越後の百合夫婦   作:白虎しゃも

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期間限定イベント『ぐだぐだ越後幕府』後編

踊る阿呆に 見る阿呆

同じ阿呆なら 踊らにゃ損々

 

徳島県民謡『阿波踊り』

 


 

 ……おや?

 なんだか変な感覚がすると思ったら、カルデアのマスター! きさま! 見ているなッ!

 なんちゃって。聖杯から得た知識をひけらかしたいだけだから気にしないでほしい。さて聖杯くん、これどういうこと?

 

 ――なるほど、要はカルデアのデータベースを参照して演算した影響で、僕とカルデアのマスターに魔術的な繋がりが出来ているわけだ。

 それでどうなるかというと、僕の過去を夢として見ちゃう感じかな。見られて困るものではないけれど、見せられても困るよね、届いているかわからないけど謝っておくよ。ごめんね、カルデアのマスター。

 

 えっ、パスが繋がってるから将軍の過去も見ている?

 

 へぇ……何を見たんだろう、気になるなぁ。僕の知っている彼女のことでも気になるし、知らないことなら尚更だ。いやでも、そういうのを知りたがり過ぎるのも良くないよね。嫌われてしまう、と想像するだけで泣いてしまいそうだ。あぁうん、そうだよ、そうなんだ。彼女は僕にとって『特別』なんだ。一応、彼女にとって僕は妻/家臣/師であったけれど、もしかしたら友でもあったかな、そうだったら嬉しいな、もしくは、彼女からしてみれば僕ごとき何でもなかったのかもしれない、それだと悲しいな、どうだろうか、わからない、僕にはわからないんだ、そして、それでいいんだよ、普通はそうなんだ。僕は全てを観測出来ただなんて口が裂けても言えないけれど、観測対象はすべて世界平和に向けて費やすリソースとして見ていたんだ。酷い話だよ、人を、命を、尊いものを、目標のための最効率に当てはめた。紛うことなき悪行だ、いや、僕のことはどうでもいいか、それよりも彼女の話。僕が執着して、信頼して――愛した人。居心地のいい不明瞭、明瞭な天賦の才。存在に惹かれて、強さに魅了された。だから、彼女をわかりたかった、理解したかった。好きだから、同じものが見たかった、大好きだから、寄り添いたかった、愛しているから、幸せでいてくれたらそれでよかった。

 

 どれか一つでも、ちゃんと成し遂げることが出来たのなら、本当によかったのにね。

 

 

 

***

 

 

 

 藤丸立香は、なんだか怪文書を脳に直接流し込まれたような感覚を朧気に覚えたまま身体を起こした。何か夢を見たような気がするが思い出せない。

 

「おはようマスターくん! 昨日は越後どらごん村のゴーストに塩を送ったり、チェイテ唐沢山城で敵中突破したり、夢に清姫鶴一文字が出てきた訳だけど気分は如何かな? 僕かい? 僕はもう疲れたよ、ちびトラッシュ。なんだかとっても眠いんだ……」

「にゃー?」

 

 身支度を整えて寝室を出ると、萎びたキャス湖がちびトラにツンツンと突かれていた。

 現在、無事に――キャス湖の言うようなトラブルはあったものの――城下町で寝泊まりの出来る拠点兼キャス湖の工房を用意でき、越後幕府に関する情報をいくらか集まっている。

 キャス湖が不貞寝しているうちに朝餉を済ませ、工房の隅にて起き出したキャス湖と対面した。

 

「はてさて、これから僕たちがどう動くかなんだけど……うぇっ!?」

 

 ドガシャアン! と玄関の方で大きな音がなる。それからツカツカドタバタとこちらに向かってくる複数の足音が続いていた。

 

「マスターくん下がって! ちびトラくんっ!」

「にゃー!」

 

 咄嗟に藤丸立香の手を引いて部屋の奥へと押し込み、ちびトラに魔力を回す。

 

「あぁほら、いましたよウサミン」

「よ、よかった……関係ない人の家屋が破壊されなくて……いや関係あっても破壊しちゃダメだよ輝虎くん、カルデアのマスターは味方だって言っただろう?」

 

 現れたのは、ちびトラをそのまま大きくしたようなサーヴァントと、キャス湖に瓜二つなサーヴァントだった。何も悪いことなどしていませんが? とでも言いたげな態度でイタズラしまくって散らかした部屋で寛ぐ猫のような表情をする前者に対し、後者は青ざめていたところに少し血色が戻りつつ冷たい視線でキャス湖を射竦める。

 

