――うわあっ!
異常な状況に僕は思わず飛び
頭部や背中に掛けて見える銀色のブレード、腰から後ろ足に付いている装甲板……見慣れたそれは間違いなく僕の神機だった。
しかし目の前の犬のような存在は、通常とは違い体毛はなく、黒い肉塊が強引に犬の形状を取っているような、けっこうグロテスクな見た目をしている……左右3対の複眼は、捕食時に現れた
「お、オイ! カイ、なんだそれっ!?」
「うおっ!? 神機の暴走かっ!?」
アレックスとヘンリーさんが揃って
い、いや、僕にも何が何やら……
「……そこから離れろ。危険だ」
反対方向から冷静な声が届いた、振り返ると、ダークグリーンの髪色をしたゴッドイーターの少年が、こちらに向けてガトリング形式の神機の銃口を向けていた。
言われた通り後ずさるものの、僕の神機はクウンクウンと鳴きながらすぐに僕の足下に近寄ってきてしまう。こ、これ離れようがないよ!
「誰か
処分!? 僕の神機を!? コンゴウとも戦った大事な武器なんだ! 失うわけにはいかない!
僕が抗議の声を上げようとした瞬間、唐突に保管庫入り口から
「ファンタスティック! なんたる奇跡! 自立意思で動き回る神機とはっ!!」
見ると、黒いシミがいくつもついた白衣に緑色の手術衣のようなものを着た、長身長髪の男性が満面の笑みでこちらに近づいて来ていた。
見たことがある。確か……昨日エル支部長のデスクから通話を行っていた人。ドクター・Q.Oという人だったっけ。
「素晴らしいっ!! 全く実に大変に興味深いっ!! うん? なんだ君は!? そんな無粋なものを向けるんじゃないよ!! 全く実にけしからんっ!!」
ドクターは
「え……いや、待ってください!! 近づくのは危険です!!」
「フン、これのどこが危険だというのかね? 実にかわいらしいワンコではないかね? んん?」
かわいい……? いや、普通の犬なら可愛いと思うけど、見た目が……
バウッ!
と僕の神機がまた嬉しそうに鳴いた。見た目は全然受け付けないけど、とりあえず処分は
「いやあ、カイ君だったかな? 実に君に
――え、名前って……ポチとかそういうやつですか……?
すると。
バウワフッ!
僕の神機は
「ほう。ポチ君かね? 何か小物類が色々入りそうな良い名前だねえ。よしよし、報告書もその名で書かせていただこう」
あああ……適当に言った名前で決定してしまった……
「お、おいカイ……大丈夫なのかよそいつ……」
恐る恐る声を掛けるアレックスに、僕は「一応安全っぽいかな」と答えた。
「まあ、安全といっても神機だからねえ! カイ君以外が不用意に触れば即座に食われてしまうだろうねえ!! わははは!!」
すみません、今の発言の笑いどころを教えてください。
「はあ……見れば見るほど研究のアイディアがムラムラと
いやこの時代にそんな相手に誓うのおかしくないですか?
「なんだったらそう、君の神機を強化できる方向で研究をしようじゃないか! 君、確か
もちろん強くなることに問題はないんですが、怪しすぎるあなた自身に問題がありまくりなんですよね……
まあでも、何か変なことをしようとすれば、支部長に止めてもらえばいいんだし、やっぱり悪い話じゃないかもしれない。
その研究とやらに僕も同席することを絶対条件として、僕はドクターの提案を
「うはあ~っ!! 恩に着る!! 着まくりまくるよ君ぃ!! ポチ君もよろしく頼むよ~っ!! うははははははっ!!」
うわやっぱやばそう。
軽快なステップを踏みながらウキウキで保管庫を後にするドクターを見送り、僕達は
「なあ……その神機、どうすんだ? わ、ワシが面倒みるのか……?」
ヘンリーさんが顔を引きつらせながらそう
どうやったら元の姿に戻ってくれるんだろう。直接言ったら聞いてくれるかな?
よし――
――ポチ! 元の姿に戻れ!
すると。
バウっ! とポチは
「た……たまげたな、こいつぁ……」
「なんなんだよ、どうなってんだお前の神機……」
うんまあ、それは僕自身が一番聞きたいんだけど……
「……よく分からないが、暴走ではないようだし、僕はこれで失礼する。ああ、君達の上司にもこのことは報告したほうがいいだろうね」
ガトリング形式の神機使いは自分の神機をハンガーに安置し、足早に立ち去っていった。終始冷静な振る舞い、けっこうな実力者なのかもしれないな……
上司に報告かあ。フリードさんにメールで送ればいいんだろうか?
携帯端末を取り出すと、新しいメールの通知が目に入った。
差出人は……エル支部長だ!
『無事に帰還を果たしてくれたこと、心から嬉しく思う。
あのコンゴウについてはすまなかった。恐らく奴も先日の小型アラガミ同様、ニャルラテップに追われてあの街にやってきたのだろう。
ヤツから逃れるため街中に身を隠し、そしてまたあの街にエサとなる車がやってくることを見越して息を潜めていた、と考えられる。ともかく、事前に危機を察知できなかったこちらの落ち度だ。
ここからが本題だ。
イリア君に関わることだが、彼女の心理ケアのため、この男が明日からここセンタースワンに訪れるそうだ。
……いやに
どこから嗅ぎつけて来たのか、彼女の不調を知り、自らこちらへ接触をしてきた。
過去にイリア君の心理カウンセリングを行っていたのは事実のようだが……経歴を探っても情報がほとんど出てこない。非常にキナ臭い男だ。
しかしイリア君をあのまま放っておくことはできない。会うことは許可したが、念のためリーダーである君にこの男の監視を任せたい。
明日の10時にイリア君の自室でカウンセリングを行うとのことだ。怪しい動きをすればその場で
添付されたファイルを開いてみる。
頭にバンダナを巻き、サングラスを掛けた小太りの中年男性の姿が写った。
極東出身の心理療法士……
画像の右側に、『オオグルマ・ダイゴ』との名前が記載されていた。