言いたいことを言い切ったのか茅場はなんか不気味な演出とともに去っていった。彼が去った後の広場はまさにカオスだった。皆何かを叫んでいる。なかにはうずくまって絶望し泣いているものもいた。その言葉の一言一言は聞き取れない、ただカオスとしか言えないような状況が広場を覆っていた。
いま俺の脳内を支配している感情を一言で表すとしたらそれは葛藤、…いや苦悩だろうか。茅場の演説の内容に困惑や怒りはあったが今はもうその感情は飲み下した。問題はこれからの身の振り方だ。
普通に考えればこのままおとなしくこの町から出ずに現実でこの世界からの脱出法が生み出されるなり茅場が逮捕されたりサーバー凍結なりでソードアート・オンラインがサ終する、最悪誰かがこのゲームをクリアするまでおとなしくするのが賢い選択だ。……いや誰もがそう考えて動かければこのゲームは一生クリアされない、ならば動くべきだ。それに誰かに助けてもらえるのを祈りながら震えるのは嫌だ。
「優斗」
俺はあの時誓ったはずだ、もうあんなことはしないと。…誰かに危険なことを任せ一人触れて眺める。そんなことはもう二度としないと。今度こそは動いて見せると。守って見せると。たった2年前のことを忘れたわけじゃあないだろう。
「おい優斗」
ただ本当にそれでいいのか?今ここで動かなくて本当にいいんだろうか……おそらくこの仮想世界の外、現実ではもう警察は動いているだろう。もしかしたら今日という日が終わる前に俺たちはこの世界から解放される可能性だってある。それならばこれはこれは壮大な自滅。自殺になるんじゃないか。いやここは動くべきだ。そして動くと決めたのならばすぐにでもここを離れるべきだ。
「大丈夫か?」
だめだ、一時の感情に身を委ねてだめだ、それは勇気じゃなくて蛮勇だ。たとえ出たとしてもどうせすぐに死ぬ。わかりきっている。堅実に生きるのならその感情は捨てるべきだ。もう二十歳なんだ、こんな子供みたいな感情は捨てるべきなんだ。ただそれを俺の、向こう見ずで正義感にあふれた、勇気と蛮勇の違いも判らない。俺の幼い部分が許さない。それに俺はもう誓ったはずだ。あのひ郵便今日で誓ったことを俺はもう違えない。ならば動くべきだ。そうだ腹をくくろう。俺はあの日の誓い通り無謀な蛮勇を起こすのだ。
「おい優斗!」
思考の海、いやそんな高尚なものではないか。どうやら俺は自らの肩を叩かれるまで蒼からの呼びかけに築いていなかったらしい。
「どうしだよさっきから」
「すまん、……色々と…考えてた」
だめだ。俺の蛮勇に子の無謀な行動に彼を、蒼を巻き込むわけにはいかない。
「ひとまずは町の中でおとなしくしとくべきじゃない?」
俺はさっきまでの考えを翻し、ごまかすように軽く答えた。多分いつもと表情は変わらない。……はずだ。
「僕はまあそれでもいいと思うけど、優斗はどうなの?僕は君がそんな奴だとは思っていないんだけど」
今、ここで彼に言ってしまっていいのだろうか。この幼稚な俺の考えを、勇気などでは決してない。ただあの頃の後悔を引きずった女々しい男の吐露を。
「俺はこのゲームをクリアしに行こうと思う。多分慣れてる連中、……元ベータテスターはもう動いてる。そいつらに便乗して次の町を目指すつもりだ……だから、……じゃあ」
「じゅあいこう。こういう時は早く行動しないとね」
俺の言葉を遮るように蒼は軽く返事をした。彼はわかっているのだろうか、これはもしかしなくても地獄への道だ。俺たちはこのゲームを今日始めた初心者だ。シナリオやモンスターの設定なんかも何も知らない。そんな初心者がこの先一度も死なずにこのゲームをクリアすることは不可能に近い。それを知っての返事なのか。
「ワンチャン死ぬぞ」
「ワンチャンならどうせ死なんよ」
こいつは馬鹿なのか
「言い方が悪かった、俺たちはこの世界を知らない、今日始めた初心者だ。いま動いたところですぐ死ぬのは目に見えてんだ。お前はここで待ってろ、俺は友達が死ぬのは嫌だ」
「いいよ、俺だって君が死ぬのは嫌だ。それに僕だってバカじゃないそんなことはわかりきってる。だから、そのうえで君と、優斗と僕はこのゲームをクリアする。いまそう決めた」
蒼は俺をにらんでくる。身長も体格も俺の方がデカい、力だって俺が蒼に負けたことは一度もなかった。なのに今、俺は蒼にビビっている。蒼は多分怒っているんだ。何年も付き合ってきたのにこんなに怒る蒼は見たことがなかった。
