Unlimitedに転生してしまったんだが! 作:全自動髭剃り
「どうなってんだ……」
見渡す限りの瓦礫の山。
地平線まで続く爆撃痕。
得体の知れない有機生命体らしき死骸と。
……ガラクタになっている装甲板付きの兵器らしき何か。
いや、それ以上に。
『繁殖中の植生すら確認ができんようじゃな』
なんだこの枯れ果てた大地は。
†
『HQ! 所属不明の戦術機が基地に接近中!』
「こちらHQ! 無線によるコンタクトは試みましたか!?」
『オープンチャンネルでの接続は成立していますが、向こう側の言い分が支離滅裂です!』
中央管制塔では、訳のわからない状況の対応に追われていた。
基地の正面ゲートに、戦術機が歩いてきたというのだ。
少なくとも"後方"と呼ばれるこの横浜基地から任務で戦術機が発進していないことは確定済み。
戦場が近いわけでもないってのに、のこのことここまで歩いてくる帝国軍機もありえない。
『正体不明機がHQへの直接コンタクトを要求しています!』
「HQ了解。こちらに繋いでください!」
『了解!』
ピアティフ中尉は、司令、副司令への連絡と、基地内の衛士への連絡をしてその時を待つ。
そして繋がる無線から聞こえた声は……。
『あー、テステス。聞こえますかー?』
なんていう間の抜けた声。
「こちら国連軍横浜基地本部。貴官の氏名と所属、認識番号、階級を確認したい」
『あー、俺の名前は高村ヤマト、所属は……えーと、日本国? だ。認識番号と階級は存在しない』
「帝国陸軍か? ならば認識番号と階級があるはずだ。国連軍と日本帝国陸軍の協定によりデータベースの共有はできているので、参照ができる。認識番号を提供せよ。繰り返す、認識番号を提供せよ」
『すまないけど、ないものを吐き出せと言われても困る』
「認識番号が確認できない場合は、貴官を敵対的組織の一員と見做し、攻撃する。これは最終警告である。繰り返す、認識番号を提供せよ」
『……うーん、……どうするべきか……』
などと悩む声が聞こえる。
若い男の声だ。もしかしたら脱走兵か? などと考える。
一度不明機と繋いだ無線をミュートにし、現場の衛兵に無線を飛ばす。
「こちらHQ。所属不明機の詳細について報告せよ」
『了解。外見は旧式の撃震らしき見た目ですが、武装はなく上部装甲は中破、下部装甲は大破状態です。コクピットが存在せず、運動着姿の青年が装甲板の上に座っています』
「??? ではどうやって無線を繋いでいるのですか」
『青年が無線機らしき機械を使用している模様』
いよいよもって意味がわからない。
ガラクタ状態の戦術機に、強化服もなしに乗っている?
最前線でもそう見られるものではない。
衛兵が何か悪い薬をやっていて、それで見た幻視だって信じたいほどだ。
そんなことを思っていると、不明機から無線が帰ってきた。
『あー、OK。ありがとう、アル。ってことは、こう言えばいいか。こちらは、既存のいずれの軍事組織にも属さないただの民間人だ。本機には、未公開の自律走行のための演算処理装置が組み込まれている。本機の破壊、または撃墜は、当該技術の不可逆的損失を意味する』
「未公開の技術……?」
『その上で、私は貴軍に投降する準備があり、保護してもらえれば、相応の技術提供が可能である』
†
そして俺は、牢屋にぶち込まれた。
……軍的にいえば営倉か?
