7話 襲撃事件
「ひぇぇ~!」
情けない声を出しながら、ダッシュでセイア様の居る部屋へ急行しています。何せセイア様の寝室はトリニティ総合学園内にあるらしくとても遠い遠い……。ミネちゃんと違って足が遅い私は全力で走るのもキツイのに……。
ですが、そんな事は思いながらも泣き言は言ってられません。セイア様が襲撃されたのですから。
何とかセイア様の寝室の近くまでたどり着き、息を整えます。寝起きが悪く、足の遅い私と違って、ミネちゃんはとっくに辿り着いて応急手当から始めている所でしょうか。
私の足音以外、余計な音は聞こえません。どこか不気味なくらい静寂を貫く廊下を、私の靴が音を響かせています。
「……ここ、ですよね」
静寂を書き消したかったからか、無意識に口から言葉が出ていました。
コンコンッ......
「……?」
ノックをしても、返事はありません。それだけならまだ分かります。ですが部屋の中からも、何故か人の気配を感じません。右頬を一つの小さな汗がつたり、嫌な気配を自然と感じてしまいました……。
「……」
私はそのままドアノブを回しました。当然先にミネちゃんが入ってるはずですから、抵抗なく回り扉が開きます。
「……ミネちゃん?」
部屋は暗く、明かりは一切付いていません。なのに何故か一通り奥の壁まで見えるくらいには明るく……そして、ミネちゃんはおろか、この部屋で襲撃を受けたはずのセイア様が居ません。
「……あれ…は?」
部屋の真ん中の床に、光り輝く
これは……私のスマホ……? ミネちゃんが勝手に持って行ったのでしょうか……?
「……あれ、このスマホ……通話中……?」
思わず声を出したその瞬間、
『聞こえますか、ライ』
ミネちゃんの声が、通話中になっている私のスマホから聞こえてきました。わざわざ内緒で持ってきたという事は、何か考えがあっての事だと思いますが……。一応周囲に人が居ない事を再確認し、声を返しました。
「ミネちゃん……?」
『ライ、重要な話があります』
「待って……! セイア様の容態は……?」
『……意識不明の重体です。私が発見した時点で、もう既にこの状態でした』
……。
重要な話……ですか。
「うん、分かった。色々他に気になる事あるけど、重要な話を先に聞いてもいい?」
一拍置いて、
『セイア様の部屋について……不可解な事があると思いませんか?』
私でさえ現状に半分頭が混乱しています。セイア様の寝室だというのにセイア様のお姿は無く、かと言ってこの部屋には襲撃された痕跡が見当たりません。それでいてミネちゃんが居らず、今ここで通話をしている事……。
やはり襲撃はあったのでしょう。そしてそれらを理解するためのパズルを解いている沈黙の時間を読んでいたかのようにミネちゃんは続けます。
『間違いなく
「セイア様の声では無かった?」
『はい、ですがティーパーティーの誰か、というわけでも無さそうです』
理由は恐らく、ここら一帯の人気の無さ。ミネちゃんがセイア様の御体を発見した時点で既に……。
「誰かがセイア様の身体をここまで運んで、ここで襲撃を受けた連絡をした……?」
『そう考えるのが妥当ですね』
しかし一体誰が……? いえ、それ以前にまず、セイア様を襲撃したのは……?
『ライ、私はここである一つの可能性を考えています』
『それは、襲撃犯とは別に、トリニティ内部に別の指示役が居るのでは?という事です』
「セイア様を襲撃するように?」
『はい』
……。
確か現在セイア様は自身の能力を畏れ、気分によって就寝場所を変えているとも聞いています。もしくはその御力を誰の手にも渡さない為、とも取れますが……。
確かにセイア様の居場所はティーパーティー内部でもごく一部か知らないはず。残りは緊急時の連絡の取れるミネちゃんや正義実現委員会の委員長クラス……でしょうか……? もしくはシスターフッド、もありえますか……。
『あくまでも可能性の範疇ではありますが……』
「ううん、多分ミネちゃんの言う通りだと思う」
もし本当に、ミネちゃんに連絡をしたのがティーパーティーの方で無いとしたら……。そして、トリニティにとって歴史が変わる……【エデン条約】を控えたこの状況下で。
……。
『……しばらく私はセイア様の御体と共に、身を隠そうと思います』
『その間、救護騎士団を……これからトリニティに起こる事柄全てを、任せてもいいですか?』
……。
『無理を言っているのは重々承知しています。ですが……』
『ライ、貴方に……いいえ、貴方にしか頼めないのです』
……。
沈黙はした。
でも、不思議と迷いは無かった。思い当たる伏があったというのも事実。予想が外れてほしいって思ったのも事実。ミネちゃんが私にしか頼めないと言った真意がすぐ理解できたのも事実。
「うん。分かったよ」
だから、多分私には止められない。けど、出来るなら止めたい。これから起こる事柄を、起こるであろう事件を。
光無きところに手を伸ばした先に、変えられた未来を手に入れたように。もう一度その場所に手を、伸ばしてみようと思ったから。
「それで、セイア様の容態は詳しく伝えた方がいいの?」
『……全部、ライにお任せします』
『その方が、ライが自由に動けると思いましたから』
さすがミネちゃん。よく分かってる。
『セイア様の事だけではありません。この先の事、全てです』
そうだね。
ミネちゃんが私を頼って、任せてほしいって言ってくれたもんね。
『ですがお願いです。どうか……無理だけはしないでください』
もう心配性だなぁミネちゃんは。でも……どうだろうね。
「うん、分かってるよ」
『では後の事を、よろしくお願いします』
通話が切れた音がした。
手に持っていたスマホを服の中に入れ、目を閉じ一度深呼吸をしました。
「よし…」
服の中に入れたスマホを取り出し、とある方に電話を掛けました。
「……もしもし、はい。夜分遅くにすみません」
「その様子ですと、やはり貴方も関係ある……ようですね」
「ええまあ、明日以降は騒がしくなりますから、どこか時間の空いたタイミングで」
「……それでは」