ゴッドイーター/レッドストーム   作:アガラちゃん

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【オペレーター・レイン】

 小型アラガミの群れが南にある衛星支部に近づいている――昼食の最中、携帯端末から知らせを受け、僕はアレックス、そしてイリアの2人とともに、食事を中断して神機格納庫へと急ぐ。

 

 事態は急を(よう)するようだ。フリードさんからヘリを使って急行するよう連絡があった。

 

 神機を手にヘリポートに向かうと、すでにヘリが1機スタンバイ状態で待機中。僕たちは素早く乗り込み、備え付けのハンガーに神機を固定すると、ヘリはローターの風切り音を響かせて離陸をしたのだった。

 

「フン、アラガミ共のランチタイムってわけか? 逆に神機のオヤツにしてやろうぜ、なあリーダー」

 

 アレックスの声には若干(じゃっかん)の緊張の色があった。アラガミとの戦闘はこれで3度目だが、そうそう簡単に慣れるものでもないだろう。

 

 僕自身、あのコンゴウを倒したものの、これから戦闘に(のぞ)むとなると手に汗がにじんでしまう。レオナルド隊長のように、リラックスした状態で小型アラガミを倒せるようになるにはどれくらいかかるんだか……

 

 ……いや、それよりも気がかりなのは……

 

「……アジン、ドゥバ、トゥリー……アジン、ドゥバ、トゥリー……」

 

 イリアだ。視線を落としたまま、まるで何かにとりつかれているかのように、ひたすら同じ言葉をつぶやき続けている。

 

(おい、あいつ大丈夫か?)

 

 アレックスが小声で僕に尋ねる。「もう大丈夫」と彼女は言っていたが……やはりまだ不安定なところがあるようだ。

 

 ……そもそも、あのオオグルマという心理療法士は本当に正しい治療を行ったのだろうか? あの男は、やはりどこか信用できない。

 

『第一部隊、聞こえますか? こちらはTOC(戦術作戦センター)のオペレーション担当のレインです。今回あなた達の作戦のサポートをさせて(いただ)きますので、よろしくお願いいたします。』

 

 落ち着きのある女性の声が、服の(えり)部分に縫い付けられた防水膜から響いた。膜の内側には小型マイクとスピーカーが埋め込まれており、戦闘をしながらでもハンズフリーで通話ができるようだ。

 

 僕がレインさんに挨拶を返すと、彼女はすこし申し訳なさそうに話す。

 

『……あなた達には立て続けにイレギュラーな事態が起こり、これまで満足にサポートを行うことができませんでした。ようやくあなた達と共に作戦に参加できること、嬉しく思います』

 

『レインさんの状況把握・分析・決断速度は第二支部でもトップクラスとされています。きっと皆さんの戦いも十二分にサポートしてくれますよ』

 

 フギンが褒め(たた)えると、マイクの向こうからため息が聞こえた

 

『……フギン、あなたはいつも余計よ……ああ、第一部隊の皆さん、私はあなた達の携帯端末を通じて通信をしています。どこかのカラスがうるさくても、くれぐれも端末の電源は切らないようお願いします』

 

『どこかのカラスとは私、フギンのことでしょうか? 皆さん、電源は切らないようにしてくださいね?』

 

 間の抜けたフギンの発言に、今度はアレックスがため息を吐いた。

 

……なんだか少しだけ緊張がほぐれた気がする。

 

 けれど、これから待つのはアラガミとの戦闘。しかも小型とはいえ群れでやってきているのだ。油断はできない。

 

 僕はヘリの窓から、これから向かう戦地を見晴るかした。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ファストロープだ! 現場へ急行してくれ!!」

 

 ヘリに同乗(どうじょう)していた軍服の男性が、ヘリのドアを開け放ちながら、太い一本のロープを下に垂らした。

 

 このロープを伝って下に降りろというのだろうけど……た、高い……ヘリは地上から40メートル近い高さでホバリングしている。もしヘリの風圧でロープから手を放してしまったら……

 

「アラガミがいつ衛星支部の奴らを襲うかわからねえ。急ごうぜ、リーダー!」

 

 背後からアレックスの声。そうだ。重要なのは、衛星支部の人々に危機が迫っていること。こんなところでビビっている暇なんてない!