「そちらの僕がどうかは知らないけどね」

「…………」

 

 対するキャス湖は、無表情で視線を受け止めた。

 

「ウサミンが二人、両手にウサミン。ふむ」

「輝虎くん?」

「あの、すみません。味方というのは……?」

 

 そこに、キャス湖の後ろから藤丸立香が顔を出し、問いを投げる。

 

「おぉよしよし、まずは自己紹介から始めようか! こちらにおわすは越後幕府で一番偉い人! 当然クラスは最優のセイバー! 毘沙門天の化身にして越後の龍、上杉輝虎(うえすぎてるとら)!!」

「偉かったですかね? 割と自由もとい不敬な(やから)が多かったですよ、筆頭はそなたですが」

「敬意はあるよ、その上で親しみを込めてだね……っとと、次は僕の自己紹介をしないとね。僕は……なんと言ったらいいかな、軍師としては父の定満という名が通りそうだけど、当世では旦那様の妻としての名前の方が有名らしいね、しかしまぁここは越後幕府が老中として名乗らせてもらおう!」

 

 一息。

 

「僕の名は宇佐美(うさみ)定祐(さだすけ)! カルデアの人理保障、是非とも手伝わせてほしい! 世界平和のためなら無理を通して道理を引っ込めてみせるさ!」

「言わずもがなだけど、僕もウサミンだよ。黙っててごめんねマスターくん、越後幕府が原因っぽいのに関係者だと名乗るのはどうかと思って」

 

 一方は高らかに名乗りを上げ、一方は耳元で小さく囁いた。

 

「…………」

(なんか輝虎さんすごくこっち見てません?)

(彼女の癖だよ、猫みたいで可愛いよね)

(癖……かな? 何かしらの意図を感じるような……)

 

 こそこそしている藤丸立香とキャス湖を横目に、宇佐美定祐は朗々と続ける。

 

「初対面だし信用ならないというのもわかるとも! ゆえに、まずは対話を以て信頼関係を築いていこうじゃないか。あ、プレゼントもあるよ」

「おや、殴って解決しないのですか?」

「しないよ、そもそも殴り込み自体が予定になかったからね輝虎くん。だからそこの……なにその、なに……? 小さい輝虎くんみたいなナマモノ……? も刀を納めてくれないかな」

「にゃー?」

「――ちびトラくん、おいで」

 

 刀を手にしたまま足元にやってきたちびトラを、キャス湖は大事そうに抱き上げた。宇佐美定祐は、なんともいえない顔をしている。

 

「色々と言いたいことはあるけど……なにはともあれ、カルデアのマスター、君の名前を聞いてもいいかな?」

「あ、名乗るのが遅れてすみません。藤丸立香です」

「立香くん、いい名前だね。そして申し訳ない、こちらから馳せ参じず、呼び寄せるかたちとなってしまって」

「へ? いえいえ、そんな……」

「立香くんが直ぐ城に来ると()()()()から迎えも出さなかったし、重ね重ね申し訳ない。何故かもう一人の僕が接触していたみたいだけど……うん、あっちの僕については完全に管轄外だ」

 

 宇佐美定祐がチラリとキャス湖に視線を向けると、手持ち無沙汰になっていた上杉輝虎がキャス湖に話しかけていた。

 

「その小さいの、景勝だったりします?」

「ううん、輝虎くんの霊基の一部だよ」

「そうですか、ならとっちめてもいいですね」

「よくないよ?」

「いえ、その個体ではなく。なんかそれなりの数がいまして、幕府で働いている個体もいれば、その辺で暴れ回っている個体もいるので。景勝なら元気でよろしい、と思

いますが、自分だというのならケジメをつけねばなりません」

「景勝くんだとしてもちゃんと叱ってよ。もう、相変わらず親馬鹿なんだから……」

 

 思わず、宇佐美定祐が声を上げた。

 

「えっ、あのナマモノ幕府(うち)で働いているの?」

「バリバリ働いてましたよ」

「あー……確かに新しく人員を雇い入れたいって話あったね……輝虎くんの霊基だから観えなかったのか。うん! その辺りは横に置いておこう!」

 

 パンパンと手を打って気持ちを切り替えた宇佐美定祐は、改めて説明を始める。

 

