ピィーーー!!!
合同訓練の終了を知らせる甲高い笛の音が鳴り響いた。
「両陣営、そこまで!!!」
「試合終了、ですか……」
やはりと言いますか、ミネちゃんは物足りない顔をしています。結果的にダウンはさせましたが、想定とは違い、一撃でハスミさんを倒せなかった事。いつものミネちゃんを知っている私達救護騎士団や正義実現委員会にとっても、大きな動きが少なかった事。ミネちゃん自身は常に動いていましたが、展開を変えたのは基本的に私でしたから。
「両陣営とトップである剣先ツルギ委員長、蒼森ミネ団長がダウンしていませんので、これより両陣営のダウン者の多い方を負けとする、判定を行います。結果が出るまでしばらくお待ちください」
今回はティーパーティーのトップの御三方、桐藤ナギサ様、百合園セイア様、聖園ミカ様がいらっしゃっているようです。どこで見ているのか分かりませんが、どうして今なんでしょうね。これまでも我々救護騎士団や正義実現委員会を見るチャンスなんていくらでもあったはずです。単純にこれまで予定が合わず、今回がたまたま御三方の予定が合った…という可能性が高いでしょうね。百合園セイア様は体調がよろしくない事が多いそうですし、聖園ミカ様も、色々忙しいでしょうから。
「ライ!お疲れ様です」
「ミネちゃんこそ、お疲れ様。どう? 手ごたえはあった?」
今回の合同訓練には絶対勝ちたいと言っていましたからね。
「私自身はともかく、全体を見渡した限りですが……良いのではないかと思います」
「ヘイトを買い易い私と騎士団の本隊を別行動にさせたのは大きかったのではないかと」
そうです。今回ミネちゃんと私はほぼ単独で行動し、その他一名を除いて大隊で行動させました。個の力では正義実現委員会には勝てません。ですが集で挑むなら、多少の差はあれど状況によっては互角まで持っていけます。もし不利な状況であれば私も支援したのですが、ここは後輩達が頑張ってくれていましたね。
「それと、やはりセリナを単独で行動させたのは正解でした。どうして分かったんです? 上手く行くと」
そう、その他一名とはセリナさんの事です。毎度合同訓練で不思議な結果を出している彼女に、私は少し特殊なお願いをしました。彼女の特技……なのか分かりませんが、目の前に居た方がセリナさんを見失う事があるそうです。私も一度だけ模擬戦をやった事がありましたが、目の当たりにして驚きました。
「セリナさんや他の皆さんも、よく観察してたからね。この子はこんなことが得意で、こんなことが不得意だからー…とか」
なのでセリナさんには正義実現委員会の特定の方々、有望株の方達を相手にしてもらうように言いました。セリナさんの戦闘力も決して低くはありません。さすがにミネちゃんほどではありませんが、正義実現委員会の同学年であっても基本引けは取らないと思っていました。そのうちの一人であるイチカさんが少々別格だったので私がダウンさせましたが、それ以外はセリナさんがダウンさせているはずです。
「さすがはライですね。やはりライには敵いません……」
「なーに言ってるの。これ、ミネちゃんのおかげだからね?」
これまでの合同訓練、私はずっと後方支援配置でした。故に皆さんの得意不得意がよく理解できたのです。そもそもその役目を私に与えたのはミネちゃんのはずです。
「もっと自信を持ってくださいっ! ミネちゃん!」
「ふふっ…はい」
ミネちゃんの笑顔、久々に見た気がします。いえ、一緒に住んでるので全く見ないわけではありませんが、少なくともこういう合同訓練で嬉しくて笑ってる所なんてしばらく見ていませんでした。
相変わらず、いい笑顔をするんですから。
「あの子が君が一年の時から気になっている、城羽ライかい?」
「そういうセイアさんもずっと前から気にかけていらしたのでは?」
「気にかける……確かにそういう解釈で間違ってはいないよ。少し似ている子を知っていてね」
「重圧に押しつぶされてしまわないか心配していたんだ。その心配は無用だったみたいだがね」
「ナギちゃん? セイアちゃん? 何の話?」
「……君は城羽ライという人物を知らないのかい? 君であれば、いや君こそ私以上に彼女を知っていると思っていたのだが」
「あれでしょ? 救護騎士団副団長の人! 話した事無いからよく知らないけど、ナギちゃんが前から気になってるってのは知ってるよ!」
「なるほど、私やナギサが持っている彼女の基礎的な知識、いや下手をすれば基礎も持ち合わせていないと来たか」
「セイアちゃーん? 喧嘩売ってる? もしかして」
「ミカさん、セイアさん、やめてください……」