 

 僕はロープを左手で握り、右手の神機を肩に担ぎながら、意を決してロープを伝い降下した。

 

 重力に従い滑り降りていると、ロープを挟んだ両足と左手が摩擦で一気に発熱する。僕は左手に力を入れて一度降下を止め、熱を抑えるために手足でブレーキングしつつ降下した。

 

 途中でロープの長さが足りず、4メートルくらいで落下。めちゃくちゃ足は痛いが、GEとなったこの肉体だからか、怪我を負うことはなかった。めちゃくちゃ足は痛いが。

 

「……だっ!! クソ、痛ってえ……!!」

 

 アレックスも無事着地。彼の神機は大きいし、ことさら足は痛いだろう。そんな彼の隣へイリアがまるで猫のように静かに着地してみせた。

 

 僕は足の痛みをこらえながら立ち上がり、周囲の様子をうかがった。

 

 衛星支部……ここは、アメリカ支部や第二支部に受け入れられなかった人々が住む、支部とは名ばかりの難民が住まう集落だ。廃墟同然の建物と、その間に建つ簡素なテント群が、その集落の経済状況を如実(にょじつ)に物語ってる。

 

 各国支部では食料や電力を自前で(まかな)う「アーコロジー」を構築しているが、生産できる食料や電力にも限界はある。

 

 支部外の都市や村からやってきた大勢の人々、難民すべてに食料を分け与えるほどの余裕はなかった……そこで“衛星支部”として、支部の外へ集落を作り、あぶれた人々には古代から行われた自給自足の生活を強いる……それがこの世界の現実であった。

 

 もちろん、衛星支部と銘うっている以上、放置しているわけではない。アラガミの襲来に備え、FP(フルピーキー)弾を装備した非ゴッドイーターの部隊を常駐させているし、その部隊の手に余るような相手であれば、こうして僕たちのようなGE(ゴッドイーター)が支部から派遣されることもある。

 

 ちなみに、アラガミなどの襲来は各衛星支部よりも外側に建つ“塔”とよばれる建物から報せが届くらしい。その塔には支部のGEが食料を持参して住み込んでいるらしく、討伐可能な相手であれば現地のGEが始末しているそうだ。

 

 と、僕たちへ向かって走り寄る軍服姿の男性が見えた。ここに常駐していた部隊の人なのかもしれない。

 

「お前ら、GE(ゴッドイーター)だな!? アラガミの群れに攻めこまれている! ここからそう、8時の方角だ!! すぐに向かってくれ!!」

 

 まずい……もう集落まで入り込んでいるのか……!

 

「やばいぜリーダー、すぐ行こう!!」

 

 ——いや、アレックス。その前に確認したい。現場までの距離はどれくらいですか?

 

「そ、そうだな……走って30分くらいはかかる。ここの住人は俺たちが誘導しているが、まだあそこに人が残っているかもしれん。すぐに向かってくれ!!」

 

 走って30分……遠すぎる。GEとなり走る速度や体力も大きく上がったが、それでも現場に到着し人々を守るには遅い。ここは車両か何かを探すべきか……?

 

 その時だった。

 

 ガウッ!!

 

 僕の神機——ポチが()え、いきなり四つ足の黒いオオカミ形態になってみせた!

 

「うわあっ!?」

 

 軍服姿の男性が驚きのあまり尻もちをついていたが、構ってなどいられない。

 

 ——どうした、ポチ?

 

 …………

 

 ポチは8時に方角を見据え、後ろ足を地面につけて僕に背中を見せた。

 

 これは……“自分の背に乗れ”、と言っているのだろうか……?

 

『第一部隊リーダー! 大丈夫ですか!? 神機が、あなたの神機が!? ぼ、暴走……!?』

 

「えーと、レインさんだっけ? だ、大丈夫だよ。あのドクターとか支部長とかに話聞いてなかったか? リーダーの神機は、その、特殊なんだよ。だから大丈夫だよ……たぶん」

 

 驚くレインさんに対し、アレックスが歯切れの悪い返答をした。まあ、僕もポチがなんなのかわかってないことも多いから、“たぶん大丈夫”以上のことは言えないんだよな……

 

『……確認、取れました。変形される神機? なんですね……ど、どういうこと……?』

 

 レインさんが戸惑う気持ちは良くわかる。けれど、今はおびえたり戸惑ったりしている場合じゃない。

 

 ——僕を乗せてくれるのか……?

 

 バウッ!

 

「当然だ」と言わんばかりにポチが吠える。すると、

 

 ズリュッ!

 

 背中と頭部に生える刃が腹部に移動し、代わりに尾のように伸びていた神機の(つか)が、肩甲骨の中心へと移動した。

 

 ……なるほど。これにつかまって背に乗れというのか。

 

 ——わかった。頼むぞ、ポチ!

 

 グオァッ!!

 

 僕が柄を(つか)むと同時に、ポチの体格が一瞬で2倍近い大きさに肥大した!

 

まるで虎のような大きさになったポチは、僕を軽々と乗せて凄まじい速度で疾駆した!!