いや、一般人の俺にとってはどちらでもいいか。
営倉自体の規模も小さく、収容されている人間は俺一人と見ていいだろう。
ここに連れて来られるまでに可能な限りこの、国連軍横浜基地とやらの構造は頭に叩き込んだが、俺が確認できるだけでも相当な複雑さと規模がある。
脱獄までならなんとかなっても、……脱出は不可能だろう。
アルファ・エンジンは没収された。
エンジンの人格『アル』の助言がなければもっと事態はややこしくなっていただろうだけに、役に立ってくれて感謝していたところだったんだが。
まあ、あれだけ無線で警告したのだから、ブラックボックスをハンマーでかち割るような愚行はしないのだろう。
そうして営倉の脱出方法を探し始めた俺の耳に、カツカツと音が響いた。
軍靴ではなさそうな高い音だ。
「はじめまして、タカムラくん」
紫の髪の軍服に白衣姿の女性が鉄格子の向こう側に立っていた。
「私の名前、わかる?」
「え?」
何言ってんだこの人。
「初めましてなんだから、わかるわけないでしょうに」
「そう? まあ、普通そうよね」
「……?」
なんだか含みがある言い方なのだが。
俺にはその裏の意図が何も読めなかった。
「それで、ここから出たい?」
「……それは俺の決めることじゃないですよね」
「それはその通りだけど。でも、私が聞きたいのはあなたの意思だけど?」
まるで自分にそんな権限があるかのような口ぶりだ。
けど、そんな権限もない限りこんな交渉もして来ないはず。
「……、別に俺は一生ここにいれるなら、それでも構いません。食い物があって、寝られるし。少なくとも外の様子を見る限りじゃ、経歴のない人間が辿る末路なんて目に見えてますから」
「……へえ」
「だけど、ただ飯喰らいがいてもいいような場所にも思えませんし」
だから、俺はここまで移動してきた間。
目覚めて、意味のわからない場所に飛ばされ、あちらこちら彷徨った挙句に巨大ロボを改造して、捕まってこの独房にまで連れて来られた間。
唯一決めた行動指針を目の前の彼女に伝えた。
「俺の命が保障される限り、なんでもしますよ。ここから出るのがそれに繋がるなら、そのための条件も呑みますし、そうじゃないのならこのまま一生営倉でいいです」
言い切るが、まあ後者になることはないだろう。
いかに戦場のど真ん中とはいえ、あの巨大ロボとは異なった技術体系を知識で知っている人間を遊ばせておく余裕はないはずだ。
アルファ・エンジン『アル』のような斥力フィールドが技術開発されている世界ならまだしも、俺が接収した巨大ロボにはそんな形跡は一切なかった。
「ふーん、わかりやすくていいじゃない。上の人間どもの自己保身もここまで堂々とされれば、対処の方法が簡単なのだけどね」
「……なんのことですか?」
「こっちの話よ。それで、生き延びられればなんでもするってことよね?」
「はい。……」
正確には少しだけ違う。
俺の命が第一なのはそうなのだが、ただ……『アル』のことは少し心配だ。数年かけて人格形成を調整したんだ。流石にそれが水の泡になるのはいただけない。
けど、そんな俺の考えを知っているのか知らずか。
「だったら嬉しいお知らせと残念なお知らせとがあるわけだけどどちらが聞きたい?」
「では嬉しい方からお願いします」
「喜びなさい。あんたが営倉にいる間は安全よ。ハーグ陸戦条約に基づいて、民間人のあんたにはなんの危害も加えられない」
「……そうですか」
聞きながらホッとする。
だけど、目の前の女は神妙な顔持ちで続けた。
「残念な方はね。……あと数年。いや、下手すれば数ヶ月で人類は滅亡するわ。あんたや私、この基地の人間、地球上に住んでいる人間全てがね」
その確信めいた口調に。
俺は呆気にとられるしかなかった。
「は?」
†
どうやら、この世界はBETAと呼ばれる宇宙生命体に侵略を受けているらしい。
俺が外で見た有機生命体の残骸はBETAの死骸で、巨大ロボはそれらと戦っている兵器だという。
正直違和感だらけだ。俺の持つ知識体系からしてそんなのがありえないことだって、脳の処理は結論づけているんだが。
それと同時に、俺が見た光景と、"齧られていたり、ぶつけられているような損害しか受けていない巨大ロボ"の存在が、論理的に彼女の説明は正しいと言っている。
通常兵器による銃弾痕が一つたりとも見当たらないのだ。
簡単に説明を切り上げた目の前の女――香月夕呼は一呼吸をおいて続けた。
「あなた、白銀武って名前に聞き覚えはある?」
「白銀?
