ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【酷薄】

 第二支部に辿(たど)り付くと、ロビーの様子は一変していた。

 

「痛え……クソ、痛み止めもねえのか、クソっ!」

 

「二層の病院は使えねえのかよ!地べたに寝転がされるだけか!?」

 

「この数を収容できねえからここまで運ばれたんだとさ……ひでえもんだぜ」

 

 大勢の負傷者がロビーに寝かされている。まるで野戦病院のような有様だった。

 

 寝かされている人々は軍服姿だが、ゴッドイーターの腕輪はしていない。どうやら、フリードさんと同じ非ゴッドイーターの戦闘部隊の人達のようだ。

 

 僕は朝の光景と真逆の凄惨(せいさん)様相(ようそう)に、しばらく立ち尽くしてしまった。

 

 そこで、床に敷かれた黒いシートに手を伸ばす包帯姿の男の姿が目に留まる。

 

「おい、こいつは何だ? 死体でも入ってんのか?」

 

「……その通りだ。見てみろよ。それほどグロくはない」

 

 男性がシートをめくると、そこには――血糊(ちのり)の付いた銃型の神機と、神機を握る手首のみの死体があった。

 

 よく見ると、その手には赤い腕輪がついている……

 

「小型のアラガミの群れに襲われたんだとよ。住民を逃がした身代わりに食い尽くされて……残ったのはこれだけだったそうだ」

 

「ゴッドイーターか。どんな奴だったんだろうな」

 

「女だったそうだ。名前は……確か、セナ、とかなんとか、お仲間の連中が言ってたな」

 

 瀬名さん。

 

 僕にスタングレネードをくれた、明るい笑顔を振りまいていた、きれいな女の人。

 

 あの人も……アラガミに食われてあっけなく死んでしまった……

 

 両足に力が入らず、僕はふらふらとした足取りでロビーを横切り、冷たい階段の上に座り込んでしまった。

 

 あの人が僕にスタングレネードをくれたから、僕とイリアは助かった。その代わりにあの人は食われてしまった……僕と会わなかったら、生きて帰還できていたのかも……

 

 ほんの少しのきっかけが、死に直結してしまう。

 

 これが、ゴッドイーターになるということなのだろうか。

 

 知っている人が簡単に死んでしまう。生活は保障されていても、ある日突然あっけなく死ぬ……それが戦いに身を置くということ。知識として知っていても、リアルはそれ以上に生々しい……

 

『カイさん』

 

 フギンの声。

 

『私はいつでもここにいます。何でもいいです。何でも、私に話してください』

 

 彼女なりに励まそうとしてくれているらしい。僕は、胸の内にある何か鉛のように重く沈んだ感情を吐き出そうと、口を開きかける。

 

 けれど、やめた。口にしてしまうと、不安や恐怖がより明確な形になってしまいそうだったから……

 

 自然と視線が足下に落ち、灰色の階段に差す自分の黒い影を無意識に見つめる。しばらくそうやっていると――頭上からアナウンスが流れた。

 

『第一部隊のカイ・サクラダ・アウベス。アレックス・ミラー。イリア・エバンズ。至急執務室へお越し下さい。繰り返します、第一部隊の――』

 

 執務室?

 

 顔を上げると、懐のフギンが僕の疑問に答えた。

 

『支部長が業務を執り行う部屋となります。イントラネットから情報が得られました。新しく赴任された支部長がお呼びとのことです』

 

 

◆◆◆

 

 

 僕はフギンのナビゲートに従い、新しい支部長が居るとされる執務室へ向かった。

 

 白色LEDの下、白い壁と薄緑色の廊下が伸びる。まるで病院の中のような、清潔でしかし冷たい印象を受ける雰囲気だ。

 

 執務室はこの先か……やや緊張しながら進むと、突き当たりの大きな両開きの扉の前に、何者かが立っていた。

 

 その男は派手なオレンジ色の髪を右側だけ伸ばし、左側頭部を剃り落とした奇妙な髪型をして、左目の下にQRコードのような菱形の入れ墨を入れており……大変近づきがたい風体をしている。

 

 右腕に僕と同じ腕輪を()めている。ゴッドイーターなのだろうが、制服は全く異なっている。黒一色の制服は、手首や足首、首元など各所に細かくベルトループが付けられている……何か、ベルトを巻くと、そのまま拘束衣(こうそくい)にでもなってしまいそうだ……

 

 最も気になったのは、何かの皮で作られた大きな黒い剣袋(けんぶくろ)と、その中に収まる神機。僕達ゴッドイーターは出撃後に必ず神機を保管庫へ収めなければならない決まりだ。この人はなぜ持ち歩くことができるんだ……?

 

「おっ? エル支部長に何か用事かい?」

 

 僕に気づいた男が陽気に話しかけて来た。見た目とは裏腹にフレンドリーに笑いかける男に、僕は自分の心の警戒アラートがけたたましく鳴るのを感じた。

 

 本能的にわかる。こういう人間が一番ヤバイのだ。

 

「ん~でも今は入るのよした方がいいなあ? お客さんの相手してっからねえー」

 

 男はそう言いながら、右手に持っていた配給ビールを中身を()み干した。左手で握る剣袋のストラップが揺れ、彼が背中に背負う神機がガチャリと金属質の音を立てる。

 

 僕はゆっくりと目の前の男から距離を取ろうとしたが、その前に男がビールの空き缶を遠くのゴミ箱にシュートしつつ、こちらへずいっと近づいた。

 

「ひょっとしてえー? ひょっとすると君い~? あれかい? 例の? 第一部隊の? 生き残りの新兵クンだったりしちゃったり?」

 

 ずいずいと男が僕の目と鼻の先まで距離を詰めてきた。身長は高く、僕の頭二つ分くらいは高い。威圧感を(ともな)いグイグイ近づく危ない男に、僕は半ば気圧(けお)されつつも――なんとか一つ頷いた。

 

「おー! やっぱりそうかぁ~!! 君かあ~! へへへへ、実はけっこう話題になってんだぜ君ら。有名人だねえ、へへへ……あれ? ああ、そうか」

 

 男はポリポリと指でこめかみを()きながら、右に小さく首を傾げながら笑う。それが彼のクセのようだった。

 

「俺はディノ。ついさっきここに配属されたゴッドイーター……あれ? 正式に配属されてたっけ? 違う気がすんなあ~……まあいいや。とにかくよろしく? 君はなんて言うんだい?」

 

 正直、自分の名前をこんな男に教えるのはリスクのように思えたが……教えなかったら今度は何をしてくるかもわからない。仕方なく、僕は自分の名を語った。

 

「OKオーケー。カイ。覚えたぜ、よろしくなブラザー」

 

 えっ……馴れ馴れし過ぎないこの人っ!?

 

 ドン引きする僕を気にも留めず、ディノはペラペラと陽気に話しかけてくる。

 

「聞いたぜカイ。初日の訓練で大型アラガミに出くわしたとか? いやはや波乱に満ち満ちてんなあ~社会の荒波どころじゃねえだろ、初日に隊長喰われるとかさぁ~? ……ああ、なんだ? 今の俺の発言はセンシティヴなアレだったか? 悪い悪い、へへへへ」

 

 ……何なんだこの人は? あの化け物との遭遇を馬鹿にしているようでもない。何か……なにか大事な心のネジが吹き飛んでいるような。ディノの話しぶりはそんな危うさを感じさせた。

 

「んじゃあれだ、お()びに、そうだなぁ……大型アラガミを狩るコツ、教えてやろうか?」

 

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