ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【願い】

「なあ、さっきのやつ……どうやったんだ?」

 

 倒れたバイクを引き起こしながら、アレックスが僕に問いかけた。

 

「昔な、ゴッドイーターの戦いを見たことがある。アラガミを“捕食”するとよ、そこからパワーアップしたみたいな身のこなしで、アラガミを翻弄(ほんろう)するように戦っててよ……」

 

 アレックスはバイクについた砂を一通り落とすと、首を(めぐ)らせて僕を見()えた。

 

「……けど、お前のさっきのやつは、昔見たやつとは比べものにならない、隔絶(かくぜつ)した“強さ”ってやつを感じた……教えてくれよ。一体何をどうしたんだ……?」

 

承服(しょうふく)できません』

 

 僕が口を開くより先に、(ふところ)からフギンが危惧(きぐ)を発した。

 

『捕食は1回につき1ポンドが上限です。しかしあの時、カイさんは3ポンド以上を神機に捕食させたように見受けられました……つまり、喰能過剰解放(オーバーバースト)状態であったと推測(すいそく)されます。規定(きてい)量以上の捕食は“オーバーフロー”のリスクを拡大させます……運が良ければその場で昏倒(こんとう)するでしょう。運が悪ければ……』

 

 思い起こす。コンゴウに右腕の腕輪を破壊され、複数の緊急用アンプルが腕に突き刺さりブラックアウトしてしまったことを。

 

 偏食物質(へんしょくぶっしつ)過剰摂取(かじょうせっしゅ)による意識消失……オーバーフロー。確かにフギンの言う通りかもしれない。

 

 しかし、

 

「……いいぜ。まともな方法であの化け物に勝てるとも思えねえ。()()にはあの力が必要だ」

 

 アレックスの発言に、僕は驚いて彼を見返した。

 

「なんだよ……まあ、なんだ。訓練サボっててもよ、結局あの化け物はやってくる……逃げても逃げた先に現れるってんだろ? やるしかねえって、俺も腹くくったよ」

 

 彼はばつが悪そうに頭を()き、その後右手を差し出した。

 

「やろうぜ。一緒にあの化け物をぶっ倒そう、()()()()

 

 リーダー呼ばわりはまだ違和感があったけど、僕は笑顔でその手を握った。

 

 ここに信頼できる仲間がいる。そのことがなによりも嬉しかったのだ。

 

『しかし、先ほどの捕食は――』

 

「うるせえな。リスクがあるってのはわかってんだよ。ようはオーバーフローってのを起こさないようさっきのヤツを使いこなせばいいだけだ……ってか、さっきの捕食、なんていうんだ?」

 

 ほ、捕食方法の名前? いや、ディノから教わった通りに捕食をしただけなんだけど……

 

 ――結合崩壊(けつごうほうかい)させて……喰い(つぶ)して……しょ、喰潰(しょくつい)……?

 

「お、いいじゃねえか! 喰潰だな。必殺技みてえじゃん! へへへ」

 

 アレックスはひしゃげたバイクを押しながら楽しげに笑った。意外とそういうノリ好きなのか……

 

「しかしよー、さっきの中型、コアごとブッ壊したのは惜しかったなー。あれ持ち帰ってりゃあ、俺達の神機(じんき)もけっこう強くなってたろ?」

 

 確かに……勢いでコアまで斬ってしまったのはもったいなさ過ぎる……

 

「けど、確かコア一つにつき強化できる神機は一つまでなんだよな……誰の神機を強化するかって話だが、こうしねえか? 戦闘で一番貢献(こうけん)したMVPが優先してコアを使うってのは? これなら不公平感はねえだろ?」

 

 ――それでいいと思う。けど、討伐(とうばつ)するアラガミが複数の場合は? 小型とか大勢出てくる場合もあるらしいけど。

 

「あー、その場合はあれだな。平等に山分けだな。俺とお前と……あ、アイツ。あいつそういや大丈夫なのか? 食堂にも来ねえって聞いたぞ?」

 

 イリアのことか。そうだ。アレックスは協力してくれるようになったけど、今度は彼女のことをどうにかしなければ……

 

 って、ちょっと待った! 僕の今日の任務は彼女の神機の回収も含まれてるんだった! たしかトリガーのいた廃屋に置かれていたはず。取りに行かないと!

 

「おーいリーダー! この先の街外れに回収のトラックが来るってよー! 遅れんなよー! はははっ」

 

 そう言い、アレックスはトラックのいる方角へ急に()けだした。ちょ、ちょっと僕を置いて行かないでよ!