「……数日前にこの独房にぶち込まれていたやつよ。あんたと類似点かいくつかあったから聞いてみたんだけど、知らないならいいわ」
そう言いながら、独房の鍵を開けてくれた。
ギーッと音を立てる扉を見ながら、質問する。
「不用心じゃないんですか。俺が急にあなたに襲い掛かったらどうするんですか」
「あら、死にたいのならそうすればいいわ」
「……そういうわけじゃないんですけどね」
なかなかの自信家というべきだろうか……。
それとも、こういう危ない橋を渡るのに慣れているのか。
俺は周囲の様子を覚えながら、彼女の後ろをついて歩き。
営倉の入り口で、もう一人の女性に出会うことになる。
「予定通りこいつに汎用の強化装備つけて、シミュレーターにぶち込みなさい。多少音を上げても無視でいいわ。戦術機適性の検査とかで問題がなさそうだったら、簡単な教育課程の実習とかも入れて、操作記録をまとめておいてちょうだい」
「はっ、了解しました」
「こっちの言うとおりにすれば、あんたの命の保証もしてあげるし、あんたのおもちゃも返してあげるわ〜」
手を振りながらさっていく香月の背中を見る。
俺のおもちゃ……、アルファ・エンジンのことだろうな。返してもらえるのなら、少し気合を入れていこう。
そして、俺は赤髪の女についていくことになった。
「初めまして、私は伊隅みちる大尉だ。君はまだ軍属ではないし、気軽に伊隅と呼んでくれ」
「あ、はい。俺は高村ヤマトです」
「ああ、香月副司令からある程度の話は聞かされている。記憶混濁状態でこの基地にたどり着いたのだろ。体もがっしりしているし、軍属経験もあるんじゃないか?」
そう言われて体を触ってみる。
……確かに悪くない筋肉のつき方だ。
数時間歩き回ってから巨大ロボに座ってここにきて、ボディーチェックという名の自白剤投与までされたってのに、そこまで疲れてはいない。
「記憶がないのでなんとも言えないんですが……」
「まあ、検査さえすれば、少なくとも君が戦術機乗りだったかどうかくらいは判明するだろう」
「戦術機……? なんですか、それ?」
「ん? おかしなことを言うやつだな。君がこの基地までに乗ってきたじゃないか」
乗ってきた……? あの巨大ロボの名前、ってことか。
「? ってことは、俺はこれからその戦術機ってやつの適性検査をさせられるってことなのですか?」
「ああ、そうだ。と言っても、君の強化装備の用意があるから、昼食を終えてからになる。かなり体力のいるテストだ、見たところやつれているし、かなり腹も減っているだろう? しっかりと腹ごしらえをしてくるんだぞ」
「あ、はい」
そうして、俺はPXと呼ばれる基地の購買食堂に通された。
昼食にしては遅い時間なのか、あまり人影はない。
「京塚曹長、合成生姜焼き定食をお願いする」
「はいよ! その子のためかい? 大盛りするかい?」
「……恥ずかしながらかなり空腹なので一番大きいのでお願いします」
「いいねぇ! あんたみたいな男はいっぱい食べるべきだよ! 特盛を用意しようじゃないかい」
「……特盛か。なかなかのチャレンジャーだな」
「……? チャレンジャー?」
「なんでもない。では私は20分後にまた来るから、それまでに平らげておいてくれ」
なんて空腹な俺のことを気遣ってわざわざ代わりに注文をしてくれた伊隅。
大尉なだけあって、色々と融通がきくのか、それとも別に通貨などなくても食事は提供されるのか。
数分後に渡された山盛り……というか丼ってよりも、盆レベルの定食を全力で胃に流し込む作業に入った。
†
飯を流し込んでから伊隅に連れられ、シミュレータールームなる、油圧シリンダーが複数個伸びている箱が立ち並ぶ場所へと連れてこられた。
そしてこれが君の装備だなんて言って渡された服に着替えてきたわけなんだが。
「なんすか、これ……」
「衛士、戦術機のパイロットのための強化装備だ。耐衝撃性や各種センサー類に……」
「いや、それは説明書で確認はできたんですが……」
「お、ちゃんと読んだのか。かなりの分量があるし、大抵の衛士は億劫になって読まないのだがね」
問題はその技術的なところではなく、外見だ。
ラバーにプロテクターがついてる構造だが、そのラバーが半透明である。局部以外ほぼ透け透けだ。羞恥心が刺激される云々の話を除いても、動くたびに自分の人体の動きが見えて気持ち悪い。
「伊隅さんの着ているものとは随分と色合いが違ってるのは仕様ですか?」
「ああ、それは訓練兵用の装備でな。男用の正規品は在庫がなかったので、廉価版の着色料が使われていないラバーになっている」
……ラバーつったら樹脂だよな。
透明度の高い非晶質系樹脂なんだろうけど、色つけるだけなら大したコストじゃないはずなんだが。
そんなうかない顔の俺を見て、ニヤリと笑いながら伊隅が話し始める。
「それとも、女用の正規品の方が良かったか? どうしてもというのなら、今から用意してやるが?」
「……勘弁してくださいよ。わかりました、これで我慢しますから……」
「もう一度準備する手間が省けてよかった。では、君には戦術機のシミュレーターに搭乗してもらうことになる」
と言いつつ、伊隅はシミュレーターと呼ばれた箱の入り口を開ける。
中には複数の操作用器具と、座席がある。
座れってことか?
思いながら入り込むと……。
「……ふむ」
どことなく懐かしい? ような、それでいて、若干の緊張が湧き出てくる。
なんだこれ? 操作器具類に手を置くと……すんなりと定位置が見つかる。
「では、健闘を祈る」
そんな言葉と共に扉を閉める伊隅。
そしてそれと同時に視界いっぱいに、市街地が広がった。
――こちらヴァル……、アルファーコマンド。これより戦術機適正検査シナリオ01を開始します。搭乗者の状況を確認します。