Unlimitedに転生してしまったんだが! 作:全自動髭剃り
てか、多すぎるねん……
自分が生きている世界が、ゲームの世界だと気付いたのは5歳のときだった。
図書館から借りた本を返しに、たまたま公園の隣を歩きすぎていたとき。
「オレはしろがねたけるだぞ」
そんな声が聞こえて。
俺はその場で気絶した。
謎の高熱によって病院送りにされて、目覚めてからの俺の決意は早かった。
何がなんでも、あの狂ったBETAどもが血湧き肉躍る世界なんかに巻き込まれるものかと。
そのため、前世の記憶なんかはないが、ゲームの知識と体感大人な精神年齢を武器に、俺は2大計画を企てた。
第一計画『楽園計画』
白銀武が運命に巻き込まれるのは正直俺にとってはどうでも良かった。
対岸の火事で身を削ってくれるのは我らが主人公の仕事であって、俺の仕事じゃない。
だけれども、自覚できるほどの"異端者"の俺がどういう理屈で白銀の転移に巻き込まれるかわかったものじゃない。
だから、白銀をこの世界に留まらせる。向こうに行かせないのだ。
それこそが一番冴えたやり方。
そのためには、この世界に恋愛原子核なんてふざけた性質を持つ"白銀武"という人間が、居続けなければいけない因果を無理やり作る。
つまり、"白銀武"ハーレム化計画だ。
原作のヒロインは全員、可能であれば柏木晴子や神宮寺まりも、香月夕呼なども巻き込めれば上等である。
倫理的・法律的問題? 知ったことではない。事実上、彼女たちが全員白銀と結ばれればいい。婚姻を結ぶことがゴールではないからな。
ぶっちゃけ、白銀はエロゲーの主人公だから、達成可能性は高いだろう。
ゲームではハーレムルートが用意されていないだけで、この世界の行末の一つには絶対あるはずだ。
勝負の期限は2001年年末から2002年新年。これさえ乗り越えられれば、『楽園計画』の成功と見做せるだろう。
問題は、『楽園計画』の失敗。
ハーレムルート構築の失敗、もしくはそれでなお白銀が世界を転移し、さらに俺が巻き込まれてしまった場合のことだ。
第二計画『オルタネイティブ計画』
ああ、そうだとも。原作からパクってきた名前だ。
これは、第一計画の
あの狂った世界に巻き込まれても、最低限10年は生き延びるための計画だ。
何もしなくても保護された上で兵役を科されることなく後方で研究だけをぬくぬくすることが目標。
まず、オルタネイティブ1として、死に物狂いで勉強をした。毎日図書館で10時間勉強したし、家でもペンは止めなかった。もちろん幼稚園も小学校も行っていない。そんな暇はないからな。
幸い両親は「お前がやりたいようにしろ」と寛大で放任主義でいてくれたこともあって、なんとかなったものだ。妹はそんな飯と睡眠のためだけに家にいる俺を気味悪がったが、俺に気遣う余裕はなかった。
おかげで中学高校も行かずに10歳のときには博士号を取り終えて、5年ほど物質工学を研究した。これでオルタネイティブ時空に飛ばされても、前線で命を賭けずに済む。
次に、オルタネイティブ2。
白陵大で研究を続けるため、東京から横浜へと移住。当初は大学で研究職を続ける予定だったが、香月夕呼が物理教師をしているために、柊学園に入学。
それから、因果律量子論や並列処理コンピューター理論などについて実装を手伝うことが目的の傍ら、『楽園計画』の遂行もするのだ。
物質工学を学んでいたのが功を奏して、アルファ・エンジンと香月夕呼が名付けたデバイスを作り上げることに成功した。
「一緒に作ったあたしが言うのもなんだけど、脳の電気的信号を物理的斥力に変換するって、その効果自体が魔法の定義みたいな話なんだけど……。あたしたち、いつの間にファンタジーの住人になったのかしら?」
なんて香月夕呼は言ってたが、安心して欲しい。向こうの世界のあなたは、もっとファンタジーになってる。
ただ、これの成果をゆっくりと紐解いていけば10年は時間稼ぎになるだろう。
00ユニット? 似たようなものを作ろうとして提案した際の香月夕呼の反応がこちら。
「虚数スピンの重力相互作用粒子を使ってAIを作りたいだぁ〜? どうしても欲しいなら、まずはアメリカ大統領になって、国家予算の99%を採掘に回すところから始めることね」
まあ、不完全な達成度ではあるが、目標は達成した。
その後は、オルタネイティブ3。
「ほんと、なんで男の子ってこんなものに憧れるんだろう」
あの世界でいわゆる戦術機と呼ばれるもののレプリカの製造だ。
正直人生で巨大ロボに興味が入ったことはなかったが、差し迫った事情があったとはいえ、アルファ・エンジンを載せる機械としてはなかなかに楽しめる工程だった。
もちろん等身大ではなく、1メートルにも満たないミニチュアだけど、シミュレーション用としては悪くない出来だ。
「装甲素材や制御機関の割に、エアガンとペットボトルロケットってチグハグね〜」
流石に捕まるのは不味かったからな。
だけど、この経験や知識があれば、転移後すぐに手持ち無沙汰になって訓練兵に回される可能性もなくなるというもの。