「ざっくり言うと、僕には読み取り権限しかなかったから、立香くんに来てもらうことで、管理者権限を使ってカルデアに書き込みをしたかったんだよね」

「管理者権限?」

「あ、実際に存在するカルデアのコンピュータとかの話ではなくてね。世界線を繋ぐネットワークというか、そう、概念的な話。元々、僕がいた世界と君のいた世界は別物なんだよ。帝都でやってた聖杯戦争でたまたま聖杯に触れる機会があったんだけど、そこで君の世界、そしてカルデアについて観測した。んで、聖杯戦争とかやってる場合じゃないと思って、とにかくカルデアを支援しようとこの空間を作ったんだ。ここは世界と世界の中継点、だから越後とオルレアンが混ざってちょっと大変なことになっているけど、聖杯戦争で貯め込んだ魔力リソースをそちらの世界に送ったり霊基グラフに最強無敵の輝虎くんを登録することも出来るよ! どうだい、すごいだろう?」

「ちょっと待った!」

 

 胸を張る宇佐美定祐の話を遮るように、キャス湖は噛みついた。

 

「『すごいだろう?』じゃないよ! 何をしてるんだ君は!」

「何って……それを訊ねたいのは僕の方だけどねぇ」

「いやいや、カルデアを支援とか何とか言っても特異点作ってカルデアの仕事を増やすどころか世界を危ぶませてりゃ世話ないだろうに!」

「どうして君が呼び出されたのかなんて知らないし、おそらく人理焼却のことを知らないからノウノウとしているのだろうけど、世界の危機に何もしていない自分というは見るに堪えないね」

 

 お互いに睨みあう、それから、同時にバッと藤丸立香の方へ振り向いた。

 

「人理焼却って何??」

「特異点って何??」

「人理はわかるよサーヴァントとしての基本知識だ焼却もわかるよ一般的な単語だものだけどその二つをくっつけるのは駄目に決まってるでしょ??」

「いや特異点自体はわかるけど。 え? いちサーヴァントが宝具で作った固有結界みたいなものでしょこれ? そんな簡単に特異点とか作れちゃうの? 世界の危機がそう簡単に訪れてしまいやがるの??」

「わぁ、ぐだぐだしてきたなぁ」

 

 混乱しつつも落ち込み始める二人。上杉輝虎が励ますように、二人の肩をぺしぺしと叩いた。

 

「あはははは! ウサミンは相変わらず愚かで愛いですね!」

「僕は愚か者です……」

「僕も愚か者です……」

「泣いちゃった!」

「暫くしたら復活しますから放っておいて構いません。それよりカルデアのマスター、そなたは特異点修復の経験があるのでしょう? ウサミンにはどうにも出来そうになさそうですし、なんとかなりませんか?」

「なんとかと言われましても……」

 

 藤丸立香はわからない、という顔をしつつ、うーんと頭を捻る。

 

「質問を変えましょうか、これまでどんな風に特異点を修復してきたのです?」

「えーと、なんだかんだ最終的には聖杯の持ち主を殴りに行く感じですかね……」

「なるほど、ウサミンを殴ればいいんですね!」

「まさかそんな方法で解決するわけが……えーと、僕と聖杯の繋がりがあーでこーで……うわ、理に適ってる、怖……」

 

 そして、一拍おいて。

 

「よーし、殴り合いで解決だぁ!!」

 

 

***

 

 

 かくして。

 無事に特異点は修復され、ボイラー室横に二人のサーヴァントが増えたとさ。

 

 

 


 

宇佐美定祐

イベントボイス6

「やぁやぁ、そろそろ店仕舞いだ。やり残したことはないかな? なんともぐだぐだな旅となってしまったけれど、この越後も越後に違いないからね。楽しんでもらえたのなら嬉しいな」

イベントボイス7

「さてと、後片付けをしようかな。えーと雑巾はココに、あれ、ハタキはどこにやったかな……うーん、ううーん……あ、いや流石に采配をハタキ代わりにしようかな、なんて考えてないよ? ――ないとも!」

 

上杉輝虎

イベントボイス6

「催し物の終わりといえば打ち上げ、つまりは宴ですね! お酒ください! おつまみも! ささっ、そなたも一献。ご安心ください、ノンアルの準備も恙なくしてありますので!」

イベントボイス7

「此度はうちのウサミンが色々とご迷惑をおかけしたようで。うーん、私はどうにも彼女を甘やかしてしまうというのは自覚しているところではありつつむにゃむにゃ……なので、よければ遠慮なく叱ってください、私も含めて、はい」

 

キャス湖:というわけで僕は宇佐美定祐だよ。史実改変タグの面目躍如だね! ……こんな真名当てクイズが赦されるのだろうか。

ぐんしん:私は赦しましょう――だが読者は赦しますかね!

キャス湖:人理くんへ、今からでもプリテンダー宇佐美定満ということにならないかい? ならない? そう……

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