エル支部長は沈黙したまま答えない。それは、アレックスの疑念が真実であることの現れだった。
この第二支部の存続のため、僕達3人を
「クソっ! ふざけんなよ!! 自分らの手に余るから俺らみてえなのは速攻切り捨てるってか!? さすが指導者だ賢い判断だよ!!
「…………」
沈黙を保つエル支部長。すると、後方に控えていたスミスさんが疑問を口にする。
「ディノを差し向けてはいかがです? 彼の実力ならニャルラテップとも渡り合えるかと」
「……いや駄目だ。ヤツの狙いは彼らだからな。ディノが取り逃がした場合、ヤツは真っ先に彼らのいるここ第二支部まで攻め込んでくるだろう……大勢の市民が犠牲になる。
それに、ディノは我々にとって切り札でもある。我らには敵も多い。ニャルラテップの襲来に合わせて仕掛けてくるとも限らんからな」
支部長達の敵とは何なのかはわからないが、僕達が犠牲にならなければここの大勢の人達が犠牲になる……
じゃあ進んで生贄になるしかない、と割り切ることなんて僕には絶対できない。他に、何かほかに方法はないのか……?
「クソ、だったら俺一人でも逃げてやる……あんたらのトカゲの尻尾になる気なんてサラサラねーからな!!」
エル支部長は大きくため息を吐き、アレックスに反論した。
「逃げてもヤツはどこまでも追って来るぞ。それから僕の話もきちんと聞いて欲しい。我々とて、君達のかけがえのない命をむざむざあの化け物にくれてやるつもりもない」
――というと……?
「君達を見捨てはしない。こちらもできる限りのバックアップをしよう」
――それは、あのアラガミと戦うために助っ人を呼んでくれたりとか……?
僕がそう尋ねると、エル支部長は静かに首を横に振った。
「戦うのは君達3人だ。我々は、君達3人があのニャルラテップと戦えるほど強くなるまで、可能な限りサポートをすると約束する」
「……なんだよそりゃ。結局俺達を犠牲にするための
「全ては君達次第だ。ただの生贄となりたくなければ、生きたければ、強くなるしかない」
「……ナメやがって、ふざけんなクソがっ!!」
アレックスはそう吐き捨て、怒りのまま執務室から出て行ってしまった。
僕はエル支部長に向き直り、尋ねた。
――僕達が強くなるためのサポートとはどういうことですか?
「神機を強化するのは君達自身だ……そうか、君はまだ
装甲はより
アラガミのコアさえあれば持っている神機だけでなく、僕自身のフィジカルまで向上するというのか……?
あのニャルラテップの体はアレックスの神機すら全く歯が立たなかった。神機を強化し続ければ、あの化け物とも渡り合えるようになるのか……にわかには信じられないけど……
――では、アラガミのコアはどこで手に入れれば? もしかして、僕達自身で倒すしかない……?
エル支部長は手を組んだままゆっくりと
「我々のサポートとは、君達の神機を強化できそうなアラガミを探し、君達に優先的に討伐を指示することだ。現状の君達の戦力を分析し、それに見合ったアラガミが見つかれば、作戦を練り可能な限り安全に討伐を遂行してもらう。
リアルタイムでのオペレーションはもちろん、必要な物資も迅速に手配しよう。また、何か問題があればいつでも僕宛にメールや通話をしてくれて構わない。遠慮なく頼ってほしい」
強くなるためのサポートとはそういうことか……流石に支部長へ気安く連絡するのは遠慮したい。後ろのスミスさんの視線が怖いし。
「カイ君、他に何か質問は?」
――いえ特には……あ、そういえば、僕の神機捨ててきちゃって……
言った直後、何かキツイ処罰が下されるかも、という心配が胸をよぎった。
けれど、エル支部長は特に気にも
「ああそのことか。君とイリア君の神機のビーコンは確認できている。明日にでも回収作業を言い渡されるだろう」
あ、僕が回収に行くんですね。捨てたの僕なので当然といえば当然ですが。
でもあの化け物が出た場所へまた行くのか……気が重いなあ。
「他に聞きたいことはないかな? では、今夜はゆっくりと休んでくれ。
それから……虫のいい話かもしれないが、我々を信用してほしい。苦難を共に分かち合い、ヤツを打倒したその時は大いに喜びを共有しよう。我々は、僕は、君達を断じて見捨てない」
エル支部長の目はどこまでも真っ直ぐで、その表情に嘘や偽りは一切ないように思えた。
いずれまたあの化け物と戦うことになる……そう考えただけで胸がざわめき、恐怖で心臓がギュッと縮み上がってしまいそうになる。
けれど同時に、わずかながら希望も見えた。
アラガミを討伐し続けて神機を強くする。成長して強くなり倒せばいい。やることは極めてシンプルだ。
アレックスと同じく、僕も生贄になるつもりなんてない。
強くなる。生きるために、戦う……!
僕は支部長に一礼し、執務室を後にした。
「さて……ああ、なんだこれは……スミス、見てみろこれを」
「前任の支部長の都市計画書ですか……なるほど、全てAIに丸投げしてますな、これは」
「典型的な無能だな。AIは失敗しない。過去の例を元に最もリスクの低い施策を選ぶ、
「では、紅茶を
背後で支部長のうめき声を聞きながら、僕は執務室の扉を閉めた。
うーん、どこからどうみても子供にしか見えなかったけど。あの話しぶりから見て、やっぱり凄い人なんだろうなあ、エル支部長。