろう。これからギルドを、作ってそこの団長になろうという身で言うのもなんだが、正直言って死ぬほどめんどくさい。

 

 そうして約一名が頭を抱える中、俺たちの昼食は終わった。

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