なんだか、輝虎くんの雰囲気が変わった気がする。
ホテルのベッドに腰掛けてサバフェスの原稿をしていると、ベッドでくつろいでいた輝虎くんが後ろから抱きしめてくれた。こんな風に抱擁したりなんだりは生前からしてくれていたけれど。
「あむ」
うなじを噛まれるのは、記憶になかった。初めは驚いたものの甘噛だし輝虎くんがしたいならいいか、とそのまま作業を続ける。
かぷかぷと噛んで、満足したのかうなじから口を離すと今度は僕の耳元に顔を寄せる。
「ウサミン、進捗はいかがですか?」
「見てこの真っ白な画面」
たすけて!!
誰も助けてくれない。
僕が書く他に道はない。
「というか、わかってて言ってるでしょ」
「はい」
「輝虎くんのいじわる」
「嫌ですか?」
「……僕は輝虎くんにいじわるされるの好きだからいいけど、他の人には駄目だよ?」
「わかっていますとも」
輝虎くんは顎を僕の肩にのせて返事をした。こういうことをし始めたのは帝都特異点の後からだ。やはりちびトラくんを虎千代サンタくんにした影響だろうか。輝虎くんに聞いてもなんでもないと言うし、カルデアの霊基チェックでも特に異常はないのだが。ちなみに、現在ちびトラくんはベッドですやすやと寝ている。何故なら現在はサバフェス前日の深夜だから。恐ろしい現実も目の前に横たわっているね……。
とりあえず輝虎くんのことは様子見をしよう、という結論に至ったので意識を膝の上のノートパソコンに向けてキーボードを叩く。QPがあればこういうのも調達できるからすごい。バックスペースを連打する。すごい、原稿全然進まない。
「小説でしたっけ、何か難しいことを書こうと?」
「難しくはない、はずなんだけど。輝虎くんのプロパガンダだし」
「……サーヴァントになってからもやるんですか、それ」
生前は政治的にやっていたところが大きい。大義名分というものは大切だ、人は感情を持つ生き物なのだから。宗教とか、特に大変だった。今みたく物語を書いて輝虎くんは毘沙門天の化身だぞ、と神格化とかしてみたけど、どれくらい効果あったんだろ。
ともあれ、サーヴァントになった今は趣味でやっている――わけでもない。過去の聖杯戦争を調べてみたら知名度補正とかあるし、日本において神とは信仰によって成り立つもの。輝虎くんの知名度が上がったり信仰が増すことによって、それが力になる……かもしれない。ならなくても、輝虎くんのことを考えるのは楽しいので、僕のサマーバケーションとしては上等だ。
せっかく輝虎くんとハワイに来ているのに、ホテルに籠もって泣きながら原稿をしているのはどうなんだろうね。僕にはもう何もわからない。
「難しく考えず、一から書けば良いではないですか。私の誕生日は1530年2月18日、ウサミンと一緒ですね」
「昔の輝虎くん――虎千代くんは暴れん坊だったねぇ、あと僕に対してめっちゃ塩対応だった」
「あはははは! 覚えていませーん!」
「お寺に入って仏門ルートかと思ったら、そんなことなく為景くん隠居したらすぐ晴景くんが虎千代くんを養子にして家督継がせる準備し始めるし、だから僕が為景くんから傅役頼まれるし綾くんから仏門教育頼まれるし、全てが想定外さ。虎千代くんと一緒にいる時間が長くとれたから僕は嬉しかったけど」
このあたりどうしようかな、折角なら良い本にしたいよね。『甲陽軍鑑』に負けないくらいの。正気が僕、サバフェスは明日だぞ? あ、もう今日になってる。でもいい本を書いて『
とりあえず長尾虎千代と宇佐美定満が運命的な出会いをした感じに脚色しておこう。運命……運命がぁ……僕にとっての運命は輝虎くんだけど、輝虎くんにとってはそうじゃない。とっくの昔に割り切った、それはそれとして悲しい。僕も武田のノッブみたいに強ければ、でも輝虎くんと殺し合いたくはないしなぁ。
「ウサミン、何か愚かなことを考えているでしょう」
「愚かじゃないよ。輝虎くんとずっとなかよしでいたいな、って」
「ふぅん?」
「さて、続き続き」
頭の中で生前の年表を広げて、唸る。
「うぐぐ正直さ、輝虎くんの初陣から将軍になるまでゴチャゴチャしてるというか」
「まぁ乱世でしたからね」
「変に史実改変せずに史実通りにすればよかったというか」
「ウサミン?」
「いや本当、史実改変難しいし、FGOのイベント考えるのも難しいし、何かこう、もっと短く輝虎くんと僕のことだけ書けばよかったなって……!!」
「ウサミン??」
「史実改変もFGOイベントストーリーもほとんどカットしているじゃんという指摘はご尤もです誠に申し訳ございませんとしか言いようがなくって……!! この世界の輝虎くんは家出してないよ、とか! 大暴れするノッブラトホテプを無明三段突きする沖田総司くん、とか! マスターくんを景勝くん呼びする星五バーサーカー直江兼続くん、とか!!」
「ウサミン????」
帝都特異点とかタイトルと本文が一致していないし、なんなら今回もしていな――はっ! 意識が飛んでいたようだ。サーヴァントは睡眠が不要なはずなのに、不思議だね。以上、ただのメタ発言だよ。
「とりあえず時間もないし、川中島の戦いだけ書こう」
「そうですねぇ、後世では天下分け目の川中島とか呼ばれているようで。私も晴信と元気いっぱい殺し合えてとても楽しかったです!」
「よかったねぇ」
いや本当、「ちゃんと武田のノッブと戦える場を整えるから!」と説得した武田との同盟を受け入れてくれてよかった。逆に武田のノッブは滅茶苦茶訝しんでいたから弟くんから説得したり、表から裏から交渉したのも懐かしい。滅茶苦茶大変だった、もう二度とやりたくない。
川中島の戦いは例えるなら少年マンガで初期に出会って競い合ったライバルが中盤味方になってラスボス撃破後にお互いのケリをつけるために戦う感じ、たぶん大体そんな感じ。
「輝虎くんが将軍になってからは、まぁどうしても起きる内乱鎮めて、早めに景勝くんに将軍譲って……このあたりで僕の方が病気で先に死んじゃったね」
「…………」
「ところで歴史書にこの後隠居したはずの輝虎くんが大陸の方で大暴れしたって書いてあるんだけど」
「あはははは」
「笑って誤魔化さない」
「にゃー」
「鳴いて誤魔化さない」
たん、とエンターキーを叩く。な、なんとか一応かたちになった……これから極悪非道の当日入稿をしてくるよ。ありがとうゴージャスPありがとう。
さぁ、サバフェスの開幕だ!!
ウサミン:というわけで、釣りドラゴン輝虎くんと保護者同伴輝虎くんと大きな輝虎くんの水着が実装されたね
ぐんしん:この世全てが私に見えてたりします?
ウサミン:そうだったら幸せだよね、それにしても沖縄かぁ。いいなー
ぐんしん:飲んでみたいですね、泡盛。沖縄グルメも気になります。
ウサミン:ねー。色んなものを見て食べよう!
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バレンタイン(マスターに渡す)
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歴史調査(厠で乙ったって本当?)