 

 大慌てで廃屋に戻り、手袋を()めて彼女の神機を持って出た。そして当然のごとくアレックスの姿はすでにない。

 

 ハア……まったく。

 

 僕は遅れないよう、フギンがナビゲートする方角へ向けて駆けだした。

 

 その途中に、夕暮れの中、廃墟群の暗い影に落ちる燃え尽きたトラックの残骸と、流血が広がる墓標(ぼひょう)のような岩を見た。

 

 ……以前にも感じた無力感が胸に到来する。

 

 アラガミに故郷を追われ、難民キャンプへ逃げても再びアラガミに襲われ、混乱のさなかに両親と生き別れてしまった。

 

 苦しい状況でも、親友だったマックスとお互い力を合わせて生きていた――その大切な親友も、アラガミに喰われて失ってしまった。

 

 昔読んだコミックスで、怪物に両親を殺された主人公が復讐を誓い、怪物を倒す秘密組織に入団する、という話があった。大切な人を突然奪われれば怒りが()く。憎しみを募らせる……それは当然の反応なのかもしれない。

 

 けれど僕は、何度もアラガミに襲われ、親友まで殺されたのに、復讐してやろうと考えたことはなかった。全ての怪物を抹殺すると誓うあの主人公のような気持ちは湧かなかった。

 

 ただ……無力感があった。アラガミにはどうやっても勝てない。巨大な自然災害に立ち向かってもどうしようない、というような……諦め、絶望、己の無力さという現実にただ押し潰されるだけだったのだ。

 

 今日、僕は初めてアラガミを倒した。犠牲になったあのおじさんのカタキを取ることができた。

 

 今さら親友の復讐を果たそうという気持ちはない。あるいは人々を守るために戦う、という崇高(すうこう)な目的もない。

 

 僕が戦う目的は生き()びるため。あくまでも自分自身のため……それなのに復讐や意義のためなんて言うのは、きっとおこがましい事なんだろう。

 

 ……だから、これは“願い”だ。

 

 僕がアラガミと戦い続けることで、誰かの生活を守れれば。あのニャルラテップを倒すことが、誰かの希望になれば。

 

 その時こそ僕の戦いに意義が生まれて、失ってきたもの全てが(むく)われるのかもしれない。

 

“終わりのない、未来もない戦い”とトリガーは言った。(はた)から見れば僕の戦いは無駄なあがきに見えるのだろう。

 

 だからこそ。願おう。どうか、これからの戦いがこの世界の未来に(つな)がってくれることを。それだけを希望に……戦い続けるんだ。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 第二支部、センタースワンに戻った僕は、神機保管庫(じんきほかんこ)のハンガーに僕とイリアの神機を(おさ)めた。

 

 どっと疲労感が背中にのしかかり、思わず深いため息を吐いた。

 

 と、背後でゴロゴロと何かが動く音。振り返ると――

 

「よう、カイ」

 

 アレックスだった。見ると、あのコンゴウに壊されたバイクをこの保管庫まで押して来ていた。

 

 ――ど、どうしたのそれ……?

 

「おう、これか。へへへ、このバイク返しに行ったらよ、壊れちまってるから処分するっていうからよ……じゃあもらっていい? って聞いたらどうぞどうぞってよ! 単車タダでもらっちまったぜ! ここで直して乗りまくってやるぜ~!」

 

 ――ここで、って……保管庫で直すってこと? いいのそれ?

 

「別にいいだろ? こんだけ広いんだからよー。(はし)っこに停めてても別に邪魔になんねーだろ?」

 

 そう言い、この保管庫から持ち出したのか、レンチやペンチが納められた工具箱を置いて、アレックスはさっそく修理に取りかかった。

 

 いや流石に許可とらないとマズいでしょ、と言いかけたその時。

 

「オイコラ! 保管庫で何やってんだてめえ!!」

 

 語気(ごき)の荒いダミ声が保管庫中に響き渡る。振り返ると、ここの整備技師で主任のヘンリーさんが、怒り心頭でズカズカとこちらへ歩いてきていた。

 

「ああ? あー、まあいいじゃんか。邪魔にならねー所で修理させてくれよ」

 

「馬鹿かてめえ! この保管庫のスペースはてめえのために()けてんじゃねえんだぞクソガキ!! あげく勝手に工具まで持ち出し腐りやがってブッ殺すぞ!!」

 

「……ああ?」

 

 激しい罵倒(ばとう)が頭にきたのか、ゆらりと立ち上がるアレックス。

 

 ま、待つんだ! ヘンリーさんは僕達の神機を管理してくれる大事な人だし、それにかなり筋肉質だけど髪もヒゲも白く染まってる60代のお(じい)さんだ!! ケンカはまずいよ!!

