ティーパーティーへの報告を終え、救護騎士団の建物へ戻っています。今回はライが早めに止めてくれたおかげで、被害額で言えば普段と変わりませんでした。セリナの報告書にもある通り、道が狭かったのでいつもよりは破壊してしまったというだけに過ぎません。しかし救護に手を緩めるなんて事は、私にはできません。ナギサ様もそれを分かっておられるので、あまりイヤな顔はしていませんでした。
どちらかと言えばこちらを気にしている余裕が無い顔をしていました。まだ先の話ではありますが、連邦生徒会長が発案したエデン条約が控えています。我々トリニティとゲヘナは歴史的にも根深い対立関係にあります。お互いに紛争や戦争に発展すればその損害や被害は私達の救護程度では比べ物になりません。
本来ならば私もティーパーティーへの参加が認められている身、エデン条約についても何か案を出すべきなのでしょう。ですが私には救護騎士団を離れる事は出来ません。政治よりも救護を優先する理由が私にはあるのです。誰かに話せるような大した理由では無いのですが……。
この救護騎士団の建物には団長室があります。代々団長のみが与えられる特別な部屋です。私としては特にこだわりがあるわけでは無いので、団長以外が入ってはいけないという規則等は設けていません。
「……来週の日程を確認しましょうか」
救護騎士団は名前だけを聞けば医療従事者と騎士を思い浮かべるでしょう。戦闘に特化している事を目的にはしていませんが、救護の為に訓練を行う事もあります。
「来週……正義実現委員会との合同訓練がありますね……」
正義実現委員会との合同訓練は今年で五回目です。例年通りに行けばここまで多くは無いのですが、エデン条約を結ぶ関係でしょうか。
しかし正義実現委員会との訓練はここまで全敗しています。決して完敗しているわけでは無いのですが……。私の周りでは勝っていても他で負けてしまい、全て判定負けを食らっています。休みの間にもう一度作戦を考える必要がありますね……。
「ミ~ネちゃん!」
団長室の扉を開け、とてもとても良く聞く声が聞こえました。救護騎士団で私の事をちゃん付けで呼ぶのは一人だけです。
「ライ、まだ居たのですか」
「今日はもう遅いから一緒に帰ろう?」
確かに今日は十分働きました。明日も大きな任務や訓練はありませんし……。早めに帰って合同訓練の作戦を練るのもありですね。
「分かりました。帰りましょう」
学園から家まではあまり離れていません。短い登下校時間をライと共にする事が多いです。それにライとはルームシェアしてますから、一緒にならない事の方が珍しいです。
救護騎士団で副団長を務めるライはとても不思議な人です。私に対しては敬語を使わないのに、他の全ての人に対しては必ず敬語を使います。私の見てない所ではどうか分かりませんが、何となくそんな事はないと思っています。
「今日の事、反省してるんですか?」
「うぇ!? う、うん反省してるよ!」
何か他事でも考えてたんでしょうか。まるで話しかけられるとは思ってなかったかのような声を出しましたね。
「というかその反応……まさか今日の事忘れたんですか!?」
「い、いやいやそんな事は無いよー!」
「どうせ今日の夕飯を考えていたんでしょうけど……」
「おっ!あったりー!!」
「今日は肉じゃがにしようと思って」
あら、久々ですね。
確かに昨日帰りに食材は買っていましたし、私も賛成です。私は料理が出来ないわけでは無いのですが、私の負担を考えてライが作る事が多いです。
「そういえば、ナギサ様がまたライの事を気にしていましたよ」
ライと私は小学生時代からの幼馴染です。ライが得意な事、苦手な事、すべて把握しています。逆もまた然り、ですが。
「あー、エデン条約が近いからね~」
ライは救護の実力は突出していますが、それ以外にも学力や戦闘面でも高い実力を持っています。それ故に去年までティーパーティーやシスターフッド等への勧誘が多かったと聞いています。今年になって副団長となったので勧誘はほぼ無くなった様ですが……。
「何度言われても私はティーパーティーに参加しないからね?」
「分かってますよ」
ライはそれほどの実力がありながら政治に興味がありません。いや、正確には政治に興味を
そういえば今日はライがやらかしましたね。一つ聞いてみるのもありでしょうか?
「ライ」
「ん~?」
「いい加減話してもらえますか?頑なにティーパーティーからの勧誘を断っている理由を」
「ん~~~っとね~~?」
またこのまま言わない気ですね。ですが今日貴方はミスを犯しています。
「今日の事、何も罰が無いと思っているんですか?」
敢えて少し圧を掛けて言ってみました。
「えーっと………言わなきゃダメ?」
「はい」
「えー、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……」
もしかして私が思ってもいなかった答えが返ってきます?確かにセリナの言う通り、後ろめたい理由では無さそうですが……。
「言ってください」
ここまで来たら容赦は致しません。言うまで逃げ道を与えませんよ。
「……ミネちゃんをほっとけなかったから」
「………」
「…何か言ってよ」
私の中で、思っていなかった理由ではありませんでした。むしろ、ライの事だからいつも考えているであろう答えがそのまま帰ってきました。
ですが逆に安心しました。ルームシェアもしていて、ここまでずっと一緒に居て、それでも何かで裏切られているかもしれないと思った事もあります。その度に『ライならそんな事を考えるなんてありえない』と言い聞かせてきましたから。
「ミーネーちゃーん?聞こえてますかー?」
「はい、聞こえてますよ」
大きな救護がありましたから、多少疲れていたのが見事に全部吹っ飛びましたね。
「さあ、早く帰りましょう。早くライの肉じゃが食べたいですし」
「うぁっ!? 待ってミネちゃん~!」
これからも私と一緒に居てください、ライ。