家のガレージに置いていたところ、遊びに来た白銀武に見つかってしまい、
「すげえ! 『オルタネイティブ3』って名前のロボなのか! もしかして乗れるのか!? 俺の全財産を渡してもいいから試乗させろ!」
なんて言い出したが、流石にスモールライトは開発していなかったので無理だと教えてあげた。
悔しそうに唸っていたが、ミニチュアだしコクピッドもほぼ無設計だから、無理なものは無理なのだ。
さて、最後のオルタネイティブ4。
これは規模の大きい計画だった。
第二計画『オルタネイティブ計画』が俺があの世界で最低10年は生き延びるための計画。
ならば、オルタネイティブ4は、俺があの世界で10年以上生き延びるための計画だ。
「物質工学に夢中かと思ったら、あんたそんなことを考えてたの?」
スペースコロニーの理論構築だ。
あの世界の"オルタネイティブ5"では、G弾の集中運用のために人間を10万人6光年先の星に飛ばすなんてことをやるわけなのだが、それがうまくいくかは未知数な上、地球上のBETA掃討には失敗するのだ。
ならば発想を逆転させればいい。
10万人規模の人間が暮らせるスペースコロニーを作ってしまえばいい。いや、極論10万人じゃなくてもいい。自律運営可能なスペースコロニーを作れればいいんだ。
正直、あの世界の"オルタネイティブ4"の成否なんてどうでもいい。
俺には人類を救う義務もなければ、世界を守る正義感もない。
ただ、人間として平穏な明日が期待できるだけでいいんだ。
「これだったら、アメリカの年間予算10%もあればなんとかなるかもしれないわね〜。え? 今作りたいわけじゃないって?」
以上をもって、『オルタネイティブ計画』は成功裡に終わることができた。
あとは、本命の『楽園計画』の推移を見守るのみ。
「私バカだから、御剣さんが来てようやくそれに気づいて……でも……もう大ピンチ。それに榊さんや彩峰さんに、壬姫ちゃんに……」
「安心するがよい……旗色が悪いのはむしろ……。いや、こうなってしまっては旗色も何もないか……」
「あはは、そうだね。みんなして……。だから…………ハッキリさせておきたい」
「……ハッキリ、か。その言葉で想像がつかぬほど私も鈍くはないが……言いたいのだな?」
「そう……だね……」
「ならば私もハッキリと言う必要があろう」
「!? ……う、ん……」
「……、だがここで我らが二人で決意しても仕方あるまい。戦うならば、正々堂々としたいゆえな」
「それは、みんながいるところで……ってこと?」
「ああ。……もしかしたらあの男――高村ヤマトのいう道も真剣に検討するべきかもしれんな」
ああ────安心した。
月下の誓いを確認して、俺は気を失った。
†
いつも通りの朝。
眩しい太陽に目がやられて、眠気が飛んでいく。
一応時間を確認すると、……時計が7時20分で止まっていた。
電池の替え時だなぁ、なんと思いながら大きく背伸びとあくびをする。
「俺は乗り越えたんだ……!」
と、自然に言葉が漏れてしまったが。
はて、俺は何を乗り越えたんだっけ。
ま、いいや。
机に置いてあるアルファ・エンジンを持ち上げる。
昨日も深夜まで調整をしていた。学校においておけばいいじゃないかと言われればその通りだが、こいつの場合は"拗ねる"ことがあるので、そうもいかない。
『おはよう、ヤマト。現在時刻の時計による確認が不可能なことを報告じゃ』
「だろうな。内部時計で教えてくれ」
『……、7時30分じゃのう』
「つーことは、10分前に力尽きたんだな」
ため息をつきながら、工具箱大のボックスを鞄に詰め込む。
それから適当に服を着替えて、カバンを持ってリビングに向かう。
妹の部屋の方から音がしないし、多分もう起きてるんだろう。
リモコンでテレビの電源をつけてみるが。
「?」
朝のニュースの代わりに真っ黒な画面のままのテレビ。
ついに例の集金業者の取り立てのせいで電波まで止まったのか? なんて思いながらテレビの方に近づいてみると、電源がついてない。
カチカチとテーブルに置いてるトースターの電源を押しても反応なし。
「ブレーカーが落ちたのか?」
そう思って洗面台の方に向かってみたけど、配電盤に問題はなし。
ついでだからと蛇口を捻ってみるが、水も出ない。
なんだか新手の兵糧攻めにされてるな……。
仕方ないので、カバンを背負いあげて家から出ることにした。
まだ十分な無線通信強度技術がなくて、カバンからはビューンとアンテナが伸びている。
「……白銀なんかは、世界大戦の時の通信兵みたいとかって言って笑ってたな……」
『通信手は戦争で最も標的にされたと記録されておるのう』
「アンテナが目立つからだろ? まだ広域通信網ができてないから、よそ様の通信を間借りできねえんだよなぁ」
そう言いながら靴紐を締めて、玄関の扉を押す。
今日はやたらと蝶番が悲鳴を上げているし、埃が溜まっているのか開閉にガタガ来ているようだ。
たまには掃除をしてやらねえとなぁ、なんと思っていたら。
――目の前には地獄が広がっていた。