ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【酷薄】3

 エリオット――エル支部長は、士官用の純白の制服と上着を肩に羽織(はお)り、しかし足下は半ズボンという、大人ぶったコスチュームをした子供という印象の見た目である。

 

 クセのある金色の髪の下には、思慮(しりょ)の深さを思わせる鋭い眼差しと、眉間(みけん)に深い憂慮(ゆうりょ)をたたえたシワが刻まれている。見た目や声は完全に子供だが、その表情や発言は一般的な子供像とはかけ離れていた。

 

「え……あ……し、支部長……?」

 

 アレックスは目の前の子供の発言が受け入れられなかったのか、答えを求めるように、支部長からやや離れた場所に立つ黒いスーツの男の方を見た。

 

「ええと……この子が形式上の支部長で、アンタが実質仕切ってるってことか……?」

 

「それは支部長への侮蔑(ぶじょく)かね?」

 

 50代くらいの黒スーツ姿の男が、銀縁メガネの奥から冷たい視線を向けた。右頬の大きな傷など、見るからに只者(ただもの)じゃないオーラを放っている。

 ……しかもよく見ると両腕にゴッドイーターの腕輪をしており、腰に2丁の大型拳銃を下げているじゃないか。

 

 あれはひょっとして、旧型の拳銃形式の神機(じんき)なのか……?

 

「よせ、スミス。仕方のないことだ。僕を初めて見た人間はたいてい(あなど)り、くだらんジョークと一笑に付す。むしろ正常な反応だ」

 

 大人びた口調でそう話すエル支部長。やっぱりこの子が支部長ということで間違いないようだ。

 

「マジか……ああ、いや、す、すみません……!!」

 

 アレックスは両手をぴったりと閉じ、腰をくの字に曲げて謝罪した。エル支部長はまったく気にしていないようだったが、後ろのスミスと呼ばれた男性の視線は依然(いぜん)として厳しいままだ。

 

 ……あの人の前で、うっかり支部長をけなすような発言をしないよう気をつけないと。

 

「君達を呼んだ理由。おそらく察しているとは思うが……例のアラガミだ」

 

 執務室の空気が一瞬にして張り詰める。

 

 隊長を喰った、あの黒い化け物のことか……

 

「命名規則に則り、以後あのアラガミは“ニャルラテップ”と呼称するが……君達が帰還する間も観測した所、非常にマズい事がわかった――ドクター!」

 

 エル支部長が呼びかけると、音声を認識したシステムが長机からホログラムを浮び上がらせる。

 

 映像には、白髪交じりの長髪に丸メガネをかけた男性が映っていた。血走った目とその下に深刻なほど黒いクマが、彼の睡眠時間がいかに不足しているかを物語っていた。

 

『ええ、ああ、どうも。今のところ光学カメラに映っております。話に聞いていた光学迷彩とやらは興奮状態では出せないようですなあ……ふうむ実に興味深い!

 例の迷彩を発動させた時、サーモカメラ上も映るのか? それとも赤外線も透過させてしまうのか? 次に発動させた時が全く実に楽しみでして――』

 

「……ドクター」

 

『おお! これは失礼いたしました。ええ、ええ。奏功(そうこう)しております。例の第一部隊員の私服の一部を持たせた鳩ですが、目標がその匂いに反応し後を追っているようですな。第二支部から離れつつあります……今のところは、ですが』

 

 ホログラムの上部に、周辺地図とおぼしきレーダーマップが表示される。ここ第二支部を示す赤丸から、白い逆三角形が徐々に離れていく……これが例の化け物を現しているのだろうか?

 

「じょ、状況がよくわかんねえんですが……とりあえず、あのバケモノはどっか行った、ってことでいいんですか?」

 

 アレックスが期待を込めるように聞くが、エル支部長はよりシリアスに眉根(まゆね)のシワを深める。

 

「えっ……違うんですか……?」

 

「あのアラガミ、“ニャルラテップ”のことだが、どうも奴は他のアラガミに比べて異常なほど偏執的(へんしつてき)な性格をしているようでな。君達が帰還した間も、(かす)かな匂いを頼りにこの第二支部まで近づいてきていた」

 

 あの後も僕達の後を追っていたのか……ゾッと背中が冷えた。

 

「なので今しばらくの対策として、申し訳ないが君達の私室から私服を一着失敬(しっけい)し、切れ端をここで飼っていた鳩に結んで三方へ向けて放った。

 結果として、君達と誤認したヤツは鳩の行方を追ってここから離れつつあるわけだ」

 

 鳩は通信機器が使えなくなった場合に備え、外部との非常用の伝達手段として飼育されていたものらしい。

 

 この第二支部から離れているなら良いことじゃないのか。僕の疑問は、続くエル支部長の言葉が否定した。

 

「……繰り返しになるが、ヤツは異常だ。アラガミは高いエネルギーを放つものにしか執着しないが、ヤツは獲物と認識したものをどこまでも追っていく性質があるようでな……

 放った鳩はいずれ全て喰われ、ヤツが君達ではないと(さと)ったとき、再び君達を追ってこの第二支部へ戻ってくるだろう」

 

 僕達が生きている限り、いつまでも追って来るというのか……?

 

「いや……いや、でも! ここのゴッドイーター全員で戦えば……!?」

 

 アレックスの言葉に、エル支部長は静かに首を振った。

 

「君達との交戦記録を見た。おそらく現在の第二支部の全戦力を投下しても倒せるか否か、といったところだろう。

 ……だがそれは実質的な敗北だ。交戦すればおそらく過半数以上のゴッドイーターが命を落とす。そうなればアラガミに対する第二支部の防衛力は大きく損なわれ、周辺の衛星支部においてはまともにゴッドイーターを派遣することもできなくなる。

 大勢の人々が死ぬ。ここ第二支部の存続も危うくなるだろう……それだけはなんとしても避けたい。」

 

「それじゃ……ど、どうしたら……」

 

「……」

 

 エル支部長が重苦しく沈黙する。

 

その様子に、アレックスが気づいた。

 

「……俺達3人に、犠牲になれ、ってのかよ……!」

 

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