「なあ、さっきのやつ……どうやったんだ?」
倒れたバイクを引き起こしながら、アレックスが僕に問いかけた。
「昔な、ゴッドイーターの戦いを見たことがある。アラガミを“捕食”するとよ、そこからパワーアップしたみたいな身のこなしで、アラガミを
アレックスはバイクについた砂を一通り落とすと、首を
「……けど、お前のさっきのやつは、昔見たやつとは比べものにならない、
『
僕が口を開くより先に、
『捕食は1回につき1ポンドが上限です。しかしあの時、カイさんは3ポンド以上を神機に捕食させたように見受けられました……つまり、
思い起こす。コンゴウに右腕の腕輪を破壊され、複数の緊急用アンプルが腕に突き刺さりブラックアウトしてしまったことを。
しかし、
「……いいぜ。まともな方法であの化け物に勝てるとも思えねえ。
アレックスの発言に、僕は驚いて彼を見返した。
「なんだよ……まあ、なんだ。訓練サボっててもよ、結局あの化け物はやってくる……逃げても逃げた先に現れるってんだろ? やるしかねえって、俺も腹くくったよ」
彼はばつが悪そうに頭を
「やろうぜ。一緒にあの化け物をぶっ倒そう、
リーダー呼ばわりはまだ違和感があったけど、僕は笑顔でその手を握った。
ここに信頼できる仲間がいる。そのことがなによりも嬉しかったのだ。
『しかし、先ほどの捕食は――』
「うるせえな。リスクがあるってのはわかってんだよ。ようはオーバーフローってのを起こさないようさっきのヤツを使いこなせばいいだけだ……ってか、さっきの捕食、なんていうんだ?」
ほ、捕食方法の名前? いや、ディノから教わった通りに捕食をしただけなんだけど……
――
「お、いいじゃねえか! 喰潰だな。必殺技みてえじゃん! へへへ」
アレックスはひしゃげたバイクを押しながら楽しげに笑った。意外とそういうノリ好きなのか……
「しかしよー、さっきの中型、コアごとブッ壊したのは惜しかったなー。あれ持ち帰ってりゃあ、俺達の
確かに……勢いでコアまで斬ってしまったのはもったいなさ過ぎる……
「けど、確かコア一つにつき強化できる神機は一つまでなんだよな……誰の神機を強化するかって話だが、こうしねえか? 戦闘で一番
――それでいいと思う。けど、
「あー、その場合はあれだな。平等に山分けだな。俺とお前と……あ、アイツ。あいつそういや大丈夫なのか? 食堂にも来ねえって聞いたぞ?」
イリアのことか。そうだ。アレックスは協力してくれるようになったけど、今度は彼女のことをどうにかしなければ……
って、ちょっと待った! 僕の今日の任務は彼女の神機の回収も含まれてるんだった! たしかトリガーのいた廃屋に置かれていたはず。取りに行かないと!
「おーいリーダー! この先の街外れに回収のトラックが来るってよー! 遅れんなよー! はははっ」
そう言い、アレックスはトラックのいる方角へ急に
大慌てで廃屋に戻り、手袋を
ハア……まったく。
僕は遅れないよう、フギンがナビゲートする方角へ向けて駆けだした。
その途中に、夕暮れの中、廃墟群の暗い影に落ちる燃え尽きたトラックの残骸と、流血が広がる
……以前にも感じた無力感が胸に到来する。
アラガミに故郷を追われ、難民キャンプへ逃げても再びアラガミに襲われ、混乱のさなかに両親と生き別れてしまった。
苦しい状況でも、親友だったマックスとお互い力を合わせて生きていた――その大切な親友も、アラガミに喰われて失ってしまった。
昔読んだコミックスで、怪物に両親を殺された主人公が復讐を誓い、怪物を倒す秘密組織に入団する、という話があった。大切な人を突然奪われれば怒りが
けれど僕は、何度もアラガミに襲われ、親友まで殺されたのに、復讐してやろうと考えたことはなかった。全ての怪物を抹殺すると誓うあの主人公のような気持ちは湧かなかった。
ただ……無力感があった。アラガミにはどうやっても勝てない。巨大な自然災害に立ち向かってもどうしようない、というような……諦め、絶望、己の無力さという現実にただ押し潰されるだけだったのだ。
今日、僕は初めてアラガミを倒した。犠牲になったあのおじさんのカタキを取ることができた。
今さら親友の復讐を果たそうという気持ちはない。あるいは人々を守るために戦う、という
僕が戦う目的は生き
……だから、これは“願い”だ。
僕がアラガミと戦い続けることで、誰かの生活を守れれば。あのニャルラテップを倒すことが、誰かの希望になれば。
その時こそ僕の戦いに意義が生まれて、失ってきたもの全てが
“終わりのない、未来もない戦い”とトリガーは言った。
だからこそ。願おう。どうか、これからの戦いがこの世界の未来に
◆◆◆
第二支部、センタースワンに戻った僕は、
どっと疲労感が背中にのしかかり、思わず深いため息を吐いた。
と、背後でゴロゴロと何かが動く音。振り返ると――
「よう、カイ」
アレックスだった。見ると、あのコンゴウに壊されたバイクをこの保管庫まで押して来ていた。
――ど、どうしたのそれ……?