「なめんなよ、なにがあったか僕は知らない、何も聞かない。だけど僕は友が一人死にに行くのを見送るほど人間捨てた覚えはないぞ。……おい、なにビビってんだよ、もう僕は覚悟できてんだよ、死にに行く勇気があるってんなら、一緒に来てほしいぐらい言えるだろ」
「これは……勇気じゃない、蛮勇なんだ。だからこんなことに巻き込みたくない。これは俺の……………なんていうか…」
「うっせえ、聞かないって言っただろ、いいんだよそんなの。そもそもお前がこんなところでじっとできないたちなのは知ってる。だからそれに付き合うって言ってるんだろ。もう一回いうけどなめんなよ」
そうだおれはなめていたらしい、宗田蒼という男を。彼の勇気を。俺たちの友情を。………なんだ、俺が一番ビビりじゃん。……情けないな…………
「……すまん、……ありがとう」
「いいんだよ、で。どうすんの?」
俺は本当に人に恵まれている。本当に蒼が友でよかった。あの時、ソードアート・オンラインが発表されたとき、一緒にやろうと誘ったことを後悔してもいたがそんなことはもうやめた。俺はあの時蒼を、ソードアート・オンラインにさそってよかった。………いや普通によくはないが!こんなこと巻き込まれない方がいいに決まってるんだから。
「一緒に来てくれないか」
「ああ、いいよ」
そうして俺たちは歩き始めた、もう動き出しているベータテスターたちを追って。
立ち尽くしているもの、蹲るもの、叫ぶもの、泣き崩れるもの、空に向かい罵声を放つもの、中にはまだ小学生ぐらいの子もいた、そんな人間であふれかえった広場を抜けて俺たちは西門の方へ進む、なぜならチュートリアル後すぐに動き始めたプレイヤーはその方角に進んでいったのを見たからだ。
正直に言うと話しかけようか迷った。だって小学生くらいの女の子が泣き崩れていたのだ、ここがたとえ現実でも現実だったらなおさらに心配にもなるし近くに駆け寄って声をかけたくもなる。
けれどももし今立ち止まったら、進めなくなる気がして……せっかく固まった決意がしぼんでどこかにいってしまうような気がして……話しかけずに無視して通り過ぎてしまった。勇気とかなんだとか言っておいてこのざまだ。
多分一週間は確実に引きずるだろう、そしておそらく忘れらることは出来ないだろう。もしかしたら夢に見るかもしれない。ただ、そうだ俺たちは進むことを選んだんだならこの光景は忘れてはだめだ。この光景を忘れずに、こらから先俺たちが進みつけるための燃料にしなければならない。
広場を抜け少し進むと蒼、いやシアから疑問が飛んできた。
「そういえば元ベータテスターってなんなん?」
え、いまさら……
「何ヵ月か前にSAOのベータテスター募集ってあったじゃん」
「僕ら両方落ちたやつね」
「そ、それに受かった奴はベータ版で3か月くらいだったか、このゲームをもうしてて予習できてるからめっちゃうまいんだって、しかもマップも変わってないから初動を大事にするならベータテスターと一緒に行動した方がいいらしい」
「なんかずるいな」
「まあベータテストからマップやらエネミーやらを変更しなかった運営が悪いわ」
ずるいといっても本心からそう思っているわけじゃない。それにこんな状況になってしまったんだ。元ベータテスター云々もあまり関係なくなってしまうだろうだろう。ただほかのプレイヤーよりかはこの世界のシステムの慣れている。俺たちは二人ともゲーマーではあるがプロなんかにはかなわないし、ベータテスターと張り合えると思うほどうぬぼれてはいない。
「そもそもこうなったのは運営のせいだしね」
「な、てか、運営なり開発チームは今頃何してんだろうな。まさか全員茅場とグルってわけでもなだけだろうし…」
まあ今現実のことを考えても仕方ないんだから、この世界に集中しよう。…やっぱ誰か適当な人に声をかけて、情報だけでも教えてもらうべきかな、できたら街中で遭遇したい。
そう考えるとちょうど、俺たちよりも早く動いているプレイヤーを見つけた。俺は体感50メートルくらい先にいる2人並んで急いでるように歩く彼ら、推定元ベータテスターを指さしシアに話しかける。
「あそこにプレイヤーいるじゃん」
「あの人たちが元ベータテスターなん?」
「いやわからん、でもいま動いてるってことは多分そうなんじゃない」