 

「……黙って聞いてりゃよお……んだ? ケンカ売ってんのか? あ? ジジイ?」

 

「馬鹿に馬鹿っつって何が悪いんだクソボケ! つうか、お前なんだその配線の(つな)ぎ方!? オメーこれエンジン掛けたら爆発するぞ!? 知識もねーのに適当に直してんじゃねえっ!!」

 

「えっ……マジ?」

 

 キレかけてたアレックスの顔から、サッと血の気が引いた。

 

「ウソついてどーすんだボケっ! つうか……オイオイオイ、これ直すつもりだったのか? ほぼスクラップだぞオイ。ゴミ引き取って大喜びたあとんだ大マヌケだなあお前? ああ?」

 

「ま、マジかよ……」

 

「あーあーあー。なんもかんもオシャカじゃねえか。こりゃ修理っつうか総()()えするレベルだぞ。新車買った方が(はる)かに早えだろうな……直すとすりゃあ、もうこのエンジン取っ払っちまって……マフラーも歪んでんな。だがこいつは板金(ばんきん)でなんとかなるか……」

 

 腕組みをしながらブツブツ呟くヘンリーさん。そんな彼の様子に、アレックスは何やら尊敬の眼差(まなざ)しのようなものを向け始めた。

 

「な、なあジイさん、直してくれとは言わねえ。俺に直し方教えてくれねえか……?」

 

「ハア? オメー何タダで教えてもらおうとしてんだ!? 俺はテメーの教師でもママでもねえんだぞ!? タダで教えるわけねーだろこのタコ!!」

 

「ぐっ……め、迷惑は、か、掛けねえからよ……この通り、教えてください……!」

 

「ハッ、頭下げて思い通りになると思ってんならアラガミにでもペコペコしてこいクソアホ。は~……バイクの部品なんざ余ってたかねえ?」

 

「く、く、クソジジイがーっ!!」

 

 なんだろう……途中から口の悪いオジイと口の悪い孫の不毛な言い争いのような感じになってきたな……

 

 メチャクチャ罵詈雑言(ばりぞうごん)が飛び()ってるけど、実はこの二人けっこう気が合っているんじゃないだろうか。メチャクチャ罵詈雑言飛び交ってるけど。

 

 と、(ふところ)の端末から着信音。

 

 どうやらメールのようだ。差出人(さしだしにん)は……フリードさんだ。

 

『――よう。無事に戻って来てくれて何よりだ。

 

 KIA認定されてたって聞いてショックだったかもしれないが……実はな、その情報はアレックスの端末にしか流されていない。

 

 部屋に引きこもってるアレックスを()きつけるために、支部長がわざとあいつの端末に流したのさ……KIA認定してる奴を探すとか言う奴に、わざわざバイクまで貸してやるわけねえだろ? そういうことだ。

 

 支部長はお前さんが生きていると信じていた。もちろん、俺もな。

 

 そんだけだ。支部長のこと、少しは信じてやってくれ。お前等を(あん)じている心はホンモノだってことを分かって欲しかった。そんだけの話さ。

 

 PS. アレックスの奴にはバラすなよ? アイツの性格だと絶対支部長の所まで怒鳴(どな)り込みそうだからよ。今日はゆっくり休め……おかえり、カイ』

 

 …………

 

『嬉しそうですね、カイさん』

 

 フギンの声で、僕は無意識に自分の口角(こうかく)が上がっていることを認識した。

 

 ――嬉しいさ。僕を、こんな僕を、信じてくれる人がいるってことがさ。

 

『私も信じていますよ。あなたはきっと誰よりも強くて……誰よりも優しい戦士になれます』

 

 ――ありがとう。

 

 メールの内容を読みながら、僕は左手で僕の神機をなでた。

 

 僕がこうやってのんきにしていられるのも、この僕の神機のおかげだ。ニャルラテップを前にして置き去りにした、こんな僕のために力を尽くしてくれた……感謝しかない。僕がここにいるのはこの神機のおかげでもあるのだ。

 

 すると。

 

 何か生暖(なまあたた)かいものが、僕の手の平を何度も行き来する感触があった。

 

 ……ん?

 

 端末から、自分の手の平へ視線を移す。

 

 そこには。

 

 クウン、クウン、と。

 

 まるで犬のように高い声で僕の手を()め回す何か。

 

 見て、ギョッとした。

 

 神機が、僕の神機が、四つの足を生やして地面に立ち、まるで大型犬のように僕の手を舌で舐め回している……

 

 ――え……?

 

 バウッ!!

 

 神機の(つか)を尾のようにブンブン振り、神機は僕に向かって嬉しそうに鳴いた。

 

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