 

 強烈な風圧と慣性が全身を襲うなか、僕はかろうじて右ひざをポチの背に乗せることに成功した!

 

 しかし——凄まじい速度だ! おそらく時速100km以上は出ているんじゃないだろうか? 前方にぶつかり続ける空気が暴風となり、まともに目も開けられない……!!

 

 その時、

 

『第一部隊リーダー! 聞こえますか!?』

 

 声が聞こえた。レインさんの声。

 

 薄目を開けると、4匹の監視用インセクトロイド、“三つ目トンボ”が、僕の隣で飛翔しているのが見えた。

 

『目標アラガミの座標(ざひょう)を確認しました! 対象までの最短ルートをあなたの腕輪に転送します!』

 

 すると、右手の腕輪、手首側からホログラムが出現。周囲の道や建物を考慮し、アラガミまでへの最短ルートを複数の矢印で表示した!

 

 ありがたい……! この1番大きな矢印が、最短ルートだ!! 

 

 僕はそのルートに従うよう、ポチに命令しようとした。

 

 その時。

 

『待って——フギン! 周辺建物の高低差をスキャン! 5メートル以下の高さをゼロと規定し、改めて目標との最短距離を算出して!!』

 

『了解いたしました。分析完了。最短距離を提示いたします』

 

 ブウンっ!

 

 ホログラムの表示が変わり、新しい矢印が現れた!!

 

 でもこれって……建物の上を通ってる……!?

 

『あなたが乗っている神機の身体能力を測りました。おそらく5メーター以上の建物でも難なく踏破できるものと思われます。そして、アラガミとの最短距離の再測定を行いました! 矢印に従い建物の踏破をお願いします!』

 

 噓でしょっ!?

 

 矢印の方角をポチに命じた瞬間——建物のセメントの外壁が、僕の視界から2メートルほどの近さまで接近した!!

 

 ——ポチっ!!

 

 グオォッッ!!

 

 僕の危惧(きぐ)とは裏腹に、ポチは迫り来る建物の外壁をものともせず、僕を乗せて軽々と跳躍!!

 

 外壁に爪を立て、さらに跳躍! 結果問題なく、廃屋のような建物の屋上へと降り立つことができた。

 

『第一部隊リーダー。その位置から目標アラガミへの最短ルートを再計算いたしました。あなたの神機の脚力をフルに生かし、建物間の屋上を飛び交うルートとなります。いけますね?』

 

 レインさんの声。い、いけますかってそんないきなり言われても……!

 

『いけますよね……!?』

 

 ——い、行きます!!

 

 ドスの効いた声に思わず従い、僕はポチを指示して建物の屋上を飛び越えさせた。流石に無理じゃないかと思っていたのだが、ポチは僕が無茶だと思ったルートでも難なく飛び越えて見せた……ひょっとすると、僕以上にポチの能力を見極めているのかもしれない、レインさんは……

 

「うわあっ!!、あ、アラガミがあんなところにもっ!?

 

「違うよ!! あれはきっとGE(ゴッドイーター)のお兄ちゃんがアラガミと戦っているんだよ!!」

 

「おおっ! そうなのか!? がんばれ、GEの少年っ!!」

 

 なんだか避難中の衛星支部の方々に僕とポチの事を誤解されている気がするが、それも今は無視していい。

 

 肝心なのは——侵入したアラガミだ!! 

 

『いました!! 小型アラガミ、オウガテイルの群れ——』

 

 ——突っ込め!! ポチっ!!

 

 ガウアアァッ!!

 

 ポチは猛スピードで疾駆し——オウガテイルに襲われかけてた、中年男性に割って入り、狼の形態のままオウガテイルに食らいつき、そのまま食い千切った!!

 

 グギャっ!!

 

 オウガテイルは悲鳴と共に絶命。

 

 ……捕食。喰潰(しょくつい)ほどではないが、アラガミを食らうことで偏食(へんしょく)物質が神機から全身に行きわたる。

 

 残った6体のオウガテイルが僕を見()え、動きを止める。

 

 なんだ……?

 

 その理路整然とした所作。僕はポチを神機に戻し、周囲を見渡す。

 

 その間も、やはり攻撃はしなかった。

 

 まるで――攻撃をするべからずと、何者かから指令を受けているように。

 

 僕たちのように、オペレーターから指令を受けているかのように……

 

 そして。

 

 僕は気づいた。オウガテイル以外の小型アラガミの存在。

 

 上空5メートル近い場所で浮遊する存在——周囲の小型アラガミに指令を送るアラガミの司令塔、ザイゴートの存在に……!

 

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