しばらくついていくと町のはずれの路地裏に入っていってしまった。俺たちもそこに近づくと何やら聞き取れないが怒号が飛んでいる。二人組は何やら揉めているのだろうか、何を言っているかはわからないがあまり聞き耳を立てるのはやめておこう。
「あの二人はなんか気まずいしやめとこうか」
結局、あれ以降元ベータテスターと遭遇することは出来ずに俺たち二人は西門に着いてしまった。
「どうしたもんか、結局見つからんかったしな、どうしようかな。できたら今日中、日が落ちる前に次の街には着いておきたんだけど」
「まあ僕たちだけで出発しても良いんじゃないかな、昼に遠くに行った時も走ってたらあんまり接敵しなかったし。案外いけるかも」
「まあそれもそうかもな、しゃあねえしもう行くか」
俺たちは駆け出した。もう空は夕焼け色に染まり出している。流石に夜の暗闇の中で街を探して彷徨うのは避けたい。そして今日行かなければすぐに行動した意味がなくなってしまう。だからこれは賭けだ、この道の先に町があると信じる。夜になる前に次の町にたどり着くと信じる。かなり分の悪い賭けだ。それこそ別れ道があって、そこで俺たちが間違った道に進む。それだけで台無しになる。
「で、優斗はどう思うよ。俺たち生きて次の町に行けると思う?」
果てなさなくどこまでも続くようにも感じる草原を走ただいると。蒼が話しかけてくる。やはり昼に確認したように。走っていても息が切れることはなく会話に支障はない。
「さあどうなるだろうな、ただ、やっぱ町に残ってた方が良かった〜、て言うのはなしな」
「もちろん、優斗こそ後悔すんなよ」
「あたりまえじゃん、あ、あとこれからはユートって呼べ、俺もシアって呼ぶから」
おそらく数十分、いや1時間以上は走っているかもしれない。もう空は茜色を過ぎて暗くなり、地平線の先では太陽の半分近くがもう隠れてしまった。これだけ全速力で走っているとあれだけ長かった草原も端が見えてきて目の前には深い森が広がっていた。
見渡しのよかった草原とは違い森の中ではもしかしたら迷うかも、と懸念したは良いものの、森のくせして分かれ道もけもの道も無い一本道だったので迷うなんてことはなく、懸念は杞憂に代わりギリギリまだ夕方と言えなくもないような時間に、俺たちは次の町に到着することができた。
二人とも町に入ってあたりを見渡す、雰囲気としては町というよりは村に近い。異世界ものとかで出てくるような小さな村を想像すればいい。ただほかのゲームと違うのは作りこみだろうか、はじまりの町もそうだったがまず規模が大きい。他のゲームだったら家が数軒だけのところこの町はパット見ただけでも十数件は見える。それもすべての家が違う形をしておりこの町を作った人間のこだわりを感じる。もう閉まってしまっているだろうがちらほらと店も見つかる。
「すごいな、フィールドでも感じたけど本当にクオリティーが高い。デスゲームじゃなかったらもっと喜べたんだけど」
「だよなこんなに綺麗な世界なのにもったいない」
いやほんとに、今日はこのゲームのクオリティーに驚かされてばかりだ。
「ていうかはじまりの町だからあの規模だと思ってたけど、全部の町がこんな規模なのかな?」
「さすがにないんじゃない、全部の町をこんな規模にしてたらいつまでたってもゲーム何てできないでしょ」
「まあたしかに」
会話をしながら街の散策をする、もう夜になったからなのかNPCは見当たらない。ぽつぽつとある街頭に照らされた薄暗い道を二人してあたりをきょろきょろ見渡しながら歩いていく。一応目指しているのは町の中でも目立っている大きな建物だ。こういう時は街で一番でかい建物に何かがあるもんだ。
目指していた建物につきちょうど雑談もひと段落着いた頃、その建物の扉が開く、……そこから出てきたのはおそらくプレイヤーだった。そのプレイヤーは俺たちよりも結構年下で多分中学生くらいだろうか、身長は俺より低くてシアと同じくらい。多分170ぐらいの細身の男だった。
ひとまず話しかけようと思ったのだが、こういうときってどんな風に声を掛けたらいいんだっけ?まあひとまず当たって砕けてみるか。
「やあこんばんは、ごめんけどちょっといいかい?聞きたいことがあって。……ちなみにきみって元ベータテスター?」
プロットの大規模な変更と書き溜めの書き直しをするので。次の投稿は年明けになると思います。