「だが、気になると言っても理由の根底は多岐に渡る。ナギサはどの部分が気になっているんだい? 確かに彼女ほどトリニティにおいて有能な人物は存在しない。だがそれと同時に、彼女はトリニティの政治に驚くほど興味がない」
「あれ? ミネ団長って『ヨハネ分派』の首長じゃなかったっけ?」
「あくまで救護騎士団の活動に専念したい為に政治の場からは離れていますが……」
「ああ、そんなミネ団長が側に居てもなお彼女の政治への興味は薄いままだ。実際どこの分派にも所属していない」
「ティーパーティー以外にもシスターフッド、他の分派からも勧誘が多数あったと聞いています。私も直接出向きましたが、実際に会ったのは数回だけです」
「会うのを断られたって事?」
「いえ、正確にはミネさんに門前払いされています。ライさんを、一番よく知る方ですから」
「今、トリニティにおいて一番の信頼を得ているのは他ならない城羽ライさん唯一人です。不思議な話ではありますが」
「そうだね。政治的な事に興味がないにもかかわらず、学園内で彼女を知らない者は誰一人として居ないだろう」
「城羽ライさんをティーパーティーに引き入れたい理由、これで十分かと思われます」
「それも…そうだね」
「おっと、判定結果が出たようだよ」
「判定結果が出ましたので、発表いたします」
「正義実現委員会、救護騎士団合同訓練の結果は………
救護騎士団の勝利です!!」
その瞬間、救護騎士団の子達からとても大きな歓声が上がりました。私も、少しほっとしています。
「やりましたね。ライ」
「はい。嬉しい? ミネちゃん」
「ええ、とても」
皆さん、とても嬉しそうです。今年初勝利ですから、余計に嬉しいですね。泣いてる子もいらっしゃいます。
「ライ」
「どうしましたか? ツルギさん」
「今回の敗因はよく理解しているつもりだ。だが、あえてお前の口から聞かせてほしい」
ツルギさん、流石ですね。自分一人が理解していても意味がない。その敗因を皆さんに教える為に、私の口から言わせようとしているのでしょう。不器用ながらも後輩を想うその心がけはとても参考になっていますよ。
「分かりました」
「まず敗因ですが、ツルギ委員長の出てくるタイミングが悪かった。これに尽きるのではないでしょうか?」
「具体的には?」
「ツルギ委員長は正義実現委員会はおろか、トリニティの武力の象徴と言っても過言ではありません。であれば、初めから前線に出ている必要があります。今回は何故、後ろに?」
「ライ、今回はお前が出てくると予想したからだ。初めから前に出ていれば私はミネ団長に捕まり、それ以外はお前に全て対処されてしまう」
「そうでもありませんよ」
「ツルギ委員長が出てくればミネちゃんを動かすことが出来ませんから、今回の半分程度が精いっぱいでしょうか」
ですが今回の作戦であれば、の話ですけどね。
「もっと自分を、正義実現委員会の子達を上手く動かしてください。トリニティの最強武力集団なんでしょう?」
「……ああ」
こんな所でしょうか?
正義実現委員会の皆様方も決して弱いわけではありません。正義実現委員会側の戦術ミスを、私が上手く読んだだけです。ただその駆け引きが、一発で救護騎士団に勝利を、正義実現委員会に敗北を呼んだわけですが。
「さ、さすがはライさんです!」
「ライ副団長!さすがです!」
何故か私、正義実現委員会からも人気あるみたいなんですよね……。
しばらく正義実現委員会、救護騎士団を問わず色々質問をされてしまいました。私もこういう事は嫌いじゃありませんし、むしろ私の説明で参考になるのでしたら幸いです。イチカさんにミネちゃんとの連携でダウンさせた時の事を聞かれた時は焦りました……。あんなの一番参考になりませんし、しちゃいけませんからね?私が必死に誤魔化してちょっとタイミングよくなったからーとか言ったのにミネちゃんが真顔で「あれはライとの絆が深い証拠です」とか言ったのでもう、困ったものです。私にだって恥ずかしいという感情はあるんですよ?
その後、合同訓練はその場でお開きになり、救護騎士団の皆さんと合同訓練勝利祝いをしました。パーティのようなものですね。そのせいで少し帰りが遅くなったのは反省してますが……。とにかく、とても楽しくて、嬉しい一日でした。それはもう、合同訓練の疲れなんか吹っ飛ぶくらいには。しかし、明日からも救護騎士団の活動は通常通りあります。今日の一日を糧にして、これから必ず来るであろうエデン条約に向けて、一層身を引き締める為に、少し早めに寝床につきました。
しかし、突如として事件が起こってしまいました。
この日の夜、百合園セイア様が何者かに襲撃を受けたのです。
そんな衝撃の言葉をミネちゃんから聞いて、私は起こされました。