わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
宮沢賢治『春と修羅』
未来観測、演算開始、演算完了。
未来観測、演算開始、演算完了。
あの未来を、赦しちゃいけない。
あの未来は、変えねばならない。
未来観測、演算開始、演算完了。
未来観測、演算開始、演算完了。
試行して、思考して、施行して。
何度も何度も何度も、繰り返す。
未来観測、演算開始、演算完了。
未来観測、演算開始、演算完了。
最善の、最良の、最高の選択を。
その選択に意味がないとしても。
「一体何処を視ているのですか?」
未来観測、演算中止。
予期せぬエラーです。
未来観測、演算不可。
観測し得ぬ存在です。
「……えーと、君は?」
「虎千代と申します!」
***
藤丸立香は目を覚ました。
同時に、夢を見ていることに気づいた。
「ここは……?」
サーヴァントの夢を見ているような、それにしては今まで見てきたものとは違うような。
ふわふわとした感覚に足元が覚束なくなる。いいや、と拳を握りしめて顔を上げる。
人類最後のマスターとして、これまで歩んできた特異点修復の旅路。それはまだ半分にも満たない、七つの内三つを終えたところに自分はいる。まだまだ先があるのだと己を鼓舞し、これまでの戦いで得てきたものを見つめ直した。
「よし!」
これがただの夢ならそれでよし、魔術的な何かしらなら……なんとか対処しよう。本格的な召喚は出来そうにないが、戦闘用に簡易召喚は出来そうな気配がある。心細さはあるものの、やるしかない。
周囲には樹木が生い茂っている。見通しが悪いものの、地面に傾斜があることから現在地は山であるらしかった。なんとなく、馴染みのある植物が多い気がする。マシュやドクター、ダ・ヴィンチちゃんと連絡がとれれば解析もお願い出来るのだが、いやいやないものねだりはよくないと首を振った。
「さぁ、調査開始だ!」
「にゃー!」
「えっ」
藤丸立香は声のした方向、自分の足元に視線を向ける。
何かいる。
ナニカがいる。
白髪に黒のインナーカラーとメッシュの入ったポニーテールな甲冑姿の女の子がデフォルメされたような二頭身の生き物。生き物と言うよりナマモノかもしれない。
「こ、こんにちは?」
「にゃー!」
敵意は無さそうだが、ちょっと対話は難しそうだ。元気よく振り回している刀に当たらないよう距離を取っていたら、近くの茂みからガサゴソと一人の女性が出てきた。
「ちびトラくん、見つかったかい? お、よしよし、見つかったみたいだね」
女性は眠たそうな蒼い眼を藤丸立香に向ける。ちびトラくんと呼ばれたナマモノの着ている甲冑と似た装束に身を包んでいて、一括りにしている黒髪を揺らしながら、ひらひらと手を振った。
「やぁはじめまして。僕のことは……そうだね、湖のキャスターとでも呼んでほしい」
「はじめまして、藤丸立香です。えぇと、じゃあキャス
「お、いいね。僕は愛称で呼ばれると嬉しくなっちゃうタイプだよ」
キャス湖は一度ふにゃりと表情筋を弛緩させ、足元のちびトラを抱き上げ腕の中に落ち着けてから、真面目な顔をする。一連の流れから『あ、この人面白いタイプの人だな』と藤丸立香は思った。
「さて、ここはとある聖杯戦争の聖杯によって作られた演算世界、君たちカルデアで言うところの特異点というものかな、違うかもだけど。違ったらごめんね」
「特異点……あの、キャス湖さんはカルデアのことを知っているんですか?」
「うん、それは――すまない、話の途中だがワイバーンだ! ……なんでさ。なんで越後にワイバーンがいるのさ!?」
「さぁ……」
遠くから聞こえるワイバーンの羽音に、召喚準備をしつつ首をかしげる。ここって越後だったんだ、という理解レベルであった。
「仕方ない、やるぞカルデアのマスターくん!」
「はいっ!」
「ちなみに僕自身は弱いからね! ちびトラくんが本体だから! そんな感じでよろしく!」
「えっ」
***
「キャスターはライダーに不利。僕覚えた。まったく、せめて船に乗ってたら特攻とかありそうなのに、え? そういうのはない? そんなー」
「とりあえずバーサーカー、ヨシ!」
「せやろか? 軍師としては些か物申したいところではあるけど……僕もとりあえず旦那様! をしなかったかと言えば、してたな……」
ワイバーンとの戦闘終了後、二人は地べたに腰を下ろして休憩していた。ちびトラはキャス湖の膝の上で勝ち鬨を上げている、にゃー!
「どこまで話したかな、いや何も話せてないか。時にマスターくん、君は越後幕府を知っているかい?」
「はい、授業で習ったくらいですけど」
「上々、上々。ざっくり言うと戦乱の世を治めて天下統一した戦国大名上杉輝虎を将軍に据えた武家政権だ。この幕府の特徴はとにかく将軍がすごくつよくてかっこいいこと! やったー! ……こほん、そんな越後幕府が聖杯の持ち主で何やら越後を神秘まみれにしているようだね。やめてほしい、せっかく神秘まみれの京から離して幕府開いたのに……まぁ、将軍がそんなことするはずないから老中あたりがやらかしてるんじゃないかな? というのが今の状況なんだけど、わかったかい?」
「(キャス湖さんが越後幕府関係者ということは)わかりました」
藤丸立香は神妙にうなずいた。
「んで、ちょうどよくワイバーンが木々を切り開いてくれたから、ここからでもよく見えるアレが目的地」
キャス湖が指さした先に視線を向けると、城のような砦のような建物が建ち並んでいる。
「越後幕府が本拠地、春日山城だ。僕はこれから彼処に聖杯回収しに行くけど、カルデアのマスターくんもついて来てくれるかい?」
「はい!」
元気よく返事をして、藤丸立香は視線を春日山城からキャス湖へと移した。
「って、うわーっ!? キャス湖さん光ってる光ってる!! 消えそう!!」
「うん、実は魔力が足りてなくて……先にマスターくんと仮契約してから戦えばよかったね……」
ドタバタと仮契約を済ませて事なきを得るという、なんともぐだぐだな幕開けである。
キャス湖:というわけで、真名当てクイズのお時間さ! 当たった人には越後幕府より特に何もないよ。
ぐんしん:史実改変もので真名当て企画はかなりの蛮行では?
キャス湖:それはそう。