「おう、これか。へへへ、このバイク返しに行ったらよ、壊れちまってるから処分するっていうからよ……じゃあもらっていい? って聞いたらどうぞどうぞってよ! 単車タダでもらっちまったぜ! ここで直して乗りまくってやるぜ~!」
――ここで、って……保管庫で直すってこと? いいのそれ?
「別にいいだろ? こんだけ広いんだからよー。
そう言い、この保管庫から持ち出したのか、レンチやペンチが納められた工具箱を置いて、アレックスはさっそく修理に取りかかった。
いや流石に許可とらないとマズいでしょ、と言いかけたその時。
「オイコラ! 保管庫で何やってんだてめえ!!」
「ああ? あー、まあいいじゃんか。邪魔にならねー所で修理させてくれよ」
「馬鹿かてめえ! この保管庫のスペースはてめえのために
「……ああ?」
激しい
ま、待つんだ! ヘンリーさんは僕達の神機を管理してくれる大事な人だし、それにかなり筋肉質だけど髪もヒゲも白く染まってる60代のお
「……黙って聞いてりゃよお……んだ? ケンカ売ってんのか? あ? ジジイ?」
「馬鹿に馬鹿っつって何が悪いんだクソボケ! つうか、お前なんだその配線の
「えっ……マジ?」
キレかけてたアレックスの顔から、サッと血の気が引いた。
「ウソついてどーすんだボケっ! つうか……オイオイオイ、これ直すつもりだったのか? ほぼスクラップだぞオイ。ゴミ引き取って大喜びたあとんだ大マヌケだなあお前? ああ?」
「ま、マジかよ……」
「あーあーあー。なんもかんもオシャカじゃねえか。こりゃ修理っつうか総
腕組みをしながらブツブツ呟くヘンリーさん。そんな彼の様子に、アレックスは何やら尊敬の
「な、なあジイさん、直してくれとは言わねえ。俺に直し方教えてくれねえか……?」
「ハア? オメー何タダで教えてもらおうとしてんだ!? 俺はテメーの教師でもママでもねえんだぞ!? タダで教えるわけねーだろこのタコ!!」
「ぐっ……め、迷惑は、か、掛けねえからよ……この通り、教えてください……!」
「ハッ、頭下げて思い通りになると思ってんならアラガミにでもペコペコしてこいクソアホ。は~……バイクの部品なんざ余ってたかねえ?」
「く、く、クソジジイがーっ!!」
なんだろう……途中から口の悪いオジイと口の悪い孫の不毛な言い争いのような感じになってきたな……
メチャクチャ
と、
どうやらメールのようだ。
『――よう。無事に戻って来てくれて何よりだ。
KIA認定されてたって聞いてショックだったかもしれないが……実はな、その情報はアレックスの端末にしか流されていない。
部屋に引きこもってるアレックスを
支部長はお前さんが生きていると信じていた。もちろん、俺もな。
そんだけだ。支部長のこと、少しは信じてやってくれ。お前等を
PS. アレックスの奴にはバラすなよ? アイツの性格だと絶対支部長の所まで
…………
『嬉しそうですね、カイさん』
フギンの声で、僕は無意識に自分の
――嬉しいさ。僕を、こんな僕を、信じてくれる人がいるってことがさ。
『私も信じていますよ。あなたはきっと誰よりも強くて……誰よりも優しい戦士になれます』
――ありがとう。
メールの内容を読みながら、僕は左手で僕の神機をなでた。
僕がこうやってのんきにしていられるのも、この僕の神機のおかげだ。ニャルラテップを前にして置き去りにした、こんな僕のために力を尽くしてくれた……感謝しかない。僕がここにいるのはこの神機のおかげでもあるのだ。
すると。
何か
……ん?
端末から、自分の手の平へ視線を移す。
そこには。
クウン、クウン、と。
まるで犬のように高い声で僕の手を
見て、ギョッとした。
神機が、僕の神機が、四つの足を生やして地面に立ち、まるで大型犬のように僕の手を舌で舐め回している……
――え……?
バウッ!!
神機の